「指導者が元気になれば、日本は必ず元気になる!」B.LEAGUE COACHING SESSIONに込められた想い

バスケットボール男子代表チームは今夏にワールドカップを控えている。また、2020年東京五輪も控え、勝負の時期を迎えている。また、日本人選手で初となる1億円プレイヤーの誕生、八村塁選手がNBAドラフト1巡目で指名など、ポジティブなニュースが増えている。ビジネスの側面でも、先日は、SPORTS X 特別カンファレンス「B.LEAGUEの挑戦」が開催され、デロイトトーマツグループによる『Bリーグ マネジメントカップ 2018』が公開される等、注目度が高まっている。

B.LEAGUEは“BREAK THE BORDER”をスローガンとしている。また、3つのミッション「世界に通用する選手やチームの輩出」・「エンターテイメント性の追求」・「夢のアリーナの実現」を掲げ、「前例を笑え!常識を壊せ!限界を超えろ!」のキャッチコピーの中、意欲的で挑戦心に溢れた取り組みを行っている。全面LEDコートで行って注目を集めた開幕戦は、その一例に過ぎない。B.LEAGUE HOPEなども含め、続々とバスケ界に新しい風景を作っている。

GSLでは、B.LEAGUEの各プロジェクトの中で、特にコーチ育成の取り組みに注目している。これまでには、B.DREAM PROJECT、B.LEAGUEトライアウトについて、参加コーチのインタビューや、クリニックの一部レポートプロ選手講話の内容を取り上げた。プロ志望の選手に機会を提供するわけではなく、コーチへの機会創出やコーチ全体のレベルアップを意図してデザインに感銘を受けた事が理由である。

今回は、2018年1月からの新プロジェクトであるB.LEAGUE COACHING SESSIONを紹介したく、B.LEAGUE運営本部強化育成部の塚本鋼平氏に話を聞いた。B.LEAGUEのU15、U18の環境整備に加え、コーチ育成にも精力的に取り組まれている人物。ご自身でも、米国、スペイン、台湾などへも視察を重ね、見識を拡げると共に、アイデアを深め、次から次へと実行している熱血漢だ。

写真:全米コーチ協会『NABC』(National Association of Basketball Coaches)が主催するNABC Conventionでの一枚。NCAA Men’s Final Fourに合わせた大規模な催しを開催で、世界中からコーチが集う。試合観戦のタイミングに合わせ、学び、交流を歴史のある取り組み。2019年3月、塚本鋼平氏も参加。『コーチングバイブル』の著者でもあるJerry Krause とも会う。(写真提供:塚本氏)

*上手く整理する構成力や文章力に欠けるため、箇条書きを中心とした構成。情報量も詰め込んでいるので、上手く取捨選択していただきつつ、イベントの概要や、趣旨、狙いなどを参照してくれると幸い。また、本記事の写真は塚本氏の海外視察などの写真素材を使用している。

1、B.LEAGUE COACHING SESSIONについて

・B.LEAGUE COACHING SESSIONは、開催趣旨を「B.LEAGUE のミッションである「世界に通用する選手を輩出する」ために、U15 年代から充実した育成環境を構築するべく、日頃から質の高い指導を行う必要がある。そこで B.LEAGUE の U15 チームのコーチ、スクールコーチならびに、主に U15 年代を指導するコーチの指導力の向上を目的として開催する。」としている。

・ミッションの1つ「世界に通用する選手やチームの輩出」の実現に向けた長期的な視点に立った取り組みと言える。

・2018年1月よりスタートした本取り組みは、2019年3月時点で、7回実施されている。これまで、神奈川県川崎市、栃木県宇都宮市、東京都(ナショナルトレーニングセンター)、北海道、大阪府、石川県金沢市、と全国各地で展開されているのも特徴だ。
*(地震の影響で中止)

