文武両道を目指して 〜「岡田流・時間管理術」セミナー参加レポート〜
今期からNBLつくばロボッツに移籍された岡田優介選手による「時間管理術」のセミナーがさいたまスーパーアリーナ内のNHKカルチャーセンターで開催されました。本来であれば、6/25での開催が予定されていましたが、日本代表に選出され、同チームの海外遠征の日程と重なった為、7/23に開催される運びとなりました。7月11日(金)より19日(土)まで中国・武漢で開催された「第5回FIBA ASIAカップ」に参戦(優勝:イラン。日本代表の最終順位:6位)し、過酷な戦いを終えてからの講演となりました。
文武両道を実践するアスリートとしてバスケット界のみならず、多方面で注目を集める岡田優介選手。講演会受講者に配布された岡田選手の名刺の裏には、現在の活動や役職がズラリと並びます。改めて活動の幅広さを感じた受講者も多かったと思います。
- つくばロボッツ
- 一般社団法人 日本バスケットボール選手会(理事長)
- 新日本有限責任監査法人
- 岡田優介会計塾「塾長」
- 3×3 PREMIER DIME.EXE(オーナー)
- Dining Bar DIME(オーナー)
受講者の中には、バスケットファンや、トヨタ自動車アルバルク東京時代からの岡田優介選手のファン、そして、公認会計士試験の受験を目指す大学生や、アスリートの文武両道という部分でタイムマネジメントに関心を持つビジネスマンまで多種多様な方が集まりました。
冒頭では、以前のテレビ放送時の映像(「1億人の大質問!?笑ってコラえて!3時間SP【日本列島二足のわらじの旅】内にて 2013年3月20日放送)」が紹介され、土浦日本大学高等学校時代の全国大会での活躍と、学業優秀者としても表彰された取り組み、青山学院大学進学後にも、バスケ部や選抜チームでの活躍と合わせ、学部内の成績優秀者として表彰された実績などが紹介されます。
文武両道を実践するアスリート選手として非常に有名ですが、バスケットの報道だけではあまり表に出てこない、具体的な成績などが公表されたテレビの報道映像は非常に貴重でした。この時点でメモを取る参加者も周囲には多数おりました。また、JBL(当時)に加入後、日本代表活動期間中に公認会計士試験に合格し、現在は、バスケットボール選手の活動と並行し、新日本有限責任監査法人で実務経験を積まれています。(公認会計士試験合格後、実務経験を積む理由などは、ご本人のブログを参照ください)
そして、昨年度より、一般社団法人日本バスケットボール選手会を立ち上げ、初代理事長として活動。今オフには、NBL、bjの両リーグの選手により、東日本大震災の傷跡が残る岩手県大船渡市でクリニックを開催。(イベントの模様はこちらを参照ください)
また、オフシーズンの選手同士のコミュニケーション促進や、オフ期間でのパフォーマンスアップを考えて、都内で合同練習会も開催。これらは開放式に実施され、近隣の少年選手など大勢が見学に訪れた。さらには、新設された3×3 PREMIERリーグのチームオーナーや、同名のバーのオーナーなど、多種多様な活動を積み重ねられています。
同時に、コート上では、昨シーズンまで在籍されたトヨタ自動車アルバルク東京でも、全日本総合選手権での準優勝に貢献、ベスト5の受賞、NBL東地区準優勝に貢献するなど、労を惜しまず、運動量豊富で献身的で激しいディフェンスと、高い打点と決定力を誇るアウトサイドシュートでリーグを代表する選手として高いパフォーマンスを披露しています。
上記のように、幅広いジャンルで活躍中の岡田選手。そのような活動を支える原動力は何か? 講演で話されたテーマである、自分を分析し、行動を決める思考法に工夫があるようです。それでは今回の講演テーマでもある「岡田流 時間管理術」の一部から、具体的なキーワードを紹介します。これが文武両道を目指す全国のバスケットマンの参考になれば幸いです。
1.視覚化する
「頭の中にある何となくの考えを見える形にする」事を岡田選手は習慣としているといいます。
頭の中で考えているだけでは弱く、文字にして考える事で、より深く、明確、かつ正確に物事を理解、分析されているといいます。これは、以前にも伊藤ACの項目で書いた「メモの効用」と同様です。岡田選手の所属するNBL東地区、千葉JETSのレジー・ゲイリーHCもメモを取ってのスカウティングや練習メニューの組み立ての思索の積み重ねについて語っています。さらにスポーツ界では、中村俊輔選手や、本田圭祐選手の日本代表選手や、かつてメジャーリーグで頭脳派投手として活躍された長谷川滋利(イチロー選手と同時期にマリナーズなどで活躍)選手も同様です。優れたパフォーマンスを発揮している選手の全てがメモを取る習慣があるわけではありませんが、言葉にして自分の考えをまとめる作業には、事務作業の効率化のみならず、アスリートのパフォーマンス、分析力、思考力を高める作用があるのかもしれません。
