インタビュー:鈴木良和(株式会社ERUTRUC) 後編

インタビュー:鈴木良和(株式会社ERUTRUC) 後編

鈴木さんは、これまでに職業として存在をしていなかった「バスケットボールの家庭教師」というビジネスチャンスを創出されました。バスケットに限らず、これまで、地球上に存在していなかったモノを創り出されてきました。その中で、鈴木さんが大切であると考えているスタンスや考え方には何がありますでしょうか?

僕が大事にしていることを2つご紹介します。まず1つ目はAorBという状況でCを思いつける柔軟性を持つということです。僕の場合、もともとは学校の先生になって子どもたちにバスケを指導したいと思っていました。ところが、大学で日高先生という指導者に出会い、この指導をもっと多くの子どもたちに伝えたいと思うようになりました。

その結果、直接子どもを指導するという夢を諦め、大学生たちを指導して指導者を育成することを考えたのです。それで大学教授を目指して大学院に進学するのですが、その大学院在籍中に、ひょんなきっかけでバスケの家庭教師というアイデアを思いつくのです。

子どもに指導するというor大学生に指導するという構図だったのが、このバスケの家庭教師というアイデアを思いついてしばらく活動を進めていくうちに、「この活動ならば子どもに教えるということと指導者を育てることの両方をとれる!」と思うようになりました。

この「両方をとれる!」と気づいたことが、この活動を生涯の仕事にしようと決断したきっかけです。つまり、バスケの家庭教師は僕にとってA案でもB案でもなく、C案だったのです。この経験以来、どちらかをとればどちらかはとれないというようなAorBという状況でも、そのどちらもが重要なのであればAもBもとれるC案を考えるようになりました。

また、もう1つ重要だと思っているのは、「ワクワク感」です。この活動を始めた当初、尊敬する日高先生から、「この活動で生きていくのは難しいぞ」と警告してもらったことがあります。なぜなら、当時は2時間5,000円という出張指導だけの活動だったので、それを毎日依頼してもらったとしても、1か月で14、5万円にしかならない。そのお金では家庭を持つことは難しいと言われたのです。

色々な人に話をすると、「この会話の段階で普通あきらめるでしょ?」と言われるのですが、僕は逆でした。日高先生ほど見識のある方が無理だということなんだから、それをもしクリアすることができたら他の人にはできないような仕事ができることだと思ったのです。

昔から、自分だからこそとか、自分にしかできないことっていうことを仕事にしたいと感じていたので、この時に人生のスイッチが入ったような感じがしました。その経験から、人から無理だと言われるような状況の方がやる気が湧いてくる変な体質になってしまったような気がします。

先ほど、世界一ビジョナリーなコーチチームを作るための第一ステップとして、明確な指針トップダウンで、組織を共に創っていくメンバーに伝えているとおしゃられました。その後、この指針をどのようにして、組織メンバーが「納得できて、共有できる価値観」とし浸透、そして作り上げていこうとお考えでしょうか?

文化というのは、徐々に浸透していくもので、一朝一夕で出来上がるものではありません。時間をかけて浸透させていかなければならないのですが、「時を告げると時計を作る」の違いを生かします。

ある町にいま何時何分かを正確に答えることができる人がいたとして、その町はその人に「今何時何分ですか?」と聞くことで正確な時間を知ることができました。ところが、その人が亡くなってしまった日から、その町は正確な時間を知ることができなくなってしまいました。別なある町では、正確な時間を知るために時計を開発した人がいました。その町は、ずっと正確な時間を知ることができました。

ここでいう時を告げるというのは、バスケットボールで言えば「ボックスアウトをしろ!」「フォロースルーを残せ!」というように指示してやらせる方法のことです。これで選手の行動を変えると、その時は正確な時間を知ることができるのと同じように、目的の行動を引き出すことができます。

しかし、時を告げる人がいなくなったら正確な時間が分からなくなるのと同じで、言ってくれる人がいなくなったり、言われなくなってしまったら目的の行動も引き出せなくなります。時計を作るということはシステムを作るということです。仕組みを作るということです。ボックスアウトしなければ終われない練習にしたり、フォロースルーを残していたら得点がプラスされるシューティングをしたりというように、その仕組みが機能している間はずっとそのことを意識させることが可能になります。

