「『風姿花伝』に学べ!」~其ノ参「珍しきが花」編~ 塚本鋼平氏の投稿より③

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塚本鋼平氏による「『風姿花伝』に学べ!」シリーズの第3弾。同氏は、B.LEAGUE強化育成部で活躍する人物で、同リーグのミッションの1つである「世界に通用するチーム・選手の輩出」の実現の為に邁進されている熱血漢。GSLでも、過去に様々な取り組みを追いかけている。本投稿は、あくまでも個人のSNSに掲載された内容であるが、能について考えたのは「バスケットボールというアメリカ発祥のスポーツをしていながらも、私たちが子どもたちに指導するときに発する言葉、一挙手一投足などは、やはり日本文化を土台として行われているのではないだろうか。そうすれば日本文化において指導や練習、所作の習得はどのように行われてきたのだろうか。日本文化を学び直すことで、もう一度日本の指導について考えることができるのではないか。このようなことから古典を引っ張り出して学び直しております」と語るように、今後の塚本氏の活動や、プロジェクト設計とも無関係ではないだろう。同氏の日頃の思考や、幅広い見識、深い世界観が窺い知れる。

第1弾は、世代別の育成方針について、第2弾は「初心忘るべからず」として、能の世界で大切にされている「初心」についての哲学を紹介され、「是非初心不可忘(若い頃の未熟な芸を忘れなければ、そこから向上した今の芸も正しく認識できる(若年の壁)」「時々初心不可忘…年盛りから老後に至るまでの各段階で年相応の芸を学んだ、それぞれの初めての境地を覚えていることにより、幅広い芸が可能になる(中年の壁)」「老後初心不可忘…老後にさえふさわしい芸を学ぶ初心があり、それを忘れずに限りない芸の向上を目指すこと(老年の壁)」という聞きなれないが、説得力のある考え方も示された。

今回は、能の世界の中でも非常に難しい概念である「花」について。本稿筆者は、バスケットボールにおいて大切でるが、目に見えず、なかなか定量的に測れない、抽象的な概念との強い関連性を感じた。チームやコーチにとっては、「流れ」や「勢い」等にも置き換えられ、選手にとっては「役割」・「自分自身のエゴと献身のバランス」等を着想。「花」という一つの漢字の先に、深淵なる世界の存在を感じた。

塚本鋼平氏の熱い解説と共に下記の記事をご確認いただき、何かの発見に繋がれば幸い。


※写真は2015年6月に東京体育館の会議室で実施した塚本鋼平氏の講演会後の懇親会にて。塚本氏が和歌山トライアンズのACを務めた縁もあり、和歌山県出身の後藤祥太さん(当時は東京学芸大学に在学中)が受付・運営を手伝ってくれた。その後、B.DREAM PROJECTでトライアウト選手を指揮するHCなども経験。B3静岡のHCを経て、現在は、B’BALL LAB JAPAN等の各種プロジェクトでも活躍。2020年末には、Ryan Pannone氏のオンラインセミナーも運営。企画、運営、通訳等と大車輪の活躍であった。後藤氏自身、様々な機会に飛び込み、技能を伸ばし、心を磨き、自分自身の見解を世界を拡げていくアグレッシブなメンタリティの持ち主である。上記の活動はご本人の賜物であるが、塚本氏の周りでは様々な縁や機会が交錯している事が分かる一枚である。

1、「『風姿花伝』に学べ!」~其ノ参「珍しきが花」編~

 

 

約620年前に世阿弥は『風姿花伝』の他に、能の書き方の秘訣を解き明かした『能作書』と40代〜60代までの熟慮の成果を集約した『花鏡』があります。これらの本から能楽論に触れながらバスケットボールの、特に指導論を考えてみましょう。

『風姿花伝』では、そもそもその道を極めるために、好色、博打、大酒の3つを三重戒として戒めています。そして、稽古にも舞台にも自分を律した厳しい態度で一心に打ち込み、決して驕り高ぶって自己流に固執してはいけないとしています。こういった姿勢に関しては何の道を極めようとしても同じですね。

“花は心 種は技なるべし”

世阿弥は能の魅力や感動、最も大切なものを「花」に例えています。時分の花、幽玄の花などは、若さで咲かせることができる花だからこそ、時が経てば自然に散ってしまいます。その道で天下に名声を博するためには散ることのない花を咲かせられなければなりません。しかしながら、そもそも花というもの知るためには、種を知らなければなりません。ひまわりの大きな花を咲かせたいのに、どの種を植えていいのかわからなければ、ひまわりを咲かせることはできません。種から草花が芽生えて花が咲きます。その種とは「技」だと世阿弥は言っています。花は心の工夫で咲かせるもので、種はその工夫を可能にする稽古のことなのです。稽古を通じて徹底的に努力すれば、その努力の先に、花を失うことなく演技をしていく境地を理解することができるようになります。この姿勢こそが花を体得するための種となるのです。バスケットボールでも「練習は裏切らない」と選手に伝えますが「花と種」の関係性を理解してこそ、伝えられる言葉なのではないでしょうか。

