【一般寄稿】米国の環境を見て日本の進む道を考える その2 byコーチP

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バスケットボールと戦術的ピリオタイゼーション理論

  • ビッグテーマ=タイトルのとおり、米国の環境から日本の進む道を考える
    • サブテーマ1=組織としてその環境を考え、整える
    • サブテーマ2=各コーチがそれぞれその環境を考え、整える

さて、PTPという一般的には何やら聞きなれない言葉が出てきましたが、このGSLを訪れる勉強熱心なコーチたちは概要はご存じだという前提で話を進めます(ご存じない方はgoogleさんにでも聞いてみてください。かなりの情報があります。もともとサッカーの理論です)。ただ一点だけはきちんと押さえ ておかなければなりません、それは(サッカーとバスケットボールを置き換えて表現しますが)「バスケットとは何か?」という哲学的なテーマについて、同理論 では「バスケットボールはカオスであり、フラクタルである」とバスケットボールの本質を定義づけています。

そのサッカーの話から入っていきますが、日本のサッカーはメキシコオリンピック前後で華々しい活躍をし、その後70年代から80年代に低迷、90年代に(私に言わせればいちかばちかの)Jリーグ設立とあわせて代表チーム強化にも見事に成功をおさめ現在に至っています。

ここで自分が取り上げたいのは、低迷期のサッカーの強化状況についてです。その時期に日本サッカーはどこの国を手本にしていたでしょうか? いろいろ解釈はあるかもしれませんが、私見ではとにかくブラジルを手本にしていた時代だと思っています。東京オリンピックを前にドイツのクラマーコーチを招聘してドイツのサッカーを学び、今日では(この戦術的ピリオダイゼーション理論もまさにそのひとつなのですが)ヨーロッパのサッカーに再び流行がシフトしていると思いますが、80年代当時は少なくとも今よりははるかに大きな割合で、ブラジルタイプのサッカーおよびその練習方法が取り入れられていた時代でした。

ここから米国のバスケットボール環境と日本バスケットボールの取り組み・練習内容に話がつながります。ブラジルの少年がサッカーをプレイしているシーンと米国の(注:少し古い)バスケットシーンをどこかで見たことはあるでしょうか? 何か同じような風景が見えませんか? そう、ストリートサッカーとストリートバスケットです。

これらのストリートでのプレイをPTP的にひとことで表せば、これは究極の「カオス」です。そうです、ブラジルの国技であるサッカーと米国の国技であるバスケットボールは、それぞれの国においてこのカオスの状態がそこらじゅうに存在しているのです。そしてここが肝心な部分ですが、ブラジルのサッカーや米国のバスケットボールにおけるドリル・練習は、そのカオスの状態に一定の秩序をもたらすことを大前提として築き上げられている、と私は考えます。もう少しPTP的に説明すれば、もともとカオスな状態なのでそれを矯正するには、古来の「要素還元論的なドリル」で充分、いや逆にそうしないと秩序を見いだせないのがブラジルのサッカーや米国のバスケットボールなのです。

要素還元論について自分なりの解釈を加えます。 例えば魚の構造について勉強したくて、生きた魚を解剖したとします。「ここが心臓、ここが腸…」確かに魚の体の中がどうなっているかはよく分かりました。が、解剖後、もう一度泳いでいる姿を観察してみたいと思っ て、バラバラにした部分をもとに戻してみても、もちろん息を吹き返しはしませんね?

もともとの要素還元論の意味からは少し飛躍してしみましたが、PTPにおける要素還元論的な練習というのは、そういうものだと思っています。そして昔ながらのいわゆる分習法で陥りやすいマイナス面が、まさにこの「各ドリルのつながり」や「各練習内容の試合場面での発現」だと思います。

そして、私が今まで見聞してきた米国の練習・ドリルは、まさにこの要素還元論的な分習法に止まっている感があります。止まっているという表現は間違いかもしれませんね。米国ではその必要がないのです。なぜなら、繰り返しになりますが、カオスがそこらじゅうに溢れている状況なので、その部分を強調する必要がない、それどころか、カオス的な要素を排除したドリルの方が成功に近づくことが経験的に分かっているのだと思います。

サッカーについて自分は専門ではありませんが、過去にいくつか見聞したブラジルタイプのサッカーの練習法は、やはり個人ドリルを中心とした分習法が多いと記憶しています。これももう一度書きますが、ブラジルスタイルを参考にしていた70~80年代、日本サッカーは今では考えられないほどの低迷をしていました。

