U-19男子日本代表HCトーステン・ロイブル氏のタイムアウト・選手交代戦略
エジプトで開催されたU-19ワールドカップで男子日本代表チームは10位に輝いた。世界の強豪チームと伍して戦う姿には、多くの指導者が勇気を得ると共に、数々の示唆を与えてくれたはずだ。GSL編集部では、攻守両面における大黒柱として大車輪の活躍を見せた八村塁選手(ゴンザカ大学2年)のプレータイムをキーポイントの1つとして着目した。記念すべき初戦、大接戦を演じたものの、終盤に突き放されたスペイン戦、八村選手は20得点10リバウンドとダブルダブルの活躍を見せるも、前半16点に対して後半は6点。日本代表はサイズ差を補うため、ディフェンスにおけるローテーションやコミュニケーションが求められる。八村選手と言えども、疲労の影響が少なからずあったのではないか。
トーステン・ロイブル氏も、各種記事などで「ベストなパフォーマンスを発揮し続けるためにも、八村選手の出場時間の目安は32分」と語っていた。32分という事は、単純計算で、各ピリオドで8分間の出場時間が目安という計算となる。拮抗した試合の中、どの「2分」でキーマンをベンチに下げる事が有効なのか。交代選手は、何を意識すればよいのか。そして、キーマンをベンチに下げる時間帯のプレーの方法は、練習で準備が出来る項目なのだろうか。
2015年2月に開催されたEuro Basketball Academy monthly coaching – clinics in Japanでは、Coaching – Important things beside game starategiesという題目にて、キープレイヤーの交代策についての考え方も紹介されました。なるべく多くの選手を起用したいが、ゲームの展開をコントロールしきれずに、ベンチメンバーを拮抗した試合で起用できない悩みを抱えているコーチも多いのではないでしょうか? 下記レポートが、選手起用の判断基準、考え方の参考となり、チームの悩みを解決する一助になれば幸いです。
目次
クリニック議題
Coaching – Important things beside game starategies
- Substitusions
- Time out management
- Roles for players/ Play time control
- Communication
- Principles
1.Substitusions(交代について)
- バスケットボールは40分間のゲームである。プレーの強度を保てるようにコントロールする必要がある。日本の場合、特に若い世代は5人で戦うケースが多く、どうしても体力の温存や、ファールトラブルを避けた展開になりがちである。欧州では少なくて8人、多くて11人で戦い、常にコート上では強度の強い攻防を要求している。1人当たり、20~25分のプレータイムをリミットと考え時間の配分を行っている。
- ゲームプランにある選手は前半で全て起用すべきである。後半になって起用してもゲーム感を掴みにくい。
- ゲームのリズムを保つことが大切だ。1回の交代で変えてよいのは原則2名まで。
重要なポイント
自チームのキープレイヤーに効果的に休息を与える必要がある。クォーターブレイクを有効に使おう。
例:この時間帯にキーマンを休ませ、勝負所で良いパフォーマンスを出せるように活用しよう!
- 3ピリのラスト1分で休憩(実質90秒~120秒を要する)
- クォーターブレイクで2分休憩
- 4ピリの最初1分を休憩(実質、90秒~120秒を要する)
上記の形を意識することで、実質、キープレイヤーのゲームタイムでの不在時間は2分となるが、実質、約5分間のパーフェクトな休憩が取れる。休憩の為にタイムアウトを一つ浪費するよりかは、ピリオドブレイクを活用したい。
2.「効果的な休息」についての考え方
キーマンを休ませる時間帯では、良いディフェンスのラインナップを考えるべきだ。相手チームにオフェンスの機会やチャンスを制限すればよい。場合によっては、オフェンスのペースダウンを検討しても良い。2~3回のポゼッションを乗り切れればOKである。
※コーチは、オフェンスの特徴で交代選手やチームバランスを考えるが、特に、キーマンを休ませている時間帯は、ディフェンスをベースに考えるべきだ。
このときも、基本的には1人の交代だけにする。リズムを保つため、あまり混ぜ過ぎない。
3.タイムアウトのマネジメント
日本の場合、コーチが選手に悪い部分、問題だけを伝えてタイムアウトが終るケースが多い。プレイヤーはコート上の問題に対して、新しいアイデアを獲得できずに終わる。また、(選手の奮起を期待している意図があるにしても)選手のミスを叱責し、問い詰め、追い詰め、それで1分間が終わることも少なくない。選手はネガティブな気持ちを引きずりながらプレーし、それが原因で選手とコーチとの間で壁ができることも珍しくない。常に「解決策」にフォーカスし、選手をポジティブな心境でコートに戻せるように心がけるべき、というのが基本的な考えである。
そのため、トーステン氏は以下の基本的な原理原則を好んで使用している。
- サンドイッチの原則
良いこと、指摘・改善点、良いこと、という順番で伝える。選手に聞く耳を持たせることが大切だ。 - 最大で3つの情報とする
試合中、選手は理解できない。科学的にも、運動中で披露している選手が覚えられる新しい情報は3つが限界というデータも出ている。もし、あれもこれもと、例えば8つも新しい情報を伝えているとする。きっと、そのタイムアウトは意味をなさないだろう。 - 最も重要な項目を最後に伝える
- タイムアウトの時間配分は、下記をベースに考える
・10秒:休息
・40秒:情報伝達(サンドイッチの法則を活用)
・10秒:ハドルの時間、選手同士でのコミュニケーション - とにかくシンプルに。KISSの法則
Keep it simple,stupid(馬鹿でも分かるようにシンプルに!)
