【一般寄稿】ビデオセッション −VCUのプレスディフェンスの秘訣をキーワードから探る− byコーチP

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米国の環境PTPの話、オンボールスクリーンの話と来て、次はどんな分野にしようか迷いましたが、あくまで自分はコーチですので、やはりコート上の話でいきたいと思います(ただし次回以降のネタとして、「米国武者修行の勧め、コーチ編、プレイヤー編」を合わせて予告しておきます)。

今回の内容に関しては、最初にお断りを。

キャッチーなタイトルとして「秘訣」と書きました。またバージニア・コモンウェルス大学(以下VCU)、というよりシャカ・スマートHC(以下、自分は一応交流があるのでシャカと呼び捨てで行きます!)のディフェンスシステムがどんなものか、という点に皆さんは興味をお持ちかと思います。現地でもVCUのプレスディフェンスは大変注目されています。

"IMG_5943" by jeff horne
“IMG_5943” by jeff horne

注目されている根拠ですが、このディフェンスで2011年にNCAAファイナル4まで躍進したことももちろんですが、昨シーズンまでは対戦相手のターンオーバー率は紛れもなくこのVCUがトップでした。つまり全米で最もプレスディフェンスが機能していたチームがVCUなのです。

ちなみに今シーズンは2位のようで、ここでまた余談になりますが、現在の1位はどこだと思われますか? 実は今年から例年のディフェンススタイルを一変させたウエストバージニア(以下WVU)がトップのようです。ご存じ森コーチがマネージャーをしているカレッジですね。スタイルを変え、しかもそれが見事に機能したことによりWVUは今シーズン途中から全米TOP25にランクインしています。プレスディフェンスには、こうしたチームに大きな変化をもたらす効果があるという好例です。
※記録やランキングは執筆時点のものです 。

話を戻しますが、今回の「秘訣」はVCUがやっているシステムやチームルール等の紹介がメインではありません。例えば、どういったケースでダブルチームに行くルールを設定しているのか、などの内容ではありません。その部分を公開したくてウズウズする気持ちもあるのですが(笑)、ひとつには自分はVCUのチーム関係者でも何でもないので中途半端なことを書いてはまずいと思うこと。もうひとつは自分自身がすでにそのルールをアレンジして活用していますので、個人的にも企業秘密の部分があって、こういった場では書かないことにします。

では何が秘訣なのか、とも思われそうですが、プレイの要所で出てくるいわば「VCUらしさ」、といったものをいくつか挙げてみたいと思うのです。もちろん、その「らしさ」には根拠があり、それがタイトルにも書いたいくつかの「キーワード」ということになります。もちろん、そこから各コーチの皆さんがチームに生かすヒントがあることも確信しています。

今回はyoutube上に上がっている動画を題材に解説して行きます。この点については実験的な試みとしてやってみるのですが、題材はともかく同じようなビデオミーティングはNCAAの練習でもなされています。ビデオセッションと言えば、相手チームの映像を見ながら行うスカウティング、あるいはモチベーションを上げる目的で行われるものが多いですが、チームによってはこういったプレイ解説によって自分たちがやるべきことを理解するビデオミーティングも行われています。もちろん実際の題材としては、自分たちの映像あるいはいわゆる先輩たちのプレイを受け継ぐ目的で過去の自チームの動画を題材とするケースが多いのですが。

ここで取り上げる動画は2つです。

ひとつめは2011年にファイナル4まで行った時のいわゆるプレスディフェンス集、2つ目は13-14シーズンに当時ランキング上位のバージニア大学(以下UVA)をレギュラーシーズンで負かした試合です。2つ目はディフェンスの場面だけではないのですが、VCUの場合は特にこういったアプセットゲームではやはりプレスが機能しないと勝利をつかむことは出来ませんので、随所にプレスのお手本となる場面が出てきます。

「動画1の何秒から」という解説になってしまって面倒くさい点、そして出来ればこれらを項目ごとに編集して解説出来ればよかったのですが、著作権等もあると思うのでそれができなかった点はご容赦ください。また、もしこの動画がサイト上から消えてしまったら根本から成立しない記事になってしまいますが、その場合は仕方がないですね。

動画1 VCU “Havoc” Full Court Defensive System – 2011 NCAA Tournament

動画2 VCU Rams Wreaking Havoc Against Virginia

解説に入る前に全般的なことを補足しておきます。これは大雑把なシステムの解説になるのですが。動画の中にもタイトルとして記述されていますが、VCUのプレスは「ダイヤモンド」と「ダブルフィスト」の主に2つです。どちらもカッコイイ呼び方で(笑)、私も自チームではこの呼称を使っていますが、意味が分かれば何のことはない話です。ダイヤモンドプレスは1-2-1-1、つまり前の4人が菱形の配置になるためで、サインとしても両手の親指と人差し指でダイヤモンド形を作ります。ダブルフィストの方は2-2-1からのマンツーマンプレスなのですが、サインは両手をグーで万歳してダブルフィストを掲げるのでこの名称になっています。