会社の文化づくりも同じで、理念を決めたら、その理念を会社のあらゆる機能、システムの中にそれを組み込んでいくのです。まだまだ我々の会社は偉大な組織への階段を一段目に足をかけれたかどうかくらいのところなので、

  1. ビジョンを持っており、未来志向であり、先見的でありつづけること
    (チャレンジにしりごみしたりしない。何かの成功例にしがみついたりしない)
  2. 子どものスポーツの業界で卓越した結果を残し、見識ある指導者に広く尊敬される存在になること
    (世界のスポーツ界にインパクトを与えるようなことを達成する)
  3. 世界のスポーツ界に消えることのない足跡を残していること
    (インターネットやiPhoneやサグラダファミリアのような)
  4. 主力技術(または戦術など)のライフサイクルを超えて繁栄していること
    (何かのテクニックや戦術がとりだたされたとしても、それで終わらない)
  5. 設立以来50年以上を経過しても偉大な組織であること
  6. 代表が世代交代をしても偉大な組織であること
  7. 逆風や、過ちを犯しても、ずば抜けた回復力を持っていること
  8. ジュニアのコーチングで日々の暮らしに困らないような、充分な生活が送れるようあり続けること

この8つのうち、ほとんどが具体的な仕組みの中に入る段階ではないので、まずは会社全体がこれらの項目に近づいていくことを目指します。

  1. チャレンジをうながす仕組みづくり。成長して無いことを受け入れない仕組みづくり
  2. 努力を続けた結果、100万人の子どもたちをかかえる会社になれたら、ミュージシャンでいうミリオンセラーのアーティストのような存在になれる。そのためにも、10万人の指導者が必要。

といった具合に、いくつかはさらに具体的なアクションプランに落とし込んでいき、現状の仕組みの中にこれらの理念、文化を組み込んでいきます。

うちのスタッフたちは子どものスポーツ指導に情熱が無いと入って来れないようにしてありますし、情熱がなくなるとやめなければならない仕組みになっているので、根本的により良くなろう、よりいい指導者になろうという意識をもっていますから、その部分とつながるように仕組みを組み込んでいければ自然と文化は浸透していくと思います。

会社の成長は種の進化と同じようなところがあると思っているので、いつもいつも狙ってやったことが進化につながるわけではありません。突然変異的にうまくいくことが会社のその後を決めるようなこともあると思います。なので、とにかく色々なアクションを起こして、うまくいったものを残していくようにやっています。段階を追うというイメージではないのかもしれません。

とにかく、適切な人材を集め、芯さえぶれずにミッションに向かって時計を作っていくことができれば、セレンディピティー(「serendipity」= 思いがけないものを偶然に発見すること)の可能性を大きくしていくことができるのだと思います。

ゴールドスタンダードの書籍を読書後に生まれたアイデアやコミュニケーションで工夫した事柄があれば教えて頂きたいです

この本を読んで以来、意図的にコミュニケーションの機会を作ること、場面を作ること、雰囲気を作ることを大事にするようにしています。僕が担当している指導先にクラブチームの指導もあるのですが、部活を引退した中学3年生のクラブチームで、週に1回しか練習の機会がありません。

その週に一回しか会わない子たちでも最高のチームに近づくためにどうしたらいいかと考えていたところ、アメリカ代表チームのようにセレクションされた期限付きのチームはまさに我々のクラブの形と似ていると気づきました。

それ以来、それぞれバラバラの中学校でプレーしていた子たちで構成されるそのクラブの運営でも、ゴールドスタンダードを色々と参考にしています。有名選手の話を聞いたり、食事会などで選手達が何かを感じ取れるような機会を意図的に増やしたりしています。

(interview 2013.1.02 片岡秀一/UPSET)

インタビュー前編はこちら

鈴木良和
1979年6月8日生まれ。株式会社ERUTLUC(エルトラック)代表取締役。社名の由来は、子どものスポーツ文化を変えていく、スポーツから教養・教育を考えていくという意味でCULTURE(カルチャー:文化・教養という意味)という単語を逆読みしたモノ。千葉大学在学中に日高哲朗氏の指導に感銘し、その教えを広く世の中に広めようと模索中に2002年にバスケットボールの家庭教師を立ち上げる。2007年株式会社ERUTLUC設立をし、2009年EURO BASKETBALL ACADEMY日本版を設立。DVD、及び著書も多数。
http://www.basketballtutor.com/

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。