末広朋也氏も登壇。Euro BBAレポート -U-19ワールドカップ(2017年7月)対戦国(スペイン、マリ、カナダ)の特徴紹介-

末広朋也氏も登壇。EBBAレポート -日本のU-19代表と世界との比較-

5月開催のEuro basketball Academy Coaching Clinicは座学中心の講習。今回のテーマはPreview World Cup U-19。トーステン・ロイブル氏がHCを務め、7月にU-19ワールドカップを控えるU-19日本代表チームの対戦国であるスペイン、マリ、カナダ代表チームのオフェンス、ディフェンスの基本的なコンセプトや、国際ゲームの中での最近の潮流から、日本のコーチが知っておくべき戦術が紹介された。

テクニカルスタッフの末広朋也氏が登壇

今回、筆者の知る限りでは初となる外部ゲストが登壇。U-19代表チームでテクニカルスタッフを務める末広朋也氏だ。沖縄県宮古島出身、東海大学を経て日本協会入りをした末広氏は日本のバスケットボール界におけるテクニカルスタッフの第一人者の1人と言えるだろう。長谷川健志HCと共にでアジア選手権、リオ五輪世界最終予選(OQT)を戦うと同時に、昨夏、U-18アジア選手権でも同じくテクニカルスタッフとして代表チームを支える存在だ。

冒頭、ロイブル氏が「本日は、私が非常に強い信頼を置く、とても熱意のある素晴らしいコーチに来て頂いた。末広さんは、私が出会ってきた中でも、最も優秀なコーチングスタッフの中の1人。対戦相手の分析だけではなく、選手一人ひとりに対しても映像クリップを制作してくれ、チームが進化するのを力強くサポートしてくれる存在」と称賛。続けて「先ほども、クリニックの打ち合わせをしている際に、意見の相違から議論になったばかり。ここの傷は、議論が白熱しすぎて末広さんに殴られた跡です」と語る(筆者は打ち合わせを近くから見ていたが、勿論、ロイブル氏のジョーク(ジャーマンジョーク)である)。

思わぬ無茶振りを受けて自己紹介の場を迎えた末広氏も「先ほど、コーチはああいう風に言っていましたが、勿論、殴り合いの喧嘩なんかしていません(笑)。お茶目な方なんです(笑)」と語ると、会場は笑いに包まれた。昨夏のU-18代表チームでは、約30年ぶりにアジア選手権を勝ち抜き、今夏、U-19ワールドカップを控えるチームのHCと、テクニカルスタッフという両者。同じ志や目標を持って世界と戦うコーチングスタッフ同士の、ユーモアを交えたコミュニケーションには、プロコーチ同士がお互いに尊重しあう美しさを感じるとともに、頼もしさを感じた参加者も多かったのではないか。

「日本代表は、皆のチームであるべき。皆様、一人ひとりのチーム。基本的なコンセプトを知って頂きたい」

さて、本題に移る。

まず、ロイブル氏は、U-19ワールドカップを控える日本代表チームの対戦チームの(基礎的な分析)を参加者に伝えようとした意図について「日本代表は、皆のチームであるべき。それが私の考えです」と述べ、「皆さん、一人ひとりのチーム。なので、ワールドカップに挑む日本代表チームの対戦各国の基礎的な特徴や、オフェンスやディフェンスのコンセプトを知った上で、是非、U-19代表チームの戦い方をWEB配信で見て欲しい。そして、応援もしてほしいし、コーチ同士でディスカッションもして欲しい。勿論。対戦を控えている中なので、具体的な戦術などは話せない事もある。そこは了承頂きたい。」と語る。「日本代表は、ここにいる、皆さま、一人ひとりのチーム」という言葉からは師の強い信念も感じた。

その前提の上で、スペイン、マリ、カナダの3ヵ国の基本的な特徴と、それを活かそうとするオフェンス、ディフェンスのコンセプトへの説明へと移る。末広氏が、各国の特徴や、様々なデータを紹介する中で、ロイブル氏が解説や補足を入れていく形で講義は進んでいく。

堅牢なディフェンス力を誇るスペイン代表。「日本の高校生と比べて、どうですか?」

スペインの項目では、まず、激戦の欧州予選を紹介(youtubeで昨年のU-18欧州選手権を見ることが出来る)。最終結果として、優勝はフランス、準優勝はリトアニア、ドイツ、フランス、そして5位でスペインとなったのであるが、非常に拮抗した実力差で、何処が優勝してもおかしくないハイレベルな戦いを紹介。その中で、スペインの特徴は強固な守備力だ。

