『BASKETBALL BASEプロジェクト』進行中!「環境を整えることもコーチの大切な仕事」尺野将太コーチの挑戦

尺野将太コーチがバスケットボール施設を開設した。施設名称は「BASKETBALL BASE」であり、「バスケットボールの秘密基地」というコンセプトに由来する。広島県広島市西区に位置、駐車場もあり、バスケットリング1台、シューティングマシン、冷暖房も完備している。広島駅から、JR山陽本線で約5分の横川駅からも徒歩圏内の好立地である。

先が見えないコロナ禍にあって、今回のような挑戦に踏み切る際には多くの苦悩があったはずだ。取り組みについて伺った際に、地元への想いや、コーチとしての哲学、そこに至る様々な体験談を教えていただく。施設に関する情報をヒアリングしたつもりが、コーチ哲学や、人生哲学まで拡がった。記事等での公開を打診した際に、「可能な範囲でオープンにする事で、次に続く方々の参考になるのであれば嬉しいです」と、快く承諾していただいた。

本稿では、「Basketball base」プロジェクトの背景、施設の現在地、及び、そのように着想した尺野将太氏のコーチ哲学について記載する。

元々、尺野将太コーチ「バスケコート設立プロジェクト(広島市内)」として、御本人のHPでも構想を公にしていた。また、GSLでもバスケコートプロジェクトの着想に至る背景や、社会に提供したい価値、それに関連する経験談の詳細もヒアリングをしていた。本記事では、構想段階でのアイデアなども記載している。

尺野氏は、以前に行った講習会(「ACはHCのイエスマンではいけない!ただし、忠誠心も持たなければならない」尺野将太コーチによる勉強会)でも、コーチの役割としての下記の項目を紹介。

「コーチの主要な役割」

(1)構想と戦略を立てる(2)環境を整える(3)様々な関係性を構築する(4)練習を実施し、試合の準備を整え、試合に臨む(5)現場で起こっていることを察知し、それに対処する(6)振り返りと学び。

『ヨーロッパ・スポーツ・コーチング・フレームワーク』より

特に、「(2)環境を整える(3)様々な関係性を構築する」の項目をご自身も意識されていると語っていた。本プロジェクトも、「コーチの役割」を考えた際に導き出された想いが大いに反映されているとなっている。また、広島県の出身であり、男女各カテゴリーでプロコーチとして様々な経験を積む機会に恵まれた自分ならではの使命感や文脈も大きく影響している事が滲み出ている。

現在、全国各地で、バスケットボールのスクール事業が盛んである。倉庫を改築した自前の施設を保有する事業主も増えてきた。B.LEAGUEでも宇都宮ブレックスが自前のコートを保有し、スクール事業やユースチームの練習で活用している事は有名だ。

本記事を通じ、尺野氏の視座の高さ、視点の多さ、視野の多さが伝われば幸いであり、新しい活動の一助になれば幸いである。

※本記事は、2020年10月頃にインタビューした内容をベースにしています。また、広島ドラゴンフライズでのコーチ活動ではなく、BASKETBALL BASEへの想いを中心に掲載しています。

0、施設情報

Basketball Base

・リングは一つ。ハーフコート
・3Pシュートは中央であれば正規の距離で確保できる距離。
・シューティングマシン確保
・壁面には高さ230センチのミニリングを設置
・天井高 5m30cm
・床:コンクリートを塗装した仕様
・空調:冷暖房完備
・以前の用途:トランポリン教室
・防音対策:「施設に隣接するマンションがある。以前の利用者がマンション側の壁に防音の内装工事をしている。そのまま使用している。
・周辺環境:住宅街のど真ん中に位置する。防音対策をしている為、施設内の音はあまり気にならない。ただし、近隣住民の方への騒音には配慮して、営業時間を20時までに設定した。また、トランポリン教室の方より「施設外での会話の声が近隣トラブルになる可能性がある」と事前に指摘があった。

・立地:駅より徒歩圏内
・住所:〒733-0005 広島市西区三滝町8-11
横川駅北口より徒歩8分
横川駅北口より2分
*前の道路が一方通行になっております。
*駐車場は建物向かい側、右側縦に3台駐車可能です。
※広島駅から横川駅は電車で5分。2駅。JR可部線。

1、室内練習場の存在を通じて解決したい事(バスケ界やスポーツ界に提供したい価値)

