トーステン・ロイブル氏講習会「チームケミストリー」レポート:池田親平氏
「『敗北の痛みを和らげ、選手が前向きな心境で体育館へと向かう活力の源はTeam Chemistryに他ならない』トーステン・ロイブル氏講習会レポート」では、GSL編集部の片岡が、先日行われた「FIBA U19バスケットボールワールドカップ2017」での代表チームの戦いぶりと、チームが体現していた「チームケミストリー」について、ロイブル氏の講習会の内容を交えてレポートした。
今回は、同じロイブル氏が講師を務めるEURO Basketball Academy coaching Clinicにて、「TEAM CHEMISTRY ~the huge resource of performance~」を題材として2016年10月27日に実施された講習会の模様を、株式会社ERUTLUC指導員の池田親平氏がまとめてくださった内容をお届けします。
目次
はじめに
10月27日に毎月1回恒例のEuro Basketball Academy主催のトーステン・ロイブル氏のクリニックが開催された。テーマは、TEAM CHEMISTRY (チームの結束)である。
チームビルディングはバスケットボールなどのチームスポーツではとても重要な要素である。その中でTEAM CHEMISTRYがなぜ重要であるか、具体的にどのように高めていけばいいのか。このレポートではトーステン氏の熱い講義と実技によって明かされた内容を紹介していきたい。
なぜチームケミストリーが重要か?
→チームが一団となっていると練習に行くことが楽しくなるから!
チームが一つにまとまり、目標に向かっていくことができると、選手一人ひとりのモチベーションは自然と高まってくる。それによって仲間と共に頑張ることができる。また、チームが試合に負けたとしても痛みを分かち合うことができる。
→反対にチームのケミストリーができていないと、ささいなことが起きてチームはバラバラになってしまう。
1.Coach-Player relationship(コーチとプレイヤーの関係性)
- Respect(コーチとプレイヤーが尊敬し合うこと)
- Positve commuication(前向きなコミュケーション)
チームメイトが頑張れるような声かけ。ネガティブワードは使わない。コーチが選手に対してネガティブな言葉で声掛けを続けてしまうケースが多い。選手が頑張れるような声掛けをする、チームメイト同士でも同様である - Equally(全てのプレイヤーを平等に扱うこと)
- Firm but fair(厳しく、しかし公平に)
2.Allow emotions
ケミストリーを築くには感情表現を豊かにすること。コーチとプレイヤーのコンタクトはある程度の距離は保つが、プレイヤー同士はできるだけコミュニケーションをとること。
コート上でのコミュニケーションの方法
- High touch(High 5)→ハイタッチ
- Chest bump→チェストバンプ
- Cheering for good plays→いいプレーをするをしたら褒める
- Critics with good words→サボっていたりしたら、いい(ポジティブな)言葉で励ます
これらは、日々の練習で意識しトレーニングすることによって、どんな言葉をかけるか、量、タイミングなどが磨かれる。
3.On court tools
コート内でどのように振る舞うか。
Players communicate
プレーヤーは名前を呼び合うこと。日本では「先輩‼︎」や「ハイ‼︎」と呼びながらプレーをすることが多いが、これでは試合中に自分が呼ばれていることが分からない状況が起こり得るため避ける。
Give time for huddle
ハドルを組むこと。これはプレーヤー同士で話しをさせることが目的。チームケミストリーをつくる要素は、プレーヤーが80%、コーチが20%である。練習から選手同士でハドルを組ませるようにさせると、自然に試合中に出てくるようになる。ハドルが習慣になると、選手同士で問題を解決しようとするので、不要なタイムアウトをとる必要がなくなる。
Players always THANK for support
コート内で味方に感謝を示すこと。例えば、
- Assist→ドライブからパスを受けて得点した場合、「ナイスパス‼︎」の声かけ、もしくはパスをくれた選手を指差す「フィンガーアクション」をする。
- Help defense、Safety actions→ディフェンスでヘルプに入ってくれたとき、ミスをカバーしてくれた際にも「Thank you!!」など感謝を示す声かけをする。
日本人選手はコート外での礼儀作法は世界でもトップクラスだが、コート内でのコミュニケーションが非常に少ない。これらは簡単にできることではなく、日頃の練習などでの小さいことの積み重ねが、試合中の重要なコミュニケーションに繋がっていくのである。
先日のトーステン氏がメインコーチを務めるU-16のセレクションでもこんな場面があったそうだ。3人組を作って行うメニューの際練習を途中で止めて、「組んでいる人の名前が分かるか?」という質問をした。
そこで選手たちは誰も自分たちが組んでいる選手の名前が分からなかったという。
「チームメイトの名前もわからないままでどうやって国を代表を代表する選手になるの?」
「コミュニケーションはバスケットボール選手としてだけでなく、人として当たり前の事だよ」
とトーステン氏はアドバイスしたと言う。この話にはハッとさせられた。
Check partners(drills)
いつも同じプレーヤーだけと練習をやらないこと。色んな選手と組むことによって学ぶことが大事。
Skill competitions
競争させる。プレーヤー同士を競い合わせることによって、試合と同じ緊張感や、ハラハラドキドキ感が生まれ、プレーの質も向上する。
Minor skill games at beginning or end of practice
技術的な要素の少ないゲームを練習の始めや終わりに取り入れる。
Team tasks with awards
勝ったチームにはご褒美を与える。賞賛する。
4.Off court tools
コート外でどのように振る舞うか。
Role discussions