・これまでの実施項目は下記の一覧の通り。興味深いテーマを揃え、学びの場を作り続けている。
B.LEAGUE COACHING SESSION<テーマ一覧>

第 1 回@神奈川県川崎市
・「1on1 におけるスキルディヴェロップメント」
講師:アースフレンズ東京 Z アカデミーマネージャー兼 U15 チーム HC 岩井 貞憲 氏
モデルチーム:川崎市立東橘中学校男子バスケットボール部(30 名)
・「ゲームインテリジェンスを育む練習法」
講師:アルバルク東京 アカデミーマネージャー兼 U15 チーム HC 塩野 竜太 氏
モデルチーム:川崎市立東橘中学校男子バスケットボール部(30 名)

第 2 回:栃木県宇都宮市
・「日本バスケットボール界の育成を構築するために:育成が将来を創る」
講 師:公益財団法人日本バスケットボール協会 基盤強化グループ 普及育成担当マネージャー 山本 明氏
・「認知力と状況判断能力の向上」
講 師:(当時)B.LEAGUE レバンガ北海道 ヘッドコーチ 水野 宏太 氏
モデルチーム:栃木ブレックスU-15

第 3 回:東京都
「ヨーロッパにおけるスタンダードなオフェンス方法」,「Pick & Roll(基本編),(応用編)」 講 師:元チェコ代表 ヘッドコーチ マイケル・ジーゼック氏
モデルチーム:品川ファイヤーフォックス、アルバルク東京 U15

第 4 回(地震のため延期)
・「U15 年代で身につけたいヨーロッパ型ファンダメンタル」
講 師:札幌大学男子バスケットボール部 ヘッドコーチ 町田 洋介 氏
モデルチーム:北海道立大麻高等学校男子バスケットボール部
・「世界から学ぶ U15 年代からの選手育成について」
講 師:レバンガ北海道 アドバイザリーコーチ 兼 札幌大学バスケットボール部シニアディレクター 内海 知秀 氏
・「育成年代に求めるオフェンス・ディフェンスプログラムと練習プログラムの組み立て方」
講 師:レバンガ北海道 ユースチームダイレクター 兼 U15 ヘッドコーチ 齋藤 拓也 氏
モデルチーム:レバンガ北海道 U15(15 名)

第 5 回@大阪府
・「U15 年代における有効なチームオフェンス」
講 師:大阪エヴェッサ U15 ヘッドコーチ ラディオノフ・ユリアン 氏
・「データ分析の重要性について」
講 師: JBA 技術委員会 テクニカルハウス部会 部会長 前田 浩行 氏

第6回 @愛知県
・「プレー感覚とイメージ力の重要性」
講師:三遠 U15AC 小畑亜章子

・「育成年代に有効なチームオフェンスの構築」
講師:三遠 U15HC 上田康徳

・「育成世代から深めるディフェンススキル」
講師:・FE名古屋 U15HC 伊藤基博

「個人技能とP&Rに必要な5S」
講師:・シーホース三河 U15HC 伊良部勝志

「チームで取り入れているオフェンススキル〜攻撃成功率を高めるために〜」
講師:・名古屋D U15HC 末広朋也

第7回@石川県金沢市
「U15世代のリバウンドスキルの向上と,トランジションオフェンスの構築を目指して」
講 師:男子U16日本代表チーム アシスタントコーチ 堀 里也 氏

「身体の使い方から傷害予防とスキル向上を考える」
講師:松野 慶之 氏 JBA 技術委員会・スポーツパフォーマンス部会

NABC Conventionより。NCDA国際シンポジウムにも登壇したラルフ・ピム氏の講義を塚本氏も受講。

同じく、NABC Conventionより。“The More Things Change the More They Stay The Same” で登壇をしたのはJohn Beilein (University of Michigan)氏。変わりゆく時代の中で普遍的に大切な事柄を紹介した内容。同クリニックに参加した山鹿誠弘(筑波大学男子バスケットボール部学生コーチ)氏も、最も印象に残ったセッションの1つと語っていた。

 

2、B.LEAGUE COACHING SESSIONでの各実施項目のコンセプト。講義内容、及び、全体を通じたコンセプトについて。

2-1 講義内容の狙いについて

・上記の通り、育成世代に関する話題を軸とし、オフェンス、ディフェンスの個人技術、チーム戦術、B.LEAGUEの戦術、未来の競技環境・制度設計に関する情報提供まで多岐に渡る。