そしてバスケットは、最近ではヨーロッパや南米の情報も入ってきてはいますが、やはりNBA=米国をもっとも参考にしていませんか? もちろん世界最高峰のリーグですので、それを「目指す」のは当たり前のことで、そんなことを言いたいのではありません。私が言いたいのは、「米国の練習や取り組みをそのまま参考にしていたのでは、日本のバスケットはいつまでたっても現在の状況から抜け出せないのでは?」ということです。そうです、70年代から80年代にかけてサッカーが抜け出せなかったように、です。

ではどうすれば良いでしょう? 根本的な答えがまさにこのPTPにあります。先述の定義にカオスと並んでフラクタルという言葉がありました。もともとはそれぞれ難解な自然科学の用語ですが、大雑把に言えばお互い似たようなものだと思っても結構です。カオスが「混沌」と訳されるのに対して、フラクタルは検索してもなかなかいい直訳が出てきません。あえて言えば「自己相似形」なのですが、PTP的にもう少しわかりやすいイメージを考えてみます。もともと「破片・分割の意のラテン語からの造語」だそうですが、そちらを参考にした方がよさそうです。要するにバスケットボールに当てはめる場合は、「分習法の組み立て方」とイメージすればよいかと思います。

また、「自然科学の用語をスポーツに当てはめることについては無理があるのではないか?」という疑問も予想されますが、それについてもひとこと。スポーツは高度な身体活動であると同時に高度な精神活動であり、その結果、他の社会現象と似たような構造を持ちます。そして社会現象はまた、多くの場合自然現象に帰結していくものである、ということを書き加えておきます。これについては、つたない自分の経験談になっ てしまうのですが、若い時よく思っていたのは「あのしょうもないおっさんコーチ、持っている知識もやっているドリルもたいしたことないのに、毎年毎年いい チーム作るんだよな」ということです。(注:私は生まれつき上から目線です。)そんな疑問を約20年間抱えたままコーチングをしていたのですが、数年前にこのPTPに出会って、答えを見つけました。まさに「腑に落ちた」というのはこの感じか、と思ったものでした。私の今回の説明だけではPTPが理解できない方は、それこそ「フラクタル」や「非線形科学」などを説明した書籍等に踏み込んでみることをお勧めします。きっと私と同様に「腑に落ちる」ことでしょう。

もう少しPTPとカオス、フラクタルについて続けます。カオスをイメージするのに、よくバタフライエフェクトの話を聞きます。これはエビ中の、、、おっと思わずライフワークのうち三番目の要素が出そうになったので修正、「南米での蝶の羽ばたきがフロリダでのハリケーンを引き起こす可能性がある」というカオスの「予測困難性」を表しています。

対してフラクタルですが、カオスと似てはいるがある法則性を持って、それゆえにある程度の結果が予測できるもの、という解釈をしています。自然界に存在するフラクタルの最も分かりやすい例として雪の結晶がありますが、雪はどこまで分解していっても六角形なのはご存知でしょうか? それと同じで、「バスケットボールの試合に含まれているすべての要素(技術・戦術・体力・精神力・攻撃・守備・パス・ドリブル・シュート・キャッチ・フェイントなど)は、バスケットボールの細部にもすべて含まれている」と考えるのがPTPにおけるフラクタルの考えです。少しイメージが違うかもしれませんが、子どもたちに面白おかしく話す場合には「金太郎飴はどこを切っても金太郎が出てくる、そんな練習がPTP的なドリル、そうじゃない練習はバスケットボールとは違ったことを学習する練習になる」などと言います。

ここまででPTPの概念が概ね理解できたでしょうか? まとめると、PTPでは「複雑なものを複雑なまま理解する」ようにトレーニングする必要性があるとして「大切な何か」を失わずにトレー ニングすることの大切さを重要視しています。この「大切な何か」というのは上の魚の例がもっとも分かりやすいです。そう、命です。そして「バスケットボー ルをバスケットボールのままトレーニングする」こと「バスケットボールはバスケットボールをすることによって上手くなる」と定義づけたのがPTPなのです。

もう少しだけ具体的な補足をしてPTPの説明を終わります。上に「ビッグテーマ」「サブテーマ」とし、それがPTP的だと書きました。フラクタル的に分解していくにあたっては、まず「(ビッグ)コンセプト」「サブコンセプト」「サブサブコンセプト」「サブサブサブ~」ということをはっきりさせます。もうお分 かりでしょうが、「サブサブ~」以下にまで「バスケットボールの試合の要素・本質が含まれている」これが最も大切なこととなります。

そろそろ話を米国の環境と日本の環境に戻します。米国の環境については「カオス」と、それにもとづく(いわゆる悪癖の修正のための)練習が必要になるということことはすでに述べました。コービーの言う通り「AAUで試合ばっかりしていてはだめだ」ということです。実際自分が見聞したドリルやワークアウトでも、昔ながらのドリルがやはり多いです。言葉を変えれば「米国トップチーム、トップ選手でもそんなに画期的なことはやっていない」です。

