バスケットボールにおけるインテンシティ(強度)の意味と高め方
先日とても引っかかる投稿があった。
These 9 year olds are bringing the intensity 👏
(via juice_h2g/Instagram) pic.twitter.com/Ri3yBoitz4
— Bleacher Report (@BleacherReport) 2017年7月19日
私から見れば、「単なるラフプレー」であり、私が知るところの「インテンシティ」とは異なるものだと感じたからだ。
とはいうものの、「インテンシティとは何か?」と聞かれたら、はっきりと正確に説明するのは難しいというのが実際のところであった。そこでスポーツ、特にバスケットボールにおけるインテンシティが意味するところを調べ、まとめてみることにした。
目次
ザッケローニで注目されたインテンシティ
実際はもっと前から使われていたかもしれないが、この言葉が注目されたのは、元サッカー日本代表のザッケローニ監督が使ってからだろう。これが2013年の頃だ。
私の場合は、2012年にアメリカで著名なスキルコーチ、ギャノン・ベイカー氏のDVDを翻訳したのだが、その中である女性コーチが「○○をすることによってインテンシティを高めることができる」と指摘し、ベイカー氏がGood Pointだと賞賛するシーンがあった。このとき私は結局「強度」と訳した記憶があり、つまりニュアンスで伝わるとしても、本当に意味するところを正確に訳せなかったのだ。
ザッケローニ監督の話に戻ろう。ザッケローニとインテンシティに関する記述はこの記事が詳しい。
ザック発言で話題。『インテンシティ』の本当の意味とは? 曖昧な単語が流布して起こる危険性
この記事はスペイン在住のサッカー指導者・坪井健太郎氏の解説とともにまとめられている。要約すると下記の通りだ。
- バズワードとしてインテンシティという単語が使われている
- インテンシティという単語は「スペインの現場でも、話し手によって違う定義がある」
- 一般的に語られるのは、フィジカル的な強度。例えば球際の激しさ、スピード感もインテンシティに挙がる
- 難しい状況でのトレーニング、狭いスペースでのトレーニングでは脳にかかる負担が高くなるため、戦術的なインテンシティという使い方もされる
- 慌てている状態は、プレッシャーが掛かっている、負荷が掛かっているという意味でメンタル的なインテンシティと捉えられる
こうした状況を踏まえ、筆者の澤山氏は指導現場で「万国共通の単語と同様に『インテンシティ』を使うと、人によっては違うものをイメージしてしまう」と述べ、「単なるプレッシャーを掛けることがインテンシティであると考え、さらに「インテンシティが高い=善、インテンシティが低い=悪」という単純な二元論に落とし込まれ、要するにシゴキを正当化することになりはしないだろうか?」と指摘している。
そして「インテンシティという単語をきちんと定義づける必要があるように思う」と述べる一方、「インテンシティという言葉がなくても、これまで不便はなかったはず。定義があやふやなのであれば、使用しないでも表現できるプレーに関しては、とりあえず従来の表現を使用すれば足りるのではないだろうか」とまとめている。
これには私も同意できる。チーム内でインテンシティという言葉の意味を明確に共有できるのならばともかく、曖昧な状態で使う必要はないだろう。しかしながら、インテンシティの意が含まれるだろうある種の言葉も、今では指導現場に曖昧なまま溢れている。
- 「気合いを入れろ」
- 「集中しろ」
- 「ダラけるな」
意味するところは理解できるが、非常に主観的かつ抽象的であることは否めない。プレーや練習の質を高めるために指導者はどう対処すべきだろうか?