例
「ペネトレーションに対してボールマンはヘルプをもう少し頑張ろう、良いポジションでカバーの準備をしよう、ヘルパー(カバーのカバー)まで頑張ろう」
「15点のビハインドだね。でも、まだ8分もある。DEFを改善すれば、追いつけるよ」
※非常に単純であるが、これぐらいの簡単なことでよい(KISSの法則)ことを強調。
4.役割とルールについて(make roles clear)
日本の若い選手と面談をした際、自分自身の特徴を訪ねると、すぐに返答できないケースがあった。これは普段から自分の役割や、特徴(長所、短所)を考える習慣の欠如が原因ではないかと考えている。コーチは、たとえ選手のプレーを制限することになっても、選手に役割を与えることを恐れてはいけない。役割を選手に与えることで自信を持ってコートに立つことができる。期待した役割に対してフィードバックを行うことで、選手も自分のプレーを振り返りやすい。
上記の考えに則り、トーステン氏は選手に役割を与えた上でのチーム作りを好んでいる。
- 選手に対してLetter(文字、役割)を与える。トーステン氏は5つの役割分担を好む
5つの役割について
・S=Shooter
・D=Defender
・R=Rebounder
・T=Transition(ゲームのペースを上げることができる選手)
・P=Penetrator - 選手との話し合い
選手に役割を理解させ、それを受け入れてもらうことが大切(players need to understand and accept their roles!!) - それぞれの役割についての説明
・S=Shooter
トヨタを指揮している時代、折茂選手にはシュートについては権利を与えた。自分が打てる、決められると判断したときはいつでも打ってOKという役割を与えた。
・D=Defender
ディフェンダーの選手は、その役割をチームの中で自覚しなければならない。常に相手のトッププレイヤーを守る役割について責任を負う。
・R=Rebounder
ディフェンスリバウンドを確実に取ることができる選手。相手のビッグマンに対して、ボールウォッチでも、ソフトコンタクトでもなく、ハードコンタクトを繰り返すフィジカルとメンタリティを持ち、ディフェンスリバウンドを死守できる選手。
・T=Transition
トランジションを早めることができる選手。また、常にゲームテンポを察することができる選手である事が望ましい。スピードドリブルが出来る、または、ウィングのランナーとして素早く何度でも駆け抜ける脚力がある。
・P=Penetrator
アウトサイドシュートだけのゲーム展開になったら、ペネトレイターを投入、または戦術の中で彼の比重を多くし、オフェンスを修正する。
上記のように役割を明確にしたうえで、コーチはBig Pictureを描き、パズルのように組みあわせる必要がある。
5.いつタイムアウトを取るべきか?