「ディフェンスに非常に重きを置いたチーム作りをしている」という分析の中で、PnRに対しての、ショウ・ディフェンスや、それに対して連動するヘルプディフェンスの素晴らしい連携、その他のバリエーションや、戦略的な判断などを動画を交えて紹介。大型の選手が俊敏に動き、かつ、アウトサイドのドリブラーに対しても素早いフットワークで守る姿に対しては参加者の視線が集まった。

ロイブル氏は「これは1年前の動画。当時、彼らはU-18世代。日本でいうと高校生の世代です。IHやウィンターカップのディフェンスと比べると、どうでしょうか?」とスペインのディフェンスレベルの高さを強調。文字の並びだと分かりにくいかもしれないが、コーチ側のディフェンスの基準値や、目指すべきレベルの水準を高く持たせようとする意図が感じられた。

オフェンスに対し、常にプレッシャーディフェンスで圧力を与えるオンボールディフェンス、容易にパスを出させないウィングのディナイ、ピック&ロールのプレーに対してのハード・ショウ、連動するヘルプディフェンスなど、スペイン代表チームのディフェンスのすばらしさは筆者にも十分に伝わってきた。何よりも、個々の力や、連動性とともに強調されたのが献身的な守備への姿勢である。日本人の「勤勉さ」は、他の競技でも日本人の得意分野として紹介される精神性であるが、スペインチームの勤勉さや、卓越した献身性が印象に残った。勿論、大型の選手が俊敏に動ける背景にも、幼少期からのコーディネーショントレーニングや、各世代に合致した育成プログラムの存在を感じさせた。

ここでは、これ以上の詳細は割愛するが、U-19チームがスペイン代表チームとの対戦では、日本の攻撃に対しての、スペインの対応にも注目してみたい。

「ウィングの選手もポストアップをしてくる」マリ代表。

続いて、マリ代表チームの特徴である。アフリカのチームらしく、身体能力に長けた選手が多いことが紹介されると同時に、インサイドからウィングの選手まで、非常に多くの選手がローポストから勝負できるパワーとスキルを持っていることを映像と共に紹介。非常にシンプルであるが、効果的に得点を挙げるシーンが続いた。マリと対戦するU-19代表チームは、インサイドのみならずウィングの選手もインサイドを守る必要性に迫られる。また、オフェンスリバウンドへの非常に高い意識や、ヘルプディフェンスの特徴も紹介。クリニックの参加者は、マリ代表チームとの対戦を見る際の着眼点や注目点を得たはずである。

「対戦チームを見てください。アメリカ代表チームです」 大陸予選でアメリカ代表にも肉薄したカナダ代表。優勝候補の1つ

最後に、予選グループの中で最も強敵と思われるカナダ代表である。アメリカ大陸決勝ではアメリカ合衆国代表チームを相手に一進一退の攻防を見せ、あわや、勝利を掴むかとも思われる素晴らしい試合を披露した。

対戦国の中で最も手ごわいチームである。カナダ代表チームの特徴は、4アウト1イン(インサイドが1名)の陣形から繰り出される多彩な攻撃オプション。オールラウンドに動ける長身選手が多く、かつ、3Pシュートも高確率で沈めてくる。日本にとっては非常に危険な相手である。カナダ代表チームの基本的な攻撃コンセプトを共有するための動画資料の中「皆さん、対戦チームを見てください。アメリカ代表ですよ」とロイブルコーチも注釈を入れる。アメリカ代表チームのディフェンスを苦にせず、高いスキル、身体能力と、非常に理路整然と整理されたバスケットスタイルが紹介された。

ここで、その特徴の詳細を伝える事は出来ないが、スペイン代表とともに、マリ、カナダ代表チームも昨年の大陸予選の映像がyoutubeのFIBA公式チャンネルにて公開されている。ぜひ、U-19ワールドカップ前に、視聴することをお勧めしたい。

フロアでの実技クリニックで基礎的な動きを紹介

各チームの基本コンセプトや、欧州やアメリカで見られる基本戦術が紹介された後は、各国代表チームの象徴的なプレーについて、末広氏の指揮のもと、会場校である大宮北高校の選手をデモンストレーターとして開催された。参加コーチは、映像やコメントで伺ったプレーの実演を見るとともに、一つひとつ明瞭な言葉で優しく選手に語り掛けつつも、的確なタイミング、分かりやすい言葉で表現される末広氏のプレゼンテーション能力に感心するコーチも多かった。