インテンシティの本来の意味
本来的には運動生理学上の「運動強度」ということで間違いないだろう。有酸素運動であれば酸素摂取量や心拍数、ストレングストレーニングであれば挙上重量などで明確に数値化できるものである。こうした運動強度を測ることで、各自のフィットネスレベルの認識・向上・調整に役立てられる。
例えばバスケットボールに関して、basketball91.comによれば「バスケットボールは、方向転換や素早い動きといった高いスピード下でのプレイが求められるため、高い強度(high-intensity)のスポーツとみなされている」とのことだ。
バスケットボールは、American Dietetic Association(米国栄養士会)によって、8つの動きが組み合わせれていることが報告されている。多くの動きは急停止・急加速が含まれ、平均して2秒ごとに異なる動きがなされており、試合を通じて約1,000回の動作を実行している。これらの動きは、ジャンプ、ランニング、ストップ、ダッシュ、スプリント、ジョギング、ドリブル、シャッフルが含まれる。
と述べる一方、
バスケットボールは高強度のスポーツと見なされているが、Kinesiologia Slovenica(2010)によれば、プレイヤーは実際には歩く、ジョギングするなどの低強度の動きが含まれており、高強度の動きが実行される実際の時間は、全体のわずか15%である。
であると述べている。しかしながら、
American Dietetic Association(米国栄養士会)によると、プレイヤーが低強度の動きに多くの時間を費やしていたとしても、短時間の高強度の時間が強度の指標となる。『Journal of Sports Sciences』によると、ほとんどのプレイヤーの心拍数は、試合の75%の時間で、最大心拍数の85%以上となっている。
と指摘する。最後に
低強度の動きに時間のほとんどを費やしている場合でも、強度の高い動きが必要なときのペースの突然の変化に備えて、準備をしておくことが重要である。試合中に必要とされる強度の高い動きを実行することを助ける1つの方法は、無酸素運動によるコンディショニングである。『The Sports Digest』によると、バスケットボール選手は、ストレングストレーニング、敏捷性トレーニング、無酸素トレーニング、およびプライオメトリクスを含む、バランスのとれたトレーニングを受ける必要がある。
と、生理学的な運動強度のケースで、インテンシティを説明している。これに関しては専門家ではないので、さらなる情報は各自で検索していただければと思う。
異なる文脈での「インテンシティ」
上記の例や、近年よく聞かれる文脈は明らかに本来の意味とはかけ離れているようだ。例えば、先日バスケットボールの家庭教師を主催するERUTLUC代表の鈴木良和氏と話す機会があったが、鈴木氏曰く「空間認識や状況の認知に関しても、インテンシティが強い/弱いという使い方をされることもある」とのことだ。
ますます混乱が助長されてしまうようだが、今回は集中力や意識といった、練習(あるいは試合)の質を高めるという意味でのインテンシティについてヒントを紹介したい。
曖昧な言葉だけで練習の質を高めることはできないだろう。より具体的な言葉や方法が、練習をより効果的にし、怪我を防ぎ、成長を促進するだろう。さらにこうした取り組みが、生理学的な「強度」の強化にも帰結するだろう。
練習の強度を高めるための6つの方法
サウスアラバマ大学のアシスタントコーチRuss Willemsenは、「インテンシティと意欲は、シュートやボールハンドリングのように改善できるスキルであり、コーチこそがその触媒である」と述べ、以下の6つの点を強調している。
1.コミュニケーション
- 練習をより激しくする一番の方法は、コミュニケーションの改善である。お互いに信頼しあうチームとお互いを信頼するチームメイトは、互いに熱心に練習する。
- ボストン・セルティックスのケビン・イーストマンは、コミュニケーションがチームにとって役立つ6つのポイントを指摘している。
- 相手チームの攻撃を脅かす
- 素早く対応することができる(例えばスクリーンの攻防で、迅速なコミュニケーションにより、スクリナーが接触する前にスクリーンに対処し始めることができる)
- ボールマンのディフェンダーはより自信を持てる
- ディフェンスを引き締められる
- 起こる前に間違いを理解できる
- チームを活性化できる(私たちの最高の練習は最も騒々しい練習である)
2.ドリルのバリエーション
- 選手は同じトレーニングをすると退屈に感じるようになるため、様々なドリルを使用することで練習をより激しくすることができる。
3.競争
- 競争は本能的に激しい練習を促進する。ハーム・エドワーズ(NFL)は「我々は試合に勝つためにプレーする」と述べている。
- すべてのドリルは、勝者と敗者を持つべきである。危機感を持たせることにより、選手は驚くべきほど激しくプレイするのです。
4.お気に入りのドリル
- 練習で動きが遅くなったように見えるときは、喝を入れるための「お気に入り」のドリルを使う。練習が単調に見えるときにチームに活力を与えることができるドリルを準備する。
5.時間の管理
- 練習時に2つの時計を準備する。1つは練習全体の時間の残り時間、もう1つは今行なっているドリルの残り時間。どれだけの時間を練習しなければならないかを正確に知ると選手は激しくプレイする。
6.コーチの激しさ
- より激しい練習を促進する最終的な方法は、コーチの肩にかかっている。バスケットボールのコーチは、練習の強度を保つ役割を果たしている。
- すべてのスキルを促進する練習を戦略的に計画するだけでなく、それ自体を激しいものにすることもコーチの責任である。
- プレイヤーは、一緒に汗をかくコーチが好きだ。コーチが激しくなければ、どうしてプレイヤーは全てを捧げることができるだろうか?
