「全ての人を幸せにすることはできません。貴方のチームは、誰を幸せにするチームですか?」Dave Taylor氏が気仙沼市のコーチに伝えたメッセージ

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宮城県気仙沼市では、『バスケットで気仙沼を元気に』をスローガンに、育成世代の選手から大人のバスケット愛好家、及び、ブランクのある方々に向け、多種多様な事業が展開されている。

2016年頃には、コーチの学びの場の創出を通じ、より魅力的な競技環境の創出を意図し、宮城県気仙沼市バスケットボール協会の事業として「バスケの勉強会」の企画が発足し、定期的に開催。

選手一人一人がバスケットボールを十分に楽しめる環境作りと同時に、競技としてバスケットを捉えた際に、選手一人一人の可能性を拡げる意図もあった。

宮城県では、仙台市等の都市部にU12から大学まで強豪チームが集まる傾向がある。県の北部に位置し、気仙沼市でバスケットボールに励む選手の中には、地理的な環境を理由に、自分の可能性に制限をしてしまうケースもあったという。

ならば、コーチの資質向上を通じ、仙台市や、その他の都市部の優秀なコーチにも匹敵する質の高いコーチングや練習環境を整え、競技者として高いレベルに挑戦したいと願う選手の可能性を拡げよう、という狙いである。

講師は、全国各地に訪問し、精力的に学びを重ねていた同市の袖野洸良氏(JBA公認B級コーチライセンス保有)が務めた。GSLでは、株式会社アップセットと連動し、講義を進める際の準備や情報共有等で協力をしていた。(宮城県気仙沼市出身の人物が、埼玉県の社会人バスケ連盟で発足し、各種の大会で好成績を収めていた宮城クラブの練習映像等も参考資料として活用されていた)

第12回目は、『アメリカの育成環境、欧州の育成環境の情報共有と共に、気仙沼市周辺の、よりよい育成環境の構築を考える』ことをテーマとした勉強会が開催。GSLでは、様々な縁や背景により、Dave Taylor氏に気仙沼市のコーチに向けたメッセージを依頼し、承諾をいただく。Dave Taylor氏自身のコーチ哲学を語ったビデオメッセージが勉強会の中で上映された。

同氏は、アメリカ西海岸を中心にクリニック活動や、NBA選手主催キャンプのディレクター、現在のアメリカの育成環境に警鐘を鳴らした書籍『THE AAU WASTELAND』を出版され、TOKYO SAMURAI AAUとも関係の深いコーチである。(本記事の末尾に背景等を記載)

『Dave Taylor氏から気仙沼市のコーチへのメッセージ』


1、コーチとして活動の背景(2016年時点)


皆さん、こんにちは。Dave Taylorといいます。このような形で皆さんにお会いできて嬉しいです。袖野洸良さんとは、東京で行った勉強会で出会いました。その縁で、このような場を設けていただきました。

宮城県の気仙沼市で、コーチの方々が有志で集まって勉強会を開催されていると伺いました。今回、私の経験を踏まえ、私の指導哲学などをお伝えしたいと思います。若いころ、John Woodenコーチをはじめ、多くのコーチに助言をいただき、数多くの事柄で協力していただきました。

コーチは、いつでも、お互いに助け合う必要性があります。その為、私ができることで、皆さんの参考になれば嬉しいです。特に、私の師匠であり、メンターでもあるJohn Woodenさんについて様々なことをお伝えできればと思います。

私は、特に、15-17歳ぐらいの年代の選手を教えることが非常に好きです。世界中をキャンプで回り、若い世代の選手に関わっています。NCAAのスカウトやコーチが数多く訪れる大会をアナハイムでも仲間と主催しています。

また、サンディエゴでのキャンプや、歴史のあるフェノムキャンプにも関わっています。ラマーカス・カズンス選手や、その他のNBA選手のキャンプを共催したこともあります。日本、オーストラリア、ドイツなどもキャンプで訪問しました。実際にクリニックをすること、キャンプのディレクターをする事など、関り方は様々です。幸運なことに、私の経験、知識、リーダーシップ等を多くの人が求めてくれます。とても嬉しいことですし、誇りに思っています。


2、コーチとして誇りに思っている事


私は、コーチには2種類いると思っています。自分自身の為のコーチ、そして子供たちの為のコーチです。私は、子供たちの為のコーチであろうとしています。そして、その事に誇りを持っています。コーチ自身の名誉の為に勝利やトロフィーを目指して指導する人もいるかもしれません。けれど、私は、子供たちの為にコーチをしていると断言できます。


