『良きコーチ、良きトレーナーを見つけなさい。一人で何かを成し遂げる事は難しいからだ。信頼できる専門家と共に仕事をしなさい』第1回B.DREAMプロジェクト、ルカ・パヴィチェヴィッチ氏によるクリニック

『良きコーチ、良きトレーナーを見つけなさい。一人で何かを成し遂げる事は難しいからだ。信頼できる専門家と共に仕事をしなさい』第1回B.DREAMプロジェクト、ルカ・パヴィチェヴィッチ氏によるクリニック

『良きコーチ、良きトレーナーを見つけなさい。一人で何かを成し遂げる事は難しいからだ。信頼できる専門家と共に仕事をしなさい』

トランジションオフェンスを指導する場面。通訳は福田将吾氏 ©B.LEAGUE
トランジションオフェンスを指導する場面。通訳は福田将吾氏 ©B.LEAGUE

B.DREAMプロジェクトとは、「世界に通用する選手の輩出」という理念に基づき、意欲に溢れる若手選手に競技機会を提供するとともに、素晴らしい可能性を持った選手を発掘するための取り組み。GSL読者諸兄にもお馴染み塚本鋼平氏(Bリーグ運営本部強化育成部)が中心になって運営されているプロジェクトである。

司会進行を務める塚本鋼平氏©B.LEAGUE
司会進行を務める塚本鋼平氏©B.LEAGUE

2017年1月中旬に第1回、同6月に開催された第2回が開催されており、B.LEAGUEでのプレーを夢見る数多くの選手、プロコーチを目指す若手コーチ、バスケットボールの探求心に溢れる意欲のあるコーチが参加をした。記念すべき第1回B.DREAMプロジェクトの開幕宣言は、大河チェアマンだ。「Bリーグは、大きな夢と高い志を掲げ、未来に向かって挑戦していくと開幕戦で宣言しました。B. DREAMプロジェクトも、未来への挑戦の一つです」と力強いメッセージが参加者に届けられた。

ルカ・パヴィチェヴィッチ氏が講師、通訳は福田将吾氏が務めた

当時、男子日本代表のテクニカルアドバイザーとして代表候補選手を指導していたルカ・パヴィチェヴィッチ氏の講話&クリニック、通訳を務めた福田将吾氏(2016-17仙台89ers、17-18島根スサノオマジック)によるスキルクリニックが初日のカリキュラム、社会人経験を経てプロ選手になった横浜ビー・コルセアーズの細谷選手の講話、参加者同士によるスクリメージが2日目のカリキュラム。

当時、日本国内のバスケットボール選手の中で、ルカ・パヴィチェヴィッチ氏の指導を受ける事が出来たのは日本代表重点強化選手と、B.DREAMプロジェクトに応募した選手のみ。トライアウト形式の選手選考だけではなく、選手への教育機会の提供、プロを目指す若手コーチの実践機会、各カテゴリーで奮闘するコーチの学習機会が設けられた事が特徴。「世界に通用する選手の輩出」というミッションの達成には、選手、プロコーチ、各カテゴリーで奮闘する意欲の高いコーチと、様々な領域で、今よりも充実した競技環境を構築する事が不可欠。ミッションに対し、様々なアプローチを模索すると共に、新しい取り組みを通じ、一つ一つ具現化していこうとする意気込みが感じられた。

ここでは、ルカ・パヴィチェヴィッチ氏から参加選手へ伝えられたメッセージの一部を紹介する。同氏は、U-19FIBA世界選手権での優勝を成し遂げたユーゴスラビア代表の選手であり、1990年代にはJugoplastika Splitの一員として、トニー・クーコッチらと共に欧州王者にも輝いた名選手。現役引退後も、様々な国で指導者として数々の実績を残している。

Euroleague 1988/89: Jugoplastika Split – Maccabi Tel-Aviv (Final)

#6が現役時代のルカ氏。PGとしてチームを牽引。

※YouTubeからの切り抜き画像
※YouTubeからの切り抜き画像

ユーゴスラビアの内戦など、様々な人生経験を持つルカ氏

1990年代は、ユーゴスラビアの解体など、政治情勢が安定しない時期。内戦の影響で、スポーツにも様々な混乱があった。ジェフユナイテッド市原・千葉、日本代表で監督を務めたイビチャ・オシム氏が故郷であるサラエヴォへの侵攻や、内戦へ抗議する意味を込めてユーゴスラビア代表の監督を辞任したのは1991年。有名なオシム語録の中にも、戦争の残酷さを語る言葉が数多く存在する。

バスケットボール界にも、様々な混乱があった事は想像に難くない。事実、ESPNの”Once Brothers”というドキュメンタリーでは、内戦の影響で世の中が混乱にある中で、兄弟のような絆で繋がれていたセルビア出身のブラディ・ディバッツと、クロアチア出身のドラゼン・ペドロビッチの友情が、対立構造を高めたいマスメディアによる印象操作などによって誤認識が生じ、切り裂かれた悲劇などが描かれている。