では日本はどうでしょう? 根本となるカオスな環境、探す方が難しいですよね? 以上のことを踏まえて、まとめに入ります。

サブテーマ1「組織」に関して。

また少し余談から入りますが、サッカーはJリーグという組織が軌道に乗り、育成に関しても良いモデルを確立しつつあります。が、私は完全に成功だとは思いま せん。また、サッカーはヨーロッパ起源のスポーツでバスケットはもちろん米国発祥のスポーツです。その意味でも、私はJリーグの提唱するヨーロッパ型のク ラブ組織の概念をバスケットボールに持ってくるのは反対です。上でAAUのデメリットを挙げていながら矛盾するようですが、AAUそのままを持ってくることには反対ですが、AAUのようなアメリカ型の組織が必要だと思っています。

ヨーロッパ型に反対する理由は、二つあります。一つは私はサッ カー関係者の知り合いも多数いるのですが、これだけJリーグが大きくなった日本のサッカー界でも、日本代表に高校サッカー未経験者が何人いるでしょうか?  まだまだその割合は多くはないはずです。要するにバスケット、サッカーなどのスポーツを問わず、やはり日本では高体連、中体連との兼ね合いをなくすことは出来ないということです。

そしてその日本の学校制度、つまり6・3・3制のことですが、これはもともと米国から(厳密にはGHQのようで すが)来たものです。そして米国でも(6・3・3とは限りませんが)高校生プレイヤーは基本的には高校チームでプレイしており、(AAUがあるとはいえ) それはヨーロッパのクラブ組織でのプレイとは全く異なります。

二つ目の理由ですが、日本で一時「総合型地域スポーツクラブ」の設立が推奨されていました。いまでもその流れは続いているのかもしれませんが、これに関して私は。ほとんどが失敗だったと断言しておきます。そのソースなのですが、それらの設立に関して地方ではスポーツ分野の大学教授がかかわっていましたが、彼らが口をそろえて言うことは「総合型~に関してはひどい目にあった、二度と関わりたくない」です(笑)。具体的なことには踏み込みませんが、それをもって失敗だったと結論付けるのは決して間違いではないと思います。

では、AAUのデメリットを除いた総合型ではない組織にはどんなものが考えられるでしょう? すでに草の根で日本には根づいています。愛知県ジュニアバス ケットボール連盟や、先日正式に発足したと聞きますが、実は20年前から活動を続けている大阪のジュニアクラブなどの好例が日本にはすでにあります。また、いわゆるバスケットスクールも増えてきました。

これらの草の根の組織を、今後盛り上げていくことが日本バスケット界の発展につながる最重要課題だと提言しておきます。それこそ、幕張メッセに40面のコートを張って、各学年が一斉に一つ屋根の下でバスケットをプレイする。そういった光景が実現できた暁には、自ずと日本のプレイレベルも上がっていることでしょう。

一つ気を付けたいことは、そのままサブテーマ2「各コーチの課題」になります。

それらのクラブチーム組織、スクールにおいては、日本の環境を考慮したプログラムを組んでほしいということです。AAUのマイナス面と同じことをやっていたのでは、それこそメリットよりデメリットの方が大きくなります。

少し現況に苦言を呈しますと、ネット上で見聞きする各バスケットボールスクールの指導内容は、米国型の分習法に基づいている感が否めません。PTPがすべてではありませんが、各コーチや運営者においては、米国以外の先端の理論に基づいた練習プログラム、試合計画についても研究を重ねて行ってほしいものです。

もちろん、クラブ組織関係者だけでなく、我々チームコーチも日本の環境を変えていく努力をすると同時に、現在の環境にベストマッチした練習を組み立てていくことを肝に銘じて終わりとします。

途中、長々と書いた割には、結論は結構あっさりとしたものになりました。次回はこの寄稿の反響を見て、どの分野の内容を書こうか考えてみます。

コーチP(ピンクのおじさん)
公立学校教員につき、ペンネームにて寄稿。公開できる肩書きとしては、2015年2月をもって50歳、コーチ歴30年、関東一部リーグ校バスケットボール 部出身、JBA公認B級コーチ、県高体連強化委員長等歴任。三大ライフワーク、バスケットボール・猫・ももいろクローバーZ。「ピンク」のペンネームはそ ちらからです。教員生活も残り10年、ここらでコーチとして最後の一勝負をしたいと考えています。投稿を読んで、興味のあるチーム(私立高校等)関係者が いらっしゃれば、是非連絡をお願いします。

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この記事の著者

Gold Standard Lab
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「スポーツコーチングを普及啓蒙し、日本国内におけるコーチングの『ゴールドスタンダード』を構築する」ことが使命。選手や指導者の方に役立つ情報を発信します。