【SUFU紹介記事】ERUTLUCさん社内研修公開中!JBAの提唱するゲームモデルを育成世代の指導に活かす~BREAK局面編~

ドイツ人のアーティスト、ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)は、「拡張された芸術概念」で知られる存在だ。絵画や音楽等に限らず、教育・政治・宗教活動等、「全ての人は芸術家である」と語る。そして、『あらゆる人間は自らの創造性によって社会の幸福に寄与しうる』として、『社会彫刻』という概念を提唱し、『誰でも未来に向けて社会を彫刻しうるし、しなければならない」と呼びかけた。

同氏の考えに基づくと、バスケットボールには、様々な芸術活動が存在する。華麗な選手のプレー、ゲームでの的確なコーチング、公平で白熱した試合を支えるレフリーやテーブル・オフィシャルズの方々は勿論、興行の企画や運営も含まれる。現在、日本各地、各カテゴリーでは、様々な交流戦や大会も企画され、バスケットボールを愛する人が集い、体育館で汗を流している。それらも、企画や細かな調整をされた方が「社会に彫刻した」風景だと言える。

その観点で、大袈裟であるが、GSL編集部は「バスケットボールをプレーする選手の競技人生の充実や彩り」を、自分達に出来る方法を駆使し、様々な方々と連携し、可能な範囲で社会に彫刻し続けたいと強く考えている。

上記の視点で、近年、精力的に活動を展開しているのがLIFULLグループによる『SUFU』だ。同プロジェクトは、「スポーツの未来を創る」を理念とし「スポーツ現場での、選手の充実した時間」を彫刻しようとするプロジェクトである。「スポーツの現場で役立つ価値ある練習メニュー・トレーニング方法を提供することで、選手・指導者 ・コーチ・トレーナー・保護者などスポーツに関わる多くの方の助けになることを目指す。」の言葉通り、バスケットボール部門では株式会社ERUTLUCがコンテンツを提供する形で、指導現場で有益な様々な知見が発信されている。

ERUTLUC社は「より多くの子ども達になりうる最高の自分を目指す環境を提供する」・「チームスポーツだからこそできることで教育に貢献する」・「世界で最もビジョナリーなコーチチームを作る」という3つのミッションを掲げている。SUFUを運営するLIFULLグループの理念は「あらゆるLIFEを、FULLに。」である。両者の理念が、スポーツの分野で重なりあい、革新的なプロジェクトが着々と進んでいる。

2022年12月現在、特に興味深いのが株式会社ERUTLUCの社内研修動画の公開である。「世界で最もビジョナリーなコーチチームを作る」をミッションの一つとする同社は、社内の研修システムや、コーチ育成のシステムも充実。今回、SUFUを通じ、興味や関心のある様々なコーチにも視聴対象を拡げている。社内向けのコンテンツが、興味・関心のある外部のコーチの成長に貢献するのであれば、「より多くの子ども達になりうる最高の自分を目指す環境を提供する」という別のミッションの達成にも見事に繋がる。思わず唸ってしまうアイデアだ

研修の題材はJBAが提唱しているゲームモデルである。特に、主に育成世代の指導に活かす際に必要な背景の情報、有益な視点、コーチとして探求すべき視点が丁寧に提示されている。ゲームモデルの概略や、背景となる情報と共に、今回は「BREAK局面」についての講義項目を記載する。

0、BREAK局面の背景となる情報

東京五輪後、女子バスケ代表チームが恩塚HC体制になった際に「ワクワク」や「なりたい自分になる」というマインドセット的な言葉と同時に、コート上のプレーとしては「フリーランス」・「選手の自主性」・「自分で判断する」等の言葉が報道されることが多くなった。

