インタビュー:小泉明彦(neoうめや)その7
大好評シリーズ。neoうめや小泉さんのラストインタビュー。
コーチングの話題に戻ります。小泉さんの立場から見て、今後の日本のスポーツコーチングに望むことはありますでしょうか?
まず、ありきたりではありますが、特に小中学生のコーチングについては、目先の勝敗ではなく個人のスキル向上やバスケットボールという競技の理解を優先し、子供達が更に上のカテゴリーでも活躍出来るための指導を徹底して欲しいと思います。子供達にバスケットボールを大好きになってもらい、上手くなりたい、長く続けていきたいという気持ちを醸成することが最重要であることも言わずもがなです。
最近子供がミニバスを始めたので試合を観る機会が多いのですが、全部が全部ではないものの、目先の勝利を優先しているように感じられるチームが結構見受けられます。
試合でもしっかりとしたバスケットボールの基礎的なプレイが行われるためのカテゴリー独自のローカルルールを、例えば小学生であればゾーンディフェンスやオールコートディフェンスの禁止、中学生であればショットクロックの延長など、何が正解かは判りませんが試行錯誤しながら取り入れていくといったことも一つの策だと考えたりもします。
ちょっと違う観点からは、バスケットボールに限らず指導者は選手にスポーツだけでなくしっかりと勉強をする習慣をつけてあげて欲しいと思います。
例えスポーツ強豪校に進学した優秀な選手でも、大学・社会人(プロ・実業団)と進むにつれトップレベルでプレイを続けられる選手は限られてきますし、誰しもいつかはその競技以外の仕事を生業として生計を立てる日が訪れ、その後の人生のほうが長くなります。 その際の選択肢を広げる意味でも勉強を通じて学んだことや勉強をする習慣は非常に重要になりますし、それ以前にも、スポーツ以外のことからいろいろな事を学び人間力を高めることは、スポーツ選手としてレベルアップするためにも重要なことだと考えます。
話がコーチKに戻りますが、コーチKは大学コーチとして、学生である選手の授業のスケジュールを優先して重ならないよう練習スケジュールを組んでいるそうです。 こうして、しっかり勉強させることを重視するのもそういうことからだと思います。
また、バスケットボールでも最近は優秀な高校生が海外にチャレンジするケースが増えていますが、学業面でついていけず途中で断念したり、成績の問題でNCAAへのステップアップの道が閉ざされて日本に帰ってきたといった話を聞くと、折角の世界に羽ばたけるバスケットボールの才能が埋もれてしまっているようで本当に残念に思います。
日本のバスケットボールは学校の部活動が中心で指導者も教員であるケースが多く、文武両道の指導がし易い環境にあるはずですので、子供達の将来のために是非実践して頂きたいです。
また、実業団/クラブチーム/シニアバスケットボールという世界で長く競技に関わられている中で、若い世代の選手へのアドバイスや提案があれば、是非、ご教示下さい!
たいしたキャリアも実績もない私から若い世代へのアドバイスなどおこがましいですが、しいて言えば前述の通り、特にトップリーグや海外のプロリーグ等を目指す選手には、バスケ馬鹿にならないよう学生時代にしっかりと勉強もしておくことを勧めたいです。
例えば国内男子では、現在はJBL、JBL2、bjを合わせると40以上のチームがあり、トライアウトなどチャレンジの間口も増えているため、トップリーグでプレイするチャンスは以前より広がってると言えると思います。 しかしながら、我々の頃はトップリーグの日本リーグ=実業団(企業チーム)で、新卒扱いで正社員として企業に入社し現役時代からバスケットボールをやる傍らで業務を行っていたり、チームによっては現役時代からバリバリに仕事をこなして、引退後の雇用も保証されていましたが、現在は多くがプロ契約(もしくはバスケットボールを業務とした嘱託社員契約)となっており、引退=失業という厳しい環境でもあります。
これは大きなリスクを抱えてのチャレンジとなり、引退後20代後半や30代で新たな仕事を始めるとなると、例えば企業への就職であればキャリア採用ということで即戦力を求められる訳で、希望の仕事に就くのは簡単ではありません。
そのために、現役時代からセカンドキャリアの準備をしなくてはなりませんが、その際には学生時代からの勉強をする習慣が重要になります。 逆に、バスケットボールでトップリーグにチャレンジする程の努力が出来る選手が勉強をする習慣を身につけていれば、しっかりとしたセカンドキャリアの準備が出来ると思います。
もちろん、プロを目指す人だけではなく、卒業後は社会に出て仕事をしながらクラブチームでバスケットボールを続ける人や、学生までで引退するという人も、就職自体がセカンドキャリアであり、就職活動への準備として全く同じことが言えます。
私の身近でプロ契約に移行した人達は、学生時代からちゃんと学ぶ習慣を培ってしっかりとセカンドキャリアの準備をし、引退後はそれぞれの職業について活躍しおり、今でも一緒にバスケットボールをプレイしたり、酒を酌み交わしてバスケットボール談義をしたりと、充実した生活を楽しんでいます。
引退後の長い人生でも充実した生活を送れて初めてバスケットボールキャリアの成功と言えると思いますので、選手自身にはしっかりと考えておいて欲しいですし、指導者は選手にそういう部分でもしっかりとコーチングして頂きたいと思います。
また、リーグ側としても選手のセカンドキャリアの問題にしっかりと取り組んでもらい、日本に於いてのバスケットボール競技が、若者により夢や魅力を感じてもらえるものになっていってほしいと切に願っています。
(interview 2013.3 片岡秀一/UPSET)
この記事の著者
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1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。