【新ルール追記あり】いわゆるゼロステップ(gather step)とトラベリングについての考察

John Wall, James Harden

先日ある記事がきっかけで議論が起こりました。本記事では、ここにその経緯を記すとともに、より深い共通理解の促進のための問題提起をしたいと考えます。

まず本議論の経緯を説明します。その後今回の議論のポイントとなる、「いわゆるゼロステップ」を伴うユーロステップに関する定義をとりまとめたいと思います。最後にこのルールの解釈における問題点を挙げ、広く皆さまからご意見を頂戴できればと考えています。ぜひ皆さまの奇譚なきご意見を頂ければ幸いです。

追記2017.10.12:2017年10月1日より施行のバスケットボール競技規則の一部変更「トラヴェリング」について

動きながら片足が床についてボールを受け取るときやドリブルをしていたプレイヤーがドリブルを終えるとき、床についている足の「次の足(他方の足)をピヴォット・フット」とする。
ーーーBリーグ

については、本記事でまとめている「いわゆるゼロステップ」の解釈が適用されていると考えることができます。下記の「gather step」に関する記述を見ると理解が深まると考えています。

本議論のきっかけ。ユーロステップはトラベリングか否か

本議論のきっかけになったのはこちらの記事です。

バスケの基本「トラベリング」の不思議
*リンクの記事を読まなくとも本記事にて内容は理解できるかと思います。

この記事における議論のポイントは、ユーロステップがトラベリングのように見えるにも関わらず、トラベリングとされていない理由は何かということになります。

議論になった記事では、その理由が、近年一部で用いられている言葉「いわゆるゼロステップ」にあると推論を述べています。

ゼロステップとはなにか?

私自身ゼロステップという言葉を知ったのは近年になってからでしたが、検索してみると複数のコーチ関係者の方が考察しているのを見つけることができます。

現状明確なルールがないと言える動きであるため、はっきりとした定義はできていませんが、おおよそ「ボールをキャッチするタイミングと同時に踏んだステップを1歩として数えない」というニュアンスを含んでいるようです。まれにミートが遅れてトラベリングを吹かれることがありますが、その動きの笛が吹かれないギリギリのラインと言えばイメージしやすいかもしれません。
*ここではまだ、ゼロステップがリーガルか否かについては言及しません。

ユーロステップとゼロステップ

議論になった記事では単にユーロステップと書かれています。ここで明らかにすべきは、ユーロステップの定義です。大きく分けると、現在ユーロステップは2種類の動きがあるように見えます。

1つは伝統的なユーロステップで、ジノビリやウェイドといった選手の動きがわかりやすいと思います。

これらは通常のレイアップとステップは変わらず、なんら問題がある動きには思えません。問題なのはもう1つの動きで、近年のユーロステップの使い手と称される、ハーデン、アデトクンボといった選手の動きです。

分解して見てみましょう。

harden antetokounmpo LaVine

これらは明らかにボールを保持した後に2ステップしており、日本だとコールされる可能性が高いと思います(少なくとも10年ほど前の学生レベルでは)。また踏み切ったタイミングでボールを保持した後、片脚でワンツーステップを踏んではいけないという、イリーガルなギャロップの解釈に当てはめることもできます。議論となった記事では、後者を指して動きの解釈が似ているいわゆるゼロステップ的な見方をしているのではないかと述べています。

実際に海外のサイトを調べると、この「いわゆるゼロステップ」を伴うユーロステップは、トラベリングではないかと疑問を呈すトピックがいくつも見つかります。そして新たな発見がありました。

ゼロステップ=gather step?

これらのトピックをいくつか見ると、gather step、あるいはgatheringという単語を頻繁に見かけます。そしてその根拠となったかもしれないNBAの公式声明を見つけることができます。

This is an example of a legal offensive move that is not a traveling violation. Upon gathering the ball, an offensive player may legally take two steps before he must release the ball on a pass or shot attempt. On this play, the offensive player takes the allowable two steps after gathering the ball and nothing more. This is a legal continuation move and there is no traveling violation on this play.
Legal Move – “Euro-Step”

ここではボールをgatherした後には2歩しかステップしていない、よってリーガルであると書かれています。

また公式のルールブックでは下記のような記述が見られます。

A player who receives the ball while he is progressing or upon completion of a dribble, may take two steps in coming to a stop, passing or shooting the ball. A player who receives the ball while he is progressing must release the ball to start his dribble before his second step.
official rules national basketball association – NBA.com

ドリブルの継続中、あるいはドリブルを終えた選手は、ストップ・シュート・パスのために2ステップすることができる。

この状況が適用される事例も見つけました。

Player A1 drives to the basket, gathers the ball with his left foot on the floor, steps and, clearly jumps off his right foot and lands simultaneously with both feet (jump stop). What are his options?
Player A1 may jump to pass or shoot but is not allowed to pivot or “step through”.
2015-16 NBA Case Book (PDF)

ちなみにこの辺りのルールは、2009年に追加されたという情報も一部ありましたので記載しておきます。
‘New’ NBA Traveling Rules – slamonline.com October 16, 2009

ということで、恐らくgatherとは、ドリブルからボールを保持する動きを指していると思われ、このタイミングでの1歩はステップに含まないと考えられます。ちなみにFIBAと国内のルールブックでは、同様の記述は見られませんでした(Official Basketball Rules – FIBA.com ・ 2015 バスケットボール競技規則)。ボールを持つタイミングの微妙なラインはあるにせよ、NBAであればリーガルとなるのが、「いわゆるゼロステップ」を伴うユーロステップと言えそうです。

「いわゆるゼロステップ」を伴うユーロステップがもたらす問題点

ここから問題提起となります。整理すると

  • 日本では一部慣習として「いわゆるゼロステップ」が認められている
  • 「いわゆるゼロステップ」は国際(日本の)ルール上明文化されていない
  • NBAでは「いわゆるゼロステップ」とされる動きはリーガルとされている

この場合、国際ルールが適用される日本において、「いわゆるゼロステップ」を伴うユーロステップをどうジャッジすべきでしょうか?

恐らく現在では、ジャッジにバラ付きが生まれるのではないでしょうか。ミート時の脚使い、ユーロステップ、あるいはイリーガルなギャロップステップとも捉えることもできます。

ミート時の脚使いが許容されるならば、後者の動きも許容されなくては一貫性がありません。これは指導する立場としても混乱してしまうかもしれません。

今回このトピックについて、広く皆さまのご意見を頂戴できればと考えています。下記にアンケートフォームを設置しましたので、ぜひコメント頂ければと思います。またFacebook上のコメントでも構いません。どうぞよろしくお願い致します。

この記事の著者

Gold Standard Lab
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「スポーツコーチングを普及啓蒙し、日本国内におけるコーチングの『ゴールドスタンダード』を構築する」ことが使命。選手や指導者の方に役立つ情報を発信します。