・B.LEAGUE運営本部 強化育成部の塚本氏に聞くと、主に3つの指針『B.LEAGUEのU-15世代の現在地を知ってもらう』、『国内最前線の情報や戦術に触れる機会の創出」、『世界基準を知るコーチに学ぶ機会の創出』を持っているという。である。それに基づいて各実施会のセッションを決定しているという。

・順番に、各項目について塚本氏のコメント、実際に筆者が参加した際の経験談などを交えて紹介していきたい。*筆者の勝手な見解もある。ご了承ください。

 

①『B.LEAGUEのU-15世代の現在地を知ってもらう』。

塚本氏は「この場を、B.LEAGUEのU15チームの現在地を伝える機会にしたい。ここに来れば、B. LEAGUEのU15では、どのようなコーチが、どのような指導理念を持ち、どう指導をしているのかを知る事が出来る場の創出を考えています。それは、U15世代を指導するコーチと交流をし、コミュニケーションをとり、切磋琢磨して、コーチ同士が連携しあって良い育成環境を構築していく事が大切であると考えている為です」と語る。

→育成世代の競技環境の質をさらに高めていくには、既存の競技環境との連携が重要だ。中学校、ジュニアクラブチーム、スクール運営者・コーチなど、様々なコーチの方にB.LEAGUE U-15チームの現在地を知る機会がある事は、交流や、連携を育むきっかけとなる。様々な化学反応が期待される。

→2018年4月から2021年3月まではB U15クラブと部活動の併用も可能な移行期間としている。(チームによっては、両方へ登録を認めない方針を明確にしているチームもある)部活動と、BのU15チームは、それぞれに特徴が異なる。コミュニケーションを取れる関係性構築のための種蒔きをしておくことは非常に重要だ。

②『国内最前線の情報や戦術に触れる機会の創出』

塚本氏は「新しい育成環境の制度設計をされている方とU15世代のコーチがダイレクトに関われる機会の創出を目指した」と狙いを語る。また、「日々、B.LEAGUEの戦いで行われている戦術、スカウティングの緻密さを肌で感じる事が出来る機会を作りたい。世界のバスケットボール界で活躍されている実績を持つコーチもB.LEAGUEに増えてきている。レバンガ北海道でHCを務めた水野コーチに登壇していただき、どのように準備をし、戦っているのかの一端を知れる機会を目指した」という考えも持っているという。

→昨今のバスケットボール界は大きな変革期を迎えている。15歳以下のゾーンディフェンスの禁止、リーグ戦文化の推奨、U12世代の競技ルールの変更、暴言・体罰・威圧的な指導の撲滅などのルール設定の変化には、背景、課題認識、今後の展望がある。同時に、これまでにも長い年月をかけて培ってきたシステムでもある為、どうしたって混乱や戸惑いは生じる。直接的に話を聞ける機会を意識的に作る事で、より相互理解が深まるはずだ。

→U15世代とトップカテゴリーとで、試合中の戦術は異なる。それでも、トップカテゴリーでの戦術の深い部分を知る事はバスケット界の発展に意義がある。、「知った上で行わない」のと「知らないのでやっていない」のでは深みや発展性、選手の習熟度に応じたコーチングにも大きな違いが出てくるはずだ。プロのトップカテゴリーは、負けが許されない究極の状況を戦っている。それゆえに、映像分析、スタッツ分析なども細かく、深みがある。U15世代のコーチが見聞きした際にも、選手の育成の為に活用できる考え方やツールも沢山あるはずだ。

エルトラックのスペインツアーで来日したエスティディアンテスのコーチは「意識的に異なる世代をコーチ、コーチ同士のが重要」と語っていた。これまで、U12、U15、U18、大人と、同じ世代を見続ける事が多かった。