①バスケットボールの競技環境の確保
現状、ほとんどのチームが学校の体育館や公共施設を他種目と共有している。バスケットボールの競技環境や練習時間には制限がある。制限の中でも最大限の工夫をする事はコーチとしても大切な心構えではあるが、コート数が増える事で競技に励める選手の絶対数は増える。競技層、普及、育成の部分で貢献できる施設を目指す。

②年代や習熟度に応じた適切な競技時間の確保
働き方改革の影響もあり、部活動(中・高)の活動時間は大きな縮小傾向にある。①に記載した項目にプラスして、自前の施設を保有する事で、習熟度や年代に応じた適切な練習時間を確保できる環境整備が可能となる。

学校の体育館の利用を考えると、どうしても練習開始時間は夜間になる。公共施設を利用する場合は、抽選等の壁がある。自前の施設とする事で、例えば、少しだけ早めの練習時間の設定が可能となる。成長過程にある選手の睡眠時間の確保や、学習時間にも配慮した時間設定が可能となる。

③専門的な指導を求めるニーズに対応する
競技環境が部活動だけに限られた場合、部活動のシステム上、必ずしもバスケットボールを専門的に学んできたコーチに巡り合えないケースがある。そのような方々の熱意によって競技環境が支えられてきた事、及び、これからも支えられていくであろう事は間違えない。ただし、より専門的な指導を求める声も多い。バスケットボールを専門的に扱うコーチが、専用の施設を保有する事で、様々なニーズに対応していきたい。

2、現在のプロジェクト

※2021年5月時点)

U15クラス(中学生男女):定員10名
 月曜日18:30〜20:00
 月謝:6,000円/月
 <コンセプト>
専門的な動きを洗練して高いレベルのプレーを追求するとともに、
  自分の体と動きを自由にコントロールすることを目指します。

U12クラス(小学校5・6年生男女):定員10名
 月曜日17:00〜18:30
 月謝:6,000円/月
  <コンセプト>
バスケットボールの専門的な動きの習得と、自分の体を自由自在に
  動かせるようなコーディネーション能力を高めていきます。

U10クラス(小学校1〜4年生男女):定員8名
 月曜日16:00〜16:50
 月謝:週1回参加4,000円/月
  <コンセプト>
バスケットボールを通して、体を動かす楽しさを追求し、
自分の体を自由自在に動かす力を高めていきます。

◇共通コンセプト
・少人数制による個人の特徴に合わせた指導
・年代に応じた特徴を踏まえた課題の設定と解決を目指す
・主体的に課題に向き合い、失敗を恐れず挑戦する姿勢を身につける
・シュートやドリブル、1on1などバスケットボールのBase(土台)を広げるスキルの向上を目指す

キッズクラス(4〜6歳男女):定員8名
 月曜日15:15〜15:50
 月謝:週1回参加3,000円/月
 <コンセプト>
ボールを使った遊びや運動を通して、
体を動かす楽しさを体験します。

※キッズクラスは約1.5mの特別リングで練習をしている。

◇その他
・シューティング講座
・フリーシューティング開放
・コーチ向けの講習会(オンラインとの併用)

3、コーチングキャリアを通じての学びと本プロジェクトとの関連

尺野将太氏は、豊富なキャリアの持ち主。男女各カテゴリーの中で、プロコーチとして様々な文脈の中で日々を過ごしてきたことが、今回の活動にも大きく影響しているという。本人の言葉を交え、キーワードと共に記載する。

①『自分が仕事をする先に、誰がいるのか。そして、どのような想いを持っているのか』

女子代表チームのテクニカルスタッフ、WJBLアナリスト、B1チームのAC,HC代行、HCの経験を持つ。代表チームや、男女のトップカテゴリーの選手に触れている経験も現在の活動に活かされている。それ以上に、B1残留争いを戦う中で仕事観や人生観が深まる経験をした。それを胸に仕事をする中で、今回の倉庫型コートの開設を真剣に考えるようになった。

特に、横浜ビー・コルセアーズのHC代行時代、B1残留入れ替え戦、アウェーの秋田の地にも大勢で訪れてくれたブースターの存在を通じて学んだ事であるという。

「チーム、そして選手の命運を大きく左右する残留争いという極限状態を経験し『自分が仕事をする先に、誰がいるのか。そして、どのような想いを持っているのか』という事への意識が高まりました。それは、アウェー秋田の地、満員のハピネッツブースターの中、ベンチ裏でチームを精一杯に支えてくれたブースターの姿を見て、共に戦い、共に勝利を掴み、実体験と共に学んだ事です。

