熊本ヴォルターズがやってきた!ヤァヤァヤァ 保田尭之HC開幕前インタビュー
現在(2017年1月12日)、B.LEAGUE(2部)の23勝5敗(勝率:821)で西地区首位と好調の熊本ヴォルターズ。チームを率いる保田コーチについては、以前にGSLでも特集記事を投稿した。
実は、熊本ヴォルターズは、シーズン開幕前、瀬戸内海に浮かぶ小豆島でキャンプを行っている。熊本地震の影響で、熊本ヴォルターズの選手は練習環境などに恵まれない報道を見聞きし、「プロ選手らしい環境で、バスケットボールをさせてあげたい」「その姿を、小豆島の子どもを見たら、喜ぶのではないか?」と着想してた渡部勝之氏が着想し、各方面で働きかけたのがきっかけだ。
プロバスケットボールチームがシーズン前のキャンプとして小豆島で過ごした日々の熱狂や、小豆島の美しい自然風景については、「小豆島ユナイテッド」のHPをご参照頂きたい。
<参考>
小豆島ユナイテッド
熊本ヴォルターズがやってきた!
GSL編集部では、熊本ヴォルターズが小豆島滞在中に、前述の渡部氏が保田HCに行ったインタビュー音源を元に編集と構成を担当。B.LEAGUE 最年少HCとしてシーズンに迎える心境や「コーチングフィロソフィー」に迫った内容となっている。
目次
熊本ヴォルターズ 保田尭之コーチインタビュー(前編)(2016年7月26日~29日)
『チームの勝利と選手のキャリアを両立するのが目標です』
−−今シーズンがHCとしての最初のシーズン、いわば、「保田ヴォルターズ」初年度です。どういうヴォルターズを創っていきたいとお考えですか?
チームには色々な選手がいます。その選手の特徴を引き出したチームづくりをするのが私の仕事だと思っています。GMが獲得した選手もいらっしゃいますし、私がこのような個性のある選手を欲しいと要望した選手もいます。
一般的に、コーチには2種類のコーチがいると言われていると思います。コーチの理想や戦術の中に選手の個性をはめるコーチと、選手の個性を組み合わせてチームの形を作り出そうとするタイプです。私は、後者のスタイルを目指したいと思っています。
−−その為に、重視していることはなんですか?
今回の小豆島キャンプもテーマは「コミュニケーション」でもあるのですが、まさにコミュニケーションに関して、意識している取り組みがあります。
今シーズンの練習をスタートする前に、選手一人ひとりと、私とでミーティングを行いました。
トレーニングや身体のコンディションについてはトレーナーにも同席してもらいましたが、それ以外の部分は、選手と私とのマンツーマンです。腹を割って話をしたいと思い、この取り組みをスタートしました。
まず、私が思う、各選手の長所・短所を伝え、また、コーチとして分析した上での、苦手箇所の指摘を実施しています。その上で、実際の選手の印象や認識を聞きました。また、1年後、2年後、3年後と、どういうキャリアを歩もうとしているのかという構想を聞き、また、オフコートで不安に思っていることも聞きました。
今シーズンは私にとっては、初陣となるシーズンです。ですが、当然ですが、選手にとってもキャリアの中で重要なシーズンであるわけです。今シーズン、チームとして結果を出すことと、各選手の今後の選手のキャリアの充実と、その2つを両立していきたいと考えています。
−−大変な労力が掛かる事だと思いますが、着想した経緯は何でしょうか?
