2006年世界選手権での衝撃、夢はインターナショナルなコーチになること。 保田尭之コーチのスペインでの歩み<3>

2006年世界選手権での衝撃、夢はインターナショナルなコーチになること。 保田尭之コーチのスペインでの歩み<3>

2018年5月末、B1-B2入れ替え戦で壮絶な試合を演じた熊本ヴォルターズ。HCとして奮闘する保田尭之さんは学生時代より幾度となくスペインに足を運んでバスケットボールを学んだ異色の経歴の持ち主。以前よりオフシーズンなどを利用して保田コーチにご協力を頂いて記事を制作していました。本稿はパート3となります。

※本記事は、GSLのFBページで2016年に公開していた記事の再投稿となり、保田コーチがプロコーチとしての活動を始める前に伺ったお話が中心となっております。「夢はインターナショナルなコーチになること」というコメントは保田コーチが学生時代に語った将来の展望・目標についてのコメントです。

2012年9月。メノルカの次は、再び、サマランカへ。8か月の長期滞在

2012年9月、保田は次の渡西先を西部のサマランカへと決める。1100年代に創設(正しい創設年不明)されたスペイン最古の大学であるサマランカ大学を始め、他にも旧市街全体が世界遺産にも認定されている国内随一の学園都市である。

ここで8カ月にわたる長期滞在が、保田の進む道を大きく左右する事となる。長期滞在中の目的は2つ。一つはスペインバスケ協会のコーチライセンスを取得する事。もう一つは、スペイン女子一部リーグFBAに所属する Perfumerías Avenida の帯同スタッフとしてチームに加わる事である。

実は、保田には、在籍していた関西外国語大学の留学プログラムを利用すれば他にもバルセローナや、バジャドリー(ACBリーグのチームもある)、アンダルシア地方のグラナダ、の都市を拠点にする選択肢があったのだが、彼はこの土地を選んだ。

「将来的にスペインを中心としたインターナショナルなコーチになるという夢を実現するために少しでも学生のうちにベースを作っておきたかった」

特にサッカー同様にバスケットボール界でも非常に有名なFCバルセロナの存在や、都市としての魅力からバルセロナは魅力的な選択肢の一つでもあったが、大学の授業がカタルーニャ語で話される事や、スペイン全体の文化を学ぶという点、またビッククラブ故にバスケットボールに触れられない可能性も考慮し、別の選択肢を考える。

次の魅力的だったのがバリャドリーであったが、これまでスペインで培ったコネクション、プロクラブの規模、受講できる学問のコースなども魅力があったが、最終的にはサラマンカを選んだ。そこにも、将来の夢から逆算し、着実に歩みを進めていく保田の考えがあった。

「バジャドリーはサラマンカと同じくらい迷えた選択肢で、クラブの大きさや自身とのコネクション、またカスティージャ語で学べ、留学後に発行される修了書もありました。しかし、その修了書の価値に焦点を当てた際、サラマンカのそれの方がより価値が高く、スペインにある提携大学の中でもより高いコースを受講できることが魅力的でした。

私がこの修了書をこれだけ重要視した理由は将来的にスペインを中心としたインターナショナルなコーチになるという夢を実現するために少しでも学生のうちにベースを作っておきたかったことが要因です。実際にそれが効力を発するかはわかりませんが、少しでも自分のキャリアを第三者が発行するものによって証明されるなら、さらにサラマンカ大学はヨーロッパで4番目に古く歴史ある大学でスペイン最古の大学でもあり知名度も高いためサラマンカを選びました。また、コンパクトな街だということはたくさんのことを経験しやすいこともメリットとして挙げられます。なにより私が留学する前年にユーロリーグを優勝した強豪女子プロバスケットボールチームがあったことは言うまでもなく私を惹き付けました」

ちなみに、この制度は、誰もが希望すれば現地へと行けるものでもない。「日本のバスケを強くしたいんです!」と志と熱意を語れば利用できる制度ではなく、様々な試験や審査が存在する。

書類審査、ペーパーテスト、スペイン語面接、日本語面接など、いくつもの課題やテストを経て、別学科の授業を受けたのちに正式に留学生として派遣される狭き門でもあった。挫折と貴重な学びを経験した高校時代に関西外国語大学への進学を決めた理由の1つには、サラマンカ大学などの伝統大学への留学プログラムが存在していたことも、入学を志した理由の1つであったことを現在でも覚えている。部活動での競技活動を断念するという辛い決断も伴ったが、「その時に出来る事を全力で取り組んだ結果、長期留学の機会を得て、コーチライセンスの取得にも繋がった」と振り返る。

https://twitter.com/Spain_in_CH/status/989550954562379776

※学生街としても有名な古都Salamanca。旧市街全体が世界遺産だという。

女子リーグLiga Femeninaに所属するPerfumerías Avenida へ帯同

サマランカでは、留学生プログラムを消化する傍ら、Liga Femeninaに所属するPerfumerías Avenida の練習へと帯同する機会を得る。

Perfumerías Avenidaは、スペイン女子代表チームのACとして日本代表として対戦する事になるVíctor Lapeñaがシーズン途中から就任した。また、このチームには同代表チームのスタメンで、日本戦でも24分出場、11得点を挙げた#10MARTA XARGAYも在籍している。(日本50-74スペイン)