最初にお断りしたように、システムの解説ではありませんので予備知識はこの程度です。以下動画に沿って4点ほど、いわゆる薀蓄を垂れる形で解説します。該当の箇所で一時停止やリプレイを活用しながら読んでみてください。

1.フィックス

まずは動画1の(動画の経過時間で)0:15からのプレイフェイズ。この動画では奇しくも最初のプレイです。

結果的にシュートまで行かれていますが、思わず「奇しくも」と表現してしまったとおり、実はこの一連のプレイにシャカがプレスを練習する際に最初に強調していることが垣間見えるのです。それは何か? シャカの言葉をそのまま借りれば「“FIX IT” SITUATIONS」というものですが、ここではカタカナ英語で「フィックス」とします。

各コーチの皆さんは、プレスをチーム全体に(5on5のシチュエーションで)コーチングするとき、何から入りますか? 多くのコーチがフロントコートでのダブルチームルールなどから入っていくのではないでしょうか?

数年前にシャカのティーチングビデオを見て感心させられたこと、そして実際に何度か練習を見て確信したことは、シャカはこのフィックスのドリルをものすごく大事にしています。ティーチングビデオの方では、いの一番にこれを紹介していました。

考えてみればこれは当たり前のことです。よほど弱い相手でない限り、フロントコートでターンオーバーを奪える確率は低いはずです。(付け加えて言えば、0:27のミドルレーンへのパスに顕著なように相手チーム・フロリダステイトのボール運びはお手本通りの見事な対応です。こちらも選手に見せる際には非常に良い教材です)

シャカの練習でも、この場面と同じようにミドルレーンにうまくパスを入れられた場合は無理をせず引くことを強調し、実際にそのケースの練習をします。むしろ(これは最初の寄稿で書いた要素還元論的な練習でもあり)機械的過ぎてびっくりするくらいの印象を受けたのですが、それがここでいう「フィックス」のシチュエーションです。

動画に戻りますが、結果的にシュートまで行かれているのですが、その時点でディフェンスであるVCUの選手はどういう位置取りをしているでしょうか? 0:30の時点でペイント内に4人のVCU選手がちゃんと帰ってきていませんか?(残念ながらリバウンドボールは取られてしまっていますが、少なくともセカンドショットはされず、フロリダステイトはその後攻め直しを強いられています)

余談を含めてもう一度強調します。

あるコーチ、県では何度も優勝しているけれどブロック大会を突破できずに全中に出られないコーチから質問をされたことがありますが、それは「プレスしても上手いこと運ばれてしまって結果が出ない」という内容でした。同じ悩みを持っている方は、その考え自体を改める必要があると思います。

オールコートプレスをして、フロントコートで取れる確率なんてほとんどありません。その低い確率の部分だけを練習させていませんか? それよりももっと出現機会の多い場面の約束事が徹底出来ていますか? 特に上記のフロリダステイトの場面のように上手くボール運びをしてくるチームには、チャンスを見ずにやたらめったら仕掛けることは逆に墓穴を掘ることになります。もう一度言います。プレスでボールを直接奪える確率は、実際にはそんなに多くはないのです。(ただし、後述の4つ目のキーワードにそれに対する答えもあると自分は考えています)

それぞれの動画には、他にもフィックスの場面が何度も見られます。それらのプレイの結果だけでなく、VCUの選手たちがどんな位置取りをしているかに着目してみてください。そして、自チームの選手たちが彼らを同じような努力ができているかを見てみてください。前でボールが取れないと悩んでいるコーチには、これこそが大きなヒントになると確信しています。

2.スタンティング

このキーワードについてもVCUの選手たちは随所に実践しているのですが、具体的には動画2の1:56、同じく2の3:47や4:11あたりにはっきりと見られます。どんなプレイかと言えば、これは個人として仕掛けるディフェンスのアクションで、チェックバックとかヘジテーションなどと言われる動作と同じようなものですが、それらよりも距離があって、要するにダブルチームに行くか行かないかのフェイクのアクションです。(百聞は一見にしかずで、動画を繰り返し見た方がいいと思います)

この動作をシャカは「STUNTING」と呼んで非常に大事にしています。実際に見させてもらった練習でもこの名前のメニューがあり、アシスタントコーチたちがいわゆるドリブル3メンで進むのに対して、この動作をしながら下がっていくという練習をしていました。

何のことはないアクションかもしれませんが、こういった知識なしにプレスディフェンスの駆け引きを教えてもなかなか覚えてくれません。この動作をスタンティングと名付けて実践させているVCUのシステムは、やはり結果を出しているだけのことがあると思っています。

実際に上記動画でも、このアクションのあとターンオーバーが発生しています。もし同じ流れでこのスタンティングの動作をしなかったら、違った結果になるのではないでしょうか?

