【Basketball Lab連動企画】魅力あるU12クラブの作り方 クラブ運営もコーチングも 原点は「子ども中心」 佐藤申さん
2019年秋頃に『Basketball Lab 日本のバスケットボールの未来。』というムック本が販売された。本書籍は、有限会社ライトハウスの黄川田仁志氏が編集者として辣腕を振るった。株式会社ERUTLUCの鈴木良和氏の書籍等にも頻繁に登場する人物で、バスケットボールと長渕剛を愛するナイスガイだ。一部では「分け入っても、分け入っても、黄川田仁志」または「黄川田、黄川田、雨、黄川田」と、そのハードワークを称賛する人もいる。
閑話休題
同書籍には、GSL編集長の片岡秀一(株式会社アップセット)も編集等(取材協力、取材、記事制作)で関わった。今回、上記書籍の中より、出版社、登壇者等の許可の上で、いくつかの記事をGSLに掲載する。
現在、日本バスケットボール協会でも、年代別、習熟度に応じた指導アプローチの考えを持つ重要性が叫ばれている。同協会が選手育成指針として公開している「Basketball for Life(B4L)」の冊子の中にも、LTAD(Long-Term Athlete Development:長期選手育成)や、選手の成熟過程を把握する為の指標であるPHV(Peak High Velocity=最大成長速度)などが詳しく紹介されている。上記の考えをコーチが把握する事は、強化、育成、普及の側面で有効であり、同協会の理念である「バスケで日本を元気に!」を実現する為に必要な考え方として強調されている。
下記で掲載する「まちだエレファンツ」の取り組みは、選手の習熟度や、発育過程を意識した取り組み。同時に、Basketball for Life(B4L)の冊子9でも紹介されている「育成マインド」・「勝利至上主義でも、育成至上主義でもなく、勝利主義・育成主義」、「オーナーシップ(自分自身で責任を持つ・主体性)を育む」とも関連が深い。
【魅力あるU12クラブの作り方】
クラブ運営もコーチングも原点は「子ども中心」
まちだエレファンツの部員は男女合わせて150人という大所帯。少子化であり、習い事も多様化するなか、なぜこれほどの人気なのか? その秘密、そして指導方針をチームの創設者である佐藤申さんに語ってもらった。
text _ 石川哲也 photo _ 長谷川拓司
少子化に加え、競技スポーツの多様化もあり、ミニバス(U12カテゴリー)の競技人口は2000年代以降、漸減傾向で推移してきた。ここ数年はBリーグスタートの追い風もあって盛り返してはいるものの男子が微増、女子は横ばいといったところ。2018年のU12カテゴリーの1チーム平均登録者数は男子18・95人、女子16・52人で、地域によっては10人集めるのもひと苦労というチームも珍しくない。
そんななか、入部希望者が殺到するチームがある。東京都町田市で活動する「まちだエレファンツ」の部員数は男女合わせて実に150人。今年度も部員募集開始直後から多数の入部希望者が集まり、4月を前に定員を満たして応募は締め切りに。その後も多くの問い合わせを受けているという。数あるスポーツのなかからバスケットボールを、そして多くのチームのなかから「まちだエレファンツ」が選ばれる理由はなにか?
