「Enthusiasm、Industriousness、そしてCompetitive Greatness!!」塚本鋼平氏の講演レポート

「Enthusiasm、Industriousness、そしてCompetitive Greatness!!」塚本鋼平氏の講演レポート

※2015年6月に行われた塚本鋼平氏の講演会(開催協力:UPSET)の簡易レポートです。

GSL編集部が開催協力として関与しているEuro Basketball Academy Monthly Coaching Clinicでは、講師を務めるトーステン・ロイブル氏は「平日の夜に、こんなにも大勢のコーチの方が集まってくれて本当に嬉しい。別の国のコーチも情熱のある方は多いが、日本の皆様は、その中でも特に凄い。情熱に溢れ、勤勉なコーチが数多くいる日本のバスケットボールは明るい」と口癖のように語っている。同氏の言葉通り、日本の各地域、各カテゴリーで、バスケットボールの明るい未来を願って奮闘している方々が数多く存在する(GSL編集部としても、熱意のある方々にとって有益な情報を発信したいと強く思っている)。

現在、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)運営本部の強化育成部で働き、B.DREAMプロジェクトなどでも運営担当として奮闘されている塚本鋼平氏は、情熱と勤勉さを持つ日本のコーチの中でも、人一倍に熱意で卓越しているコーチの1人と言っても差し支えないだろう。プロコーチへと活躍の場を移す前より、業務、部活動での指導、「バスケの勉強会」などを始め、様々な活動を通じてバスケットボール振興に取り組まれていた。

ここでは、2015年6月末にGSL主催で開催し、株式会社アップセット内に掲載していた『塚本鋼平氏によるバスケットボールの勉強会』レポートに加筆・訂正を加え再掲載をする。バスケット情報サイト「ゴールドスタンダード・ラボ」の内でも「激しく燃えるような熱い情熱(=Enthusiasm)の伝道師」と紹介している

平日の夜にも関わらず、満員御礼の35人の参加者が集まった本イベントについて、90分の講義の中で塚本氏が語った全ての内容を語るのは難しいが、印象的なエピソードを中心に、当日の会に参加できなかった方へ「激しく燃えるような熱い情熱」が溢れ出る塚本氏の講演内容の一部をご紹介したい。


2015年6月末
バスケットボールの勉強会
世界のコーチから学ぶ、高さへの挑戦
This is Basketball

講師:塚本鋼平

吉井四郎


序章~バスケの勉強会とは~

塚本氏は、2012年より出身地である秋田県能代市で「バスケの勉強会」を開催している。日本のバスケットボール界に燦然と輝く、高校での優勝回数58回の秋田県立能代工業高等学校バスケットボール部を中心に非常にバスケットボールが盛んな町である。その能代市を「バスケットボールの知」で満たし、能代工業の選手やOBだけではなく、それ以外の競技者や愛好家など全ての人が、バスケットボールの知に触れながらスポーツの歴史やスポーツマンシップ、深い人生哲学、コーチ哲学などを学び、豊かな人生を送るためヒントにしてほしいという発想である。

塚本氏は、これをPEACHと呼び、NBL和歌山トライアンズのACに就任するまで、過去10数回に渡って一人500円の費用を払えば参加できる勉強会を開催してきた(末尾に参照リンクを掲載)。

バスケットボールの競技経験のない能代の住民の方も参加し、ジョン・ウッデンの哲学に触れて感動し、そこからバスケットボールに関心を持ったケースもあるようだ。

塚本氏は「仕事帰りや飲み会帰りにフラ~っと立ち寄って、バスケの勉強が出来る場にしたい」と構想を持ち、告知から当日の運営まで、誰でも参加しやすい空間作りに取り組んできた。その成果もあったのか、ある時、飲み会終了後、泥酔した参加者が、代行の運転手が到着するまでの待ち時間に参加。講義スタート後、いびきをかいて寝だすという強者もいたそうである。

