隻腕のバスケットボール選手が教えてくれたこと −ザック・ホドスキンズ(フロリダ大学ゲイターズ)−

何かのせいにするのは一番簡単だ。

「あいつとは環境が違う」
「俺には身長も才能もない」
「勉強もしなきゃいけないし」

神様は僕に閃きを与えてくれる力を恵んでくれた。そしてそれは、人生の目標が常にあるということなんだ。

これが誰の言葉か分かるだろうか? プロアスリート? 大金持ちの成功者?

違う、これは16歳のバスケットボール選手が語った言葉だ。ただ普通の選手と違うのは、彼には「片腕の肘から先がない」ことだ。

隻腕のバスケットボール選手、ザック・ホドスキンズ(Zach Hodskins)

彼はジョージア州アトランタにある、ミルトン高校バスケットボール部イーグルスの一員だ。イーグルスはAAUに所属しジョージア工科大学やオハイオ州立大学といった全米でも有数の強豪校に卒業生を輩出していることからも分かるように、非常に高いレベルのチームだ。

隻腕の選手にバスケットボールはできない? 恐らくこれを読んだ人は、「どうせ彼はチームのマスコットで、シーズンの最後の試合に数分出場する選手なんだろう」と思うかもしれない。しかし彼は、昨シーズン平均12点、3P確率60%という数字を記録している。そしてNBA選手を複数輩出しているUAB(アラバマ大学バーミンガム校)から「スカウト」を受けている。

彼のプレーを見てほしい。日本のトップの高校生と遜色ないか、それ以上かもしれない。

1996年。彼が生まれたとき、両親はひどく動揺したが、「腕がないことを除けば、彼は健康だった。そしてそれを受け入れ、とにかく生きていくしかないんだと、私たちは知っていたんだ」と語っている。奇しくもスポーツ一家に生まれたザックは、サッカーや野球、サーフィンなどあらゆるスポーツに没頭していった。そしてザックは、この環境を自身が受け入れるだけでなく、周りからも受け入れられることになった。

みんなが僕の腕がない理由を聞くんだ。そのときはサメに食われたんだと答えてる。それを聞いた相手の顔ったらないよ。

こんな具合に、前向きなだけでなく、彼は努力家だった。父親は語っている。

「かなり昔、ある日彼は右手を包帯でぐるぐる巻きにしていた。大げさじゃなくて、練習をしすぎて全ての指先から血が滲んでいたんだ」

イーグルスのコーチ・キースはこうも語っている。

「ザックはコート上で常に全力でプレーしている。誰にも、何にも恐れることはなく、彼ができないことはないと言わんばかりに、自信を持っている」

対戦相手は、僕がプレイできるとは思っていないし、あるいは何をすべきか分からないみ たいだ。だけど僕が最初のシュートを決めるか、相手を抜いたとき、彼らは目が覚めるんだ。するとようやく彼らは激しくプレーしてくる。それがたまらなく好きなんだ。それが、彼らが敬意を示してくれたってことだと分かっているから。僕は本当にそれを求めているんだ。

どこまでも前向きで向上心がある彼を知るにつけ、自分の恥部がさらけ出されるようでむず痒い。現役時代の自分は、何かを言い訳にしてなかったか? 今は? 昔でも今でも、彼ほどのハンデを背負ったことがあっただろうか(彼はハンデと考えていないだろうけど)? そしてあなたは何を感じるだろうか?

“If you feel down in life, if anything is holding you back, don’t let it. Go out there and do your thing. Follow your dream,”
「もし君が人生に失望して、何かが君をためらわせているのなら、そのままでいてはダメだ。そこから抜けだして、やるべきことをやるんだ。自分の夢に従うんだ」

ザック・ホドスキンズ

※編集部注(2017.8):ザックはその後強豪フロリダ大学の練習生となり、2年間で11試合に出場後カットされたようで、現在の所属は不明。

この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他