2006年世界選手権での衝撃、夢はインターナショナルなコーチになること。保田尭之コーチのスペインでの歩み<2>

2006年世界選手権での衝撃、夢はインターナショナルなコーチになること。保田尭之コーチのスペインでの歩み<2>

GSL(ゴールドスタンダード・ラボ)のFBページで2016年に公開していた記事の再投稿です。2018年5月現在、B2熊本ヴォルターズHCとして奮闘する保田尭之さんはスペインでバスケットボールを学んだ異色の経歴の持ち主。以前よりオフシーズンなどを利用して保田コーチにご協力を頂いて記事を制作していました。本稿はパート2となります。

※「夢はインターナショナルなコーチになること」というコメントは保田コーチが学生時代に語った将来の展望・目標についてのコメントとなります。

 

2012年3月。カタルーニャ地方の島、Menorcaでの日々

2012年3月、保田はスペインはカタルーニャ地方、バルセロナの南東に浮かぶMenorca島内のチームへと向かう。Menorcaとは、サッカー日本代表の大久保選手や家長選手も所属経験のあるFC Mallorca(マジョルカ)のあるマジョルカ島にほど近い島である。が、日本のバスケットボール関係者はおろか、日本人そのものにもなじみの薄い島だ。

保田の目的は、島内にあるバスケットボールチーム。Menorca Básquet。1950年に創設され、スペイン一部リーグACBにも所属歴があり、当時は、国内2部リーグにあたるLEB Oro(金)に所属し、再び、ACBへの復帰を目指していた強豪クラブである。

前回の滞在とは異なり、事前にチームにアポを取り、プロチームであるMenorca Básquetに帯同するという機会を取り付けた上でスペインへと渡った。このチームを選んだ理由は、小さいチームであること、そして日本人の少ない地域であることが理由としてあげられる。あえて日本人の少ない地域を選ぶことで、より深くチームに関わる機会を得る事を期待し、あえて、甘えの利かない環境に選択した。同時に、将来、コーチになって若い選手に指導をする際にはバスケットボールだけではなく人生経験として、他の日本人のだれもが経験をした事のないような地域での生活体験を語れるようになりたいという意向もあった。

https://twitter.com/lufthansaNews/status/990885495675785216

※非常に美しいMenorcaの風景。日本人がいない事を訪問先の理由とする考えも非常に面白い。

「serioという言葉がピッタリ。風格とオーラ、カリスマ性のある指導者」Josep María Berrocal氏の指導に触れる

ここで、保田は、約1か月間、スペインリーグに所属するチームの日々の歩みを学ぶこととなる。

かつてACBに所属し、再び、トップリーグへの返り咲きを目指すチームの取り組みは新鮮だった。2002年から2010年までFCバルセロナのACとして、数々のタイトルを獲得し、その後、ウクライナのチームを指揮して優勝。そして、メノルカのコーチに就任したというJosep María Berrocalの指導は非常に熱があり、何よりも、若いHCながらも、非常に厳格な指導スタイルにも新鮮な驚きを覚えた。

「非常に若いHCですが、とても立派な風格とオーラ、そしてカリスマ性を兼ね備えた、指導力のあるコーチでした。スペイン語で、真剣・真面目という意味のserioという言葉がありますが、まさに彼の姿勢を表す表現として適切です。 練習中の選手の態度などにも厳しく、注意したその場で往復ダッシュを課すなどしていました。ものすごい情熱の持ち主でもありました。それに加え、スペイン人としては珍しく時間に厳しく一切の遅刻を認めませんでした。」

また、日々の練習サイクルの中で、自チームの選手を高める手法にも多くを学んだ。

「このメノルカでは対戦相手の分析のもとどのように対峙するかということよりも自チームをどのように高めるかをより多く学んだように感じています。短時間で効率的、そしてゲームライクな環境を与えた練習でした。練習の導入から最後に至るまで、ポイントの先取りのように選手間で競わせるようなものがベースにおかれ自ずと練習に集中して向かえる環境に納得させられました。そこから選手に効率的にアプローチする新たな術を学んだように感じます。」

