【一般寄稿】米国の環境を見て日本の進む道を考える その1 byコーチP

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こんにちは。コーチP(ピンクのおじさん)です。ゴールドスタンダード・ラボ(以下GSL)で寄稿を募集していたので、今回その話に自ら乗ってみました。ちなみに以前GSL関係者からインタビューの依頼を受けて、それをキャンセルされたことがあるのは内緒です。
※編注:いきなり「ピンクのおじさん」では読者の方も驚かれると思いましたので、表立ってはコーチPと表記させていただきます。

自分の得意分野は、僭越ながらバスケ関係なら全てに渡ります。いろんなことを書きたいと思っています。ただこのGSLでは、技術的な話は個人的に親交もある岩井コーチ、戦術的な話はこちらも親交の深い森コーチが先にいくつも書かれていますので、今回はそれらのことよりももっと大きな視点から見た話を書きたいと思います。

まずは、この動画を見てください。

初めて見た方は率直に驚かれたと思いますがいかかでしょう? 「一つ屋根の下」の「40面のコート」で一斉にバスケをしている光景、日本で想像できますか?

アメリカのバスケットボール事情:AAU(アマチュア・アスレチック・ユニオン)について

ここで簡単にAAUについて触れます。アマチュア・アスレチック・ユニオンなのでバスケットボールだけの団体ではなく、またジュニアだけの団体でもありません。実際、AAUの大人の大会もありますが、おそらく現地でもAAUと言えば、シーズンオフに小中高生の優れたバスケットボール選手たちが集まって(選抜チームを組んで)どんどん試合をしている団体、という認識が強いのではないかと思います。

ここで、昔の米国のスポーツ事情に詳しい方は少し事情が違ってきていることに気付くと思います。米国のスポーツと言えばシーズン制で、冬はバスケットをするけれども、春からは野球や陸上競技など、秋には男子はフットボール、女子はバレーボールなどをやっているという認識が強くなかったですか? あるいは、夏の間はチームに所属せずストリートでバスケットをやっているという印象はありませんか? それらの現象も今でもありはしますが、少なくとも将来NCAAディビジョンⅠ(以下D1)やNBAを目指す若者たちには、そういったことは現在は当てはまらないと思います。

ストリートバスケットに関しては、以下のESPNの記事のような状況が見受けられるようで、オールドファンとしては寂しい想いもしています。
http://espn.go.com/espn/feature/story/_/id/11216972/playground-basketball-dying

そのAAUバスケットボールですが、現地では批判もあるようです。つい最近でもコービー・ブライアントがチームの若手に苛立ち、「最近のAAU上がりの若い連中は試合ばっかりやってきているので、基礎技術が身についていない」というような発言をしたニュースを見ました。確かにそうかもしれません。まだコービーが子どもの頃は、夏の間はそれこそ他のスポーツでリフレッシュ・体力づくりするか、キャンプに参加して(注:バスケットボールのキャンプは夏場に盛んに行われていて、それについても書きたいことがたくさんあるので、いずれまた寄稿します)文字通り個人技術を磨く期間とし、たまに試合をしたくなったらストリートに出る、あるいはストリートにしか出られない貧しい少年の場合も試合ばかりをやっているわけではなく、ストリートコートでの何時間ものシュートやドリブルの繰り返しによって自然と技術が身についていた、というのが本道だったと思います。

今回の話は最初に書いたようにかなり大きなテーマになるのですが、最初の40面のコートに代表されるようなプレイ環境、そして廃れたとはいえストリートバスケットという文化のある米国と、日本のプレイ環境を考えたときに、「米国と同じ練習をやっていていいのか?」という話に進んでいきます。念のために書いておきますと、このGSLに今まで寄稿されている内容は、NBA発、米国発が多いと感じますが、それを批判するつもりはないです(笑)。あくまで問題提起の文章であるのと、それらのいわゆる「パーツ」をどう生かすか、という話にも帰結していくと思います。

アメリカのバスケットボール事情:NCAAについて

続いて、話を進める上で改めて自己紹介をします。私はペンネームの通りいい歳をしたおじさんなのですが、若い時には米国留学をしたい夢がありました。行きたかった先は、ずばりD1パワーハウス(の大学院)です。が、当時80年代は現在のように簡単に情報も入らず、また経済面が最大の理由となって簡単に断念してしまいました。その私が30歳を超えて経済的に余裕が出てきた時点で、米国にバスケ旅行(ほぼバスケばかりの研修のようなものですが、私費なのであえて旅行とします)に行くようになったのは必然でしょう。

