インタビュー:片岡秀一(株式会社UPSET) 前編

インタビュー:片岡秀一(株式会社UPSET) 前編

コーチKとの出会い、最初の印象などをお教えください

私とコーチKとの出会いは二段階に分けられます。第一段階は、NCAAとの出会い。第二段階で、NCAAの中のデューク大学を知りコーチKを知りました。NCAAとの出会いは高校時代の恩師である小藤保男氏のバスケット哲学がNCAAをベースとして構築されていた事に起因します。一つは、ノースカロライナ大学のディーン・スミス氏の教えが恩師の口癖でした「PLAY HARD(一生懸命やろう)、PLAY SMART(頭を使い賢くバスケットをやろう)、UNSELFISH(自己中心的にならないように)」。

また、これはディーン・スミスの言葉なのかは分かりませんが「ALWAYS BE ALERT(常に注意深く)」という言葉も教わりました。その他にも、「LOOK INSIDE(インサイドを見よう)」「CATCH THE FLOOR(極力、地面に足を付けて確実なプレイをしろ)」などなど、バスケの格言を数多く教った事が貴重な経験となっています。

次に、デューク大学との出会いですが、グラント・ヒルの特集ビデオを見ていた際にデューク大学の出身であり、文武両道の素晴らしいアスリートであることを知ります。その後、ヤングメン世界選手権でクリス・デュホーンを知り、なぜ、デューク大学は強いんだという話になりました。「コーチがとても優秀な人物らしい。」「コーチKと呼ばれているらしい」「コーチK?Kevin?」「いいや、シャセフスキー(Krzyzewski)」「え??コーチSではなくて?」「実は・・・」というような入口です(よくある話じゃないかと思います笑)。

その後、世界大会で実績が出ずに苦しむ米国のバスケット代表チームを誰に任せるかという話になった時に、デューク大学のコーチKが就任、という話を聞き、数々の報道と、実際に五輪で展開された強固なディフェンスの米国代表チームを映像で見て、統率力のある素晴らしい監督であることを改めて実感しました。

本書を読んだ感想。コーチKに対する再評価、全体を通して学んだことなど

選手、監督、スタッフで目標を共有すること。そして、それを実現するための手段についても共有することの重要性を再確認しました。そして、そのためにどのようなプロセスや手順を踏めば、グループのルールであったり、「ルール」よりももっと能動的な含みのある「スタンダード」が構築されているかということを学びました。

社内での仕事において、社外の人と行う仕事上のプロジェクトを進めるにあたっても「スタンダード」という感覚はとても大切なことのように思い、意識するようにしています。コーチが選手に対して要求する価値観や行動規範を押し付けるのではなく、互いに、互いの目的や、互いに成功をするために選手と監督とで「スタンダード」を築き上げていくという考え方にとても共感できました。

本書の中でコーチKも言っていますが「規則はチームワークを作り出さないが、スタンダードは作り出す」という言葉がピタリと心に入りました。

もちろん、リッツ・カールトンのクレド(信条)である「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen”(紳士淑女をおもてなしする私たちも紳士淑女である)」のように、あらかじめに素晴らしい理念が組織の中で決められているのも、それが志の高く、それを目指す過程で友情やチームワークを育む内容である場合は共感できます。

日々、様々な状況があり、様々な判断や選択が迫られるスポーツ、またはチームとしての行動で、明確かつ簡潔な言語で数々のスタンダードがまとめられていることには本当に感動しました。

本書で最も印象に残っている言葉、エピソード、またその理由を教えて下さい

スタンダードを構築するための時間の章です。

「私たちが話す時には、お互い相手の目を見て、本当のことを言って、お互いを一人の大人として接する事にしよう」この誠実で尊敬に満ち溢れたコミュニケーションの結果として、私たちは信頼を築き上げるであろう。(P105)

そして、その後に選手からの意見で「スタンダード」を決めていくのですが、その際に、コーチKが事前にリーダーになりうる選手に個別にミーティングを開いていること。そして「君たちにしゃべってもらう必要がある」と語り「君が言いたい事を言ってくれ。でも、何かを話す時には、心から思っている事を話してほしい」という風に、正直な意見を求める部分。

全体での会議を円滑に進めるにあたって、コーチKでもこのような事前準備や、個別の依頼をするということへの新鮮な驚きに加え、それでも「心から思っている事を話してほしい」と、肝心の部分については選手自身の価値観や能動性に委ねる部分が印象に残りました。

こういう場面で、悪いリーダーや、メンバーを信頼していないリーダーの場合は「○○は▼▼と言ってくれ」と発言にまでリーダーの意思を含ませがちですが、誠実を重んじるコーチKだけに、肝心の部分は選手の意思に任せる。だが、任せるだけ、野放しにするだけではなく、必要だとか難じる手順はしっかりと踏んでおく事。この部分の「感覚」に感激を覚えました。

(interview 2012.1.04 岩田塁)

インタビュー後編はこちら

片岡秀一(カタオカ シュウイチ)
株式会社UPSETマーケティング部。埼玉県バスケットボール連盟競技委員。全日本総合選手権競技スタッフ(05年~現在)。バスケットボールの誕生日実行委員。BMG(Business Model Genaraion) for sports委員長。1982年4月28日生まれ。埼玉県春日部高校バスケ部在学中に、小藤保男(現白岡高校バスケ部顧問)氏の指導に感銘を受けバスケットボールへの好奇心を募らせる。埼玉県クラブ連盟をプレイグラウンドとして競技を続け、初年度から参戦している埼玉県の私設トップリーグであるEIGHTLEAGUEでも4年目にして念願のファイナルに出場決定。
また、2004年頃から、報道機関の無いクラブチームのバスケット界でのローカル情報発信基地としてブログ「片岡タイムズ」を開設したところ、一部でカルト的な支持を受ける(本人も困惑)。趣味は老舗の蕎麦屋で蕎麦を食べる事。と同時に、立ち食い蕎麦屋の中でも美味しい蕎麦屋を見つける事(小諸そば、箱根そばがお気に入り)。
http://www.upset-emg.com/

この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他