積極的に若手コーチを招聘。講演会実施

また、日本各地でバスケットボールの普及・発展に強い情熱をもって取り組んでいる若手の登壇機会も積極的に創出した。アメリカ独立リーグABAに参戦するGYMRATSのマネージャーとして同行した経験を持つ永嶋氏、宮城県気仙沼市でバスケットボールを通じた地域作りに全力投球している袖野氏などが登壇した。

熱意のある若者が輝ける場所、自分の考えを発表する場所を創出することで、登壇者には新しい刺激を、聴衆には、若い世代の考えを知る機会を作る事が塚本氏の狙い。

塚本氏自身でも、日本や米国、欧州の優れたコーチング哲学を紹介するわけではなく、「バスケットボールの起源、バックボードが生まれた経緯の紹介」、「1964年東京五輪における日本代表の戦績」など、バスケットボールの歴史について知識を共有する機会も設けてきたという。多角的な方法でバスケットボールの魅力を伝えようと奮闘されている日々の出来事が紹介された。

成功のピラミッドを理解する上で、重要な3つのキーワード「Industriousness」「Enthusiasm」「Competitive Greatness」

続いて、日米の著名なコーチの代表的な哲学やエピソード、名言の紹介へと移行する。塚本氏が熱意をもって紹介したのはNCAAの伝説的なコーチであるジョン・ウッデン氏。会場にも提示されている成功のピラミッドの提唱者としても有名である。

その中で、成功のピラミッドの最下段、土台の両端にある「勤勉」と「情熱」について、聞き慣れない人も多いであろう英単語と共に説明が始まった。

①Industriousness

1つは、勤勉を意味するIndustriousness。単なるHard Workではなく、絶え間のない努力が淡々と積み上げられている状況であることが説明されます。よりしっかりとHard Workを行い、謙虚に礼儀正しく、そしてまたHard Workをし、さらにHard Workを積み重ねるような状態を指すと強調されています、と塚本氏も熱を込めて、「勤勉さ」の強度の強さを語る。

②Enthusiasm

続いて情熱を意味するEnthusiasm。これは、冒頭の「燃えるような熱い情熱」に近い言葉となる。情熱を意味するPassionよりも、さらに強いエネルギーレベルの言葉として紹介された。実際、この言葉の語源は、ギリシャ語で「神に憑りつかれた状態」を指すようだ。神に憑りつかれたかと思われるぐらい、情熱を持って物事に向き合う姿勢の重要性がウッデンによって説明されている事が説明された。

③Competitive Greatness

続いては競争心という言葉で訳されているCompetitive Greatness。競争心とは、書籍の翻訳者らによる日本語訳だが、単なる競争心ではなく、「燃えるような熱い情熱」で「鍛錬に鍛錬を重ねた先にある」、心身ともに非常に高いレベルにある競争に対して真摯に向き合い続ける、崇高な競争心を指すのかもしれない。

塚本氏自身、この言葉に相応しい訳語を今でも模索しているようである。ただ単に、目の前の相手、チームメイトとのプレイングタイムの争いに打ち克つための競争心という単純な意味合いではないようだ。塚本氏自身、成功のピラミッドにおける「競争心」の説明については探求を続けているテーマだそうだ。是非、次回以降の勉強会などで質問してみてほしい。

上記3つの単語について、ジョン・ウッデン氏のサイトでは、過去の出版本での説明文などが引用されている。

Industriousness

  • There is no substitute for work. Worthwhile results come from hard work and careful planning.
  • In plain and simple English this means hard work. Very hard work. There is no substitute for very hard work when it comes to success.I have not known, heard of, or read about any individual anywhere who achieved real success without working extremely hard. In fact, the great successes we all know about are individuals who almost always have greatly outworked their competition.
    Grantland Rice, a sportswriter and poet, understood this fundamental characteristic of achievement. He described it in his poem “How To Be a Champion.”
    “You wonder how they do it, You look to see the knack. You watch the foot in action, Or the shoulder of the back. But when you spot the answer, Where the higher glamours lurk, You’ll find in moving higher, Up the laurel-covered spire, That most of it is practice, And the rest of it is work.”
    (Excerpt from Wooden: A Lifetime of Observations and Reflections)

