business motivation

キッズ、ユース世代においてコーチが目指すべきことは「勝利」なのか、それとも「子どもたちの成長」なのか。競技スポーツのコーチにとってこれは大きな命題だと思います。

例えばミニバスのチームで、「あそこは確かに強いけど勝ちにばっかりこだわっているからダメだよね。できる子ばかりひいきしてベンチの子はほったらかし」と 言われていたり、逆に「あそこは楽しそうにやっているけどちょっとね」と言われていたりするチームがあると思います。コーチにとってはどちらも避けたい状況です。

今回はキッズ・ユース世代のコーチは「勝利」を目指すことをモチベーションに頑張らせるのか、それとも「成長する」ことをモチベーションにして頑張ることに注目するのかがテーマです。

 2種類のモチベーション

一口にモチベーション(やる気)と言っても、これには2つの種類があります。Extrinsic Motivation(外発的動機づけ)とIntrinsic motivation(内発的モチベーション)です。

Extrinsic Motivation(外発的動機づけ)

外発的動機づけは、自分以外からの影響によってやる気を起こさせるやり方です。スポーツコーチの文脈だと「ご褒美をもらいたいから、もしくは罰(体罰、言葉の暴力など)を受けたくないから頑張る」というのが外発的動機づけの代表例かと思います。

この「ご褒美」には文字通り何かをもらう以外にも、褒めてもらうことなども含まれます。また「罰」には人前で批判され辱められることなども含まれます(人として教育するために「叱る」こととは違います。ここでは主にパフォーマンスに関することでの「罰」を想像してください)。

コー チが練習中にガンガン怒ってハードにプレーさせたり、「~できなかったら罰走だ!」といった形で罰を与えることで必死にプレーさせたりするのも、一種の外発的動機づけのやり方です。このやり方のメリット(?)は「無理やりモチベーションのレベルを引き上げることができる」という点のみです。子どもが自然に持つモチベーションのレベルを超えてハードにプレーさせることに繋がります。恐らくこれが、コーチが外発的動機づけに頼りがちになる大きな理由かと思 います。勝つことだけを考えれば、モチベーションレベルを無理矢理にでも上げられるのは有用です。

・外発的動機づけに頼りすぎることのリスク

しかしこの外発的動機づけに頼りすぎると、様々なリスクが生じてきます。

  1.  「楽しいからやりたい!」という純粋なやる気(後にでてくるIntrinsic Motivation: 内発的モチベーション)を消してしまう(最初は楽しくてやっていたのが、いつの間にか「ご褒美がもらえるからやる」「やれといわれるからやる」に変わって しまう)。
  2. 考えること(想像力)を必要とする分野でのパフォーマンスを低下させる。
  3. 視野を狭める(「やれ!」と言われたことで一生懸命になってしまい、ほかの選択肢を考えられない)。
  4. 思考が短絡的になる。
  5. バーンアウト(燃えつき症候群)の発生。

以上のように、特に右脳の活動が必要な「柔軟な発想」や「概念的な理解」を阻害します。ガンガン怒られるチームにいるとき、「コーチに言われたことをやらなきゃ」と一生懸命になって、視野が狭くなったり、頭が固いと言われて怒られたりしたことはありませんか?

特に罰(怒ったり怒鳴ったり)だけで支配しようとすると、これらのリスクが発生する確率が高くなります。何よりも①、「純粋なやる気を消す」が最大の問題かと思います。また「無理矢理モチベーションレベルを上げる」ことはOver Motivatedと呼ばれ、⑤のバーンアウト(燃えつき症候群)が発生しやすくなります。そして、罰で支配する外発的動機づけは短い間しか持続しません。

・褒めるのはいいんでしょ?

そして一見どれだけ使っても良さそうな「褒める」という手段にも、注意しなければならないことがあります。それは「これができたら、コーチに必ず褒められる」という風にならないことです。要するに、褒めるのをプレイヤーに予測されないことです。これが選手に予測されるようになると、結局「これをやらなきゃ褒められない」もしくは「褒められるために頑張る」という考えになってしまいます。褒めすぎると効果が薄れるのはこれが関係していると推測されます。

もちろん外発的動機づけを使わずに指導するのは現実的ではありません。これも必要な手段です。しかし上記のように、外発的動機づけは細心の注意を払って使わなければならないことが分かります。結局「褒めること」も「罰を与えること」もコインの表と裏のようなもので、どちらも「外発的動機づけ」であることに変わらず、最終的には相手を「コン トロール」することに繋がるのです。

Intrinsic Motivation(内発的モチベーション)