チームでの役割について話し合う。選手が役割を受け入れることができないと、チームケミストリーは上がらない。
チームケミストリーを育む80%は選手同士の関係性に由来します。コーチが影響を及ぼせるのは20パーセントです
以下、講義中のロイブル氏のコメント
「繰り返しになりますが、チームケミストリーを育む80%は選手同士の関係性に由来します。コーチが影響を及ぼせるのは20パーセントです。その中でも、コーチが行うべき重要な事は選手としっかりと役割について話をする事です。主力の選手もいれば、どうしても控えに回ってしまう選手もいます。主力選手には自分の役割や、立場を認識してもらう必要もありますし、控え選手にも、その立場や評価を受け入れてもらう必要があります。
例えば、どうしても主力選手には実力的に劣る選手がいるとします。現時点での評価として、時として、しっかりと伝えることも重要です。『現時点での実力では、残念ながらこれぐらいのプレーイングタイムになってしまうね。こういう部分を成長できると、もっと重要な局面で役割を与えられるチャンスが増えるよ』。主力選手には、チームの中心として出場している責任感について話をしたりもします」
ゲーム前のトークについて
「ゲーム前に、選手のモチベーションを高めるために、コーチから熱のあるスピーチをすることもあります。私も選手の心に届くようにスピーチをしますが、泣きながらスピーチをするほどではありません。そこは各コーチのスタイルがあります。重要なのは、一過性のスピーチによって劇的にチームは強くなることはないということです。チームのスピリッツは日々の練習や、活動の中で醸成されるものです。」
Team activities communication
勝負を決めるような場面でシュートを打つエースのポジションまで決めておく。その選手が打ってダメなら仕方ないという所まで認識をさせれば、チームが負けてもみんな納得がいく。
まとめ
トーステン氏が講義やクリニック中に何度も言われていたことだが、チームケミストリーを築くことは、「コーチの一過性の感情的なスピーチなどで生まれるのではなく、プレーヤー同士の日々の習慣から生まれるもの」である。
これは選手同士のケミストリーだけでなく、コーチと選手のケミストリーにも言えることだろう。
例えば、練習の中で説明が足りないときや、何か失敗をしたとき、コーチ自身がそれを認めないと選手の尊敬や信頼を失うことになりかねない。
逆にこういった例もある。現在ロサンゼルス・レイカーズでHCをしているルーク・ウォルトンは、ゴールデンステイト・ウォリアーズに在籍していた際、ドレイモンド・グリーンのシューティングのリバウンドの手伝いを毎日していたそうだ。スティーブ・カーがチームを離脱し、ウォルトンがHC代理をしていた際もその役割に徹したという。
こういったコーチの謙虚な行動が、尊敬と信頼を生み、それがチームケミストリーに繋がっていく。チームケミストリーに繋がる行動はバスケットボールのみならず、実生活の中でも人に対して信頼残高を高めるものばかりであった。指導者としての振る舞いのみならず、様々なことに気付かされた濃密な2時間であった。
ドリルの紹介
「Eye to eye」あいさつゲーム
ドリブルをつきながらチームメイト全員と握手をする。このときお互いの目を見ながら、握手をしている選手のいい所、悪い所を言い合う(意見を明確に伝える)。言った後は「ありがとう」と言ってハイタッチし、他の選手に向かう。
「Minor game」パス鬼ごっこ。
鬼を1人決めて、その人は他の選手をタッチしに行く。ただし、鬼はボールを持っている人にはタッチできない。誰もタッチされないように逃げる側はパスを回していく。このとき名前を呼び合いながらパスをもらい、鬼にタッチされることを回避できれば、「サンキュー!◯◯、ナイスパス‼︎」とパスしてくれた選手の名前と感謝を伝える。
ボール陣地越えゲーム
2チーム対戦形式。1チーム最低7人程度必要。メディシンボールなどバスケットボールより重たいボールをコートの真ん中に2つ置く。お互いフリースローラインに並びそれをバスケットボールをぶつけて、相手のフリースローラインまで追いやったチームが勝ち。
チームには役割があり、3人はノーチャージセミサークル辺りで、転がったボールを拾いボールをぶつける人に供給する係になる。他の選手はフリースローライン上に並び、ボールをぶつける係(どの役割もフリースローラインを超えてはいけない)。
このメニューは、メディシンボールを相手の陣地に送りながら、自分の陣地に入られないようにする慌ただしいゲームである。その中で役割も決まっているので、より有効なコミュニケーションが求められる。
「Transition game」2on1〜2on2
2チームに分かれて対戦する。6点先取。オールコートでオフェンス2人が得点を狙いにいく。ディフェンスは1人はペイントエリアを守っており、もう1人のディフェンスは、オフェンスのボールがハーフラインを過ぎたら、ハーフラインからサークルを踏んでディフェンスに入ることができる。
このとき待っている選手は、ポジディブトークでプレーしている選手を励ます。(例、「ナイスショット!」、「強く!」、「ナイスパス!」など)ウイニングショットを決めた選手には、みんなで駆け寄り称賛する。
「Shoot competition」5スポットシューティング
2チームで競争形式。各チームボールは2個でシュートを3本決めたら次に進む。相手チームを追い越したら勝ち。
シューティング
フリースロー2本決めたら3P1本→これを合計9本決めた選手が勝ち。(ナショナルチームは12本連続で行なっている
この記事の著者
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株式会社ERUTLUC 指導員。1989年生まれ、山口県宇部市出身。藤山中-宇部工業高校-大東文化大学現在、小中学生をメインに指導しながら、長身者育成プログラムの活動も行っている。指導理念「私はバスケットボールを通じて、失敗することを恐れない選手を育てたい」
・Bigman Treasure Project
・池田指導員紹介ページ
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