チームの創設者であり、代表、コーチを務める佐藤申さんにお話しを伺った。
目次
勝利至上主義を排し
プレーヤーセンタードを徹底
佐藤代表は京北高校、大東文化大学でマネージャーとしてチームに貢献し、大学卒業後は文化女子大学(現・文化学園大学)で27年間にわたりコーチとして指導してきた。現在は日本バスケットボール協会技術委員会指導者養成部会員、東京都バスケットボール協会指導者養成委員長、東京都ミニバスケットボール連盟技術副委員長も務める。まちだエレファンツを立ち上げたのは、2011年のことだ。
「自分の子どもがバスケットをやりたいというのでチームを探していましたが、当時、町田市には1チームしかミニバスのチームがありませんでした。チームが多いほうが地元の中学のバスケットも盛んになりますし、周囲からの勧めもあって、町田市の育成年代の子どもたちのためになるならという思いでチームを立ち上げました。その後は、市のジュニア育成事業や小さな大会を企画して少しずつその輪が広がり、現在では市内に男女とも5~6チームができて大会も活発になりました。我がチームの卒業生も各中学校に散らばって常時50名以上がプレーをしてくれていますので、それを大変うれしく思っています」
果たして部員は集まるのか? 不安のなかでスタートしたが、初年度すぐに80人が集まり、その後は100人前後で推移。ここ2、3年はバスケ人気ということもあり都市部では男女合わせて30~40人というチームもあるが、150人はU12カテゴリーの1チーム平均登録者数と比較してもまさにケタ違いだ。しかし部員が多ければいいわけでもなく、多いからこその悩みや問題が出てくる。
「私たちの場合、部員数の関係でどうしても6年生までは対外試合に連れていくことが少なくなってしまいます。子どもは練習とゲームを通じて成長しますので、小さいころからゲームを楽しませるということはなによりも大切なことで、より多くのゲーム機会を提供することはクラブの課題となっています。見方によれば、エレファンツは150人もいたらゲームに出られないからかわいそうじゃないかと。コーチが5人いるんだから、5チーム作ればゲームに出られるじゃないかと意見をいただくこともあります。ただ、育成という観点から見れば、1年生から6年生まで同時にゲームに出るのではなく、カテゴリー別にゲームをするのが望ましい。これまでのチームを縦に割って多く点在させる編成の考え方ではなくて、ある程度クラブが人数を抱えながらカテゴリー別にゲームを行っていくということが実現するように、大所帯のまま頑張っています」
それにしてもこの人気ぶり。佐藤代表はチームが選ばれる理由をどう見ているのだろう。
「今の時代はミニバスチーム選びもネットで検索する方が多いようです。エレファンツではホームページにチームの理念、規約、安全マニュアル、会計報告などをかなり細かく公開(一部部員限定)しています。また、どのような資格を持ったコーチがいるかということも顔写真つきで載せて、どういうチームの理念で、誰が教えるのかをはっきりわかるようにしています。そういったクラブの基本情報をしっかり伝えることはとても大切で、最初に保護者の信用を得る大切な部分だと思っています。一度、体験や見学に来てもらえれば、子どもたちがとにかく楽しくバスケをやっていますし、上級生が体験に来た子を囲んで本当に親切に面倒を見るので、体験の保護者がその姿を見て、入れてみようと思ってくれます。練習準備や清掃も自ら率先して行い下級生に優しく接する上級生の姿や、とにかくバスケを楽しんでいる様子が口コミで広がっていくようで、そういったクラブの様子はお願いしなくても保護者の皆さんがどんどん宣伝してくれますから(笑)。小学生は自分でこのコーチに教わりたいとか、このチームでプレーしたいと選びませんから、保護者がこのコーチに預けたい、このクラブの一員にしたいと思われるようなクラブを作ることを心掛けています」
◇入部希望の保護者には、必ずチーム理念を説明
部員数が多いのは、入部希望者が多いだけでなく、退部者が少ないということでもある。入部後に「思っていたのとは違った」ということにならないよう、保護者との理念の共有を佐藤代表は大事にしている。