「ここでは、ユーロリーグとLiga Femeninaに参戦するチームの練習とホームゲームにスタッフという形で帯同しました。合流した時期はシーズンの序盤であり、既にチーム作りのベースは終わっています。ですが、対戦各チームのスカウティングや、事前練習でどのように対応していくのかを生で観て、チームと共に時間を過ごすことが出来たのは大きな財産となりました」

このシーズン、チームはプレイオフで優勝を成し遂げる。日々、チーム状況や、リーグの状況が推移する中で、さらに踏み込んだコーチングを学ぶこととなった。

https://twitter.com/CBAvenida/status/990665554380972032

https://twitter.com/CBAvenida/status/991061443192778752

※Perfumerías Avenidaは今シーズンも国内リーグで優勝を決めて3連覇を達成。これまで、2005-06, 2010-11, 2012-13、2015/16, 2016/17 2017/18の3連覇と6度の優勝を誇る強豪チーム。(情報提供:とうみん/スペインバスケの情報氏 @el_baloncesto )。優勝報告会と思われるセレモニーには多くのファンが集まっている様子が分かる。

Perfumerías Avenidaでは、アシスタントコーチの役割について学ぶ。Raquel Romo氏に強い影響を受ける。

ここでの経験が、2013年から2016年まで和歌山トライアンズ、熊本ヴォルターズでACとして働く保田の大きな礎となった。スペイン男子の2部リーグ以下や女子の1部チームは少ない人数で切り盛りをしていた。NBAとは違い、細かな役職は存在しなかった。

Menorca BásquetではHC・AC3人(うち一人はストレングストレーナーを兼務、さらにもう一人は本業はコックさん)・理学療法士・マネージャーの6人、Perfumerías AvenidaではHC・AC・トレーナー・理学療法士(ACと理学療法士でマネージャー業を振り分け)の4人体制でシーズンに挑んでいた。

その為、そういう環境の中でPerfumerías AvenidaではMenorca Básquetより深く踏み込んでコーチ業、特にアシスタントコーチの役職について学べる機会を得た。

特に、影響を受けたのが、アシスタントコーチを務めていたRaquel Romoだった。20代後半と若く、選手としてのプロのキャリアを持たないが、ビデオコーディネートを中心に、練習ではウォーミングアップまでを担当していた。

アシスタントコーチとしての仕事の中心部であるスカウティングの術、心構えも教わる。その中でも、特にHCと選手の間にたってコミュニケーションをとり、コーチと選手の意思疎通に差異がれば、調整役として働くことのバランス感覚、現場ならではの学びがあり、それは現在でも活かされているという。

「HCが意図することを選手が消化しきれない場面は、多々あります。どちらかの肩を持った行動は簡単ですが、チーム一丸となる為に、バランスをとる、調整役として働くことは非常に重要な事です。ACの仕事にスポットライトが当たることは少ないですが、この時期の経験を経て、非常に重要なものだとさらに強く感じるようになりました」

緻密に計算された練習計画。メモがみっちり書かれたA3ノートを片手に熱のあるコーチング

何よりも、影響を受けたのは情熱の部分だ。勤勉である事を美徳とし、時として世界各国から「働ぎすぎ」、そして「過労」という言葉も存在する日本社会で生まれ育った保田にとっても、24時間体制とも言える姿勢で仕事と向き合い、アシスタントコーチの職を全うし、プレイオフ優勝の一役を買ったRaquel Romoの姿勢は驚嘆と尊敬に値した。

また、チームを指揮した若い男性HC Víctor LapeñaはACとよくコミュニケーションをとり、また選手とのコミュニケーションも大切にするコーチであり、彼も保田に影響を与えた。

特に、綿密に計画された一日の練習がみっちり書かれたA3のキャンパスを片手に練習に取り組み、選手たちに熱弁する姿は、年齢を感じさせず、逞しさがあった。

Menorca Básquetでもそうであったが、Perfumerías Avenidaでも、ゲームや練習の中、スタッフや選手が良い意味で感情的になる事も多かった。それは、それほど強く情熱的でバスケットに取り組んでいるという事だ。その熱い姿勢に心打たれた事が、本格的にコーチへの道を歩むきっかけにもなった。

https://twitter.com/FBCyLSalamanca/status/898113177766047744

https://twitter.com/FBCyLSalamanca/status/894989533128871936

※スペイン国内より、有望なジュニア選手を集めたジュニアキャンプ。Raquel Romo氏もスタッフとして名を連ねている。

https://twitter.com/STCBaloncesto/status/930808530654908416

※緻密かつ入念な準備と、情熱的な指導で保田氏に大きな影響を与えた若きHC Víctor Lapeña氏。スペイン女子代表チームのACなども兼任。日本代表チームが対戦した2014年ワールドカップでもスタッフだった。昨年までHCを務めたチームとは契約満了で、来季以降の去就は注目を集めているという。

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。