インタビュー:塚本鋼平(能代市バスケの街づくり推進委員会 副委員長) その5
塚本さんは、「世界のコーチから学ぶ」という事で、コーチK以外にも人物に焦点を当てて勉強会を開催されています。他のコーチと比較した際、コーチKさんの特徴は何であると考えていますか?
オリンピックについてジョン・ウッデンは
“ I no longer feel that supportive of the olympic games, which have become almost professional.
You’ll see an athlete complaining about coming in second because he knows it will cost him in endorsements.
Going for the gold has too often become going for the green. ”(John wooden『WOODEN』P.106)
と書いており、「オリンピックがプロ選手のための大会になっているから興味がない」と批判しています。
「金メダルを獲る目的は、それによってもたらされる物質的な利益のために戦っているので、オリンピックは嫌いだ」とまで言っています。
いわば「金品をもらうために金メダルを獲る」ということです。しかし、コーチKは
“ We were not playing for ourselves or Duke or the Lakers or the Heat ? we were playing for the United States.”
(Mike Krzyzewski『The Gold Standard』P.181)
と書いており、はっきりとオリンピックチームは「アメリカ」のために戦うことを誓っています。おそらくこういった姿勢でUSAがオリンピックに望んでいるのならば、ジョン・ウッデンも心から喜んだと思います。本書でも随所にアメリカのために、応援してくれる国民のために戦うという姿勢が読み取れます。本当に素晴らしい代表チームだったことがわかります。
また、私はコーチKとジョン・ウッデンの考え方を比較するときに、ジョン・ウッデンの「成功のピラミッド」を基本としてコーチKを考えます。
そうするとほとんどが「成功のピラミッド」を形成するパーツになります。時代は変わっても変化しない不易なものが、DUKE GOLD STANDARDであり、GOLD STANDARDなのです。例えば、Enthusiasm(熱い気持ち・情熱)やPoise(平常心・平静さ)は同じです。
しかし、コーチK自身が『BEYOND BASKETBALL』で書いた中で、「成功のピラミッド」のパーツにないものもあります。例えば、Crisis Management(危機管理)やMotivation(モチベーション)やOwnership(当事者意識)やStandards(意識の高さ)です。
まずはCrisis Management(危機管理)とOwnership(当事者意識)ですが、コーチKは
“If you have not developed your team properly, members of that team will not fell the sense of ownership your group needs in this type of moment.”
(Mike Krzyzewski『BEYOND BASKETBALL』P.43)
と書いており、危機に陥る前に解決しなければならないと強調しています。この点に関しては、ジョン・ウッデンも“Failing to prepare is preparing to fail.”(John wooden『WOODEN』P.55)と書いており、準備に失敗するものは、失敗の準備をするのと同じだと言っています。
昨今、日本のいたるところで「情報公開・説明責任・法令順守・危機管理」を耳にします。中でもCrisis Management(危機管理)に関しては、企業活動自体を揺るがしかねない重要な部分です。こういった危機をコーチングに用いて考えるコーチKは、やはり優秀なコーチです。コーチKはチームをファミリーと捉え、コミュニケーションを十分にとり、互いに信頼し合う関係を築いていきます。こういった行動が危機的状況を回避する重要なポイントなのかもしれません。
また、危機管理については多くのことが求められていると思います。ミニバスケットから大学の部活動までであれば、より増えてくると思います。例えば、選手の体調管理から心の管理、モチベーションの把握・管理など選手をとりまく多くのことを知り、起こりうる多くの状況を描いていなければなりません。これはジョン・ウッデンがコーチしていた時代よりも現在はシビアに求められると思います。
(interview 2013.1.03 片岡秀一/UPSET)
塚本 鋼平 ツカモト コウヘイ
1977年7月16日生まれ、秋田県出身。藤里中学校‐鷹巣高校‐札幌大学‐札幌大学大学院経営学研究科。小学校からバスケットを始め、進学した札幌大学では3年次、4年次と主務を務め、4年次には北海道学生バスケットボール連盟委員長を務める。卒業後、秋田県の高校に勤務し、能代西高校、大館高校(定時制、全日制)、市立合川高校の男子バスケットボール部、由利高校、市立能代商業高校の女子バスケットボール部を指導。2009年~2011年札幌大学男子バスケットボール部A・コーチ。2010年7月に『プリンストンスタイルオフェンス』を編訳し出版。2011年にMBA(経営学修士)を取得。JBA公認C-2コーチ。特定非営利活動法人スポーツ指導者支援協会正会員。2012年7月~バスケの街能代推進副委員長。所属学会:経営行動科学学会,産業・組織心理学会,日本コーチング学会。
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この記事の著者
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1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。