いざ、21年秋のFIBA WOMEN ASIA CUPを観戦すると、ハーフコートオフェンスではPGがガッチリとコールをし、いわゆるセットプレーが駆使される。特に、複雑なオフボールスクリーンを経て、TopからのSpain PnR等が使われることも多かった。メディア側が、読者ウケの良さそうな言葉を強調しているだけで、実際に目指すところは、フリーランスではないのではないか。そもそも、何をもってしてフリーランスなのか、という疑問もあった。

ただし、トランジションの流れからのオフェンスでも、ハーフコートでも、ボール保持者の仕掛けに対し、周りの選手が見事に合わせてゴール下の2点プレーが随所に決まるシーンや、DF側が、合わせに反応をすれば、アウトサイドが完全にフリーになるケースも多かった。

特に、決勝戦では、同大会で日本のメインPGとして見事に牽引した宮崎早織選手のドライブにオコエ桃仁花選手がスッと飛び込み、ゴール下で得点する場面もあった。

映像だけを見ていると、規則性やルールはパッと見えにくい。ただし、このBREAK局面には、非常に奥深いコンセプト等が存在している様子を感じさせた。その後、女子代表を扱った講習会で、様々な疑問は氷解していくことになる。

2021年JBAコーチカンファレンスに恩塚HCが登壇時に、ご自身のコーチ哲学から、女子代表チームの目指す世界観など、非常に奥深いことが語られた。本稿で詳細は割愛するとして、コーチ上のことでいうと、フリーランスの前に、まず、チームの共通項として原則の徹底がある。『場面に応じた最適解』を原則と表現し、ジャンケンに例えると「相手がグーの時にはパーを出す」と表現。

その上で、相手との攻防が連続するバスケットの特性上「(相手はグーを出しそうな諸状況だとしても)相手がチョキを出してくる可能性も予測しながら、グーを出す準備もしておく」等々と表現。コート上の全員が、場面に応じた最適解を、自ら意思で選択することで、規律と即興を両立しようとする試みだ、という。

その原則の中に、まさに、BREAK局面についても論じられている。ボール保持者の仕掛けに対する分類が非常に分かりやすい。ドリブラーが仕掛ける前方のいる味方の数に応じて、ブレイク1、ブレイク2、ブレイク3と区分け。その上で、オフボール選手の動き方の原理・原則を明瞭に整理されている。これは、PnRでの仕掛けの際にも適用される考え方である。

本稿で紹介するSUFUの講習会でも、BREAK局面の定義や、上記の区分け、具体的なプレーについても映像を踏まえて紹介されている。以下、SUFUにおける講習の前に、ブレイク局面として区分される映像の事例を記載する。

<例1>2021年夏のオーストラリア遠征より。宮崎選手のドライブ(と東藤なな子選手のプレー。ブレイク3に分類される。

<例2>恩塚HC体制で代表の顔の一人である山本麻衣選手のドライブより。ブレイク1と区分される。カッティングだけではなく、DFの状況に応じて、動かないケースもブレイク局面の原則(場面に応じた最適解)の中で紹介されている。

<例3>ブレイク2の局面。オフボールスクリーン等も絡んでいるが、コーナーの選手がカッティングをしている場面。フィニッシュ能力と合わせ、ブレイク局面での赤穂ひまわり選手の存在は日本代表の武器の一つだ。

<例4>Spain PnRに関するブレイク局面。赤穂選手のDFが、渡嘉敷選手をマーク(Spain PnRによってROLLの選手がノーマークになった)せざるを得なくなったことを見抜き、山本選手はアウトサイドへのパスを選択。

<例5>ブレイク3の事例。安間選手のドライブに対し、野口選手がインサイドで合わせようとする。それに対し、赤穂ひまわり選手のマークである#22がインサイドを守ることで、3Pがワイドオープンに。

<例6>ブレイク3の局面。宮崎早織選手のドライブにオコエ桃仁花選手がスッと飛び込むケース(再掲)。ここでは、オフェンスの導入時(CREAT局面)でのPnRに対し、中国がスイッチ(スクラムスイッチ)を選択。宮崎選手に対し、オコエ選手のマークマンがマッチアップ。CHANCE局面の一つである「スピードのミスマッチ」が発生し、そこを突こうと(BREAK局面)する際の合わせのプレーである。