「入部希望の保護者には必ず30分くらいかけてチームの理念について向き合って話しをします。まず『優先順位の1番は家族、家庭の生活のリズムを大事にしてください』。続けて『2番は勉強、小学生ですから文武両道は当たり前です』。そして『3番がバスケと文化活動と遊びです』と。またゴールデンエイジと呼ばれる子どもの身体能力、運動能力が著しく発達する時期には、試合に勝つテクニックよりコーディネーショントレーニングなどをたくさん取り入れて、個々の能力開発のほうが重要だということをしっかり説明します。そして、練習は休んでも構わないとも言います。小学生ですから1回の練習よりも家族旅行で思い出を作るほうが大切です。それに毎日に練習出てもらわなくちゃダメだとか、休むとうまくならないとか、あえて言う必要はなく、週に1日でも練習に来てバスケが楽しくなれば、子どものほうから進んで練習に来るようになる。もう1日多く行きたい、全部行きたいと。バスケに行きたいから習い事をやめたいと言いだして、慌てて止めるなんてこともあるくらいです(笑)。入会の際に練習に来る約束をする必要はなくて、私たちが練習に来たくてしょうがない子どもを作ればよいことですから。私たちの活動はいつでも子どもを中心に考えることを原則としていますので、ほかの習い事があるなら、ぜひそちらも頑張ってくださいと言います。ですからほかの習い事との両立も子どもにとっていちばんいい選択をすればいいと思っています。試合に勝ちたいから習い事の発表会などを休めというと、その子のバスケット以外の違った可能性を狭めることになるし、保護者も困ってしまいます。休んだ子どもの代わりに出場する子には大きなチャンスが来ますよね。もちろんこれは小学生だからということでもあり、カテゴリーが上がって勝利を目指すチームとなれば話は違ってきます」
プレーヤーセンタード、子ども中心の考え方になれば、目先の試合での勝利より育成に主眼が置かれることになる。これについても保護者との理念の共有が必要だと佐藤代表はいう。
「私も子どもたちには頑張って試合に勝とうと言います。それは勝つために準備をすることが素晴らしいからで、コンディションを整えて、一生懸命練習をして、仲間と協力して試合に臨むことが大切ですから。しかし、試合に勝つこと以外にもっと大切なことを私たちコーチと保護者が忘れないようにしたいと思っています。育成年代のゲームでも本当に大差をつけて相手を完敗させるというゲームを見かけますが、そういったことも変わっていかなければならない部分だと思っています。力の差があるチームに終始プレスディフェンスを仕掛けて、ほぼノーマークのレイアップの繰り返しでは勝っているチームも成長しないし、相手チームはバスケがつまらないだろうし、勝ったチームの子どもたちにも優越感だけが残ったら心の成長にも影響があるのかなと思います。私は点差がつくと、相手チームのシュートも入ってくれと本当に思うし、もっと競技経験の浅い選手を投入しなければならないと思います。レギュラーを出し続けて完封するよりも、競技経験の浅い選手を出せばお互いが成長します。私たちも成長し相手チームも成長する。それが育成の環境ではないかと思うのです。また、エレファンツでは試合に出るとか、活躍したとかいうこと以外の価値を強調しています。たくさん試合でシュートを決めた選手も素晴らしいけれど、一生懸命ベンチで応援している選手も素晴らしい。保護者にも自分の子だけでなく、エレファンツ全員を、さらには試合会場にいる子どもたち全員の成長を願ってくださいとお願いしています。エレファンツの勝利だけを願うのではなくて、ここは育成の場だから相手チームの子も成長しなくてはいけないと。そういう雰囲気を作って、そのなかに入ってきてもらえば、自分の子がなんで出られないのかというような不満の声は上がらないし、勝てる試合をなんで落とすんだというようなことも言われない。試合に負けても『今日はみんな試合に出られてよかったね』って言ってくれます」
インタラクティブコーチングで
子どもの成長を促す
プレーヤーセンタード、子ども中心のチームの理念は練習での指導にも現れる。
