サンアントニオ・スパーズの強さの秘密を探る 〜①オフェンスシステム編〜

スパーズ 戦術 レナードNBA2013-14レギュラーシーズンでは両カンファレンストップの62勝。得失点差は+7.8と2位以下を1点以上離しての「圧倒的な」強さを見せたサンアントニオ・スパーズ。そしてプレイオフとファイナルでは、初戦の対ダラス・マーベリックス戦でよもやの苦戦を強いられたものの、その後は4-1、4-2、ファイナルでも4-1と御存知の通り圧巻の試合運びで見事チャンピオンに輝きました。

ここ数年、スパーズは常に「強豪」であり、常に「優勝候補」の1つと目されていましたが、今年はチームとしての完成形と言えるほどの強さを見せつけました。それが「バスケットボールの真髄」ではないかと思ったファンも少なくないでしょう。このチャンピオンチームが勝者たりえる理由。それを知るためのヒントになるかもしれない記事をいくつか引用してます。

スパーズはパッシングが素晴らしいというが?

多くの人は、まず華麗なパス回しに代表されるオフェンスに魅了されていることでしょう。スパーズのプレイオフでの平均得点は全体4位ですが、注目すべきはTS%(簡単に言うとFTも3Pも難易度を加味して2Pとして換算した数字)が58.3%とヒートに次いで2位となっています。

スパーズ 戦術
NBA.comより

そしてFG%、3P%もそれぞれ1位タイと1位となっています。これに肉薄しているのがヒートなのですが、勝負を分けた要因はどこにあるのでしょうか? ここに興味深いデータがあるので紹介しましょう。

run/passscore
『NBA Basketball: The Spurs and Quantifying Movement』Harvard College Sports Analysis Collectiveより

この記事では、各チームの選手が走った総距離と、ポゼッションあたりのパスの数を換算して表にまとめています。そしてこの赤の印がスパーズだということで、総移動距離・パスの回数共に最も高い数字を残しています。単純では有りますが、より高い確率でシュートを決めるためには、正確なパス回しが必要であり、それをさらに効果的にするためには豊富な運動量が必要であるという裏付けになるでしょうか? この運動量に関しては、以前にインタビューさせていただいた元サンアントニオ・スパーズのアスレチックパフォーマンスアシスタント、吉田修久氏がチームで取り組んでいた「ムーブメント」に比重を置いたコンディショニングに関連するのではないかと思います。

スペーシングの話はどうなった?

前回の記事でスペーシングについて触れましたが、ある記事でこのような記述を見つけました。

スパーズはビッグマン(スプリッター)のスクリナーを置いたベーシックな1-3-1か(と)、フリースローラインより上でボール(ディアウ)を動かすハーフコートオフェンスを実行していた。
これらは相手ディフェンスの間隔を広げ、瞬間的にディフェンスが崩れたりローテーションがおくれたことでできた穴を攻めるために設計されている。
そのためスパーズの攻撃は全て同じに見えるかもしれないが、ボールや選手の動きはどのポゼッションでも同一ではない。
『The San Antonio Spurs are the blueprint for the Sixers’ future success』SB NATIONより

こうした攻撃が効果的なのは、スクリナーでありパッサーとしてのビッグマン、スラッシャーとして超一流のジノビリとパーカー、そしてペリメーターで効果的な働きをするレナードなどのウィングと、それぞれのポジションできっちり仕事をこなす能力を持った選手がいることではないでしょうか? 実はこうした基本的なことを確実かつ高い標準で行なえているだけで「システム自体は決して特別ではない」という論調も見られます。

ボールを動かし、ボールを持っていない時はカットし、ストロングサイドからウィークサイドにスイングして、チームメイトが決めてくれることを信じるというバランスの良いチームプレーであり「美しいバスケットボール」である。
『In copy-cat league, could other teams mimic the Spurs’ offense?』NBC sportsより

この記事ではスパーズの選手の献身性について語られ、それはヨーロッパの選手が多いことが理由であることに浅からぬ理由がある可能性も示唆しています(この辺はまた次回まとめます)。

ここまでで見えてくるのは、全員がディフェンスもオフェンスも一生懸命やって、ポジションに縛られずどのポジションでもプレーし、ボールをシェアするということです。何だか当たり前のことに見えますが、実はアメリカ式のバスケットボールってこうじゃないですよね? 「一番シュートが上手くて確率が良い選手にいっぱい打たせれば良い」というのが根本にあるような気がします。

スパーズはバスケットボール界のバルセロナじゃなくて…

とても面白い記述です。先日こちらの記事でスパーズがまるでバルセロナFCのようだと述べましたが、同じようにサッカーになぞらえたトピックが語られています。

The Spurs as Total Basketball
スパースはまるでトータルバスケットボールだ
『The Spurs as Total Basketball』48 minutes of hellより

サッカーファンの方なら聞いたことがあると思いますが、これがトータルフットボールという言葉から来ています。

トータルフットボールとは、1974年サッカーW杯でオランダ代表が用いた戦術の俗称である。70年代のサッカー界の流行語で、とくにこれがトータルフットボールだという定義があるわけではない。<中略>一般に用いられる定義としては「ポジションが流動的で、且つ全員攻撃全員守備」といった説明がなされる。
Wikipediaより

それではこの記事を要約してみましょう。

  • スパーズで使われるポジションの呼称は「ポイントガード」「ウィング」「ビッグ」の3つで、ポイントガードとウィングはボールをプッシュしてオフェンスを開始するというほぼ同じ役割を果たし、違いはほとんどない。
  • 3人のウィング(恐らくポイントガードを含む)と2人のビッグのポジションは、いずれも「置き換えることが可能」。例えば通常ウィングであるカワイ・レナードがスモールラインナップで4番として出る場合は、1-5番までのポジションを理解しなければならない。
  • ボリス・ディアウの加入により、このトータルバスケットボールは真の姿に近づいた。ディアウのほかのウィングの選手よりも優れているとも言えるパッシングスキルと、ディフェンスを引き出すことができるジャンプシュートが、ほかの選手が動きまわることを可能にした。
  • トータルフットボールは受動的でなく能動的で、ポジションの交換と激しいプレスに基づいていた。そしてポゼッション時にはコートを大きく使い、相手のポゼッション時にはコートを狭く使うという考えを持っていた。スパーズにはこれの類似点が多々ある。
  • スパーズのオフェンス時はとても広くコートを使う。パスコースやドライブのコースをできるだけ広くするために、ディフェンスを大きく広げようとする。トニー・パーカーやマニュ・ジノビリはトップオブ・ザキーから数歩離れた位置からハイピックで仕掛けることが多い。
  • ディフェンスではペイントエリアと3Pラインを特に注意して封じ、9フィート(3m弱)から3Pまでの間でのみしかプレイできないようにする。

もう本当に、これが結論に限りなく近いのではないかと思います。オフェンスでの優位性は「トータルバスケットボール」にあったのだと。現在スパーズのビッグ3のうち誰もが絶対的エースとは言えません。若手が台頭していきたといっても、彼らも決してスコアラーとしての役割を担っているわけではありませんね。しかし全員が、上記した「美しいバスケットボール」を体現できる、すべての項目において平均値以上のスキルを持っており、全員が得点の脅威であるということがポイントなのではないでしょうか?

こんな感じですが、最後はスパーズの美しいオフェンスのハイライトでお別れです。次回は最後にトピックとして挙がったディフェンスシステム、またはトータルバスケットボールを体現する選手を集めるに至った実情と戦略についてまとめて見たいと思います(いつになるかは分かりませんが…)。

加えてセットプレーの詳細なども

続きもごらんください。

この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他