2.重要かつ緊急ではない事を見極め、管理し、ひたすら、積み上げる
大ベストセラー『7つの習慣』内で紹介されている有名な「時間管理のマトリクス」を岡田選手も実践されているようです。
- 第1領域:重要かつ緊急
- 第2領域:重要だが緊急ではない
- 第3領域:重要ではないが緊急
- 第4領域:重要でもなく、緊急でもない
岡田選手も重視しているのは「第2領域」の活動を増やすこと。ここまでは多くの書籍でも語られている事です。第2領域の活動を意識的に増やすことで「第1領域」にならざるを得なかった活動、突発的に訪れる第3領域の活動を抑える事が可能です。
第2領域を疎かにした場合、外部からの問い合わせ・催促、または、期日までに提出をしなければならない、、等々の理由が行動をコントロールします。『やらざるを得ない』状況です。時として、追い詰められた時に本来の能力以上の成果や効率が出る事もあるでしょう。一夜漬けで試験勉強をして思いがけずに好成績を残した経験を持つ人も多いのではないでしょうか。ですが、所詮は付け焼刃であり、精神が疲弊し、やがて、緊急かつ重要な事(第1領域)を遂行し切れずに苦い思い出をした方も多いのではと推察します。
第4領域については、自らの意思でコントロールできるはずですが、えてして、人間は、遠い未来の利益・価値よりも目の前の楽しみ(誘惑)が勝る事が多いのです。これについても無為に過ごした時間を悔やみ、自己嫌悪に陥った経験のある人が多い事でしょう。(参考:『誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか 』)
強靭な意志を持つと思われる岡田選手ですが、岡田選手でも「誘惑に負ける事はある」のだと言います。ですが、その人間の性を分析し、岡田流では「ある工夫」で自らをやるべき事に向わせています。それは『視覚化する』の項目でも出てきたタスクメモの活用です。通常、タスクメモには「重要かつ緊急な」第一領域の項目が列挙される事が多いですが、タスクメモの中にこそ「緊急ではないが重要な」第2領域の項目も多数書いておくのだという。
さらには「英語を勉強する」ではなく「英語テキストのP10〜30までを覚える」という形で「終了したら消せる形(赤ペンなどでチェックする)で記録する」事を大切にしているようです。このように第2領域の項目についても紙に記載し、目に触れるようにする事で、自分にとって本当に大切な事、意義があると信じている事を目に見える形にする。その事で、視覚でとらえ、脳みそに入ってくる。常に、頭の片隅に、第2領域の項目を意識する為の工夫です。
岡田選手は「緊急では無いが重要な事」を「自分が本当にやりたい事」という言葉でも表現します。自分の頭の中に、少しでも強いインパクトで「自分が本当にやりたい事」を残しておく。淡々と行動を積み重ねる精神力の秘訣の一つを垣間見た気がしました。
3.最大限の準備をする
公認会計士試験に1点差で不合格となった経験が岡田さんにはあります。その翌年の合格を心に秘め、バスケットボール選手としての活動を最優先している中で、空き時間を利用しての試験勉強の日々が続きます。そんな中、長年の夢の一つであった日本代表に選出される吉報が届きます。ですが、奇しくも、代表選手として出場するアジア大会の競技日程と公認会計士の試験が重なったとのことです。
岡田さんにとって常に軸足にあるのは「バスケットボール」。この年の公認会計士試験は諦め、代表合宿を
続けていきます。それでも、その合宿期間も、練習以外の時間を利用して公認会計士試験の勉強を続けます。
目の前に試験が迫っているのであればともかく、受験できる試験の日程が延期になった際、それでも勤勉に
勉強が出来る人はどれだけいるのでしょうか。それでも岡田選手は厳しい代表合宿と勉強の日々を積み重ねます。勿論、バスケットの活動を最優先する為、十分に睡眠時間を確保した上での試験勉強に割り当てる時間配分です。
その後、会場となった中国の食の衛生問題で大会が延期となり、試験の受験が可能となりました。準備の成果を発揮して、見事に合格(試験の合格通知は日本代表として中国・広州で大会期間中に知ったとの事)。いつ訪れるか分からない機会に向けての、日頃からも絶え間ない努力の積み重ね。置かれた状況が変わっても、最大限の努力を惜しまない。やるべき事を分析し、淡々と行動を積み上げていきます。
4.やる理由を明確化する
岡田選手自身、公認会計士試験の受験動機は、バスケット界をさらに発展させるための武器という認識もあるようです。元々、経営や経済に興味があった事も関係するようですが、バスケット界をもっと発展させていく為の活動をする際に、社会的な信頼感に繋がる武器が欲しいと思ったことに端を発するようです。
