「敗北の痛みを和らげ、選手が前向きな心境で体育館へと向かう活力の源はTeam Chemistryに他ならない」トーステン・ロイブル氏講習会レポート

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2017年7月に開催された「FIBA U19バスケットボールワールドカップ2017」にて、U-19日本代表男子チームは過去最高位であると世界10位に輝いた。世界大会に挑むに上での日本バスケットボール協会のサポート体制の充実は、「将来待ち構えていることすべてに打ち勝てると信じている。そのために、ひたすら走り続けたい」トーステン・ロイブル氏の人生哲学に迫るの記事でも触れた通り。

その前提の上で、個性溢れる選手を率い、見事にまとめ上げたトーステン・ロイブル氏の手腕に注目しているコーチも多いように思う。欧州仕込みのバスケットボール理論を駆使し、順風満帆な歩みを見せているかと思えるが、決してそうではない。例えば、2016年のFIBA ASIA U-18男子バスケットボール選手権大会では、初戦の韓国戦に大敗している。それでも、大会中に修正と成長を成し遂げて準優勝。ワールドカップでは、8強進出を賭けて挑んだ決勝ラウンド初戦でイタリアを相手に先手を取るも、徐々にミスから猛追を喰らう。八村選手のスーパープレーで同点に追いつくも、タイムアウト明けのサイドライン アウトオブバウンズプレーを沈められ、ブザービーターで敗戦。

“Shock the world”を掲げて、長期間でチーム作りを進めてきたU-19男子代表チーム。PC画面越しで観戦をしていた多くのバスケット関係者の落胆以上に、イタリア戦での敗戦は選手・コーチングスタッフにとって大きな困難であったことは想像に難くない。そんな中でも、「アジア最高位を目指す」と目標を定め、続く韓国戦、エジプト戦では2連勝。最終戦でプエルトリコに敗戦するものの、堂々たる戦いぶりを見せたことは称賛に値する。

LAを拠点とし、NBAを中心にバスケットボールの取材をされている宮地陽子さんのツイッターでは、敗戦の翌日、U-19代表チームの選手・スタッフとで、練習後にピラミッドを訪問する様子が投稿された。歴史を大きく変えるかもしれない大一番の試合後の敗戦の後にあっても、皆、非常に清々しい表情が印象的であった。そこで、筆者は、非常に強いTeam Chemistryを感じた。

TEAM CHEMISTRY ~the huge resource of performance~

ロイブル氏が講師を務めるEURO Basketball Academy coaching Clinicでは、2016年10月頃の講習会にて、「TEAM CHEMISTRY ~the huge resource of performance~」を題材としている。

講習会のタイトルの通り、ロイブル氏は、「Team Chemistry」を「the huge resource of performance」と定義した。チームに関わる一人ひとりの個性を引き出し、能力を発揮させ、練習と試合を重ねながら、シーズンを戦う。そして大事な試合を戦い、勝利を目指す中でのパワーの源であると強調する。2020年の東京五輪、そしてその先を見据え、現在日本のバスケットボール界では、様々なレベル・カテゴリーで、競技の枠組みや仕組みが大きく変わろうとしている。

変革への期待と共に、変わりゆく環境の中で困惑を抱えている人や、新しい仕組みの中でのチーム作りに不安を抱くコーチも多いのではないか。ここでは、講習会の中で語られた内容について、GSL編集部 片岡秀一が、講習会の内容からお伝えできる範囲をレポートする。

本記事の目的は、Team Chemistryを構築したいと考えているコーチの方に、1つの方向性や、指導現場で活用できるアイデアを見つけて頂くことだ。それを通じ、自分の所属チームに対してTeam Chemistryを感じながら競技に励む選手が増えること、バスケットボールを通じて、人生の豊かさを享受できる選手や、コーチが1人でも増えることを強く願っている。

敗戦は、誰にとっても痛みを伴うものだ。敗北の痛みを和らげ、再び選手が前向きな心境で体育館へと向かわせる活力の源は、Team Chemistryに他ならない

序文と重複するが、まずは、「Team Chemistry」を「the huge resource of performance」と定義したことを強調したい。チームに関わる一人ひとりの個性を引き出し、能力を発揮させる組織の調和であり、ハードな練習と試合を重ねながら、シーズンを戦う、そして大事な試合を戦う中でのパワーの源である。一例として、試合への敗北がチームに与える影響が語られた。

