「ACはHCのイエスマンではいけない!ただし、忠誠心も持たなければならない」尺野将太コーチによる勉強会

「ACはHCのイエスマンではいけない!ただし、忠誠心も持たなければならない」尺野将太コーチによる勉強会

6/20(火)日本橋MIXERにて横浜ビー・コルセアーズの尺野将太コーチを講師とした「Professionalを目指すバスケットボール勉強会」が開催された。タイトルの通り、現在は大学の体育会で学生コーチ・スタッフを務める、プロコーチを目指す若手コーチが多く集まると共に、高校・ジュニア・社会人と、プロではないが、各カテゴリーで熱心にバスケットボールの指導に情熱を燃やすコーチが集い、熱のある空間となった。

磯野眞さんの発案、企画。尺野コーチも熱意に応じる

企画・発案者は磯野眞さん。東京大学を経て、現在は米国St. John’sのスポーツマネジメント学科で学ぶと共に、Christ the King Regional High Schoolのバスケットボール部でアシスタント・コーチも務めた。2017年6月上旬から7月上旬までの帰国期間を利用し、自らの経験を日本のバスケットボールコミニティへと伝えるべく、地元である茨城県水戸市、大学の体育会バスケットボール部、各地域のジュニアクラブチーム・スクールなど、問い合わせのあった場所へ出向くなど、精力的に活動している。GSLでも磯野コーチのクリニック中継窓口になるなどして、協力をしている。

また、同じく、激動のB.LEAGUE初年度を終えた尺野将太コーチのオフシーズンのクリニック活動についても、GSLは窓口となっていた。今回の勉強会は、尺野氏のクリニック募集フォームに、磯野コーチ自らが問い合わせ、企画の説明をし、尺野氏の承諾を得る。その後、GSL側で会場の手配や微調整をする事で実現した格好だ。

磯野コーチは発案の意図をこう語る。

「昨年Bリーグがスタートしてから、日本のバスケ界においてプロを目指すことが選手のみならずコーチにとっても魅力的な目標となりつつあります。自分自身プロのコーチとなりたいという思いがあり、「プロのコーチ」という仕事がどのようなものなのか実際にシーズンを経験したコーチの話を聞いて、厳しさも含めた現実を知りたく思っていました。周りにプロを志望するコーチが多くいたこともあり、どうせやるなら皆で情報共有しようと思い今回の開催に踏み切りました。また、プロを志す若いコーチ同士のネットワークを作り出す場という意図も持たせました。」

本企画の発案者磯野眞コーチ
本企画の発案者磯野眞コーチ

尺野コーチも、礒野氏の企画に賛同をし、快く承諾をした。

「自分がコーチをはじめた頃に、日本のトップチームの現場でコーチングをされている方々に話しを聞く機会がありました。コーチングの重要な事の多くは本やビデオだけではなく、直接話しを聞くからこそ伝わるものやその方が大切にされていることを教わりました。自分の経験が、若いコーチたちへのためになる部分があるなら、話し伝えることが先輩コーチ陣への恩返しでもあり、自分の役割でもあると思い、今回講師を引き受けることにしました。」

「実際にコーチングをする中で、今年はACからHCと役割が変わったので、それぞれの役割の時に意識していたことや気をつけていたこと、大切にして取り組んでいたことなどを話しました。その立場にならないと見えないものが多いこと。また、テクニカルの経験を生かし、コーチ目線でゲームを見て、選手に落とし込む流れも話させてもらいました。」

参加者同士、お互いの自己紹介を終え、尺野氏の講演がスタートする。見た目にも温厚な人柄を持ち、優しい口調で講義はスタートしたが、その内容には熱量と共に、厳しさが同居した内容であった。下記、講義の一部分を紹介。

プロフェッショナルの語源とは?

冒頭、指導者ライセンス講習で学び、参加者に伝えたい内容という紹介で、プロフェッショナルの語源について説明。

プロフェッショナルの語源は「告白、宣言」の過去分詞であるラテン語の professus に由来する。神に対して告白、宣誓した人や神の託宣を受けた人を指すようだ。天賦の才能と環境、チャンスを神から与えられた上で与えられる役職であり、その能力を開花させ、役割を生涯にわたってまっとうすることを公に告白し、認められた者であるという、尺野氏は、公に告白し、という部分を特に強調した。