内発的モチベーションは、一言でいうと、「その活動が楽しいからやりたい」というモチベーションのことです。誰でも最初は、シュートが入ることが楽しいから、新しいスキルができるようになるのが楽しいから、自分が成長するのが楽しいから、バスケを始めたはずです。その純粋にバスケを楽しむ気持ち、上手くなることを楽しむ気持ちが内発的モチベーションです。

・内発的モチベーションのメリット

このモチベーションには多くのメリットがあり、

  1. 外発的動機づけ(褒めることや罰を与えること)がやる気の源泉のときと比べて、長い目で見てパフォーマンスが向上する。
  2. 外発的動機づけは内発的モチベーションを破壊し得るが、内発的モチベーションが源泉でも外発的動機づけの効果を薄れさせない。
  3. やる気が長く続く(外発的動機づけは長く続かない)。
  4. 身体的にも精神的にも健やかな成長を促す(嫌なことがあったときも立ち直りやすくなる)。
  5. 競争やトレーニングのレベルが上がったときも、それを達成しようと努力できる。

などといった特徴が見られるようになります。したがって①で見られるように、ミニバスレベルで恐怖をもって支配し、ハードにプレーさせて「短期的に見れば」パフォーマンスが上がったとしても、もし内発的モチベーションまで消してしまうと、「長期的に見れば」その子のパフォーマンスを削ってしまうことになるわけですから本末転倒になってしまいます。純粋にバスケを楽しんでいる人と、誰かにやらされている人を想像し、比べてみると分かりやすいかもしれません。

特にキッズ、ユース世代のコーチとしては、長い目で見た子どもたちのパフォーマンスを延ばすため(①、③、⑤)、また健やかな成長を促すため(④)にも、この内発的モチベーションをどれだけ刺激できるかがかなり大きい要素になるかと思います。

・内発的モチベーションをどう刺激するか

じゃあどうやってこのモチベーションを刺激できるかですが、Ryan & Deci の「Self-Determination Theory」 がかなり有力な理論となっています。日本語にすると「自己決定理論」とでも言いましょうか。この理論をまとめると、

人間にはA「誰かと関わりたい」、B「自分はできるんだということを感じたい」、C「自分で判断、決定して行動したい」という三大欲求がある。これらの欲求が満たされたとき、内発的モチベーションが促進される。

というものです。この理論に基づいて、内発的モチベーションを促進するためにコーチができることは以下のように考えられます。

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  1. アスリートにできるだけ決定権を与える。コーチが、プレイヤーたちが判断できるレベルの選択肢に落とし込んででも、プレイヤーが自分で決めるように仕向ける。(C)
  2. 建設的で、パフォーマンスを改善できることに焦点を当てた、細かいフィードバックを与える。ただダメなところを指摘するだけでなく、どうすれば改善できるかも示す。(B)
  3. プレイヤーを他のプレイヤーと比べるのではなく、その子の過去のパフォーマンスと比べる。その子がどれだけ成長したかで判断する。(B)
  4. 相互の尊敬に基づくコーチとアスリートの関係を作る。(A)

※カッコ内は理論のどの部分とマッチするかを示す

コーチング講習会に参加してトップレベルのコーチに話を聞くと、特にミニバスなどキッズ世代においては、過度に勝利至上主義に陥らず、子どもにバスケを楽しませること、安全にプレーさせること、自分が成長していることを感じさせることが大切だという話を何度も強調されていました。それはこの理論とも通じるものがあると思います。その方はメジャーリーグに何人も選手を送っている野球のヘッドコーチだったのですが、「最初に子どもたちがプレーするときに考えているのは楽しむことだけだ。そんな小さいときから勝利だけを追いかけるのはコーチや親のエゴでしかない」という旨の話でした。

特に3番、「その子がどれだけ成長したかで判断する」は大きな要素になります。内発的モチベーションは、「成長」に重きを置いているとも言えます。

 コーチは「勝利」を目指すのか、それとも「成長」を目指すのか

人が何かを目指すときには、大きく分けて2種類の方向性があります。

エゴオリエンテーションとタスクオリエンテーション

1つ目は「人よりも良くありたい」という、他の人と比べての方向性です。スポーツでいうと、県大会で優勝したいだとか、あの選手に勝ちたいとか、「誰か他の人より秀でていたい」という方向性です。これをエゴオリエンテーションといいます。

2つ目は「前よりも成長していたい」という、過去と自分と比べる方向性です。これは、前よりもタスク(仕事)ができるようにという意味で、タスクオリエンテーションといいます。

この方向性は各個人(子どもたち、コーチ)も、集団(チーム)も、両方が持っています。

もうお気づきのかたもいらっしゃるかもしれませんが、この2つは前に書いた外発的動機づけと内発的モチベーションの2つの関係と非常によく似ています。

勝ちに傾こうとするエゴオリエンテーション

そして、エゴオリエンテーションに傾きすぎることを「勝利至上主義に陥る」と言い換えられます。外発的動機づけと同じく、エゴオリエンテーションも、リスクが大きいと言えます。