③『世界基準を知るコーチに学ぶ機会の創出』

塚本氏は「日常を世界基準に」というコンセプトを非常に大切にしている。それを実現する為には、交流するコーチや、触れる情報の質を世界基準にする必要があると考えているという。スタンダードを高める事で、コーチの思考にも大きな影響を与え、日々の指導にも活かされるはずだからである。その観点から、B.LEAGUE COACHING SESSIONでも世界を意識した講義が数多く組まれてきた。

③―1 ジーゼック氏

・第4回の講師を務めたジーゼック氏は、チェコの代表HC経験や、アンダーカテゴリーのコーチ経験を持つ豊富な実績の持ち主で、現在はオリンピック委員会で働かれている。また、コーチを育成する立場としても活躍している。FIBAのコーチ向け動画の中でも同氏のクリニックが展開されている。トーステン・ロイブル氏も、長年にわたって親交や交流があり、同氏の深いバスケットボールへの知識に深い尊敬を抱いているという。

講義では、Side to Side PnRとして、下図のオフェンス戦術を紹介した。

・上図オフェンスは、日本でも各カテゴリー活用されているスペーシングである。連続性のあるオフェンスが特徴で、Maccabi Offence等と呼ばれる。同氏も、ベーシックなオフェンスシステムと説明した。本クリニックで強調されたのは、チームに導入するカリキュラムを考える際の着眼点だ。上記戦術の特徴を示したうえで、遂行する上で必要になるスキル、その習得方法、年代や習得度に応じた練習カリキュラムの構築方法、その着眼点、その他のプレーにどのように応用できるのかを豊富な事例と共に紹介し、カリキュラムの一例を示した。

「全体像を示したうえで、それに紐づいて分解練習のカリキュラムを考える事が重要」とジーゼック氏は語った。この日も、Side to Sideのスペーシングや状況判断の要素を存分に織り込んだ上で様々なドリルを提示した。ドリルをクリアしていく中で、1対0、2対2、2対2、3対3、等々と段階的に進むと共に、必要なスキル、状況判断の基礎を習得できるようなカリキュラムであった。

・それ以外には、シューティングワークアウトの一連のメニューが紹介された。スティーブ・ナッシュが非常に重視して取り組んでいたメニューであるという。A東京のU15チームがデモンストレーターを務めた。

③-2 日本代表スタッフとして世界を経験したスタッフの登壇

・末広朋也氏は男子A代表のテクニカルスタッフとしてFIBAアジア予選、リオ五輪最終予選(OQT、U16~U18アジア予選、U19ワールドカップ(2017)などを戦ってきた人物だ。トップカテゴリーからジュニア世代まで、各世界大会へ挑む過程で様々な経験を積まれている。

・「育成年代に有効なチームオフェンスの構築」を担当した上田康徳氏は、NBL、BリーグでのトップカテゴリーでのHC経験の持ち主。また、U16~19チームのACとしてアジア、世界で戦ってきた。2018年春には、U18男子代表チームを率いアルバート・シュバイツァー・トーナメントにも挑んだ。背景には、U16、U18男子代表の両カテゴリーでHCを務めていたトーステン・ロイブル氏がU16FIBAアジア選手権を戦っていたという事情がある。アルバート・シュバイツァー・トーナメントは、実質的なU18ワールドカップとも言われる世界最高峰の大会の1つである。最前線で世界各国の強豪国との対戦に挑んだ経験は濃厚だ。

・前田浩行氏は、欧州プロバスケットボール界でのコーチ経験を持つ数少ない日本人コーチである。日本でも馴染み深いジョン・パトリックが指揮するMHP RIESEN LudwigsburgのACとして4シーズン務めた経験を持つ。当時、同チームは、ドイツ国内リーグ、欧州リーグ(Euro Cup)を並行して戦っている。その中、常に未知のチーム、選手と数多く対戦してきた。

同リーグには、各国のナショナルチームの選手も非常に多く在籍するハイレベルなバスケットボールコミニティである。また、FIBAの国際ルールで行われている事も特徴だ。限られた準備時間の中、時間の濃度を高め、スカウティングやチームのアジャスト方法を考え続け、コーチ、選手に伝え、試合に挑み、実践を積む中で非常に濃い経験を積んだという。2017EURO選手権で優勝したスロベニア代表チームの選手とは、ほとんど対戦経験があると語っていた。

