スペーシングを制するものが勝負を制す -スパーズはバスケ界のバルセロナか?-

spacing

Offense is spacing, and spacing is offense.

オフェンスとはスペーシングのことで、スペーシングとはオフェンスのことだ。
リック・マジェラス(元セントルイス大学ヘッドコーチ)

バスケ脳力』ブライアン・マコーマック著より

サッカーワールドカップの裏で、ひっそりと、しかしファンの間では例年のごとく高い注目度の中で行なわれているNBAファイナル。今年も手に汗握る接戦が予想されていましたが、蓋を開けてみるとスパーズが試合巧者ぶりをみせつけ、前年チャンピオンのヒートは崖っぷちの状況に追い込まれています。

私がファイナルを観戦してまず感じたのが上記の言葉でした。パッシングスキルやメンバー構成、熟練のチームワークなど、スパーズの流れるようなオフェンスの素晴らしさの理由はいくつもあるでしょうが、一番根っこの部分には「スペーシング」の上手さがあるのではないかと考えたのです。サッカーではポジショニングと言うかもしれませんが、この辺りはバルセロナFCが世界一のポゼッションサッカーを体現するための要素でもあると思います。

そしてまた、スペーシングを理解することがチームとしてバスケットボールをプレイする上でのファーストステップであるかと考えます。ミニバスを始めたばかりの小学生を思い出してください。ボールのあるところにみんなで集まって奪い合う。まるでラグビーかいわゆるお団子サッカー状態を見たことがあるでしょう。ということで、今回はスペーシングを理解する上でのヒントとなる情報をいくつかご紹介しようと思います。

ブライアン・マコーマックが考えるスペーシング

ブライアンは著書バスケ脳力で、まずカナダのナショナルチームの育成ディレクターであるるマイク・マッケイ氏が用いる指導方法を説明した後、下記の通りスペーシングの概念を説明しています。

  1. カット&リプレイス
  2. ストリング(連動型)スペーシング
  3. ポストスペーシング

マッケイの6つのエリア

まず各項目を見て行く前に、マッケイ氏が用いる6つのエリアに分けたスペーシングの概念を説明します。

それぞれのエリアには、2人以上プレイヤーが入ってはいけません。(中略)ボールが移動したときはいつでも、プレイヤーは新しいスポットへカットし、またポストプレイヤーに向かって走りスクリーンをセットします。これらの原則がコーチのモーションオフェンスと、オフェンスシステムの背景にある教えを推し進める原動力になります。

『バスケ脳力』p78
『バスケ脳力』p78

※スクリーンをかける、ハンドオフを狙う等の場合は例外

カット&リプレイス

ボールを持っていないプレイヤーは、自分がオープンになるためかチームメイトのスペースを作るために、状況を見ながら「カット」して、「移動(リプレイス)」します。その際に重要なのは以下の通りです。

  • ディフェンスを動かしたり、チームメイトのためのスペースを作るために、パスを受けるつもりでなくともカットすることがある。
  • オフェンスはチームメイトの動きと、相手の脅威となる状況を作るためにディフェンスの動きを読む。
  • カットはボールを受けたり、自身でシュートを撃つためには必ずしも必要ではないが、チームメイトにより広いスペースを与えることができる。

ストリング(連動型)スペーシング

チームメイトの動きに合わせた(1)フレア、(2)バックドアカット、(3)ループの3つの主要な選択肢をマッケイの6つのエリアと組み合わせることで、チームメイトの動きを上手く理解させることができ、またチームメイトのカットを予想することを助けます。

  • ボールマンが自分に向かってドリブルしてきたら、間隔を維持したままフレアでドリブラーから離れる。
  • ボールマンが自分から離れるようにドライブしたら、間隔を維持したまま後ろに回り込む(ループ)
  • ボールマンが自分に向かってドリブルしてとき、ディフェンスやポジションに応じてバックドアカットをするか、ボールマンの後ろに回り込む

ポストスペーシング

ストリングスペーシングはドリブルでペネトレイトすることに関して、ボールから離れる動きを含んでいます。一方カット&リプレイスは、ゴールに向かってカットすることに関する動きを秩序付けます。他に教えるべきスペーシングに関する一般的な考え方は、ボールをローポストに入れたときにボールから離れる動きです。

スパーズの場合は、この「ポストに入ったときの動き」が活発に見えます。ボールマンが攻めながらも、周りの選手は彼のスペースを空けるか、ディフェンスの状況を見てパスを出しやすいポジションに移動(カット)しています。一方ヒートは、レブロンやウェイドといったスコアラーがボールを持ったとき、周りの選手はボールウォッチャーになってしまっている気がします。

※前回のがリンク切れしていたため別の動画に変更しています。

適切なスペーシングの重要性

http://www.hoopskills.com/に寄稿するコーチブライアン(こっちもブライアンですね)が述べているスペーシングが重要のいくつかを抜粋します。偶然にもリック・マジェラスの教え子だったようです。

  1. ボールと選手の関係性
    ボールマンから一定の距離を取ることが、自身のディフェンダーがカバーに行くのを難しくする。
  2. ボールを持たずに動くこと
    チームメイトが自身の方へドリブルしてくる場合、セットプレーの類でなければ、間隔を維持したままコースを空けなければならない。
  3. 止まってはならない
    リック・マジェラスはかつて私を「像」と呼んだ。動きまわることでスペースが生まれる。あなたが休めばディフェンスも休むことができる。「何かをすることは何もしないことよりマシだ」。
  4. ディフェンスに選択させる
    ディフェンスがダブルチームを選択するならば誰かがオープンになる。しかし適切なスペーシングでなければ、ダブルチームは効果を発揮してしまう。
  5. フロアポジションを理解する
    シュートを打てない場所にいる選手を誰がディフェンスするだろうか。選手は得点できる脅威を与えるポジションにいなければならない。

The Importance of Proper Spacing in Basketballより

NBAファイナルもそれぞれのスペーシングに注目して見ると楽しいかもしれませんね。以上バスケットボールのファンダメンタルとも言えるスペーシングについて、ちょっとしたヒントとなる文献をご紹介しました! 他に役に立った文献や映像、その他皆さんの考える教え方などがありましたら、是非ご紹介ください!  さあ運命の第5戦、そしてワールドカップと楽しんでいきましょう!

    

この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他