トロフィーを獲得する事よりも選手の成長を大切にしている

私が信じているのはDevelopment です。目先の勝利やトロフィーを獲得することよりも大切にしているのは、選手の成長です。子供たちの成長をサポートしようとコーチとして全力を尽くし、それが成功したと実感できたときに大きな喜びを感じます。

敗戦は、コーチの名声や名誉が傷つく出来事ではありません。選手が成長するチャンスです。コーチの中には、試合に負けることを毛嫌いする人もいます。目の前の勝利だけを強く求めた采配や、審判への過度なアピールに情熱を注ぐ人もいます。試合を迎える前の準備として、リクルートだけに情熱を注ぐ人もいます。

私は、選手の為のコーチであることを自分自身の誇りにしています。大切にしているのは質の高いフィードバックです。試合に負けたとすると、それは、ある種、喜びでもあります。誠実に負けに向き合うならば、敗戦は、成長の為の貴重な機会だからです。コーチには、自分自身の信念、及び、選手に対する誠実さが大切だと信じています。

勿論、試合への勝ちを目指さないわけではありません。勝つためのプロセスや、勝ち方にこだわっています。


選手が全力を尽くしたか、成長をしたかどうかを最重視。質の高いフィードバックを大切にする。

その中で、特に私が大切にしているのは、選手が全力を尽くしたかどうか、です。そして、試合の中で成長しようとしたか、実際に成長したかどうか、です。その分、僕は非常に多くのフィードバックを選手に行うようにしています。

試合映像を十分に分析をした上で、練習での選手一人一人へのフィードバックを考えます。一人一人、MTGの時間を設け、話し合うことも頻繁にあります。非常に多くの時間を費やすことで、成長するためのサポートをしようと心掛けています。それが僕の哲学です。

※DAVE氏のキャンプでは、選手一人一人の映像を撮影している。休憩時間を活用し、選手が自分自身の映像を見られることを大切にしている。その上のスキルや戦術のフィードバックなどをおこなう。クリニック後には、一人一人の動画のクリップや、フィードバックのメッセージを与えている。作業量は膨大なボリュームになる。しかし、それが、彼のポリシーである、という。(TOKYO SAMURAIのKris Thiesen氏のDave評)

誰かが、誰かよりも優れている事の証であれば、MVPはナンセンス

もう一つ、大切にしている価値観があります。これはJohn Woodenさんから教わったことです。それは、「チームにMVPはいらない」という考え方です。チームが勝利や栄冠を掴んだとします。その際、誰かが、誰かよりも価値があるなんて、僕にとってはナンセンスです。

チームは、共に練習し、共に戦い、共に勝ち、喜びを共有します。負ける時には、共に闘い、共に負け、悔しがります。そのプロセスを、自分は特に大切にしています。勿論、素晴らしいパフォーマンスを発揮した選手を賞賛しようと表彰の項目を作ってくれる大会の方々には感謝しています。努力を重ね、外部の人から見て、活躍したと評価された選手が表彰されるのも喜ばしいことです。でも、MVPを受賞した選手、チームとして戦うことの重要性を何度も伝えています。他の選手にも、チームに対する貢献を伝えています。


DFをしないエースがいるならば、試合に出さなければいい。試合には負けるかもしれない。でも、それは問題なのですか?

関東でクリニック(共催:株式会社ERUTLUC・株式会社アップセット)をした際に、以下のような質問をいただきました。「チームで得点源の選手が、ディフェンスをしません。DFで全力を尽くすことを大切な理念としてシーズンをスタートしています。当該選手にDFの重要性を伝えているが、理解してくれない。しかし、彼がいないと、チームの得点は伸びません。コーチならば、どういうアプローチをとりますか?」という内容でした。

私は返答はシンプルです。まず、選手自身のバスケットにおけるキャリアの夢を改めて尋ねます。そこから逆算し、DFの重要性を改めて伝えます。試合中の映像を見せ、選手自身の考えを聞きます。その上で、コーチとしての視点からDFでの改善点を伝えます。

それでも選手がDFに取り組んでくれないとします。私のチームが、チームワークやDFを重視するチームであるとします。その選手の存在がチーム全体の規律を乱すのであれば、試合には出しません。勿論、得点源を失い、チームは負けるかもしれません。でも、何か問題はありますか?