また、帰国後は日本代表のテクニカルスタッフや、U16~18男子代表チームのAC・テクニカルスタッフ、そしてJBA技術委員会のテクニカルハウス部会の部会長を務めている。国内でも稀有。本講義に参加をした大西順氏(参加当時、成年男子福井県代表チームAC、現在は名古屋ダイヤモンドドルフフィンズ)は「バスケットボールを勉強する中で、自分が曖昧にしていた部分が数多くある事を学んだ。前田氏の講義に参加できたおかげで、言語化しきれなかった部分に対してもっと向き合う努力が必要な事を痛感した。積極的に交流をするというコンセプトもあったので、質疑応答でもガンガン質問をした。遠慮せずに質問をぶつけ。移動時間でも話が出来た」と講義を通じた学びと感動を語る。

*ジョン・パトリック氏は、コーチオブザイヤーにも輝いている。MHP–の試合を見ればわかるが、執拗なDF.圧力。非常に緻密かつダイナミック。

・松野慶之氏は、女子代表のトレーナーを務める専門家だ。2018年の女子ワールドカップにも帯同しているトレーナーであり、トップカテゴリーの事情に精通している。また、世代が下のカテゴリーになればなるほど、予算などの都合から専門家の指導を受けにくい現状がある。「身体の使い方から傷害予防とスキル向上を考える」の講義も非常に有益な場になったと参加者の1人から伺った。

「チームで取り入れているオフェンススキル〜攻撃成功率を高めるために〜」を担当した末広朋也コーチは、下記のように述べた上で、講義をスタートした。各カテゴリーで世界各国と戦う中で培った経験や基準を大きな指針し、自チームの選手と向き合いながら指導をされている中での学びを参加者に伝えた。中学、高校世代を指導するコーチに話を伺うと、非常に好評だった。

「日本代表の各世代で、テクニカルスタッフとして帯同させていただいた。事前の合宿、遠征、アジアの戦いや、世界各国との対戦など、HCの意図する事の選手への伝達と、スカウティングを通じ、様々な経験を積ませていただいた。いつかコーチになりたいと思っていた為、多くのコーチのもとで学んだこと、実際に対戦する中で得た経験を基に、自分の糧とすると共に、様々な事を思い描いてきた。

現在は、名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15のヘッドコーチに就任し、新しいチームで若い選手と練習に取り組んでいる。その中で、これまでの経験、思い描いてきたことから、U15世代で大切と思われる事柄に着目し、割り出したプランで取り組んでいる。手応えと、発見、改良を重ねながら、日々、ブラッシュアップしている最中です。

具体的には、新規チームということで1年生が多い。年齢が上のチームと対戦する対外試合ではライブターンオーバーが多くなる。仕掛ける力を伸ばしつつ、ターンオーバーを抑える為に重要となるスキル、フィジカル、スペーシングの要素についてフォーカスする必要性があった。その中で、伝え方、教え方もブラッシュアップされ、成果を得る事が出来た。これまでの経験や考えが、さらに鮮明になってきた。今日は、それを踏まえ、皆様の役に立つようなお話を出来ればと思います」

末広朋也氏も登壇。EBBAレポート -日本のU-19代表と世界との比較-

U19男子ワールドカップ前のEuro Basketball Academy Coaching Clinicに登壇した際の末広氏。鋭い分析、分かりやすい説明で好評だった。現在は、名古屋ダイヤモンドドルフィンズのU15チームでHCを務めている。

 

2-2 空間の演出、運営されている際の指針。空間の演出。

上記のように、本プロジェクトの講義は多岐に渡る。また、開催方式も様々だ。意図などについて記す。

「学びを場を通じたコーチ同士の横の繋がりの創出」

・塚本氏は「学びを場を通じたコーチ同士の横の繋がりの創出」も常に強く意図されていると言う。その理由は、『B.LEAGUEのU-15世代の現在地を知ってもらう』での通りである。その思いや、具体的なカリキュラムや機会創出に反映されている。