「チームスローガンに〝smile〟を掲げていますから、コーチも笑顔で指導することを心がけています。とはいえ、時には私も厳しく指導することもあり、やってはいけないことをやったり、明らかに練習の邪魔になったりする場合は大きな声で叱ることもあります。でも技術的な失敗などを感情にまかせて叱責してはいけないし、仮に大きな声を出して指導したとしても心では笑っていなければならないですね。子どもたちには安心して失敗できる場を提供したいと思っています。そうすればチャレンジするようになりますから。試合や練習でも、これはダメ、あれはダメといちいち指摘すれば子どもは委縮してしまうし、何より楽しいという気持ちがなくなってしまいますからね。私もプレー中に子どもの判断の機会を奪うような声かけは慎まなければならないのですが、その点はまだまだ反省の日々です」
まちだエレファンツの特徴的な指導法に「インタラクティブ(双方向)コーチング」がある。コーチがドリルを一方的に教え選手が受動的に練習を行うのではなく、選手たちが主体的に仲間と協力しながら技術を高め、能動的に練習し成長を促す指導法だ。
「例えば教室での座学のように教える側からの一方的な教授で、どれだけ子どもたちの脳が動いているのかということです。一方的にレクチャーをして、わかったか! と言えば、みんな元気よくハイ! と言います。でも、やらせてできるのは10人中3人位でしょうか。あとの4人はなんとなくわかっているような感じでついてくる、残り3人はあまり理解できていないか、そもそも話しが聞けていない。それが悪いのではなくて、小学生ですから成長の度合いや興味の度合いによって、そういうことが早くできる子と、そうでない子がいるのです。なんとなくその場にいたり、集中力を欠いていたり、目が合わない子に質問を投げかける、子ども同士でお互いに意見交換させる。そうやって質問し、発言や発表をさせることによって双方向のコーチングを行うのです。発言するためにはしっかり聞かなければならないので、子どもたちの目つきが変わってきます。そもそも話しを聞けていない子に、何度言ったらわかるんだ! って怒ってみても、それはわからないでしょう、ということなのです。また、コーチはティーチングポイントをすべてレクチャーして練習を開始することが多いと思いますが、あえてすべてをレクチャーせずに開始します。そして子どもたちがつまずいたときに考えさせ、ディスカッションから答えを見つけさせます。子どもたちが考えて自ら答えを出していく部分を残しながら練習をするのですが、こうして学んだことは一方的に何度もコーチがレクチャーするよりもしっかりと子どもの中に浸透していくようです」
◇子どもたちが自分の考えや意志、判断に基づいて行動するように促してあげる。
インタラクティブコーチングでは子どもたちとの対話の場、ミーティングが重要になる。
「エレファンツではミーティングやディスカッションを大切にしています。問題提起して、話し合わせて、発表する。子どもたちが自分の考えや意志、判断に基づいて行動するようにうながしてあげるのです。例えば6分間連続で走るというエレファンツではキツい練習をするときにも、苦しくなったらみんなはどうするの? と簡単なディスカッションをしてから開始する。そうすると「苦しいときこそ頑張る!」「終盤ペースが落ちないようにする」など、子どもたちはしっかりとした発言をします。自分で決めたことはやりますから、顔を真っ赤にして頑張りますよ(笑)。練習の準備や後片づけでも、重い荷物と、軽い荷物がありますね、どちらを持つ選手になりたいですか? なんて問いかけます。子どもたちは「重い荷物を持ってチームのためになりたい」とか「6年生が重いものを持てばいい」なんて答えてくれます。子どもたちはどうすべきかというよい答えをしっかり持っているので、そこを引き出してあげればいいのかなと思っています」
しかし、インタラクティブコーチングは従来の一方向の指導法と比べて時間がかかる。そこが我慢のしどころだ。