- チームはヘッドコーチの人格が反映されると確信している。より激しい練習をしたい場合は、練習中にもっと激しくなることを学ぶべきだ。
Intensity in Practice|basketballhq.com
練習にプレッシャーを与える方法
著者は「コーチとして、できる限りゲームライクな練習をして、試合と同じようなプレッシャーと強度でプレイさせるために最善を尽くすべき」と述べ、その方法について詳説している。
1.文化を確立する
- 練習中にあなたが期待する前例を作り出す。それがなぜ重要であるのか、何が必要なのかをプレイヤーに説明し、すべてのプレイヤーに責任を負わせる。
- 文化が構築されれば、プレイヤーは責任を負い始め、練習がエキサイティングなものとなり、チームが真の成長を始める。
- このプロセスをスピードアップするのに最適な方法は、チームのリーダーに対し、成功したシーズンを経験することが不可欠であることを知らせ、チームを牽引する方法を教えること。
- コーチはステップアップすることを熱望するプレイヤーをつくらなければならず、これは必ずしも最もスキルの優れたプレイヤーである必要はない。
2.試合終盤の状況
- 2分間の試合の中で、5点差の状況を設定するなどして、試合終盤の状況を設定する。
- これは選手が試合終盤の状況でどれくらいの時間を使えるかを理解するのにも役立つ。プレッシャー下でもゲームプランを実行し、成功することができる。
- 試合というのはプレッシャーがつきものであり、だからといって、それがチームに悪影響を与えないように教えることができる。
3.競争
- 選手間に健全な競争を作り出す。選手は毎日出場時間や役割、シュートの機会について競争すべきだ。
- 競争を作り出す優れた方法は、2対2のリバウンドドリル、1対1などといった人数が制限されたドリルだ。5対5は素晴らしい練習だが、サボる選手が生まれてしまうこともある。
- これらドリルを練習の早い段階で用いることで、その練習のトーンを設定できる。
4.敗北を憎む
- 敗北がチームにとって快適なものであってはならない。どんな練習であろうと、敗北を憎み、望まず、すべての練習で最大限の努力をすることを覚えさせなければならない。
- そのためには、何かの練習で負けたチームには、ランニングや腕立て伏せといった罰(編注:原文では「罰」とは述べていないが、便宜上使用している)を与えることである。
Generating Pressure & Intensity in Practice|basketball.coachesdirectory.com
インテンシティがGoodとGreatを分ける
ウィンザー大学のChris Oliverは、「練習の強度を高めることは非常に難しいが、選手が成熟するほど、インテンシティはGoodな選手とGreatな選手を分けるほどに重要である」と述べ、下記3つのアイディアを提供している。
1.Game Centered Approach(試合中心的アプローチ)
- 試合中心的アプローチは、Teachingがなされないわけではない。選手が試合の状況でプレイしている間にも、スキルや戦術を教えることができる。
- コーチは教えるために練習を止めることがあり、選手は試合の文脈でスキルや戦術を学ぶ。
- このアプローチは選手の関与を高め、実際の試合状況をシミュレートすることで強度を高めることができる。
2.勝敗を決める
- 勝敗を決めることは競争を激しくすることに繋がるが、いくつかのデメリットがあるという懸念も存在する。
- スキルや戦術の実行よりも勝利にフォーカスしてしまう
- 敗者にネガティブな反応が生まれる可能性がある
- 才能のある選手が勝ちに恵まれる
- 結果にフォーカスすることで、特定の選手のみが目立つ
- メリットとしては以下の点が挙げられる。
- インテンシティを高めることができる
- 試合の状況に近づく
- 勝つことの価値を選手が学ぶ