・第1回開催回では、各講師の登壇後にグループディスカィションを組み込んだ。クリニック内容についてグループ単位で意見交換をした上で、講師に質問をする場を設けた。講義中に紹介された考え方の追加の質問から、不明瞭な点の指摘など、幅広い意見が飛び交ったという。

・参加者の一人である中瀬雄三氏(東京成徳大学助教、バスケ殿堂事務局*など)は、「クリニック実施後に受講者同士で疑問や意見交換を交わすことで、他の人の視点を知る事が出来た。異なる着眼点を知り、それについて考える事で自分自身の考えが深まった。また、クリニックを通じて指導者同士で交流を育むことが出来るのも有難い。考えを深める事、交流を拡げる事の両面で有益だった」と感想を述べる。それは「グループワークや質疑応答の時間分だけ、講師からの直接的なインプットの量が少なくなった部分を差し引いても、自分にとっては有益だった」と語っていた。(*プロフィールは2019年3月中旬時点)

 

状況に応じた柔軟なカリキュラム制作。懇親会等で交流部分を補う。

・逆に、ジーゼック氏が登壇した際には、おもに講師からの情報提供を中心とした構成となっていた。質疑応答の時間も設けられたが、ギリギリまで、ジーゼック氏からの情報提供、問題提起が中心の構成となった。

・また、事後、ジーゼックを囲んでの懇親会(食事会)も企画された。関係者や、親しいコーチだけをシークレットに呼びかけたわけではなく、全参加者に幅広く全参加者に告知がされていた。

結果、プロを目指す若手コーチ、B.LEAGUEのU15チームコーチ、U12世代の指導者、主に初心者を中心に教える社会人チームのコーチなど10名近くの参加者が集った。

・本稿筆者は、クリニック内容の追加質問、ジーゼック自身の歩み、コーチから五輪委員会に進んだ背景に関心があったからだ。それ以外にも、社会環境がスポーツに与えていた影響、チェコのコーチ育成システム、チェコの課題などを伺った。

社会環境については、『蹴る群れ』(木村元彦氏)より「イワン・ハシェック – ビロード革命と14個のサッカーボール」にて、「プラハの春」前後の社会情勢とスポーツを取り巻く壮絶な環境を読んでいたことが関係している。ジーゼック氏は、関わる世界の広がりが拡大したこと、選手やコーチとして選択肢の拡大したことを語っていた。また、長野五輪におけるアイスホッケーチームの躍進のストーリーを紹介された(参考:Czech Republic’s 1998 Olympic Hockey Gold in Nagano

また、チェコでは、隣国でもあるドイツで行われているAlbert Schweitzer Tournamentに多くのコーチが視察や研修に行っているという。ジュニア世代の国際大会を自国で開催する意義や必要性を痛感した事が、CRYSTAL BOHEMIA CUP開催の意図の1つでもあるという。プロを目指す若手コーチもおり、必要な資質、歩むべき道の方向性などのアドバイスを受けていた。

グループディスカッションや、参加者同士の交流に時間を費やすことの是非

・グループディスカッションについては、好きな人もいれば、嫌う人もいる。後者の見解は、機会の最大活用に対する考えの相違だ。「その時間を使って、もっとインプットの情報が欲しい」・「前提条件の異なる人と話をしても得るものが少ない」という意見である。

塚本氏も、そのような考えを理解している。だが、その他のコーチ向けのイベントを踏まえ、B.LEAGUE COACHING SESSIONでは、このような交流を重視するスタイルに踏み切った。特徴は、スタンスやコンセプトを明確にしている事だ。

「極端な事を言えば、著名なコーチから話を聞く機会は他にもあります。例えば、JBAでは、年末のJBAコーチカンファレンスや、夏場の全国コーチクリニックなどを実施しています。前者には日本男女代表の各スタッフ、後者にはS級ライセンス講習で講義をするような、海外からの著名なコーチが登壇されます。B. LEAGUEのU15は新しい取り組みですので、交流や意見交換を意識した構成にし、コーチ同士の関係を活性化させたいと着想しました。