行き始めてもう15年以上経ちましたが、訪問先を挙げると、UNC(ノースカロライナ)、デューク、NC(ノースカロライナ)ステイト、IU(インディアナ)、スタンフォード、UCONN(コネティカット)、UMD(メリーランド)、VCU(バージニア・コモンウェルス)、WVU(ウエストバージニア)、最近では渡邊雄太選手のGW(ジョージワシントン)など、他にも書ききれない数のD1校、D3校も少し、モントロスやデマッサなどの高校チーム、それに夏のカレッジキャンプやAAU全国大会、直近のこの冬の訪問では幸運にもNBAワシントン・ウィザーズにも行けました。おそらくこんな変わった旅行をしている人は日本にはあまりいないと思いますが、ただの旅行自慢で書いたのではありません、理由があります。あえてひとことで言えば、「行くたびに新しい発見があると同時に、米国のバスケット環境には毎回驚かされる、いや、開いた口がふさがらなくなる」ということで、今回のテーマである米国の環境の話につながっていきます。

開いた口がふさがらない一例を挙げると、VCUには通算で6度くらい訪問していて今回も行ったのですが、ここの男子はご存知2011年のファイナル4チームです。また2011年の前には、同じNCAAトーナメントでコーチK率いるデュークにアップセットをかましたりもしています。そのVCUの施設についてですが、まずデュークを破った翌年、それまで普通の体育館を借りていた感じの粗末な練習場に立派な電光掲示板等の設備がつきました。ファイナル4の翌年いやほんの三か月後のその夏には、その練習場の設備がもっと良くなったばかりか、メインアリーナのシーゲルセンターは客席増設、それに加えて映画館のようなビデオルームができ、男女バスケットボールオフィスも改装されました。VCUとは別のカレッジの余談になりますが、この映画館のようなビデオルーム、居心地が良すぎて居眠りしてしまう選手がいるようで、コーチたちにはあまり評判よくありません(笑)。

そして今年、シーゲルセンターの隣に男女それぞれのコートやそれぞれのビデオルーム、ウェイトトレーニング設備等を備えた新しい練習場(ファシリティ)が建設中です。ちょうど女子HCのオーボイルコーチに新ファシリティについて詳しく聞くことができましたが、価格は25ミリオンだそうです。メインアリーナではありませんよ、あくまでファシリティです。

ちなみに、こういったメインアリーナ以外の専用ファシリティを自分が最初に見たのは、NCステイトです。それまでの他校での経験から、アリーナで練習をしているとばかり思い込んで約束の時間に訪問したところ、人っ子一人いなくて焦ったのは苦い思い出ですが、そのNCステイトの専用ファシリティはおそらく83年のNCAAチャンピオンによってもたらされた遺産だと思います。要するに、勝てば多額のマネーが流れ込んでくるということです。

もう一つ関連した余談になりますが、今年も含めて2回訪問したWVUにも約5年前から専用ファシリティがありますが、その価格を尋ねたらやはりVCUと同じ25ミリオンでした。どうもファシリティと言うのは、定価が25億円のようです。

そして今回書きたかった事は、その設備の凄さだけではありません。WVUには、このGSLでもお馴染みの森くんが留学していて彼の寄稿にもあったと思いますが、選手は24時間いつでもこの施設を使える環境にあるのです。

長くなりましたが、以上がいわゆる前振りです。ここから本題に向けて話を進めて行きますが、今までの内容をまとめると、

  • D1カレッジのファシリティに代表されるように、米国文化そのものと言っていい圧倒的な物的環境があるのが米国である。
  • 昔はストリート、現在ではAAUという、いつでもハイレベルのゲームに参加出来る環境があるのが米国である。

この2点になります。

その2の本題では、そんな米国の環境で、エリートバスケットボールプレイヤーはどんな練習をしているのか? そしてそれらを日本の強化に活かすにはどうすれば良いのか? いやそもそも活かせるのか? と言う内容に入っていきますが、どんどん長文化しているので今一度論点を整理します。実はこの「分け方」自体が今回自分が提言したい「戦術的ピリオダイゼーション理論」(以下、PTP)の考え方を含んでいるのですが、あわせてそれについての説明もさせてもらいます。

コーチP(ピンクのおじさん)
公立学校教員につき、ペンネームにて寄稿。公開できる肩書きとしては、2015年2月をもって50歳、コーチ歴30年、関東一部リーグ校バスケットボール部出身、JBA公認B級コーチ、県高体連強化委員長等歴任。三大ライフワーク、バスケットボール・猫・ももいろクローバーZ。「ピンク」のペンネームはそちらからです。教員生活も残り10年、ここらでコーチとして最後の一勝負をしたいと考えています。投稿を読んで、興味のあるチーム(私立高校等)関係者がいらっしゃれば、是非連絡をお願いします。

※ご連絡希望の方は当サイトのお問い合わせよりご連絡ください。
   

この記事の著者

Gold Standard Lab
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「スポーツコーチングを普及啓蒙し、日本国内におけるコーチングの『ゴールドスタンダード』を構築する」ことが使命。選手や指導者の方に役立つ情報を発信します。