そして、育成世代の指導でも発見が多かった。2006年世界選手権でスペイン代表の試合を見て、強く感じた個人技の幅の広さを感じた理由の一つに出会ったような手応えを得た。

何よりも、「楽しむ」という事を最優先し、短い時間で、様々な実用性のある練習ドリルの数々に驚かされた。もちろん、スポーツには忍耐や我慢が必要な部分もあり、スペインでも、その部分を指導しないわけではないが、あくまでも、最優先、特に、若い世代に対して必要なのはバスケットボールを楽しむこと。楽しむ中でバスケットボールに必要となるスキルを学べるようにコーチ陣が工夫を凝らしている事に多くを学んだ。

また、日本では、小学、中学、高校、大学、とカテゴリーが変わるたび、多くの場合、コーチが変わり、戦術も変わって求められるスキルも異なる場合が多いが、メノルカの場合、ユースチームによる育成の為、縦のラインで一貫性があった。

同時に、ゾーンディフェンスなどを使用することを制限し、バスケットボールの基本となる1対1の攻防の向上にリーグ全体としても取り組んでいることも新鮮であった。各チームでの取り組み、そして、選手がプレーするリーグ全体での、選手育成を重視したルール設定など、学ぶことが非常に多かった。

上記のように、午前、午後のトップチームの練習、そして育成組織の練習をコートサイドでノートを取りながら学び、疑問に思う事があればコーチ陣に疑問を投げかけた。

※2018年現在、Josep María Berrocal氏はトルコリーグでHCとして活躍中。昨シーズン、A東京にいたジェフ・エアーズも同チームに在籍中。  

※Josep María Berrocal氏、今年のトルコリーグのオールスターゲームでは、 David Blatt 氏とも共演した様子。  

「選手が世界基準に育つことは非常に大切なことだが、それら選手を育てるのはコーチだ。コーチが学ばなければ選手は育たない。かつて私たちは世界にサポートしてもらったように、私たちも日本のバスケットボールが発展するために手助けしなければならない。」

Menorca Básquetのチームスタッフは、とても快く保田氏を受け入れ、異国からバスケットボールを学ぼうと意欲に満ちた若者に最大限のサポートをした。その心意気に応えようと、保田は必死にバスケットボールを学ぶことと同時に、マネージャーのアシスタントのような形で練習の準備、練習中のサポートなどを行った。

現在でも、この時、温かく受け入れてくれたMenorca Básquetの気持ちに報いたいという強い気持ちを持ち、バスケットボールの道を歩み続ける原動力の一つになっているようだ。

一か月の滞在後、チームを離れる際、特に保田に親身になって接してくれたマネージャーから贈られた言葉を、保田は大切にしているという。それは、下記のようなメッセージである。

「かつて私たちスペイン人は世界の強国からのサポートを受け自国のバスケットボールを発展させることに成功した。コーチたちを世界の強国へ派遣し、当時最先端のバスケットボールを学びスペインへ持ち込ませたり、逆にスペインに来てもらいコーチたちを指導してもらった経緯を持つ。選手が世界基準に育つことは非常に大切なことだが、それら選手を育てるのはコーチだ。コーチが学ばなければ選手は育たない。しかも、1人のコーチではなく多くのコーチが学ばなければならない。だからこそ、メノルカでバスケットボールを学んだ保田は日本に帰国後、たくさんのコーチにここで学んだ全てを教えていかなければならないんだ。かつて私たちは世界にサポートしてもらったように、私たちも日本のバスケットボールが発展するために手助けしなければならない。」

バスケットボールのスキル、戦術部分、そして育成組織の在り方とともに、懐の深いスペインのバスケットボールとの絆が、さらに強まった瞬間であった。

※Menorca で多くの事を学んだ保田氏。同島の美しい風景の数々はSNSなどでも見る事が出来る。

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。