また、B. LEAGUEのU15チームは、若いコーチも多く、これからの存在です。お互いに疑問や意見をぶつけ合って、全員で成長していく事が重要だと考えました。グループディスカッションの機会を設けたのは、その為です。皆で交流し、刺激しあい、協力し、勿論競争もして、バスケットボールを取り巻く世界を素晴らしいものにしていきましょう、というメッセージもあります」と前述の塚本氏も語る。

*グループディスカッションを入れる際には、必ず事前に告知をしている。

「指導者が元気になれば、日本は必ず元気になる!」

・日本バスケットボール協会の理念は「バスケで日本を元気に」である。塚本氏は、コーチに対して機会を提供する本プロジェクトを通じて、この理念へ貢献していきたいと力強く語ってくれた。下記は、本プロジェクトに向けた塚本氏の信念でもあるようだ。

「指導者が元気になれば、日本は必ず元気になる!バスケで日本が元気になれば。選手も指導者も審判もファンもみんなが元気なる!その元気で日常を世界基準にすれば、必ず世界に通用する選手が輩出できる!」

4、3つのミッションと『コーチ』・『コーチ育成』の関係性。

・冒頭で記載した通り、コーチの育成は、「世界に通用する選手やチームの輩出」の為の長期的な視点に立った取り組みである。しかし、これは、他の2ミッション「エンターテイメント性の追求」・「夢のアリーナの実現」とも無関係ではない。それについては、大河チェアマンもB.DREAM PROJECTでの挨拶や、講演などで折に触れている。具体例としては、下記の2事例である

①コーチの素晴らしい指導力により、Gameの質を高める。

世界的な名将がB.LEAGUEに訪れ、指導するチームのバスケットボールを面白く、強く、魅力的なチームに育て上げる。また、素晴らしい人間力を備えた選手を育成する。それを通じ、ゲームの質が上がる事で、エンターテイメントとしての魅力が増し、観客動員が増える。興業の熱狂が高まり、アリーナに人を呼び、満杯にする。その積み重ねが、さらにアリーナが必要となる機運を高め、「夢のアリーナ」が実現していく。

②B.LEAGUEを指導する日本人コーチのレベルアップ。それを通じた、競技力やチームの魅力増

栃木ブレックスを率いた安齋HCは、2018-19年シーズンで、チーム史上過去最高の成績となる49勝の戦績を残した。CSセミファイナル第2戦、千葉ジェッツに敗退後の記者会見では下記のように語気を強めて語っていた。

「最後まで戦い抜くことが、我々の責任。プロとして、応援して下さった方に何かしらの感情を持ち帰ってもらわないといけない。そういう責任が我々にはある。そこの部分については、選手が最後までやり切ってくれた。誇りに感じている。そして、声援に感謝しています。1年を通じて全員がハードワークをしてくれた。昨年はCSに出場できるかどうかという状況から、ハードワークを続け、チャンピオンを狙える位置まで強くなれた。それは、選手のおかげ。コーチとしての責任も感じている。もっと成長していきたい」と語った後に、強豪が揃う東地区での戦いを聞かれ「ライバルの存在は有難いと思っている。自分を含め、琉球の佐々コーチら、若いコーチ同士で切磋琢磨していきたい。また、B.LEAGUEには、海外での経験豊富なコーチも数多くいらっしゃるので、対戦し、競争する中で学んでいきたい。その繰り返しで、絶対に日本代表がもっと強くなると信じている。どうすれば代表がもっと強くなるか?常にそれを念頭にやっていきたい」と語った。また、琉球ゴールデンキングスの佐々HCも海外の著名なコーチからの学びについて、各種インタビューで触れている。著書『バスケットボールの戦い方 [ピック&ロールの視野と状況判断] (マルチアングル戦術図解) 』の冒頭で、シレイカ氏やルカ・パビチェビッチ氏から学んだ経験の大きさを語っている。その他のインタビューでも、恩師のコーチ陣の存在に言及する。

 

 