3.ロケーション・オン・ザ・コート

これについての用語自体の説明は要らないでしょう。

動画2の0:55のスチールのシーンが顕著です。ここでダブルチームすることができれば、ほぼボールを奪えます。余談にもなりますが、NCAAやNBA、bjではコート上のタイムアウトが取れるので、このケースでのTO率が100%にはなり得ませんが、FIBAルールであれば100%に出来るくらいです。そのくらいこの場所は意識してプレイしてほしいものです。

このエリアについてはバスケット用語としては日本でも当たり前に定着していますがお分かりでしょうか? 直訳は「棺桶」コーナーですね。そのコフィンコーナー、動画のハーフライン付近とバックコートのベースラインコーナーだけを呼ぶコーチもいますが、オールコートではもちろんフロントコートのベースラインコーナーも指します。そしてVCUのプレスのうちダイヤモンドプレスでは、必ずダブルチームに行くエリアになっています。特にスローインのボールが直接ここに入れば、ドリブルがまだある状態にもかかわらず必ずダブルチームを仕掛けています。動画で確認してみてください。

他にも、ボールがどのロケーションにあるときにダブルチームに行っているか、あるいはすぐにフィックスしているか、様子をうかがっているか(=スタンティング)、などをこの動画から汲み取ることができれば、自チームのプレスディフェンスの成功にぐっと近づくと思います。

4.エンスージアズム

話のまとめとして、最後はあえてこじつけ気味になりますが、実際に選手を前にビデオセッションを行っている雰囲気でこのキーワードを取り上げます。

その意味でも具体的なプレイよりも全体的な印象の話にはなって来るのですが、あえてここまでと同じくこのキーワードの精神が表れている場面をあげると、動画2の0:35の場面などでしょうか? 一度ドリブルで突破されたされたあと、しつこくもう一度スチールを狙って追いかける場面です。

VCUの選手、特にガード陣にはこの精神が染みついています。むしろこの動画よりも、VCU卒でNBAまで行ったメイナー選手や、2011年の文字通りの精神的支柱であったロドリゲス選手の他の動画を見てみれば、こういったしつこくあきらめないディフェンスの場面が良く見受けられるかもしれません。動画検索をお勧めします。

1のフィックスの説明で書いた通り、プレスディフェンスで直接ボールを奪える確率は実際にはそんなに多くありません。しかし、VCUの選手たちはフィックスしつつも、常にこういった姿勢でチャンスを狙っています。そしてそのうち相手チームが根負けしてミスを重ねる、というわけです。

話をキーワードに戻しますが、そのあきらめない、気を抜かない精神の根本がこの言葉に集約されています。「ENTHUSIASM」という英語です。

実は当初、「ENERGY」にしようかどうか迷いました。というのは、シャカのプレイブックにはこのエンスージアズムという言葉はなく、「ENERGY(5 GUYS FLYING A ROUND)」という言葉があるのですが、似たようなニュアンスとして、あえてこの言葉の方を取り上げます。

といっても、プレイブックにないからと言って全く根拠なく取り上げたのではありません。二年前の訪問時にこの言葉を聞いて、シャカのバスケットボールの神髄がここにあると感じたからです。どんな場面で聞いたかと言えば、当時彼の右腕(アソシエイトヘッドコーチ)であり、現在はUTC(テネシー・チャタヌーガ)のHCに抜擢されているウィル・ウェイドコーチに、ずばり「シャカ・スマートのバスケットボールを一言で表すと?」という質問に対する答えがこの言葉でした。

直訳としては、「熱意」「熱中」「熱狂」などという日本語が出てきますが、以前の寄稿で「フラクタル」について解釈したように、語源を見てみるとそのニュアンスが最も伝わる気がします。ギリシャ語で「神にとりつかれた状態」の意味のようです。

どうでしょう? 一連のVCUのプレイからもそういったニュアンスが伝わって来ませんか?

と、こんな感じで最後に少し感動を与えるような話をして、今回のビデオセッションを終わりたいと思います。実際にチームでビデオミーティングする場合にもこのように最後はモチベーションを上げるような話で終わればいいと思います。

コーチP(ピンクのおじさん)
公立学校教員につき、ペンネームにて寄稿。公開できる肩書きとしては、2015年2月をもって50歳、コーチ歴30年、関東一部リーグ校バスケットボール部出身、JBA公認B級コーチ、県高体連強化委員長等歴任。三大ライフワーク、バスケットボール・猫・ももいろクローバーZ。「ピンク」のペンネームはそちらからです。教員生活も残り10年、ここらでコーチとして最後の一勝負をしたいと考えています。投稿を読んで、興味のあるチーム(私立高校等)関係者がいらっしゃれば、是非連絡をお願いします。
※ご連絡希望の方は当サイトのお問い合わせよりご連絡ください。

   

この記事の著者

Gold Standard Lab
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「スポーツコーチングを普及啓蒙し、日本国内におけるコーチングの『ゴールドスタンダード』を構築する」ことが使命。選手や指導者の方に役立つ情報を発信します。