サンアントニオ・スパーズの強さの秘密を探る 〜④グレッグ・ポポビッチのコーチング編〜

グレッグ・ポポビッチ

だいぶ間が空いてしまいました。覚えているか分かりませんが、NBA2013-14シーズンのチャンピオン、サンアントニオ・スパーズの強さに迫ったシリーズをお送りしていました。本日は最終章、グレッグ・ポポビッチのコーチング哲学に迫ってみたいと思います。

まだの方はこちらもご覧ください。

常に強豪である、ポポビッチが率いるサンアントニオ・スパーズ。その強さの秘密はなんだろうと考えてみても、例えばポポビッチが好んで使い続けている戦術みたいなものはすぐには浮かびません。ある記事にはこのようなことが書かれています。

多くのコーチは毎年同じ戦略を用いることを好む。フィル・ジャクソンはトライアングル。トム・シボドーはストロングサイドボックスディフェンス。 マイク・ダントーニの7秒のオフェンスというように。しかしポポビッチには同様のものがない。
つまり彼は、プレーヤーを自身のシステムに当てはめるより、プレーヤーに合わせてシステムを設計する。現在のスパーズは、ポポビッチが18年前コーチを始めたときと共通することはほぼないが、首尾一貫しているのは彼のアプローチだ。それは以下の通りだ。

  • プレーヤーを開発すること。
  • プレーヤーにとって最高の戦略を選ぶこと。
  • 状況に応じて最適な戦術を選ぶこと。
  • プレーヤーが自身の戦略と戦術を実行するようにすること。

What Is the Gregg Popovich System?|huffingtonpostより

この辺りはまさに「③チーム作り編」で述べたことと同じですね。つまりポポビッチは根っからの戦略家というわけではなく、「コーチ」なんでしょうね。そしてまた、先日「①オフェンス編」で述べたトータルバスケットボールに関しても、決してポポビッチが好む戦術なのではなく、今いるプレイヤーに合わせたものであることも伺えます。

そして次の記事の引用です。ポポビッチがタイムアウトの最中にどのような指示をしているのかについて、ほとんど知られていない事実について書かれています。

「タイムアウトでは、たまに私はこう話す。『私は何も言うことはない。私にどうしろと言うんだ? 我々は6回も点差をひっくり返した。ボールを持っているのは君たちだ。ここにいる私に何を望むんだ? 君たちが打開策を見出すんだ』」。

Gregg Popovich on Leadership and Empowerment/

普通の、特にプロやアマのトップコーチなら、重要な場面でのタイムアウトでプレーを具体的に指示することでしょうし、ポポビッチにしても大部分では同じように振る舞うということです。しかしこうした行動の裏には、ポポビッチの考えやチームの戦術を理解している3人のベテラン(ダンカン、パーカー、ジノビリ)の存在や、プレーヤー自身に成功への責任を与えるという意図があるようです。

こうした考え方は、常にコーチの言動や指示に流される「受動的な」プレーヤーではなく、自身で状況を判断して行動できる「能動的な」プレーヤーを育つことに繋がるような気がします。選手であった皆さんも、もしかしたらコーチの判断と、実際にプレーをしている自身の考えにギャップがあったことがあるかもしれません。

確か中田英寿選手のエピソードだったと思います(うろ覚えですみません)。「マイアミの奇跡」で知られるアトランタオリンピックにおいて、中田選手と西野監督の間で意見の相違があったらしいのですが、その理由は、中田選手はこれまでアンダーカテゴリーで世界を相手に戦ってきたため、勝つサッカーをしたかった。しかし監督はそう考えていなかったということです。

これらのように、常に強豪であり続けることの理由は、戦略的にプレーヤーを育てていることにあるのかもしれません。スパーズに過去や現在在籍しているプレーヤーを思い浮かべてください。なんとティム・ダンカン以降は1順目の上位指名権を持ったことがありません。皆1巡目後半か2巡目の選手ですが、ジノビリとパーカーはもちろんのこと、ルイス・スコラ、ジョン・サーモンズ、レアンドロ・バルボサ、ベイノ・ウードリック、イアン・マヒンミ、ティアゴ・スプリッター、ゴラン・ドラギッチ、ジョージ・ヒル、デワン・ブレアといった、今では優秀なプレーヤーを数多く指名しています。さらにダニー・グリーンはDリーグから、クワイ・レナードはトレード、ゲイリー・ニールはドラフト外です。彼らはもちろんタレントに恵まれていたプレーヤーでしたが、ともすると2,3年でリーグから消えていたかもしれないレベルの選手を育てたのは、やはりポポビッチの手腕だったと言えるのではないでしょうか?

例えば今年はいい選手が入らなかったからダメだとか、あそこの学校がいい選手をリクルートしまくっているからダメだというのは、もしかしたら自身の未熟さを露呈してしまっていることになるかもしれません。プロでさえ育てなければ勝てないと分かっています。育成年代を見守る我々は、もう一度コーチとは何かを問うていきたいですね。

  

この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他