<例7>ミスマッチを発見(CHANCE)し、活用(BREAK局面)の中での、日本女子代表の見事なプレー。安間選手とオコエ選手のPnRに対し、オーストラリア代表は、3人以上が絡むスクリーン。結果、高田選手のマッチアップが最もサイズ差がある事をコート上の選手は見抜く。パスを出しやすいアングルに変更し、ボールを供給。

1、鈴木良和さん講習の項目

①ブレイク局面の説明。

②ブレイク局面の原理原則
原理原則(ディフェンスに連携させない)に基づき、NGな行動の具体例。
(ローテーションしやすい位置、ヘルプ&リカバリーしやすい位置にいる)

③「サポートの原則」としてブレイク局面でのコンセプトの紹介。非ボール保持者の動き方、及び、見るべきポイントの提示。

④ブレイク局面の年代別の指導案(認知対象を拡大していく)

⑤U12世代への指導事例

⑥ブレイク1,ブレイク2、ブレイク3、ブレイク4の概要説明
(女子代表チームの試合映像を踏まえ)

⑦JBA公開動画ナショナルキャンプの映像を踏まえ、指導実例の解説

2、映像視聴者である本稿執筆者が印象に残った事

①大きな原理原則で、細かな事例に対応する

ドライブとキックアウトを駆使して、得点チャンスを伺おうとするケースは多い。その際、ドライブインをし、キックアウトパスの後、ボールを保持していた選手が再びアウトサイドに出る事、または、ダンカースポット等に速やかに移動する事は「リロケート」として推奨されている。キックアウトのパスを受けた選手がクローズアウトに対し、ドライブを選択した際に、インサイドエリアのスペースを確保する為だ。

本講習会では、そのプレーについても「サポートの原則」という概念で括ることが出来る、とU12世代の指導中の映像と共に紹介する。場面、場面で、発想の根底にある基準を変える必要性が無い。全ては「ボール保持者がプレーしやすい環境を作ろう」ということがベース。若い世代になればなるほど、選手は、様々な情報を収集し、判断しているが、根底にあることは非常にシンプル。

②(ブレイク2、ブレイク3等での)ベースラインドライブ等で、45度のカッティングが有効な利用を改めて説明。

JBAで公開中のナショナルキャンプの映像を踏まえ、上記の事例について非常に丁寧に解説がある。ドライブ後のキックアウトに対し、ヘルプ&リカバリーまたは、ヘルプ&ローテーションが間に合ってしまうクローズアウトのシチュエーションと、オフボールのDF選手に二者択一を迫り続ける動き方のコンセプトを丁寧に説明。

ドライブに対するカッティングを積極的に取り組む際、時としてゴール下が煩雑になり、ボールマンにとっては判断の負荷が高まることも。『ノーマークのゴール下を守ろうとすれば、アウトサイドがワイドオープンになる』・「ワイドオープンにさせまいとすれば、ゴール下でノーマークで決められてしまう』という2者択一を迫ることが丁寧に論じられている。

③ 認知対象の拡大と習熟度の関係性

オフボール時の判断や動き方は、若い選手には難しいことも多い。ボールマンをサポートしようとする前提の中でも、視覚に飛び込んでくる情報量も多く、状況も一瞬で変わっていく。本講習では、U12、U15、U18と年代に応じ、負荷の調整をしていくことの有用性が紹介される。ここの考え方は、トランジションの場面でのドライブ&キックでも、PnRの局面でも活用が可能であり、汎用性が高い。2020年4月の書籍『バスケットボール 判断力を養うスペーシングブック』との合わせ技で、一つのコンセプトを踏まえ、様々な事例を整理できる。

4、雑感

※追記あり。

この記事の著者

片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。