チームのスタンダードを確立するということ

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By kris krüg from Vancouver, Canada – IMG_7720
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ウィンターカップが終わり、新しい年になりました。

新人戦が始まり、すべての高校生が新しいスタートラインに立ったということですね。

新たな船出に向けて、大きな期待もあればチームがうまくまとまるのだろうかという不安もあることでしょう。チームを団結させて1つの大きな目標に向かうための有益な方法として、「チームのスタンダードを確立すること」が挙げられます。

バスケットボールにおけるスタンダードとは何か?

これを説明する上では「スタンダードとは何か?」を説明しなければなりません。本サイトのタイトルにもなっていますが、「ゴールドスタンダード」とはアメリカの名門デューク大学のヘッドコーチマイク・シャシェフスキー(以下コーチK)の著書より引用したものです。

本書は世界の舞台での絶対王者であったアメリカ代表が、2002年の世界選手権で6位、2004年アテネ五輪で3位に終わったことを受け、コーチK指揮の元で王者の復権をかけて挑んだ長きに渡る物語を描いたものです。

その後2006年世界選手権は3位に終わったものの、2008年北京五輪で見事優勝を遂げました。その成功にいたった理由を14の項目にわたって書き出しています。その中で最も重要なこととして挙げられていたのが、書籍のタイトルにもなった「スタンダードを構築するための時間 (Time to Establish Standards)」です。

※ちなみにゴールドスタンダードとは一般的に「絶対標準」と訳されますが、ここでは「金メダルを獲得するためのスタンダード」という意味の造語として使われています。

コーチKは「チーム作りにおいて、私は規則(ルール)を信じていない」と明確に述べています。普通チームには守るべきルールがあって、それが規律を生む上で重要だと思われますが、その理由として、

規則はリーダーによって集団に向かって発せられるものであり、その集団はそのルールに従うこともできるし、それを破ることもできる。何かが規則として提示されたとき、あなたはそれを自分のものとして所有することはできない。あなたは規則そのものを実行することはできない。

からなのだと述べています。ではどうすればよいのかというと、「私はスタンダードを信じている」ということになるのです。

スタンダードは実行されるものだ。私たちがいかなるときでも実行することだ。それは、私たちがお互いに対して責任を負っていることである。そしてスタンダードが集団の挑戦の一部として構築されたとき、それは理解され、より深いレベルで受け入れるのが可能になる。

正直なんだか難しいですね。直訳すれば「標準」となりますが、うまく言い換えるならば「内部規範」だったり、会社員の方なら「クレド(信条、約束)」と言えば分かりやすいかもしれません。要は自分たちが信じている価値観なのだから、これは守っていきましょう、誰に言われるでもなく当たり前に実行していきましょうということですね。コーチKは「スタンダードは私たちがしなければならないことではなく、それは単に既にやっていること」なのだとも言っています。

しかし重要なことは、これを「構築」することです。誰もが個人的に持っていても仕方ありません。それをチームとして共有していくことで強固な団結が生まれるのです。

私がこれまで経験してきて分かったのは、最もシンプルで根本的なことが、しっかりと口に出されていないということである。しかし、スタンダードは決して暗黙の了解では成り立たないものなのだ。

アメリカ代表のスタンダード

アメリカ代表のスタンダードが具体的にどのようなものなのかをご紹介します。このときの代表がスタンダードを話し合ったのは、2008年の7月だと記されています。北京五輪本番のわずか数ヶ月前だったんですね。このときのやり取りは同書に詳細に記されており、非常に面白いやりとりがなされています。そして出来上がったスタンダードがこちらです。

ゴールドスタンダード
私たちがいついかなるときでも実行すること。
私たちがお互いに対して責任を負っていること。

  1. 言い訳はしない(NO EXCUSES)
    私たちは勝つために必要なことをする。
  2. 強固なディフェンス(GREAT DEFENSE)
    これこそが金メダルを獲るための鍵となる。
    私たちは泥臭くプレイする。
  3. コミュニケーション(COMMUNICATION)
    私たちはしっかりとお互いの目を見る。
    私たちはお互いに真実を告げる。
  4. 信頼(TRUST)
    私たちはお互いのことを信じる。
  5. 集団責任 (COLLECTIVE RESPONSIBILITY)
    私たちはお互いを信じて託して、献身的になる。
    私たちは共に勝利する。
  6. 配慮(CARE)
    私たちはお互いを支え合う。
    私たちはチームメイトを助ける。
  7. 敬意 (RESPECT)
    私たちはお互いに、また相手チームに対しても敬意を払う。
    私たちはいつも時間を守る。
    私たちはいつでも準備をしておく。
  8. 知性 (INTELLIGENCE)
    私たちは良いシュートを打つ。
    私たちはチームファールの数を把握する。
    私たちはスカウティングレポートを覚えておく。
  9. 平常心(POISE)
    私たちは弱さを見せない。
  10. 柔軟性 (FLEXIBILITY)
    私たちはどんな状況にも対処できる。
    私たちは不満を言わない。
  11. 利己的にならない(UNSELFISHNESS)
    私たちはつながっている。
    私たちはパスを多く回す。
    私たちの価値はプレイングタイムでは計れない。
  12. 積極性 (AGGRESSIVENES)
    私たちは毎回一所懸命にプレイしよう。
  13. 熱い気持ち (ENTHUSIASM)
    これは楽しみ以外の何ものでもない。
  14. パフォーマンス(PERFORMANCE)
    私たちは飢えている。
    私たちは駄目な練習はしない。
  15. 誇り (PRIDE)
    私たちは世界一のチームであり、世界一の国を代表している。

何か特別なことが語られているわけではありません。「7.敬意」の時間を守るなんて当たり前のことですよね。それを言われたから守るのか、自分で決めたから守るのかというだけの違いです。ちなみにこれはジェイソン・キッドが口を酸っぱくして言っています。

当たり前のこと、自分の信じるもの、自分が欲するものをチームで共有して1つの形にすることこそが、成功への1つの道しるべとなるのです。中学生や高校生はまだ子どもかもしれません。しかしいずれ社会人になることを考えれば、単にルールによって強制するだけでなく、自発的に行動させることが必要なのではないでしょうか? そういった意味でもスタンダードを構築することには大きな意味があります。またそれが教育であったり部活の存在意義でもあるように思います。

これを機会に是非あなたのチームだけのスタンダードを作ってみてください。そしてもしそれが出来上がったら、是非教えてください。最後にスタンダードを構築するための注意事項を、コーチKの言葉を借りて記します。

もしあなたがスタンダードミーティングを行なうことを選ぶなら、たくさんの声がそのミーティングを活気づけるようにすることが、どれほど大切なことであるかを覚えておいてもらいたい。

忘れないでもらいたいのは、スタンダードはあなたたちがいかなるときでも行なうことであって、あなたたちがお互いに対して責任を負うものだということです。ひとたびそれが完成すれば、チームはそのリストを見て、「これこそが自分たちのあるべき姿だ」と言うことができます。前進して、競争をして、困難に直面したときも、自分のチームを見て、ただ単純に「自分たちらしくあろうじゃないか」と言うことができます。

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この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他