「新チームに切り替わった際に練習準備に時間がかかりすぎて、新6年生に何が問題か、どうしたらいいかを問題提起をしました。その日は練習が2時間しかないのに、1時間近く問いかけの答えを待ったんです。時間が経つにつれ、もう集合させて問題点を言ってしまおうかなと思うのをグッと我慢する。もし口を開いてしまえば、今まで黙っていたのが無駄になってしまいますから、とにかく辛抱でしたよ(笑)。子どもたちは答えが見つからなくてシーンとなってしまうけれど、コーチが口を開かないとわかると、みんな時間を気にしだしたりして、意見が出始める。みんなが輪になって駆け寄ってきて自分たちの考えはこうですということを言ってくれたときは、本当にうれしかったですよ。待ったかいがあったと思うし、どんなドリルをするよりも貴重な1時間になったなと思いました。インタラクティブコーチングはすごく時間がかかる。試合で勝とうと思えば、あれもやらなければ、これもやらなければでとてもやりきれない。だから私たちは捨てるものは捨てて、対話の時間を確保する。そのほうが子どもたちも活き活きするし、保護者もそういう姿を見れば、コーチの一方的な指導を見るよりも、自主的に楽しそうにやっているなと感じてもらえるでしょうから。そんな感じですから、とくに年度の初めはまったく試合にならずにいつも大敗です。でも、これが不思議なもので年度が終わるころには、ちゃんと戦えるようになる。子どもたちは人間的にも、技術的にもちゃんと成長するんですね。心の成長が先で技術はあとからついてくる。それで十分じゃないかなと思うのです」
指導者としての転機になった
『勝利へのコーチング』
指導者は自身が受けてきた指導を基礎に指導法を組み立てていくことが多い。高校、大学と強豪校で揉まれ、従来型の指導を受けてきた佐藤代表が、プレーヤーセンタードや、インタラクティブコーチングのような先進的な理念、指導法にたどり着くまでには、どのような経緯があったのだろう。
「私自身が育った環境は指導者に恵まれてとてもよい経験をしましたが、常時、厳しさの中で育ち、時には愛のムチが許されていた時代でもありました(笑)。今、振り返ると27年前に文化女子大学で指導することになったときはワーワー怒鳴っているだけのコーチでしたね。選手にうまくなってほしい、勝ってほしいという情熱に嘘はなかったのですけれど、指導法がよかったとは少しも思わない。根性論を振りかざしたり、プレーが下手なことを怒鳴ってみたり、厳しい指導をはき違えていた。私たちの大学は経験の少ない選手やほとんど初心者という選手も入ってきているのに、全国で戦うようなチームの練習をやらせたってヘトヘトになるだけで、キャッチもできないのにフォーメーションをやらせ、バスケを始めたばかりの子にスクリーンをやらせるんですから。うまくいくわけがない(笑)。今、思えばコーチングしている〝ふり〟なんですね。でも自分は指導者としてこんなに頑張っているのになんで目標にたどり着けないんだと。歯がゆさを感じていました」
コーチとなって10年目、その後の佐藤代表の指導に大きな変化をもたらす出来事が起きた。
「大学連盟の3部と4部を行ったり来たりしていたのですが、附属校から経験者が数名入ってきて3部に上がれた年のことです。その年の1年生にとても上手な選手が入部したのですが、その選手が試合中にコートから私にタイムアウトを取れと要求してきた。もうおまえにはベンチを任せられないということじゃないですか。それも入部したばかりで少し前まで高校生だった子ですから、ガクッときましたね。自分はどれだけ信用されていないんだと……」
自問自答して悩みの中にあった佐藤代表に助け船を出したのは、現在、共にまちだエレファンツで指導にあたる、夫人の祥子さんだった。
「当時、私も大学のスタッフに入っていましたから、うまくいかなくて悩んでいるなというのは、そばで見ていてわかりました。それでたまたま行った東京体育館で見つけたバスケの専門書に、とてもいいことが書いてあったので、コピーして何気なく渡したんです」
祥子さんが渡したのは、全米優勝5回、伝説のハイスクールコーチと称されるモーガン・ウットゥンの『勝利へのコーチング』だった。この一冊を手に取ったことが、佐藤代表の指導者としてのターニングポイントになる。
