トヨタ自動車アルバルク東京アソシエイトコーチ 伊藤拓摩氏によるクリニックレポート

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2014年7月。関東大学バスケットボール連盟4部リーグに所属する東京大学バスケットボール部を対象とし、当ラボにもレポート記事でご協力を頂いているトヨタ自動車アルバルク東京の伊藤拓摩AC(今期よりアソシエイトコーチ)によるクリニックが開催された。今回は、クリニック当日に伊藤コーチが強調されていたキーワードからクリニックの内容を紐解いていきたいと。日頃、コーチや選手としてバスケットに向き合われている方の参考になれば幸いです。

1.awareness

「今の時代、youtubeを観れば様々なドリブルドリルが紹介されており、練習方法には困らない。だが、youtubeで学んだドリルを試合で発揮できない選手が多いのも事実である。コーチとしては、映像では伝わってこない『ゲームで使うために必要なスキルと考え方』を伝えたいと思います」

クリニックの冒頭、上記の言葉が東京大学バスケットボール部、及び、見学に来ていた10数名のコーチに語られた。

ito-takuma-ut-clinic9「その代表例として…」という前置きと共に指示されたのは「パワーポジションからのドリブル」である。笛の合図が鳴ると、非常にリズムよく、力強いドリブル音が東京大学駒場キャンパス内の体育館に響き渡った。全国津々浦々、バスケットボール好きが愛してやまない、ボールが弾む心地よい音だ。

その後、両方のコートサイドに並ぶように指示し、お互いに向ってドリブルをするドリルが実施される。ルールは単純。お互いがすれ違う瞬間に、クロスオーバーやビハインドなどでコースを変えて接触しないようにする事。動作としては単純だが、ドリブル音が、その少し前とは変わって歯切れが悪くなる。接触する事を意識して、どうしても、少しだけドリブルの強度が落ち、リズムが悪くなる。

その後、ドリブルの制限を一方向だけではなく、コート内を自由に行き来できるようにルールが変更された。四方八方から接触しそうになる選手同士。ドリブルの音は、さらに小さくなり、コートを行き交うスピードも遅くなる。混沌とした状況に対応するために、プレイ速度、ドリブルの強度を抑えている事が見て取れた。

このタイミングで、一つのkeywordが語られる。それが”awareness”だ。”awaraness”という言葉を発した後、伊藤コーチは、その意味を学生に問う。「・・・気づく事、意識など」。学生の返答に対して、伊藤コーチの説明が続く。

「言葉の意味としては、その通り。この言葉に込めた意味、皆様に意識してもらいたい意味はもう少し多岐に渡ります。バスケットボールをプレーする際、常に選手は感度を高くする必要がある。コート上で起こっている現象、味方のポジショニング、ディフェンスの状況、仲間の状況、自チームのベンチの様子、相手チームのベンチの様子、観客の様子。それら常にを把握しておくことが重要です」

説明の後、再び、同じドリルが実施された。2回目のドリルに対して慣れが生まれたという背景があるにせよ、どの選手も、コート全体の様子を見通し、優れた選手に至っては2人、3人目先の状況まで俯瞰をしたかのような滑らかな動きでコート内でドリブルのコースを変えて混沌とした状況の中で、見事なドリブルを披露した。

コート上の現象や状況を把握し、次に起こる事を予測。それに対して、常に最善なアクションを続け、コートに立つ。行っている事は単純なドリブルドリルであるが、心なしか、体育館に響くドリブル音が心地よかったのは勘違いではないだろう。

これが、冒頭の言葉の真意の一つである。youtubeで見る事が出来るドリブルドリルをマスターするだけでは、なかなか、このような感覚は身に付きにくい。勿論、基礎的なスキルとして、様々なドリルが出来れば、それに越したことはないが、大切なことは、何の為に、そのスキルを使用するかという事だ。

awarenessとは、情報に対する感度を高くする事、その行為の全般を指す。視覚だけではなく、例えば、ディフェンスやオフェンスの息遣いを感じる聴覚を研ぎ澄ませば、そこにヒントが詰まっている。自チームのコーチは冷静なのか、焦っているのか。相手チームのコーチはどうだ、審判の状況はどうか。ゲーム全体に漂う、言葉に出来ない『何か』を感じる為には五感を研ぎ澄ます必要がある。そこまでを含めた”awareness”なのだ。ドリブルを使ったシンプルなゲーム形式のドリルを通じ、バスケットボール選手が持つべき感度への伝達がなされ、これがクリニックの序章となった。

ちなみに、arawnessと言う単語について、伊藤コーチ自身、米国への高校・大学の留学経験があるから、恰好を付けて英語で表現をしているのではなく「ちょうど、当てはまる言葉を探したが、どうしてもawaranessがシックリくる表現であった」事が、言葉のチョイスの理由らしい。

awarenessを辞書で引くと、気づいていること,〔…を〕知ること 〔of〕.意識.という言葉が出てくる。

もし、コーチから冷静さが無いと指摘や叱責をされた経験のある選手がいるならば、awaranessと言う言葉を意識してみてはいかがだろうか。

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2.playing with good speed

過去のレポートでも語られたキーワードがこの日も紹介された。ちなみに、このキーワードについて改めて伊藤コーチの言葉と共に振り返ると

「キーワードのGood speedの定義付けをしたことが一番重要な点でした。Good speedとは自分の体をコントロールできるバランスを保ち、方向転換、ストップが出来、常に見えているスピード。そう定義付けすることで選手にも伝えやすかったし、選手が速すぎてプレーする(日本人)している場合、特にミスに繋がった場合、オープンの選手が見えなかった選手に対してplay with good speedの一言で解決されました。また、プレー中も常に『見て!』とか『Good speedで』など声かけもシンプルかつ分かりやすくできたと感じました」