そのような時代を生きてきた影響もあるのだろう。ルカ・パヴィチェヴィッチ氏のメッセージは、夢や目標をもって物事に取り組むことの重要性の中にも、儚さを感じさせる言葉が並んだ。
Yugoslavia 1990 basketball
※1989年にEURO BASKETで優勝したユーゴスラビア代表チームの面々。翌年、1990年にはブエノスアイレスで開催されたワールドカップでもソビエト連邦を破って優勝。内戦の影響で1992年のバルセロナ五輪には出場できなかった。(ルカHCは本写真の中には不在。写真中央はサクラメントキングスで活躍をしたVlade Divac(ブラデ・ディバッツ)選手。不慮の交通事故で帰らぬ人となったDražen Petrović氏の姿も確認できる。

『プロを目指す選手に伝えたいこと』

※注 実際の講義はさらに濃厚で詳細までの説明となります。あくまでも受講者である筆者のメモからの書き起こしです。

心構えとして伝えたい事

①自分の能力を分析し、判断する。プランを持ち、そして強い気持ちで遂行する。そして、良き友を持て

世の中には様々な世界が存在している。バスケットボールもその中の一つに過ぎない。稀に、特異な才能を持つ人間もいるが、一般的には全てを成し遂げることは出来ない。その事実を知るべきだ。

その為、自分は何がしたいのか、何が出来るのかを見極め、それに対してプランを持って物事に取り組むことが非常に重要となる。18歳から25歳というのは若さと可能性に溢れた、人生の素晴らしい時間だ。今、あなた達は、人生の中で、非常に重要な時期にいる。もう一度、認識して欲しい。

資産管理・運用のプロをパートナーに持ちなさい。プロのキャリアはあっという間に終わる。

もし、プロになれたならば、良い友人、彼女、専門的な知識を持った友人・パートナーを持つことが重要だ。特に、参加者の皆には馴染みが薄いかもしれないが、信頼のおける、資産管理に関するプロをパートナーとして持つ事が極めて重要だ。

プロのキャリアはあっという間に終わる。その事を自覚した上で、プランを持つことが大切だ。資産管理のマスタープランを共に立案してくれるプロと共に、引退後の人生プランを考える必要がある。そして、プロバスケットボール選手としてのキャリアを考える事が重要だ。

②「コート上では常に技術を磨く心構えが必要。その為には、オフコートでもプロフェッショナルでなければならない」

プロバスケットボール選手になる為にも、それが実現した後も、常に向上心を持たなければならない。その為には、オフコートでもプロフェッショナルでなければならない。適切な食事をとる事。適切な睡眠時間を確保する事。ファーストフードばかり食べていないか?きちんと睡眠はとれているか、自分自身を律する能力が重要だ。

③「一人では成し遂げられない事がある事を知るべきだ。良い師、良いパートナーを持つ。プロの世界でトップレベルのコンディショニングを構築するには専門家の助けが必要だ。、一人では成し遂げられないことを知る事が重要だ」

一人で成功することは難しい。資産管理と同様に、コンディションの面でも、良きパートナーを見つけることが大切だ。良いトレーナーを見つけ、良いトレーナーと共に仕事(トレーニング)をする事を勧めたい。バスケットボールは、高いフィジカルが要求されるスポーツだ。コンタクトプレーも求められ、走力も求められる。バスケットボールでは、走れなければ何の意味もない。その為、繰り返すが、良いトレーナーを見つけ、共に仕事をする事が重要だ。トレーナー以外にも、良いドクター、良いセラピストを見つける事も非常に重要です。

そして、スキルや戦術の部分でも良いコーチを見つける事も非常に重要です。良い戦術を使っているコーチ、素晴らしい知識や指導力を持っているスキルコーチを見つけるとともに、そういうコーチがいるチームでプレーをする事の重要性を知って欲しい。

戦術理解の部分

Spacing、Timing、Excute(遂行する力)

プロとアマチュアを分けるのは、Spacing、Timing、Excute。なので、君たちは、これを良く理解して習得しないといけない。Spacing、Timing、Excute(遂行する力)だ。今日の実技クリニックでも、そこを何度も指導するのでしっかりと理解してほしい。

※実技クリニックでは、ファーストブレークにおける各選手の走るコースや、タイミングの基本コンセプトが説明され、その後、ハーフコートのピックアンドロールを駆使した指導の中でもSpacing、Timing、Excuteにフォーカスしてクリニックが展開された。例えば、ショウハードされた場合、どのアングルにリトリート(ルカコーチは「ストレッチと表現)するべきか、スクリナー選手がダイブするタイミングや方向性、残りの選手のSpacingや、動き出しのTimingが細かく指導された。Dives選手に対するポケットパスの始動、Diveに対してHelpが反応した際のスキップパス(コーナーパスも含む)など、非常に細かな指導が展開された。ここでは割愛するが、同じスペーシングでのPnRは東アジア選手権の指導で見る事が出来た。