先日、B1-B2入れ替え戦で、見事に勝利を飾ってB1への残留を決めた横浜ビー・コルセアーズの尺野将太コーチも、元々は女子代表チームのテクニカルスタッフを経て、アシスタントコーチ、そしてヘッドコーチへと活躍の場を移していった。様々なカテゴリーの、各国代表チームのバスケットボールに精通し、日本人選手の長所や短所についても、様々な分析や経験を蓄積されている末広氏。近い将来、コーチとして、活躍の場を移し、その雄姿をEuro BBA参加コーチに見せる人も来るのではないかという期待も持たせる素晴らしい指導であった。

終盤、ロイブルコーチからは「今日、紹介できたのは、本当に一部分であるが、末広コーチの分析力や、着眼点の素晴らしさを皆さんも分かってくれたと思う」と語り「ここまでの分析をするのに、どれだけの時間と情熱を費やしたか。もう一度、末広コーチに大きな拍手をお願いします」と締める。末広氏も、当日の感謝と共に、平日の夜に大勢のコーチが集まって熱心にバスケットボールを勉強するコミニティが存在している事への感激と、当日の御礼を述べつつ「何か、質問があれば、聴いてください」と締めくくる。

大学の学生コーチ、中学・高校の教員、ジュニアクラブチームのコーチとディスカッションをする場面も

事実、講義の終了後、時間の許す限り、末広氏に質問をするコーチも多かった。余談ではあるが、会場校である大宮北高校を出ようとするタイミングでも、大学体育会の学生コーチ、ジュニアチームと中学校の外部コーチを務めるコーチ、三重県からEuro BBAに駆け付けている熱意のあるコーチなどで、当日の講義内容や、その他のトピックスについての質疑応答が絶えず、最後の最後まで、様々な意見交換と情報交換、考え方のプロセスなどを語り合う場面が見られた。

冒頭、ロイブル氏は「日本代表は皆さん、一人ひとりのチームであって欲しいし、そうあるべきだ」と語ったが、U-19ワールドカップを控える代表チームの話題を中心に語り合う場面からは、まさに、その理念を体現する光景であるように感じた。

ロイブル氏、末広氏、それぞれの理念や哲学

「選手一人ひとりの動画クリップなどを制作してくれる」とロイブル氏からも、丁寧で熱意のある仕事振りを紹介された末広氏。まだまだ聞きなれない「テクニカルスタッフ」という役割に対して、どのような認識や使命感を持っているのだろうか。講習会後、末広氏に伺った。

「スカウティング(=他国の分析)のみが、この役職の仕事と思われがちだが、HCのフィロソフィーの理解度を上げる部分、つまり自チームの向上の部分でも手助けできると感じています。大会前は特に後者に力を入れていて、コーチが意図するバスケット、考えているバスケットを選手全員が100%理解してもらえるようにサポートをすることに時間を使っています」

また、ロイブル氏は、U-18アジア選手権を戦う前後でも、日本のコーチとの繋がりやきずなの強さを感じさせるコメントを残している。ここで、末尾に、何個か紹介したい。

日本でのコーチ活動。10年以上の活動の中での想い

「日本でコーチの活動をするようになって15年近くになります。その間、多くの熱意あるコーチの方との素晴らしい出会いがありました。平日の夜、2時間のクリニックに、非常に大勢の方に、遠くから参加してくれる。驚くと共に嬉しい限りです。その熱意に私自身もポジティブなエネルギーを頂いています。 私が、熱意を持って、全力で日本での仕事を取り組もう思う、そういう気持ちに駆り立ててくれる大きな理由は、皆様の存在です。熱 意のあるコーチで溢れる日本のバスケットの将来は明るい。これからも頑張りましょう!」

2017年を迎える際に、Euro BBA関係者へのメッセージ

“Imagination is more important than knowledge …
Logic will get you from A to Z, imagination will get you everywhere.“
Albert Einstein

The new year 2017 is like a blank book, and the pen is in our hands.
It is a chance to write a beautiful story. New tasks, new dreams, new hopes.
Wishing you a great and happy new year!

Torsten Loibl & Family

U-18アジア選手権終了後のEuro BBAにて

選手を選考する際に重視したのは、「意思や意欲」。そして、National Pride,国を代表して戦おうとする誇りを持っているかどうか。

この日の講義に向け、忙しい中で最大限の準備をして下さったトーステン・ロイブル氏、末広朋也氏の熱意に敬意を表するとともに、この日の参加コーチと、U-19ナショナルチームとの心の距離が近くなり、より、U-19ワールドカップの試合観戦を通じ、より多くの発見や学びが誕生するだろうことを確信している。

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。