Enthusiasm

  • Brushes off upon those with whom you come in contact. You must truly enjoy what you are doing.
  • The two cornerstones of my Pyramid of Success, Industriousness and Enthusiasm, provide strength individually but much more strength when combined as one.
    I described Industriousness: very hard work. But hard work is not enough. It must be ignited, lit afire by something that will raise it to the extraordinary level required for success. That ‘something’ is your Enthusiasm which infuses hard work with inspired power that all great competitors have.
    Your heart must be in your work. Your energy and Enthusiasm stimulates those you work with. It is the ingredient that transforms Industriousness into something of great magnitude – the engine that powers all blocks of the Pyramid. It is why I chose Industriousness and Enthusiasm as the cornerstones of my Pyramid of Success. It is where everything begins.
    (Excerpt from Wooden: A Lifetime of Observations and Reflections)

Competitive Greatness

  • Be at your best when your best is needed. Enjoyment of a difficult challenge.
  • Competitive Greatness is having a real love for the hard battle knowing it offers the opportunity to be at your best when your best is required.
    The great competitors I have played for and against, taught and admired all shared a joy in the struggle itself – the journey, the contest and competition. The tougher the battle the better.
    A leader must convey this to those you lead: a tough fight can bring forth Competitive Greatness. The hard battle inspires and motivates a great competitor to dig deep inside. That’s why I relish the challenge a worthy competitor presents. You are tested. When properly prepared you will rise to your highest level and achieve Competitive Greatness.
    (Excerpt from Wooden on Leadership)

ウッデンのピラミッド

ジョン・ウッデン氏の提唱する成功の定義

また、ジョン・ウッデン氏の名言としても有名な「成功」についての定義も紹介された。

「成功とは、なりうる最高の自分になるためにベストを尽くしたと自覚し満足することによって得られる心の平和なのである――ジョン・ウッデン」

Success is peace of mind which is a direct result of self-satisfaction in knowing you did your best to become the best you are capable of becoming.
ーーJohn Wooden

ピート・キャリル氏、マイク・シャセフスキー氏、ボブ・ナイト氏のエピソード

続いて、学業的にも非常に優れた大学として有名なプリンストン大学のHCを務め、素晴らしい戦績を残されたピート・キャリル氏、NBAで屈指の実績を持つフィル・ジャクソン氏、アメリカ代表HCとデューク大学で優勝を成し遂げたコーチKことマイク・シャセフスキーについてふれた。

そして「『勝つ意欲』はたいして重要ではない。そんなものは、誰でも持ちあわせている。重要なのは、『勝つために準備する意欲である。』」という名言とともに、コーチKの恩師でもあり、インディアナ大学のボブ・ナイト氏、そして吉井四朗氏などのコーチ哲学が紹介され、さらに塚本氏の講義は続く。

当日に紹介された各コーチの名言など(講義の中では、その背景などから詳細まで説明がなされたが、ここでは名言の紹介のみとする)

  • 「準備に失敗するという事は、失敗への準備である。ジョン・ウッデン」
  • 「我々が勝つことができるかもしれないただ一つの方法は、最善の努力を継続する事以外にはないのである。吉井四郎さん」

経営学からのアプローチ

チェスター・バーナード

続いて、塚本氏の専門分野でもある経営学の観点からのチームビルディングやコーチングへの話へと発展していく。18世紀半ばからヨーロッパを中心に起こった産業革命からの現在までの時間軸の中で、経営者がどのように組織構築へと取り組んできたのか、経営戦略とはどのようにしてうまれたのかを時系列と共に紹介。まずは、徹底的な分業制を組織にもたらし、大量生産を可能としたフォード式の生産方式の利点と、その限界について説明があり、それを打破する為に心の分野にも着目をしたチェスター・バーナード氏(1886-1961)より下記の言葉を紹介。