まず、「タイムアウトを取る」ことに対する考え方を改めて考え直してはどうだろうか。タイムアウトは、決して相手チームに負けている、劣勢であることを意味するわけではない。決して、恥ではない。
どのような試合でも問題は起きる。ゲームに対する良い感覚を失うこともある。タイムアウトの時間で、それを取り戻せばよい。
上記の考えに則り、トーステン氏が提唱するタイムアウトを取るべきタイミングは下記。
Momentum change(react on momentum loser):瞬間的な変化への対応
相手の良いプレーが2回以上続いて、ゲームの流れが移りそうな瞬間
Run of opponent
相手チームの連続得点で、0-6で、優勢に試合を進められているとき(コーチによっては、2連続での失点で取る人もいる)
※ゲーム中の特殊な瞬間もタイムアウトの対象となる。相手のディフェンダーがハッスルプレーでオフェンスのミスを誘い、ルーズボールへダイブ。そのパスをトランジションが得意なガードが受け取り、相手を抜き去り、ベストなランでコートを駆けるウィングマンにパス。レイアップのこぼれ球をインサイドの選手がリバウンドでダンク!! 相手ベンチ、会場を含めて最高潮の盛り上がりを見せた。そのような場面もタイムアウトの対象となる、
- Total strategy change:大きな戦術の変更
ゲーム前のプランとの変更や、相手チームの戦術に対して変更をするとき - Lost game rhythem:ゲームのリズムを失っているとき
コート上に困惑が多くなり、オフェンスの展開や重くなる、ディフェンスのコミュニケーションがルーズになった場面 - Rest time:最後のピリオド限定
休息のためのタイムアウト。ゲームの終盤、もっとも大切な場面でクラッチシューターやベストな5人をゲームに出せるようにコーチは配慮すべき。そのための方法の1つとして。交代ができない状況で選手を休ませたいとき。
※「効果的な休息」の項でも説明した通り、極力、休息のためのタイムアウトを取らずに、かつ、中心選手をもっとも大事なゲームの場面でフレッシュな状態でコートの上に立てるように細心の注意を払う必要がある。 - チームトーク(試合前に何を話すか)
基本的に、ここでもKISSの法則(Keep it simple,stupid!)を考える。オフェンス、ディフェンス共に最重要項目の1つを伝えることを心がけている。
6.トーステン氏のチームトークの内容
Game planについて
- Main tasks offenceについて
相手ディフェンスの種類、ゾーンかマンツーか、ヘルプの状況などビッグマンの有無、その弱点 - Main tasks deffenceについて
シューティングゲームにしたいのか、ペネトレイトさせてよいのか、ファーストブレークはどうなのか、相手ビッグマンのオフェンスはどうなのか? - マッチアップについて
トーナメントの場合は事前のスカウティングが難しいが、どのようなマッチアップがベストなのかを伝える。
そして、「我々は準備をしてきた!」という自信を与えることが重要であると強調、試合と言うのは「準備してきたことのご褒美をもらう時間である!」という手応えを抱かせることが重要である。
ハーフタイムのトーク
ハーフタイムについて、トーステン氏が考えている重要な項目は下記となる。
- 選手だけの時間を与える(ロッカールームであれば、入室時間を調整する)
- サンドイッチの法則(「3.タイムアウトのマネジメント」を参照)
- 最も重大なオフェンスの問題を伝える
- 最も重大なディフェンスの問題を伝える
- 解決策にフォーカスすること
「シュートが入らない! なぜだ! 馬鹿か? 気持ちの問題だ!」と選手を叱責するのではなく、解決策に焦点を当てる。スローガン“Focus on Solutions!!!”
例:シュートが入らない。なぜだろうか? スクリーンがエアスクリーンになっていないか? セットをする位置は正しいか? ユーザーのタイミングは適切か? ウィングにボールをデリバリーできていないか? なぜだろうか?
試合後のトーク
トーステン氏の考え方や、進め方は下記。
- 勝った日……何もなし。
- 負けた日……何もなし。
その日は何も言わない。基本的に全て翌日にする。ゲーム後にすぐに伝えたことは、たいてい間違えている。感情的になっており、正しい判断ができない。ほとんどの場合、間違ったことを選手に伝えてしまっているケースが多い。
7.トーステン氏の哲学/考え方の原理原則について
- Think and act positively rather than negativiely:ネガティブにならず、ポジティブに考え、行動すること。
- It is always too early to quit–stay focused!!!:諦めない!バスケットボールはエキサイティングでとってもクレイジーなスポーツだ。20点差、30点差あっても、諦めず、問題解決にフォーカスすれば、何かを起こせる。
- Think about solution rather than worry about problem:問題について考えるよりも、解決策について考える。
- Mistakes are gift – best opptunity to improve:失敗は神様からの贈り物。成長するための最大の機会だ!
- Make the best out of all situation!:どのような状況でも、必ずベストを尽くす。
- Respect the player and appreciate effort!:プレイヤーをリスペクトする。そして、プレイヤーが成長や改善のために「努力した」ことに対して敬意を示すこと。プレイヤーに対する敬意の表し方は、話し方、言葉の選択、身振りなど様々な方法で表現することができる。
この記事の著者
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1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。