得点源の選手がいなければ、他の選手はいつも以上に奮闘し、特別な体験を積みます。普段、あまりオフェンスに関わらない選手だとして、オフェンス面でも中心選手として試合に出場する事は、その試合が勝利に終わっても、敗戦に終わっても、これまでにはない貴重な経験です。その選手の成長の機会に繋がるでしょう。そして、チームでDFに取り組むことができます。

エースの選手も、ベンチに置かれたことで、DFの重要度を説く私の真剣度を理解してくれるかもしれません。ベンチからチームメイトの姿を見ることで、これまでとは違った考えを抱くこともあるかもしれません。自分の代わりにオフェンスの起点になっている選手が、素晴らしいパフォーマンスを披露すれば、自分のポジションも危ういと危機感を感じるかもしれません。勿論、その他にも、様々な感情を味わうはずです。もしかすると、その経験が、彼にDFの意欲を呼び起こし、選手として成長する機会になるかもしれません。

残念ながら、全ての人を幸せにすることは出来ません

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勿論、それでも納得できないケースもあるでしょう。オフェンスでキャリアを切り拓きたいと考えているかもしれません。その場合は、チームの方針と合いません。

入団する前に、きちんとチーム理念や方針は伝えておくことが大前提として重要にはなりますが、チームを退団してもらえば良いわけです。全ての人を幸せにすることが出来れば素晴らしいことですが、残念ながら、全ての人を幸せにすることはできません。私が本当に幸せにしなければならないのは、チームの理念に賛同してくれ、その通りに心構えでプレーをしてくれる選手です。その選手がいないことで、何試合かの試合に負けたとします。私には、何の問題もありません。

日本のバスケ界とアメリカの競技環境とで、置かれている境遇が異なるかもしれません。ただ、コーチとして、「誰を幸せにするチームなのか」・「コーチとして大切にしている価値観」を明確にしておく必要性があるでしょう。私は、そう信じています。

選手の成長にはコーチの成長が不可欠

選手が成長するには、コーチが成長することが重要です。当たり前のことですが、本当に大切なことです。常に、その事を心に留めておく必要があります。試合を見て、分析をする。他のコーチから学ぶ、クリニックに参加し、新しい知識を得ることなど、全ての行動が大切です。

コーチは選手とコミュニケーションを取る事も大切です。同時に、コーチ同士で、良くコミュニケーションを取る事も大切です。私も、先輩のコーチ、そして私を慕ってくれる後輩のコーチとのコミュニケーションの中でコーチとして成長してきました。

気仙沼のコーチコミニティは、良くコミュニケーションが取れていて、素晴らしい集まりだと思います。そういう方々にメッセージを届けることが出来て嬉しいですし、誇りに思います。もし、機会があれば、宮城県気仙沼市を訪問すること楽しみにしています。洸良さんと同じように、電車で3時間かけて、伺う事も、僕は構わないです。楽しみにしています。

何かあれば、僕のメールアドレスまで、いつでも、気軽に連絡をください。短い時間だったけど、以上が僕の哲学です。


<参考>

動画メッセージが到着した背景

本勉強会の数か月前に、エルトラックと株式会社アップセットとの共催での「Dave Taylor氏による勉強会。米国バスケットボール界の光と闇」に袖野氏が参加したことに由来するもの。

2016年当時は、Webinar等も開催されていない時期である。気仙沼市のバスケットボール環境を整備する為、袖野氏は各地に訪問し、技術、考え方、競技環境等、様々なことの知見を集めていた。特に「アメリカバスケ界の光と闇」という講演にも強い関心を持ち、宮城県気仙沼市より上京。東京都世田谷区のSt Mary International schoolを会場に開催された勉強会に参加した。その熱意にDave Taylor氏も感服した。

デイブ・テイラー氏がジョン・ウッデン氏から学んだこと(前編)
デイブ・テイラー氏がジョン・ウッデン氏から学んだこと(後編)アメリカの光と闇

※株式会社ERUTLUC内のレポート記事

また、当時、袖野氏は自身がHCを務めるU12世代のミニバスでのチーム方針や理念の周囲への浸透でも悩みを抱えていた。袖野氏の悩みをDave Taylor氏に質問をする際、通訳を務めた水野慎士氏が的確、かつ、丁寧に対応をしてくださったことが今回のビデオメッセージにも繋がった。


宮城県気仙沼市での袖野洸良さんの活動について

https://kesennuma-sportstourism.com/posts/mitsuyoshi_sodeno

この記事の著者

片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。