「勝利至上主義」の問題点は、勝っているときには出現せず(これはチームとしての争いもそうですが、チーム内でのポジション争い、プレイタイムの奪い合 いでも同様です)、負けたときに強く現れます。ほとんどの問題点は外発的動機づけの問題点と類似するので省きますが、ここでの一番大きい問題点として、 「勝利至上主義」に陥っている選手は、自分の「人としての評価、社会的地位」を「スポーツの成績」と強く結びつけてしまうことが挙げられます。

つまり、勝っているときは「自分は人として上等だ」と思い、負けたときは「人としてダメだ」となってしまう危険性が強いということです。ポジション争いに負けてプレイタイムが得られない、ただそれだけのことでも「自分は人としてダメだ」となってしまうということです。

楽しみ、成長しようとするタスクオリエンテーション

対 してタスクオリエンテーションは、内発的モチベーション(純粋に楽しむモチベーション)と強く結びついています。コーチとして、「その子がどれだけ頑張り、どれだけ成長したか」に焦点を当て、そこで評価する傾向が強いと、タスクオリエンテーションが強いということになります。内発的モチベーションと同様、これはリスクが少なく、メリットもくあります。

・「勝利」か「成長」か。答えは?

これだけだと、「勝利を目指すな」という結論になってしまいそうですが、実は話にはまだ続きがあります。エゴオリエンテーション(「勝つこと」に目を向ける方向性)とタスクオリエ ンテーション(「成長すること」に目を向ける方向性)の両方に焦点が当たっている場合は、エゴオリエンテーションのリスクが激減するということです。つまり「勝ち」も「成長」も追及することで、競技を楽しみながら高いモチベーションレベルを保ち、かつバーンアウトや柔軟な思考の阻害といったリスクを受けずにパフォーマンスを伸ばしていくことが可能になるということです。特に競技スポーツにおいては、「勝つこと」と「成長すること」の両方に子どもたちの焦点が当たっている状態が望ましいということになります。タイトルの「勝ち」か「成長」かという問いの答えは、両方とも追求することができそうです。 当たり前といえば当たり前ですね。

・そのために、コーチがすべきこととは?

しかしそれは自然に達成されるわけではありません。何故なら「勝敗は万人が最も分かりやすい判断材料」であり、子どもたち自身も、保護者などの子どもの周りにいる人も、どうしても 「勝ち負け」で良し悪しを判断することが多くなるためです。何しろそれが一番分かりやすく、はっきりしている判断基準ですから。そこでコーチも「勝ち」のみに執着してしまったら、子どもたちの注意は本当に「勝ち」のみに向いてしまいます。そうすると、子どもたちの目は自然に「誰かを負かすこと」のみに集中 してしまい、エゴオリエンテーションの弊害が出やすくなってしまいます。

これを防ぐためには、コーチがチームの方向性と して、「どれだけ成長したか」に照準を当て、「その子の中での成長の尺度」「そのチームの中での成長の尺度」を持たせてあげることが非常に大事になってくるかと思います。そしてそれができるのは多くの場合、充分なバスケに関する知識を、どうすれば成長できるかを示す「コーチ」という役割だけだと思うのです。「勝ち」への方向性に傾きがちな子どもたちを、「成長」への方向性へと引っ張り、バランスを取ってあげるのがコーチの役割ではないかと感じます。

特にプレイタイムが少ない子どもたちに関して、これができるかどうかの影響が大きいと思います。(プレイタイムが多い子はすでにチーム内での競争に「勝って」いるため)例えば、全員と個別面談をしてその子がどれだけ成長しているか、どのような姿を目指し、これからどうやって伸びていくかなどを相談するのは有効な手段かと思います。

皆様のチームでも個々の成長を促すための工夫があるかと思います。そういった貴重な工夫の数々を、ぜひコメント欄を使ってシェアしていただきたいと思います!

参照:

Pink, D. H. (2011). Drive. New York, NY

Jamison, S., & Wooden, J. R. (n.d). Wooden: a lifetime of observations and reflections on and off the court.

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68-78.

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この記事の著者

森 高大
森 高大Twitter:@ta__mori
1989年生まれ、香川県出身。香東中学校-高松高校-東京大学-ウェストバージニア大学大学院アスレティックコーチング専攻。小学校からバスケを始め、大学3年次までプレイヤー4年次には学生コーチと主務を兼任しながら、株式会社Erutlucで小中学生の指導にあたる。現在はアメリカDivision I 所属のウェストバージニア大学大学院でコーチングを専攻しながら、男子バスケ部でマネージャーとして活動中。
コーチMのブログ http://ameblo.jp/tamorimorimori83/