どのレベル、カテゴリーの選手にとっても、敗北は痛みを伴うものであり、時として、バスケットに向かう活力を奪われることもある。ロイブル氏にとっても、やはり敗北に痛みを感じるという。その中でも、本人がやめない限り、シーズンは続くし、敗戦後の練習もやってくる。後ろ向きな状態で練習に挑んでも成果は出ないだろう。そこで重要になるのがTeam Chemistryだ。「敗北の痛みを和らげ、再び選手が前向きな心境で体育館へと向かわせる活力の源は、チームケミストリーにほからない」と語る。

日本は礼儀正しく、お互いを尊重する素晴らしい文化を持っている。ならば、それをコート上でも、もっと発揮すべき。コーチは、そのような表現手法を選手に教えよう

重要性が語られた後は、Team Chemistryを構築する中で、ロイブル氏が考える、コーチ側が意識すべき工夫や、構築すべきチームの仕組み・規則が紹介された。1つは、Allow emotionsというキーワードだ。文字通り、コート上や練習中に選手が感情を発露することを許しましょう、という提言だ。

練習の規律を重視するあまり、練習中の笑顔を禁止したり、プレー中に良いプレーを出せた際にジェスチャーで表現することを禁止するコーチもいるかもしれないが、それでは選手同士のコミュニケーションは育まれないと指摘。感情の高ぶりと冷静な状況判断が同居したときこそ素晴らしいパフォーマンスを発揮できるし、コート上で選手同士がお互いの絆を感じる手段でもある、と紹介。ハイファイブやチェストパンブが、映像や写真と共に紹介された。

問題提起の色合いが強かったのは、コート上での選手同士のコミュニケーションである。日本は、世界中のどの国よりも礼儀正しく、勤勉で、お互いへの敬意をどの国よりも示す精神性を持つ反面、コート上では、そうではない。Players always THANK for supportというキーワードで、ナイスパス、ナイスヘルプ、ボックスアウト、素晴らしいファーストブレイクでの走りに対して、もっと敬意を示すコミュニケーションを示すべきだと提言。

謝辞を意味する意図で味方を指で差すことや、目を合わせることの重要性が語られた。これは、コーチが選手に対してツールや表現方法を伝え、然るべき練習をすれば、身に付く習慣であると言う。後日掲載予定の池田親平氏のレポート内でも細かな事例が紹介されている。

レバンガ北海道のHC時代に「IncredibleなTeam Chemistryを感じた」。それは折茂選手の献身的な姿勢のおかげ

また、これまで、日本やドイツで指導経験の中で、どのチームでも素晴らしい選手やスタッフに恵まれたという謝辞を前提としつつ、最もチームケミストリーを感じたチームについて、レバンガ北海道を紹介。他チームに比べ、練習環境、選手のリクルートなどで恵まれないチームであったが、「IncredibleなTeam Chemistryがあった」と語った。例えば、土曜日の夜、トヨタ自動車アルバルク(当時のチーム名称)に44点差で敗退。ロイブル氏ののキャリア史上最高点差での敗北であったが、翌日、12点差でトヨタ自動車に勝利することができたという。

チームで何かを成し遂げたいという絆、問題点を全員で修正しようという共通意識、お互いに協力し、助け合おうという意識が作用した結果であると語る。その要因として、選手であり、球団社長でもある折茂選手の献身性を紹介。

その当時、既に40歳を超えるベテラン選手であり、また、球団社長の立場に甘えず、若手と同じようにハードワークを積み重ねる姿勢を称賛。それがあったからこそ、IncredibleなTeam Chemistryが実現したという。

さて、後日、株式会社ERUTLUC指導員の池田親平氏による、さらに具体的なエピソードや講習内容を紹介したい。具体的なドリル内容については誌面の都合で紹介が難しいが、エッセンスを感じて頂ければ幸いだ。

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。

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