- 競争は「なぜ負けたのか」「なぜ勝ったのか」「何が勝敗を分けたのか」など、多くの学びの機会を作り出す。こうした質問は、成功に導く要因を理解することを助ける。その1つがインテンシティであり、これは日々高い強度で取り組むことの重要性を強調するのに役立つ。
- 究極的には、選手が勝敗如何に関わらず、内発的なモチベーションを高めることが理想である。
3.プロセスに焦点を当て目標に結びつける
- 多くの選手は上のレベルでプレイしたいと考えている。高い強度で取り組むことと改善することの重要性を伝えることが重要である。
- コーチとして、選手にこうした考え方を強調する方法は、進歩に気づかせることである。コーチは選手の改善と具体的な内容を伝えることにより、インテンシティの価値を強調できる。
Three Ideas to Increase and Maintain Intensity at Practice|basketballimmersion.com
リック・ピティーノとディフレクション
最後に少し角度の違った例を紹介しよう。coachesclipboard.netのJames Gelsは、ディフェンスのインテンシティを高めるためのスタッツに着目している。そのスタッツとは「ディフレクション」である。
ディフェンスプレイヤーがボールに触って、ドリブルやパスをそらせる行為。
ディフレクション(deflection)とは、ディフェンスがボールに触って、ドリブルやパスをそらせる行為のこと。ボールに触った結果、本人や味方がボールを奪うことが出来ればスティールを記録される。
2015年のサマーリーグでは、試験的に、シュートチェック数・ディフレクション数・ルーズボール数・チャージング獲得数の4つをハッスルスタッツとして記録し、試合にどのように影響があるかを分析することになった。
ーー大手町一家
引用によるとディフレクションはボールをそらせることのみとあるが、Gelsは加えて「相手を混乱させる」「話す」「コミュニケートする」「ボールにプレッシャーを与える」「ヘルプ」「ハッスルプレイ」がディフレクションスタッツであると述べ、ディフレクションは公式なスタッツではないが、インテンシティの尺度になり得ると述べている。
1つの例としてあげられているのはリック・ピティーノだ。ピティーノは80年代からディフレクションをスタッツに残しているという。ハーフタイムで17〜22、合計35以上のディフレクションが記録されれば、勝利の確率が高いそうだ。
その他のコーチも、試合練習を問わずディフレクションを記録し、ロッカールームに貼り出しているという。これにより誰がより激しいディフェンスをしているのかが明らかになり、ディフェンスのインテンシティを高める姿勢を構築できるとのことだ。
しかし注意点として、これが公式なスタッツではない理由であるのだが、ディフレクションは主観的である点が挙げられている。翻せば、コーチが望むものをディフレクションとして定義し、ルール化できるメリットがあるとも述べている。コーチに応じて、パスやドリブルをティップする、ルーズボールをとる、ショットブロックに飛ぶ、チャージングを奪う、24秒ヴァイオレーションを奪うことなどもスタッツに加えることができる。ただしリバウンドやブロックといった公式なスタッツは含まれない。
こうしたスタッツを記録することで、ディフェンス力の強化が期待できるということだ。
Basketball Defense – Defensive Intensity – Charting Deflections|coachesclipboard.net
*リンク先ではディフレクションを記録するためのシートをダウンロードできる
何かインテンシティに関するヒントをつかめただろうか。紹介したヒントの中には相反する意見もあるかもしれないが、あなたのチーム状況に応じて取捨選択し、質の高い練習をするために役立てていただければ幸いだ。
この記事の著者
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