となる。今回は、コート上に図のようにコーンを置き、フェイスアップしながらドリブルをする。ちなみにスタート時、左右にディフェンスを揺さぶる為、インサイドアウトとクロスステップを合わせながら横方向の移動を円滑にするプレーも紹介され、それをスタートしてドリルが始まったが、ここでは説明の関係で割愛する。

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ドリルの序盤は、ディフェンスを置かず、コーンの方向まで進んでは、元の位置に戻り、そしてまた次のコーンへと進み、戻り、最後はシュートをするという形式でドリルが進められた。次のステップでは、伊藤コーチ、そしてアシスタントとして前田コーチもディフェンスとして入る。例えば、カバーポジションからドリブラーに対してヘルプに来る動作や、ボールマンのディフェンスがドリブラーを煽る動作でオフェンスの自由を奪いに掛かる。ここで、カットインをするからと言って、自分がコントロールできる速度を超えてやみくもに全速力でプレーをしていると、勇気をもってトライしたカットインの結末が、身体の制御が効かずにオフェンスチャージング、またはディフェンスに煽られての苦し紛れのパスからのターンオーバーになってしまう。

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勿論、good speedの規準を高めるための練習として全速力のカットインを練習するのは攻撃力を高める訓練となるが、ここでは、いかに賢く状況を判断するかに重きが置かれる。

その後、図のようにコーンが置かれ、コーチが中央にディフェンスに入る。good sppedと共にno automatic 1,2stepの意義と必要性が語られ、動画のようなドリルが実施された。コーチが持っているのは空手の訓練で使用する道具である。名前はパーフェクトブロッカー。その使用用途という、名前と言う、バスケットボール専用の道具であるかのような錯覚を受けるのは筆者だけではないだろう。

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カバーポジション(多くの場合、ここにビッグマンが構える)のディフェンスのポジション、身体の重心、そして意識が、自分のマークマンなのか、ボールマンなのか、どのタイミングで、その重きが変わるのか、ドリブラーは、ペイントエリアへと侵入する勇気と共に、多くの事を視野に入れ、多彩なアイデアを持ってペイントエリアする必要がある。

ここでもベースになるにはawaraness。その上で、テーマとして、playing with good speedという考えを持っていると、ペイントエリアでの状況判断が上手くいくのではないかと言う提案がなされた。

3.Make a hit

最後のキーワードはMake a hitである。日本人には細かな英語のニュアンスが伝わりにくいかも知れないが、その言葉の対比としてTake a hitが紹介されていた。違いはtakeは受け身、makeはこちら側が主導して行っているということ――とは伊藤コーチの談である。

とかく、多くの選手は、空いているスペースへカットインを狙おうとしてドライブの際にリングに対して直線距離ではなく遠回しをしてしまい、効果的なドライブになりにくいケースがある。だが、例えば、45度からのベースラインドライブにしろ、ミドルラインドライブにせよ、また、下で紹介しているドリルにせよ、リングへと向うアングルを意識的に鋭角にする事でペイントエリア付近でのチャンスが大きく変わってくる。

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この日のドリルでは、一度、オフェンスとディフェンスを2人一組に、ドリブラーがディフェンスの後ろを取るような(必然的に身体接触を伴うドライブが必要となる)短いドリルを組み込んだ後に、ピック&ロールを狙う際、ドリブラーが狙うべきドライブレーンについての説明がなされた。

接触に慣れていない選手の場合、接触に対する抵抗がある。その為に、接触に対する抵抗を無くすために、実践的なドリルの前に、本当に行いたいドリルをより効果的に行うために工夫がなされていた。

2on2の攻防が終わったのちに、5on5をラリー形式で行った際には、図のように、トレールのインサイド選手がウィング付近にいるPGにスクリーンをセットするエントリーで攻防を行うように指示。身体接触をいとわずに、より力強くリングに向う事で、X3のディフェンスが寄れば、スペースを埋めるために移動した3にパス。

そのまま、PGの選手が自分でペイントエリアの深い部分まで攻め込めるのであれば、ドリル2の場面を生かしてペイント内で巧みな判断を見せた。

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ラリーが繰り返されるたび、より効果的なオフェンスを展開できるようになり、ディフェンスもそれに対抗すべく工夫をする。実際にプレーをする選手も、見学に来ていたコーチも、発見と学びを実感していたからか、何処か、手応えに満ちた空気感が体育館に漂った。

他にも、パスや、ディフェンス、そして2 on 2を行う上での細かなプレーの指摘や提案が数多くなされたが、紙面の関係上、3つのキーワードを紹介する事で、2014年6月に開催された東京大学男子バスケットボール部内でのクリニックレポートを終わりとさせて頂きます。

現在、NBLはプレイオフ進出を掛けた、激しい戦いが繰り広げられています。伊藤コーチのご活躍にも、ご注目下さい!

   

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。

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