③日本中のコーチの底上げ。コーチが育つ事で、競技力も人間力も兼ね備えた選手が数多く育成される。

B.LEAGUEのトップも舞台でプレーできる選手は一握りである。競争に勝ち抜いた選手が晴れ舞台に立てる。土台や、母体の競争が重要。そういう選手がBリーグでプレーする。多くの人にバスケットボールの素晴らしさが伝わり、競技文化が向上していく。

それらが積み重なって、好循環が誕生し、①に同じとなる。同時に、B.DREAMプロジェクトや、B.LEAGUE COACHING SESSIONを通じ、コーチ同士の繋がりや、学びの環境創りにも取り組んでいる。

 

塚本氏はスペインへ視察された際の様子。コパデルレイ(国王杯)に並行し、U14世代(ミニコパ)の大会も実施されている。同時に、コーチングセッションも実施。題材は、現在進行形のミニコパの試合映像などを活用。塚本氏も、そのスピード感と環境に感動されていた。

5、故・バウマン氏のメッセージ『若いプレイヤーとコーチの育成以上に大切な事は無い』

・故、パトリック・バウマン氏は2018年夏に開催されたBasketball World Summitの基調講演で『バスケットボールを世界で最も大きなスポーツコミニティにしたい』と強調し、FIBAの取り組みやビジョンを紹介した。『例えば、国を背負って戦うナショナルチームの戦いは、バスケットに関心の無い人も惹きつける強烈な特別な存在。ワールドカップ予選をホーム&アウェーでの開催にした狙いもそこにある』と語っている。その中で、『若いプレイヤーとコーチの育成以上に大切な事は無い』とも言及するほどコーチ育成を重要視していた。下記、Basketball World Summitの講演より引用。

 

“There is nothing more important than investing in our youth and our coaches (#5). Sometimes the lack of a certified trainer is a big handicap for many countries,” he acknowledged.
“Coaches, it’s not just about coaching the basketball skills. You need to be good at coaching the basketball skills. But the other one, you need to instill that passion for basketball. It’s there where you will fabricate your new, your future talents that will one day be NBA champion, champion with their national teams or local champion. That is key – invest in these coaches, invest in these kids. We have to prepare the next generation, not only on the court, but also off the court.” 

引用:Patrick Baumann’s legacy lives on through inspiring FIBA World Basketball Summit speech より

<上記記事、及び、講演内容から項目を記載。意訳>

・若い選手、そしてコーチに投資する事が何よりも大切です。
・優れたコーチ、トレーナーの人材不足で、才能を伸ばす機会を欠くのは選手にとっても、バスケット界にとっても大きな損失。

・コーチは、バスケットボールのスキルだけではなく、バスケットボールに対する情熱や熱量を選手に伝えていくことも必要。

・いつかNBAチャンピオン、ナショナルチームのチャンピオン、または地元のチャンピオンになるであろうあなたの新しい、あなたの将来の才能を育むシステムや土台の構築が重要。若いコーチの向上や成長をサポートできる仕組みも重要と捉えている。

・オンコートでも、オフコートの両方で次の世代に対する準備に取り組んでいく事が必要不可欠である。

 

B.LEAGUE COACHING SESSIONは、意欲と向学心のある方に対して開かれた取り組みだ。選手時代の実績、コーチとしての実績、ライセンスの有無に関わらず、申し込みさえすれば、誰もが参加できる。そして、国内外の最前線で活躍をするコーチから教わり、意欲や勇気さえあれば交流が出来るような仕組みにもなっている。

バウマン氏は『若いコーチの向上や成長をサポートできる仕組みが重要』が語っていた。B.LEAGUE COACHING SESSIONは、バウマン氏の発言ともリンクする。華やかなニュースや演出が話題になる一方で、B.LEAGUEでは、このような取り組みも地道に実施され、現在進行形で、日本中に様々な種が撒かれている。筆者自身、本取り組みの設計に非常に感動をしている。

非常に長く、情報を詰め込んだ記事となった。一人でも多くの人に本プロジェクトの絶妙な設計や熱意を知ってもらえれば嬉しく思っている。

この記事の著者

片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。