自らの組織に「共通の目的」を与えるのは経営者の役割である。

バスケットボールの勉強会で経営戦略の歴史を語る意図は、科学的に立証された理論のバスケットボールコーチングへ応用する為、組織の在り方や、チームビルディングについて研究、立証された理論を伝え、参加したコーチに活用してもらう為である。

経営学も心の領域へ。バスケットボールへの応用。

徹底した分業制の確立と、大量生産によって人類史に残る業績を上げたフォード氏の実績を紹介しつつも、その限界を語り、心の領域に着目して理論を構築したチェスター・バーナード氏の考えをバスケットボールコーチングに直ぐに応用することは容易くはないが、バスケットボールと経営学の専門家である塚本氏ならではの切り口で、現場で指導をするコーチのヒントになるようなエピソードが数多く語られた。

例えば、当ラボの名前にもなっている『ゴールドスタンダード』より、アメリカ男子代表チームを率いた際のコーチKの言葉より、ルールではなくスタンダードを信頼する」という言葉。詳しくは割愛するが(→参考記事 「【コーチKの言葉から読み解く】ハヤブサジャパン強化の鍵」※名称は当時のまま)、トップダウンで決められた規則よりも、ボトムアップで、その必要性を選手自らが認識し、チーム全体で認められたスタンダードのほうが、より生きた形でチームの規律を産み出すという考えである。

加藤廣志氏「激しく燃えるような熱い情熱」

加藤廣志

また、ここで塚本氏も尊敬する日米の2名のコーチが再び登場する。1人は、前述のジョン・ウッデン。もう1人が能代工業高校を全国的な超強豪校へと押し上げた加藤廣志氏である。よい組織を構築するための、より根源的なアクションとして、コーチの情熱の必要性が語られた。

ジョン・ウッデンの言葉「行っていることを心から愛し、心を込めて、心から楽しむ。情熱は人に伝染する。情熱が無ければ勤勉になれない」を紹介したのち、加藤廣志先生は「指導者は燃えるような情熱を持たなければならない」と語る。

激しく燃えるような熱い情熱とは、具体的には、加藤廣志氏の表現を借りれば「(翌朝、選手と一緒に練習をしたい、と寝床でワクワクしてしまい)夜明けが待ち遠しいぐらいの情熱」であり「睡眠時間を削ってでも取り組んでいたいぐらいの情熱」であり、そうであるからこそ「選手の心に火をつけることが出来る」という。

また、ジョン・ウッデン氏と加藤廣志氏の誕生に伴う様々なエピソード。例えば、共に男兄弟の末っ子であった事、実家で牛を飼っていたこと、兄弟の中で、唯一、ウッデンと加藤氏だけが牛の手なづける事に成功し、どちらも、その秘訣について「優しさ」だと語っていたエピソードを、ともに馬小屋で生まれ、数々のエピソードで似通った部分のある、聖徳太子とイエス・キリストの比較になぞらえた小話なども紹介された。

他にも、各コーチのエピソードや、発言から読み取れるコーチ哲学の紹介、ミニバスケットボールについての話題、NBL和歌山トライアンズで過ごしたシーズンから、プロ選手同士のハイレベルな駆け引き、そして、最後に、逆境に立たされた際に重要な心構えとして、リック・ピティーノ氏(※編集部注 2015年6月の講演の為、ピティーノ氏の名言などは変更せずに紹介)の発言が紹介され、講演会が締めくくられた。

人生の逆境に対する選択肢は一つ。
「切り抜けて強くなる」
そして前向きであること。
これが正しい方法ではなく
これが唯一の方法。
リック・ピティーノ氏

2016年現在も、塚本氏は各地でバスケットボールの勉強会を開催している。業務の関係もあるので、どこまで展開されるかは定かではないが、ぜひ、本人のSNSアカウント(@takerunami)などで勉強会の開催予定などご確認を!


講演会で紹介された参考書籍の一部紹介

関連記事

塚本鋼平インタビューまとめ

この記事の著者

片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。