その時の経験が、その後の仕事観に大きな影響を与えました。翌シーズン、再びACとしてシーズンの準備をしている際、2年連続のHC代行時の残留争い、広島ドラゴンフライズでのHC、及び、現在の広島ドラゴンフライズU15チームでの活動、そして、BASKETBALL BASEでの活動でも強く意識しています」

②「戦術やスキルを教えるだけではなく、環境を作るのもコーチの重要な仕事の1つ」という考え


尺野氏は、戦術的なコーチング以外にもコーチの役割として環境創りに非常に重きを置いている。広島ドラゴンフライズU15のHCとして活動するときも同様のようだ。Basketball Baseでは、故郷である広島での取り組みいう事もあり、その想いは広く深い。

②-1 民間の施設だから出来る事。決意と覚悟。
「コロナ禍の中で、公共施設や、学校の体育館開放などが利用停止になった。スポーツ愛好家だけではなく、様々な利用者が集うので、仕方のない事でもある。こういう時だからこそ、スポーツ競技者を主な利用者とする民間施設の存在意義を感じた。勿論、感染対策や、ガイドラインを策定する事が大前提であるが、二の足を踏んでいた自分に最後の決断を後押しした部分もあった。

元々、既存の公共施設とのハイブリッド型を想定していた。また公共施設が使用できるようになれば、両方を使って、それぞれの選手がより良いバスケ人生を歩む助けになれば大変嬉しく思います」

・君のところに選手を送り出すよ、、と信頼していただける。色々な機会やチャンスをいただける。誠実に。嘘は行けない。美学。あえて、それをしないという考えもあるかもしれません。

②-2 コーチ向けの講習会等の開催拠点に。首都圏との環境格差
「大学時代を千葉で過ごし、卒業以来、茨城、東京、愛知県、神奈川で過ごした後に、地元である広島に戻ることになる。講習会や、様々な機会等で首都圏との環境格差がどうしても存在する事を改めて感じた。講習会の良いところは、優れた知識を得られるだけではなく、コーチ同士の縦・横の繋がりが出来る事。結果、それらが選手の競技環境に還元されていく。

コロナ禍でオンライン講習も増え、情報の部分での格差は減りつつある。それでも、これまでの遅れは確実にあるはずです。また、オフラインで開催できる環境に戻った際にも、どうしても首都圏での開催が多くなると思います。その中で、BASKETBALL BASEが一つのHUBになりたいという想いがあります。

高校教員、代表チーム分析スタッフ、WJBL、BリーグAC、HC代行、HC、BリーグU15・・と様々なカテゴリーを経験させていただいたからこそ、色々な立場を理解できるのは自分の特徴。コーチ同士の学びの場、特に、カテゴリーを超えたコーチ同士の交流の場作りを通じ、よいより競技環境構築の一助になるような活動は意識したいです」

※2021年5月時点で、オンラインでのコーチ向け講習会と、BASKETBALL BASEでのコーチ向け講習会を実施済みである。広島県外からも参加者が集った事、及び、カテゴリーを超えたコーチ同士が参加したという。講習会を通じた、縦(世代、カテゴリー)と横(地域)を超えたコーチ同士の交流は尺野氏も想い描いていた事。着々と、各種のプロジェクトを進行させている。

③女子選手もワンハンドシュートを学べる機会を

「女子代表チーム、WJBLでの経験より、女子選手もワンハンドシュートを習得する事の重要性を感じています。ドリブルからのシュートのバリエーションや、シュートモーションなどが関係しています。海外の女子選手は、その部分で非常に優れていました。勿論、ワンハンドでないといけないわけではなく、ツーハンドシュートでも良いです。日本女子代表チームのツーハンドの選手が、国際大会で活躍をして大きな注目を集めている事も知っていますし、敬意を持っています。ただし、ワンハンドシュートを学べる選択肢が存在する事は必要だと感じています。

BASKETBALL BASEのコートはハーフコートよりも狭いです。理想は、フルコートで、ワークアウトが出来る環境ではあります。ただし、トップの位置は正規の3Pシュートの幅を確保できています。女子選手もワンハンドで3Pシュートの練習や可能です。
リバウンドマシーンの導入に踏み切ったのもシュート練習の環境整備への想いもありました」

4、構想段階における具体的な案、及び、その背景

①コンセプトを明確にしたゲーム運営など(リーグ戦など)