プロという単語の語源に改めて立ち返り、プロコーチを目指す若手コーチにも、緊張感に近い空気が立ち込め、メモを取る方々も多かった。

その後、コーチの役割の説明へと移る。尺野氏は、今シーズン、横浜ビー・コルセアーズでACとしてシーズンをスタートし、HC代行を経て、シーズン終盤戦にHCに就任。B.1残留を決めて最終戦までの大きな流れや、ACやHCの役割の違いと共にシーズンを振り返り、自身の経験を若手コーチへと伝える。

『ヨーロッパ・スポーツ・コーチング・フレームワーク』より、「コーチの主要な役割」

HCの役割では、GSL編集部の佐良土氏のSNSでも紹介されていた『ヨーロッパ・スポーツ・コーチング・フレームワーク』より、「コーチの主要な役割」を紹介。(1)構想と戦略を立てる(2)環境を整える(3)様々な関係性を構築する(4)練習を実施し、試合の準備を整え、試合に臨む(5)現場で起こっていることを察知し、それに対処する(6)振り返りと学び。上記の6項目は、まさにコーチに求められる資質であり、バスケットボールの競技知識、戦術知識だけでは十分ではないという。コーチには総合的な能力や、様々な関係機関と良好な関係を構築するコミュニケーション能力や人間性が求められる。

イエスマンではいけない。しかし、忠誠心が必要

ACの役割では、ジョン・ウッデン氏の「UCLAバスケットボール」より、「忠誠心」「勤勉さと熱意、向上心、野心」「知識、模範」「身だしなみの良さと礼儀正しさ、時間厳守」「楽天的性格、陽気な人柄」を紹介したうえで、ジョン・ウッデン氏の「UCLAバスケットボール」と、尺野氏が考えるACに必要な資質を紹介。ここで強調されたのは忠誠心だ。

尺野氏も、あくまでも自分の考えであるという前提の上で、ACとして役職を得るコーチ陣の姿勢を説明。まず、「HCのイエスマンになるのではなく、自分の意見を持つ事」を重要な姿勢として説明し、その上で「自分の意見を持った上で、最終的に自分の意見が採用されなくでも、選手の前で話すときは、HCの意見をチーム(自分)の意見として選手に伝える」事が大切な仕事であると言及。

ここで、例えば、選手と個別にコミュニケーションを取る際などに「俺も本当はHCの意見には反対だし、選手の意見に賛成なんだけど、HCが選んだことだからさ」等とコミュニケーションを取る事は、ACの仕事ではないのではないか、という。

自分の意見や考えを伝えつつも、最終的な決断はHCが実施するもの。ACは、HCと選手の意思疎通を図る事が重要な仕事であると語った。前述の通り、参加者の中には選手と同世代の学生コーチとして、チームのACとして活動するコーチも多かった。選手の意見に寄り添い、理解をしているように見せて、HCの前と、選手の前とで2枚舌を使うのは、いずれ、チームのコミュニケーションミスや、意思疎通に影響を与えてしまうのかもしれない。

例えば、本勉強会の参加者や読者の方が、ACとして役割を得ているとする。年齢や、役職に関わらず、HCと意見が相違した際は、自分の意見や根拠を最大限に主張する場はHCとのミーティングの時間で有り、選手との個別のコミュニケーションの場ではない。HCと意見だを最大限に戦わせた後は、HCの決断を最大限に尊重する姿勢が求められるのかもしれない。

その後、詳細は割愛するが、HC代行を経て、HCへと就任をしてリーグ終盤戦を戦う中での尺野氏自身の経験や実感が紹介された。試合、練習、遠征を繰り返す、日々のサイクルや、AC時代との時間配分の違いが紹介された。選択と集中ではないが、役割が違えば、限られた時間的な資源の中で注力する項目も異なり、具体的な時間配分が語られた。HCとして重要なのは、情報を収集し、整理したうえで、やはり、「決断」をする事であると語られた。

対戦チームのセットオフェンスは勿論把握している。しかし、これは「分析」ではない

一例として、対戦チームのプレイブック(フォーメーションや基本的なオフェンスシステム)を紹介。「当然、対戦チームの基本的なオフェンスシステムなどを事前にスカウティングはする」と語りつつも「でも、HCになってからは分析はしていません。出来ませんでした」と語る。分析とは「いつ、どういう時に、どれぐらいの頻度で、どのフォーメーションが選択され、それがどれぐらいの確率で成功するか」までを明らかにするのが分析であり、HCとしての役職を得ている際は、そこの分析に必要な時間を別の領域へと割いていたと説明がされた。ここでは、スカウティングを担当しているコーチも、分析の奥深さの一端を垣間見たのではないだろうか。