“花は人の心に珍しきが花なり”

花は見ている人にとって新鮮に感じられるものだけが花なのです。どうしても1度成功を収めてしまうと、その成功した時のことを忘れられずに同じことを続けてしまいがちです。しかしそれでは、成長も発展もありません。成功した経験にとらわれずに、いつも変化を起こし続けることは難しい反面、好奇心を刺激し、新たな楽しさを与えてくれます。そしてそこから見たこともない花が咲くのではないでしょうか。

“住する所なきを先づ花と知るべし”

決してひとつのところに安住すべきではなく、変化し続けることが花となり、そこに感動が生まれるのです。2013年7月29日にNHKで放送された「プロフェッショナル仕事の流儀」。うなぎ職人の金本兼次郎さんは「伝統は変化を積み重ねた先に生まれる」と話しています。これはシュンペーターのいう新結合、ドラッカーで言えば、一から新しいものを創造するのではなく、今あるもので新しい切り口や捉え方を創造することが革新であるというイノベーションの考え方と同じです。これで成功したからとか、伝統はこれだからといって、そこに安住していると何も進歩しません。どんなに今が良くても、それをいかに壊して、超えていくかということを考えなければならないのです。「珍しきが花」において世阿弥は、止まることなく創造し続けていくことこそ花だと伝えてくれています。だからこそ能が600年以上も受け継がれてきたと言えるでしょう。

“ただ、時に用ゆるをもて花と知るべし”

その花もその時、その状況で求められているものこそが花であると理解しましょう。相手が(観客が)どんなものを期待しているかを観察して、理解して、それにふさわしいものを見せる。人生においてその時々に咲いた花を知っているからこそ、こういったとき、それにふさわしいものができるのではないでしょうか。

“花と 面白きと 珍しきと これ三つは同じ心なり”

能の舞台には花がなくてはなりません。そして面白く、珍しくなくてはならないのです。すなわちこの3つ同じです。常に新しいもの、珍しいものを作り出していくことが大切です。たとえ同じことをするとしても、今日は何かが違うと思わせなければなりません。その何かを考えることが難しくもあり、楽しさなのですね。

“ただ返々初心を忘るべからず”

ただ念を押して大切なことは、初心を決して忘れてはなりません。この「初心」に関しては昨日に投稿させてもらった通り、3つの初心がありました。人生のその時々にふさわしい芸を身につけるために経験した苦労や未熟さを恥じ入る心、その時の壁こそが初心です。

【閑話休題③】私がバスケットボールを続けて来た中で人生を変えるほどの衝撃を受けたいくつか試合があります。☆1998年 男子第50回全日本学生バスケットボール選手権大会 5-8位決定戦 愛知学泉大学vs天理大学なんと!この試合は延長戦で32-36というすごいスコアで天理大学が勝利しました。当時、大学3年生の私が、この試合を内海先生に電話で報告すると「後半は?」と聞かれたくらいです。ハーフコート内にシュートを打つスペースってこれだけないのか⁈と震えていました。愛知学泉大学のヘッドコーチは小野秀二先生、アシスタントコーチに山本明先生、浜口炎さん、天理大学のヘッドコーチに二杉茂先生、ガードに大口真洋選手。今でもこの試合映像を見るたびに緊張してしまうくらいの素晴らしい試合でした。

次回は、「『風姿花伝』に学べ!」~其ノ肆「離見の見」編~をお送りいたします。何とぞよろしくお願いいたします。

衝撃的な試合の2日後に小野秀二先生と撮らせていただいた写真恩師の内海先生と小野先生のプレーを生で見ることができなかったのは残念ですが、指導者としておふたりの遠い遠〜い背中を追いかけています。いつまでも尊敬する憧れの先生です。

参考文献:世阿弥(2009)『風姿花伝・三道』(角川ソフィア文庫)竹本幹夫訳 角川学芸出版世阿弥(2012)『風姿花伝・花鏡』 (タチバナ教養文庫)小西甚一訳 たちばな出版土屋惠一郎(2015)『世阿弥 風姿花伝』(NHK「100分de名著」ブックス) NHK出版林望(2018)『すらすら読める風姿花伝』(講談社+α文庫)講談社世阿弥(2019)『風姿花伝 創造とイノベーション』 (今こそ名著 コンテンポラリー・クラシックス) 道添進編訳 日本能率協会マネジメントセンタ

 

2、筆者の学び

上記投稿を通じ、本稿筆者が、塚本氏やB.LEAGUEのプロジェクト等、そのほかに触れたコンテンツ等より、着想した内容を記載。

 