以前から、育成世代の課題としてトーナメント制の弊害が叫ばれていたと思います。有名な話では、あまり強くないチームの場合、年間で3試合しか公式戦を戦う機会がないことなどが指摘されていました。また、どうしても目の前の試合に勝つために最適な選手起用や戦術の選定が必要に迫られる環境もあったと思います。

近年は、敗者同士の交流戦を実施するなど、様々な大会で試合数が増えてきています。それ自体は関係者の努力の賜物で、非常に素晴らしい事です。ただ、リーグ戦の醍醐味は試合数の確保だけに留まりません。数カ月前から対戦相手が決まっている中、自分たちのスタイルに磨きをかけると同時に、相手チームの対策などを踏まえた練習計画の立案が可能です。また、相手も自分たちに対して練習をした上で対策を立てて挑んできます。この繰り返しが、選手の対応力や、コート上での判断力を向上させる土壌になる側面もあるはずです。

20代の中頃、エルトラック代表の鈴木良和さんと共にスペインの育成環境等を視察した経験も影響しています。近年、JBAでもU15、U18世代へのリーグ戦の導入が進んでいます。関東エリアでは、以前からEuro Basketball Academy Leagueとして、私設リーグ戦があります。各チームの事情に応じた参加形式が特徴です。複数チームでの出場や、下級生チームでの出場をしているチームもありました。リーグ戦の為、思い切った選手起用なども可能です。施設の体育コートの建設を通じ、コンセプトを明確にしたリーグ戦なども開催出来ればと考えています。

参考
B4L 育成世代における環境

②若手のプロ選手を対象としたオフのワークアウト(若手選手など

「トップチームのACやHC時代の経験が影響しています。契約が満了になった選手にとって、オフシーズンの練習環境は決して多くない。所属元のチームが選手に練習環境を貸すケースも勿論ありますが、選択肢は多ければ多いだけ翌シーズンに向けたより良い準備に繋がります。以前、TTC supported by UPSETが開催された際には、当時の所属チームの選手を紹介しました。

また、U22世代で、広島県からプロを目指す選手もいると思う。バスケに熱い想いを持つ選手同士で集ってのワークアウトなども構想の1つです。特に、若い世代にとって、所属チームの勝利の為の必要なスキルと。プロの舞台で契約を勝ち取る為に必要なスキルや能力は必ずしも一致するわけではない。広島県に縁のあるプロ選手、プロ志望の選手が熱い想いで集える場所にもなれば嬉しいです。

また、その風景を、U18、U15世代の選手が見学したり、一部メニューを共に行っても面白いかもしれません。日々、U15世代の選手に改めて触れる中で、上記のような思いを強くしています。」

※PHYSIOFLEX presents Tamagawa Training Camp supported by UPSETに総括コーチとして参加した際の尺野将太コーチ。参加選手の年齢、背景等を考慮し、ピックアップゲームの段取りを行った。玉川大学中等部バスケ部の選手向けにクリニックも実施。

③コーチの育成活動(クリニックの誘致、招待も含む)
4-②と同様。

④世代別・習熟度別の練習
1-①、②、③と同様。

6、環境作りへの想い

『自ら、一歩前に出る勇気の重要性』

高校の教員で女子バスケ部を指導していた時期は、目の前の選手の成長を促すと共に、勿論、関東大会やIH・ウィンターカップ出場を目標に取り組んでいました。高校世代の大会で全国大会等への出場を考えれば、タレントのある選手に入学してもらうことも大切です。ある時期までは、良い指導をしていれば、自然とタレントのある選手も集まってくる』という考えを持っていた。

先輩の教員コーチと話をする中、「待ち」の姿勢だけではなく、しっかりと自分をアピ―ルをして、関係者との良質な関係性を構築する事の重要性を学びました。勿論、不誠実な事はしない事が大前提です。自分のチームの魅力をきちんと伝える事、コーチとしての自分の特徴を伝えることも重要だと考えるようになりました。リクルートの面でいうと、「あのコーチなら、安心して自分のチームの選手を預けられる」と信頼してもらう事の重要性を学びました。

それらの経験を一つ上の次元で捉え、「自分自身で環境を作る」という事の大切さを意識するようになりました。BASKETBALL BASEの活動は、広島県では前例がない事であり、反感を買う事もあるかもしれません。勿論、広島ドラゴンフライズにもきちんと話をしてスタートしています。コロナ禍の中、色々なリスクもある中で「今しかない!」と覚悟を決めてBASKETBALL BASEの事業に踏み切ったのは、「環境は自分で作るも」という想いを大切にしている事も影響しています」

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。