筑波大学男子バスケ部で学生コーチ(主にスカウティングなどを担当する)山鹿誠弘さん

最後に、参加したコーチのコメントを掲載しておきたい。2016年シーズンより筑波大学男子バスケ部で学生コーチを務め、主にスカウティングなどを担当する山鹿誠弘さん。

「BリーグのチームのHCである尺野さんのお話を聞けるというとても素晴らしい機会であり、また尺野さんが女子日本代表のテクニカルスタッフを務めていた実績があり、僕がいまチームでしている分析をさらにレベルの高いものにできるキッカケを作れるのではないか」という事を参加動機として語る。

「ACとしてのチームへの関わり方と、HCとしてのチームへの関わり方を尺野さんの経験を通して話してくださり、今まで意識していなかった選手への接し方という部分で学ぶことがありました。また、特に印象に残った言葉は【情報を武器にする第一歩は、人間関係を大事にする】という言葉です。どんなに分析ができても、信頼がなければチームのプラスにはならない。この言葉を常に心に留めてこれからの僕の仕事にも生かしていきたいと思います」と、今後の活動や成長に繋がる手応えを得たようだ。

自チームのみならず、近隣地域の競技環境整備に尽力。久喜高校の早川拓コーチ

埼玉県立久喜高校で女子バスケットボール部の早川拓氏は、尺野コーチが高校の女子バスケ部を指導されている頃から交流がある。「高校生を指導している時に知り合った尺野さんが、今はプロコーチとして活躍している。指導対象が変わり、どうバスケ感が変わったかに興味があったから!」と語り「感想としては、考え方を学んだことよりもバスケの見る視点を学べました。今後は公式戦の時にも他のコーチに何を見ているか聞いてみようと思いました」と印象を述べた。同コーチは、自チームの競技力向上のみならず、近隣地域の中学生などにも積極的にバスケットボールを学び、競技をさらに楽しめる環境創りにも尽力されていなど精力的な活動を長年に渡って続けている(参考:久喜高校バスケットボール部活動日誌)。

公認C級ライセンスを取得しており、埼玉県越谷市内の中学校外部指導員として指導をし、ご自身のジュニアクラブチームKoshigaya East Warriorsの代表兼コーチを務める伊藤翼氏はコーチ同士の役割分担が参考になったという。「尺野さんが語った各コーチ(HC、AC、テクニカルなど)の役割分担が参考になりました。外部指導先のチームでも、顧問の先生や、他スタッフと自分との役割分担などについて、コーチ同士でのミーティングをし、それぞれの特徴を生かせるようなスタッフ同士のチームワークを再構築に着手しました」と語る。

また、伊藤氏はGSLでの中継窓口を経由し尺野氏のクリニックも越谷市で実施。小学生高学年から中学高世代の選手、近隣の指導者などが集まった。伊藤コーチは、バスケットボールのコーチングを始める前は格闘技に情熱を注いでいたという。総合格闘技K-1の最終トライアウトまで進出した腕前を持つ。「当時、空手の日本チャンピオンの実績を持つ相手と戦いました。その世界の一流の凄さに触れる事で多くの事を学びました。それは、自分自身の手応えだったり、対戦相手の凄さだったりと様々なのですが、一流を体感する事で発見できる事や、見えてくる世界があると思うようになった」と語る。その為、これまでにも国内のプロ選手、プロコーチを招いたクリニックの主催、自チームの選手を積極的に参加させている。

GSLは、コーチにとって有益と思われる情報を発信するWEBメディアである。過去にも何度かコーチ同士の集いは実施してきたが、今回、磯野コーチとのコラボレーションにより、学生コーチから、各地域で熱心に指導されているコーチまで、年齢や地域を越えた幅広いコミニティ創出のサポートが出来た事は非情に意義深い事でもあるように感じた。

受付や、細かな段取り、同世代のコーチへの案内など細かな部分の一手に引き受けて、サポート側に回った磯野氏、情熱に応じる形で最大限の準備で挑んで下さった尺野氏の熱意により、120分間の勉強会は非常に濃密な内容となった。退室後も建物周辺では名刺交換や意見交換をする姿が目立った。志を同じくするコーチ達が語り合う場面が印象的であった。

追記

尺野コーチは、2017-18年シーズン、横浜ビー・コルセアーズでアソシエイトコーチとしての契約が発表された。また、分析スタッフインターンの募集も球団よりリリースされた。

参考

講義の中で紹介された『ヨーロッパ・スポーツ・コーチング・フレームワーク』は下記リンクより。

European Sport Coaching Framework

開催協力

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。

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