【書評】バスケットボールの教科書 <2>戦術と戦略の核心

GSLでは、共同編集長の片岡秀一が個人のSNS内(2017年頃)で同書籍の書評を投稿している。下記、当時の内容を微修正し、GSL内で投稿。同様の内容は、同社代表の鈴木良和氏のブログ内でも公開されている。

同社は、3つのミッション「より多くの子ども達になりうる最高の自分を目指す環境を提供する」・「チームスポーツだからこそできることで教育に貢献する」・「世界で最もビジョナリーなコーチチームを作る」を掲げている。また、同社は「バスケの家庭教師」で有名な出張指導以外にも、多岐に渡る事業に取り組んでいるが、上記ミッションを源とする取り組みだ。本記事は過去のSNS投稿の再掲載に過ぎないが、書籍の導入になれば幸いである。

【書評】バスケットボールの教科書 <2>戦術と戦略の核心

 

「バスケットボールの家庭教師」で知られる株式会社ERUTLUC代表である鈴木良和氏による全4部作の第2弾は「戦術と戦略の核心」を扱った内容だ。

この書籍は、様々な強豪チーム、著名なコーチから戦術を勉強するも、なかなか成果に繋がらずに頭を悩ませているコーチにとって特に意義がある書籍であるように感じた。

その理由は、著者の鋭い分析にある。「多くの指導者が勝利したチームからの成功の秘訣を知りたいという欲求」を持ちつつも、「その秘訣として取り上げられるものが戦術的な情報というのは、多くの指導者が勝利の要因として戦術に重きを置いている」と語る。そして、「成功したチームが使っていた戦術を使うことで、自分たちもチーム力が向上すると考えている」という分析の上で、「残念ながら戦術は単なる模倣では成果に繋がらない、それはチームによってあらゆる条件が異なるので戦略が異なり、戦略に基づいた戦術でなければ勝利の可能性を高めることは難しい」と警鐘を鳴らす。

本著の特徴は、戦術と戦略のミスマッチを解消するというだけではなく、戦略と戦術の立案方法に目を向けている事だろう。例えば、シカゴブルズ、レーカーズのトライアングルオフェンス、サンアントニオ・スパーズの華麗なボールムーブメントなど、レブロン・ジェームズとカイリー・アービングを起点としたキャブスのオフェンスシステム、ステフ・カリーやクレイ・トンプソンの特徴を生かしたゴールデンステイト・ウォーリアーズのオフェンスシステムやフォーメーションプレーなど、バスケット界で注目を集める戦術についての説明は少ない。その代り、how(どのように)、そしてwhy(なぜ?)について多くのページを割く事で、読者に思考ツールを与えようという試みがなされている。

まず、書籍は「バスケットボールというゲームの勝利の原則」の説明からスタートする。さらにいえば、ニュートンの万有引力、コンパスが北を指す事をを引き合いに、「原則とは何か?」という説明が入るのが鈴木良和節か。「原則に逆らわないということは本質的な事であり、我々にとっては極めて重要なものなのです」

上記は原則とは何かの章で強調して書かれている言葉である。本書を読む進めていくうえで、この言葉の真意や深さを読者は思い知らされることになるはずだ。

原則についての定義をしたうえで、バスケットボールを構成する様々な要素を取り出し、勝利の原則の説明へと移る。試合時間、24秒で移り変わる攻防権、3種類の得点(3Pシュート、2Pシュート、FT)など、バスケットボールという競技を構成する因子を丁寧に紐解いていく。

その後、戦略、戦術の立案へ移行し、スペーシング、オフェンスの戦略、戦術、ディフェンスの戦略、戦術、リバウンドやファーストブレイクの考え方へと壮大なストーリーが流れていく。一つ一つを取り出していくのは困難なので、ここでは割愛する。

本稿筆者が特にお勧めしたいのは、見開きの紙面で説明されているトピックスだ。『P48 戦略の出発点』、『P.82育成年代における戦術』、『P106オンボールディフェンスの成果と成長』など、興味深いテーマが並ぶ。ここを読むと、ゾーン禁止、マンツーマン推奨を「ルール」として導入したJBA側の意図や狙いを理解する一助にもなると感じた。

下記、極めて個人的な経験と紐づけて、未来のバスケ界に本書の与える影響や価値を改めて考えたい。

本稿筆者は、以前、高校生世代の某全国大会の選手名鑑において、チーム紹介のライティングを担当する機会があった。編集物が依頼をした共通のヒアリングシートへの返答、自分の取材などをベースに規定の文字数で執筆をする必要性があった。チームの狙い、コンセプト、目指すバスケットスタイルを伝え、観戦時の注目点を伝え、観戦体験の質を高める事が冊子の目的だ。頂いた資料の多くのコメントの中に「チーム全員で守って、走って速攻を出したい」という言葉が並び、10数チームを担当する人間としては非常に困ったことがある。事実、疑うことなく、バスケットボールでチームが勢いに乗るのは、守って、走って速攻を出す場面である。

だが、返答をしたコーチ側も、与えられたスペース内に詳細まで記載する事は難しかったのだろうか。「チーム全員で守って、走って速攻を出したい」というワードが並んだ。実際のゲームでは、非常に多彩な戦術が展開されている様子も何度も目にした。各チームには明確な戦略があり、戦術の立案方法にも確固たる方針があるはずだ。また、その過程で膨大な思考や、創意工夫もコート上で展開されており、この魅力を伝えきれなかったことを非常に悔しく感じた事がある。

細かな戦術的な部分を観戦者に伝えても分からないという考えも影響したのだろう。そもそも、質問自体も、全体的な大枠を聞くだけの質問で、深掘りがなされていなかったのかもしれない。いずれにしても、観戦者の中にはコーチ活動をしている人や、コーチ志望者、未来のコーチ候補生も数多くいたはずだ。『バスケットボールの教科書 <2>戦術と戦略の核心』で紹介されている考え方がバスケ界の常識になれば、コーチ側も遠慮する必要がなくなり、各種の出版物や、選手名鑑などもさらに奥深い情報コンテンツになり、バスケットボールの発展に繋がるとも感じた。

最後に。

本書籍シリーズの特徴は、難しくなりがちな概念や理論を、極めて分かりやすい言葉で、かつ、読者が混乱しないように非常に巧みな構成で整理されている事だ。それは、株式会社ERUTLUCの3つのミッション「より多くの子ども達になりうる最高の自分を目指す環境を提供する」・「チームスポーツだからこそできることで教育に貢献する」・「世界で最もビジョナリーなコーチチームを作る」を実現する方法の一つとして本書籍が存在するからに違いない。

この後、書籍は後半の2冊へと続く。主題は「チームマネジメント基礎」と「指導者の哲学と美学」とある。ジョン・ウッデン氏が提唱し、株式会社ERUTLUCでも頻繁に用いている「成功のピラミッド」をベースとし、それを織りなす各項目についての説明もあるようだ。各構成要素を、引力(選手にとってチームへの忠誠心を生み出したり、魅力となる事)と斥力(組織を運営、発展させていくために必要な規律など)と分類し、チームビルディングについての見解が紹介されているという。

 

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。