ピックアンドロールを起点とするハーフコートオフェンスの指導。スクリナーの角度、ドリブラーが考えるべき項目(視野の確保、判断基準など)、残り3人のスペースと動き出しのタイミング、キックアウトパスの判断基準など非常に細かく指導された ©B.LEAGUE
ピックアンドロールを起点とするハーフコートオフェンスの指導。スクリナーの角度、ドリブラーが考えるべき項目(視野の確保、判断基準など)、残り3人のスペースと動き出しのタイミング、キックアウトパスの判断基準など非常に細かく指導された ©B.LEAGUE
ピックアンドロールを起点とするハーフコートオフェンスの指導。スクリナーの角度、ドリブラーが考えるべき項目(視野の確保、判断基準など)、残り3人のスペースと動き出しのタイミング、キックアウトパスの判断基準など非常に細かく指導された ©B.LEAGUE
ピックアンドロールを起点とするハーフコートオフェンスの指導。スクリナーの角度、ドリブラーが考えるべき項目(視野の確保、判断基準など)、残り3人のスペースと動き出しのタイミング、キックアウトパスの判断基準など非常に細かく指導された ©B.LEAGUE

実技クリニック後、最後のメッセージ

  • 健康であることが大切。食事、睡眠、その他のこと。健康である為の努力をしよう。
  • 選手として成功する為には、幸運に恵まれる事が大切。そして、準備をしている人が幸運に恵まれるという事を認識して欲しい
  • (コーチの方へ)私は、バスケットボールは地上で最も美しいスポーツだと思っている。日々、進化していくバスケットボールを理解するために、私も、皆様も、もっと学ばないといけない。学ぶことが無ければ上達は無い。参加しているコーチの方も、これからも、もっと真摯に学ばないといけないんだ!You must learn Basketball!!!

ルカコーチによるクリニック終了後には、福田将吾氏コーチによって、ミニクリニックが展開された。ルカ氏の講義で紹介されたオフェンスシステム(広いスペーシングを確保したPnRのプレー)を実行する為に必要なスキルがドリルを通じて学べるように工夫されたを組み立てであった。また、参加をした研修コートも各フロアでドリルの手助けを行った。終了後、翌日にスクリメージを控える選手には、自身のアメリカでの経験を通じてトライアウトを挑む選手に重要だと思われる心構えを何点か伝達し、最後は、ご自身も大切にされているというボブ・ナイトの言葉を受講者へと伝えた。

The will to win is not nearly as important as the will to prepare to win.Everyone wants to win but not everyone wants to prepare to win.

「勝ちたいと言う気持ちは重要ではない。それは誰でも持っているものだから。大切なことは、勝つための準備をする意欲である」

「日本のバスケットボールをもっと強く、世界を目指すために、このプロジェクトをスタートさせました」

これで、初日の全カリキュラム終了である。塚本鋼平氏により、当日の総括や、翌日の諸連絡が参加者へと伝達されると共に、下記の言葉で締め括られた。明るく、希望に満ちたバスケット界を構築するために、決意や覚悟も感じられる非常にエネルギッシュな声色が体育館に響き渡る事となる。参加コーチの中には、「塚本さんの最後の一言が本当に印象に残った」と語る方もいるほど。石井講祐選手の講演レポートの中でも掲載をしたが、再度掲載をする。

「日本のバスケットボールをもっと強く、世界を目指すために、このプロジェクトをスタートさせました。明日はいよいよスクリメージです! 精一杯頑張ってください。みんなで日本のバスケットボールを変えませんか? 一緒に日本を強くしませんか? もっと世界に近づきませんか? 一緒にやろうよ!」

その後、各参加選手やコーチは、友人、知人、SNSなどで繋がっている方々と情報交換や談笑を行っている様子も見て取れた。「繋がりやすい」時代からこそ、志を同じくする人間同士が一同に介する機会は非常に有益だ。塚本氏は、各種メディアの対応や運営の締めに向けて奔走し、最後の最後まで精力的に体育館を動き回り、福田コーチは、トライアウトを控える全選手と握手を交わす為に会場中を動き回ると共に、挨拶をしようと試みる参加コーチの一人一人と時間の許す限りに質疑応答へ明るい笑顔で対応。プロ(選手・コーチ)になろうと意欲を持つ方々の健闘を祈る姿が非常に印象的だった。

<参考>

福田コーチの活動については以前にGSLでもインタビュー記事を掲載中である。

この記事の著者

片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。