「この本にはさまざまなコーチとしてのあるべき姿が書かれており、読み進めていくと自分にはまずコーチングフィロソフィーがないとも思った。そして、選手には教えるのであって決して恥をかかせてはいけない。バスケットを教えるうえで選手の自尊心を傷つけることをしてはいけない。そう書いてあったのです。自分はどうか? 選手にダメ出しをして、できないことを何回もやらせて、怒鳴って恥をかかせる。ここに書いてあるダメなコーチって自分じゃないかって思ったのです。コーチすることがなんたるかもわからないのにわめき散らすコーチを見たら、あなたじゃ信頼できないからタイムを取れと言われるのも仕方ないなと。それからはこれまでのコーチングの時間を取り戻したい一心で勉強するようになりました。しかし、勉強すればするほど知らないことが多い自分に気づくのです。とにかくこの本のかげで指導歴10年を過ぎてから、新たな気持ちでコーチとしての活動を再スタートしました」
未来ある指導者に
1日でも早い「気づき」を
子どもを取り巻く環境が大きく変化しているなかで、プレーヤーセンタード、子ども中心を徹底し、保護者が子どもを安心して預けられるクラブであることが、まちだエレファンツに入部希望者が殺到する理由であるのは間違いないだろう。佐藤代表がこれまでに築いてきたクラブ運営のノウハウや、インタラクティブコーチングのような指導法はこれからのU12バスケ界に必要な考え方であり、多くのコーチのヒントになるのではないか。
「バスケットボールの技術や選手の育成方法も日々進化しており、コーチをする以上カテゴリーを問わず学び続ける覚悟が必要ですね。クラブの運営方法についてもその時代のニーズに合わせて変化していく必要があるのではないかと思っています。また、現在、私の活動の中心となっている指導者養成の観点から考えると、育成年代のコーチングではプレーヤーセンタードに基づくインタラクティブなコーチングが広がっていけばいいなと思っています。私は10年間コーチをしてやっと学ぶことの大切さに気づいたけれども、その10年という時間がとてももったいなかった。今はさまざまな場面で積極的にコーチングを学んでいる指導者も増えているのですが、今後はもっともっとコーチ同士が共に学び合い、共に成長できる環境ができればいいなと思っています。元サッカーフランス代表監督、ロジェ・ルメール氏の『学ぶことをやめたら教えることをやめなければならない』の言葉を胸に今後もエレファンツの子どもたちの育成や指導者養成の事業も頑張っていきたいと思っています」
まちだエレファンツでは、卒業していく6年生に『High Five!』と題した卒業アルバムが贈られる。子どもたちの笑顔いっぱいのカラー写真が載った、思い出が詰まった小冊子で佐藤代表自ら編集している。『High Five!』はクラブを象徴するアイテムになっている。
「心から楽しいというだけでバスケができるミニバス時代の思い出を大切にしてほしい。中学生、高校生になれば、楽しいにプラスしてさまざまな試練や壁も待っていますから。そんな時に『High Five!』を手に取って、バスケットは楽しいものなんだという原点を思い出してほしいですね。実際に卒業生が自分の机の中に入れておいて、壁にぶつかったときにパラパラめくっているなんていう話しを親から聞くと、作るのはなかなか大変ですが、これからもやめるわけにはいかないですね(笑)」
ここにも佐藤代表のプレーヤーセンタードの理念が貫かれている。部員数の増加とともに年々、ページ数が増えており、来年の3月には今までで最も厚みのある『High Five!』が贈られる。
■
profile
佐藤 申(さとう・あきら)
1968年東京都出身。京北高校、大東文化大学ではマネージャーとしてチームに貢献、1991年に勤務校である文化女子大学(現文化学園大学)で指導を開始し、2011年に地元町田市にクラブを創設。2014年から東京都バスケットボール協会の指導者養成委員会に所属し2016年同委員長、これまで1500名以上のライセンスコーチを養成する。日本バスケットボール協会技術委員会指導者養成部会員、東京都ミニバスケットボール連盟技術副委員長、JBA公認コーチデベロッパー、A級コーチ
この記事の著者
-
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。