①イノベーションの姿勢について

“住する所なきを先づ花と知るべし” 

伝統はこれだからといって、そこに安住していると何も進歩しません。どんなに今が良くても、それをいかに壊して、超えていくかということを考えなければならないのです。「珍しきが花」において世阿弥は、止まることなく創造し続けていくことこそ花”

塚本氏は、イノベーションには心構えの重要性を強調する。第10回 B.LEAGUE COACHING SESSHIONに登壇された豪NBLのマイク・ケリー氏は、オーストラリアの育成環境等を題材に講義をした。その際、これまでの取り組みや、今後の展望について「男女ともに、五輪やワールドカップでの金メダル、優勝トロフィーの獲得を目指している」・「現在は、女子バスケ界が一歩先を進んでいる。勿論、普及や、生涯スポーツとしてのバスケットボールの環境整備にも尽力している」と語る。その上で、あらゆる地域、年代、競技レベルを問わず、有資格者のコーチを最大限に配置できている事や、AISを活用したエリート選手の長期的な視野での育成環境が存在する事をオーストラリアのバスケット界の特徴であると説明した。コーチの育成や、コーチコミニティの交流活性化にも積極的に取り組んでおり、今後、さらに環境は整備されていく計画であるという。そして、その事を誇りに思うと述べた。

オーストラリアは、広大な国土を持つが、人口は少ない。国際大会等でライバルにになるであろう米国と比較すると、バスケの歴史も浅い。また、アメリカほどの苛烈な競争環境は存在しない。ラグビーボールや、ラグビーユニオンの存在もあって、身体能力的に優れた選手がバスケットボールを選ばない可能性もある。

欧州の強豪国と比較した際には、隣国との競争環境にも差がある。クラブチーム、ナショナルチームの戦いでも、長年の歴史の積み重ねにより、欧州バスケットボールコミニティには多種多様なリーグ戦が存在。若い世代から、それらを経験する事で、コーチ、選手ともに素晴らしいスキル、フィジカル、判断力を備えている。隣国にニュージーランドはバスケットボールでも強豪だが、どうしても国際競争レベルは下がる。

しかし、そのような外的要因を言い訳にせず、自分たちが掲げた目標に向かって、持ちうるリソースを最大限に活用し、体制を整えている。

※17歳の選手が豪NBLの舞台でプレー。米国へ留学する有望選手以外にも、様々な経路でのトップ選手育成が進んでいる。

②自分を高め続ける心構えについて

塚本氏は『稽古にも舞台にも自分を律した厳しい態度で一心に打ち込み、決して驕り高ぶって自己流に固執してはいけないとしています』と紹介する。マイケル・ジョーダンや、故コービー・ブライアント氏のトレーナーを務めたティム・グローバー氏がコービー氏について語ったインタビュー動画での発言を着想した。(14:53秒より)

該当箇所のみ簡易的に記載する。

◇KOBEとの出会い

・KOBEの膝は20代半ばでボロボロだった。マイケル・ジョーダンを介して、私に連絡をしてきた。

・原因の一つは練習のやり過ぎだった。年齢の割に、もう30代後半の様な膝の状態であった。我々は彼と話し合いの上でアプローチ方法を決めた。

マイケルは練習を制御しろと言えば練習を制御した。KOBEは、その場では練習を止めるが、直ぐに再開してしまう。練習を重ねて成長してきた体験があるから、練習をし続ける習慣から抜けられなかった。

・彼の目標は優勝リングを7個獲得したいと考えていた。それはマイケルが6個のリングを持っているからだ。コービーとは、長い話し合いが必要だった。

 

◇「ここまでは到達できた。さらに高みに進むには何が必要?」コービー・ブライアントの持つ成長への飽くなき探求心

・ドラフトで指名されて、NBAのコミッショナーと握手をする。多くの選手のキャリアは、そこで大半が終わってしまう。私は、そう考えている。「高校、大学と頑張ってプロになった。そう思って、一息ついてしまう。選手のキャリアなんて短いものだ。始まりではなく、終わりなんだ」KOBEは、ドラフト指名され、ほんの少しだけ会見をし、直ぐに体育館に練習しに向かった。パーティー等に出向かなかったんだ。

・満足してしまうと歩みが止まる。あっという間に終焉は訪れる。「ここまでは到達できた。さらに高みに進むには何が必要?」常に、偉大な選手になるには、常にそのような思考が必要だ。コービーは、17歳にして、そういう考え方を持っていた。

 

 

 

この記事の著者

Gold Standard Lab
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「スポーツコーチングを普及啓蒙し、日本国内におけるコーチングの『ゴールドスタンダード』を構築する」ことが使命。選手や指導者の方に役立つ情報を発信します。