自分が置かれた環境の中、時間的な制限の中、一番に難しい国家資格が公認会計士だったという事も有り「チャレンジ精神が働き」、大学生時代に貯金を使って通信講座の教材を購入し、試験勉強をスタートさせたと言います。自分が挑戦していること、望んでいる事の理由を自分自身に説明し、納得させる。
「最優先事項を優先させる」のキーワードとも繋がりますが「自分が本当は何をやりたいのか?」を深く、自問自答して考え続け「その為に何が必要なのか」と自分自身で腑に落ちる答えを見つけ、淡々と積み重ねていく日々が垣間見えます。
自分自身の本当にやりたい事を考える作業は、過去の生産性の無い自分の行動への後悔や、未来への恐怖、現在の自分への苛立ち、、など、モヤモヤとして苦悩の時間となる事が多いです。また、自問自答で何かしらの答えを見出した後でさえ、迷いや不安は付きまとうのが世の常なのかもしれません。
現在は高校総体が開催されていますが(8/5現在)、世の中の多くの高校生プレイヤーは引退をし、次の進路選択、進学・就職へと不安と夢の葛藤の狭間にいると思います。それは大学生、社会人のバスケットボール愛好家、選手も同様です。バスケット界には、岡田選手のように、勇気と決断力と行動力で素晴らしい成果を出されている方がいます。是非、勇気を出して、いつもより思考を一段深く!
上記の4つのキーワードの中でも、特に『最大限の準備をする』については、バスケットでも、バスケット以外でも特に参考になるエピソードではないでしょうか。当ラボとも縁のある、『世界のコーチから学ぶバスケットの勉強会』を主催されていた塚本鋼平氏の講演でも、NCAAの著名なコーチによる「準備」「成功」に関する名言が紹介されています。
The key is not the will to win… everybody has that. It is the will to prepare to win that is important.
−−Bobby Knight「勝つ意欲」はたいして重要ではない。そんなものは、誰でも持ちあわせている。重要なのは、勝つために準備する意欲である。
Success is peace of mind which is a direct result of self-satisfaction in knowing you did your best to become the best you are capable of becoming.
−−John Wooden成功とは、なりうる最高の自分になるためにベストを尽くしたと自覚し、満足することによって得られる心の平和のことだ
スポーツにまつわる名言は数あれど、サッカーなどに比べ、大金星(UPSET)が起きにくいと言われているバスケットでは、それだけ、準備や日々の鍛練と成果を結び付けて考える言葉が多いように思います。是非、ご自身の「準備」について振り返り、より質の高い準備をする為には、どのような工夫をすれば、本当に自分の望む成果を得られるのか、本レポートが日々のサイクルを見直す契機になれば幸いです。
岡田優介選手自身、要望や機会があれば、第2回、3回の開催についても自身のtwiiterアカウントなどで発言されていました。日々、コツコツと行動を積み重ねている本人による言葉や説明による「生の講演」では、本レポートだけでは伝えきれない、より深い理解や発見、そして、モチベーションを与えてくれるはずです。岡田選手のブログにも、文武両道を実践する日々の中で考えていることが明瞭な文章で紹介されています。是非こちらもご参照ください。
また、「会計士の勉強だけをしていたら、公認会計士の試験に合格していたかどうか分からない」とも岡田選手は語っていました。バケットボールの鍛錬と同時に試験勉強を両立する中で得られた発見や学びも多いようです。また、試験勉強が続いた後、バスケットボールの練習へ行くと「ここが自分の居場所なんだな」と感慨深く感じることも多かったとおっしゃっていました。
NBLつくばロボッツでは、岡田選手の古巣であるトヨタ自動車アルバルク東京を迎えて2014-15シーズンの開幕戦を戦います。アスリートの生の息吹やエネルギーを体感するには生観戦が一番! 是非岡田選手の勇姿、溢れるモチベーションと日々の鍛錬が生み出すダイナミックで迫力のあるプレーを観戦しに、つくばカピオサイバーダインアリーナへ足をお運び下さい。
- 10/11(土)15:00~vsトヨタ自動車アルバルク東京@つくばカピオサイバーダインアリーナ
- 10/12(日)14:00~vsトヨタ自動車アルバルク東京@つくばカピオサイバーダインアリーナ
※つくばエクスプレス「つくば」駅より 徒歩10分
この記事の著者
-
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。