選手一人ひとりの長所・短所を把握することももちろんですが、選手にはこれからも長いプロ生活が控えていますので、選手自身が考える長所・短所、克服したい分野などをヒアリングをしたかったからです。
例えば、ピックアンドロールを使う際、コーチはインサイドの選手に対して、アウトサイドが得意な選手にはポップアウトをさせたり、インサイドアタックが得意な選手にはダイブをさせて、攻撃をデザインします。
しかし、ある選手とマンツーマンで話をしている中で、「ストレッチ4*」になりたいという構想や自分の将来像を持っていることを聞きました。近年、NBAや欧州などでも重要視されているスキルですね。
*NBAなどでもポジションが確立されている、オンボールスクリーンからポップアウトや、ワイドオープンで3Pを決められるような選手の呼び名
その選手がそういう考えを持っていることはマンツーマンで話をして初めて知りました。そこは、コーチ側としても新しい発見になり、考慮の1つになりました。何よりもチームにとっても重要な武器にもなると思いした。
さらには、ポジション別の練習などをする際に、コーチとしては選手をアウトサイド、インサイドと振り分けます。その際、その選手はアウトサイドのDFEやOFEにも意欲があることが分かったので、ドリルに応じて、アウトサイド側へ入ってもらうなどの割り振りをしました。非常に良い練習ができたケースも多かったです。
これは、選手の意欲や構想と、チームの練習とを両立するできたケースだと思っています。繰り返しになりますが、これは、選手にマンツーマンで話を聞いたからわかったことでした。
熊本ヴォルターズ 保田尭之コーチインタビュー(後編)(2016年7月26日~29日)
『準備に命を賭けたい』
−−昨今、「コーチング フィロソフィー」という言葉が数多く語られるようになったように思います。保田HCの尊敬するコーチや、コーチングフィロソフィーは何でしょうか?
大学生の時期から指導をスタートし、中学生、高校生の女子、海外(スペイン)での経験、子どもの世代との関わりを経験させていただきました。その中で、それぞれの経験の中で憧れの存在という方はいます。
初のプロキャリアとなった和歌山では、ジェリコHCからプロ意識を教わりました。元々、ジェリコさんが代表チームを指導されている時期に憧れてコーチになりたいと思ったので、非常に貴重な縁を頂くことができました。
熊本ヴォルターズでは清水良規コーチの下でお世話になりました。大阪出身の私にとって、小さい頃に見ていた国内リーグで指導されていた方が清水コーチです。その清水さんと一緒に仕事をできたことも特別なことでした。清水さんは、私と40歳ほど、年齢もキャリアも異なります。そんな中で、非常に多くのことを私のような若輩者に任せて頂いたことが何よりの経験です。HCとなった私も意識しているところです。
当時は、自分のこの年齢で、ここまでの役割と権限を与えて頂いている人が国内リーグの中でいるのかと思うほど、沢山の役割を与えて頂きました。そのすべてが非常に良い経験になりました。
耳を傾けたくれたことや、アイデアを採用してくださったり、実行してくださったこと。その中には、残念ながら失敗したこともありましたが、多くを受け止めてくれたことに大変感謝しています。
なので、現在のチームでも、それぞれのキャリアプランや構想を聞きながら、今後、別のチームに行ったとしても堂々と仕事ができるよう、その中でリーダーになれるように、役割をしっかりと与えながら進めることを意識しています。
マネージャーについても同様です。選手との接し方、距離感についても正解は1つではないので、それぞれ経験を積む中で学んでほしいと思っています。
−−ご自身としては、どうですか?
自分自身は、基本的に人のことを好きになるタイプなので、選手やスタッフの良い部分を感じ取り、良好なコミュニケーションを取っていきたいと感じています。
特に、前述の一人ひとりとのミーティングでも使ったのは、「コーチと選手という立場ではあるが、良いバスケットボールを披露し、同じ勝利を目指すという、同じ目標を持った仲間、同志である」という部分です。
選手として経験が無いのは、私に足りない部分でもあります。そこを自覚しつつ、選手の話も聞くし、同じ目標を持っているということ、そして、選手のキャリア全体を考えているという部分も含めて、「力を合わせてやっていきましょう!」ということを思っていますし、選手の方ともそう話をしました。
−−哲学的なことになると思いますが、コーチとしての保田さんの中に流れている単語っていうのは何ですか??
難しいですね……でも、日本人って皆が同じ練習をするじゃないですか? フロントチェンジならフロントチェンジ。そこでバックビハインドをしてミスでもしようものなら怒られます。
そんな中で、それぞれのスキルには理屈と理由があるので、そこを突き詰めていきたいと考えています。理屈や理由をうまく理解して、その上で教えていきたいので、私自身がもっともっと勉強する。また、理由と理屈の説明ができないことに関しては曖昧に教えないことも心掛けています。
コーチは全てを網羅していないといけないので、一つひとつの技術、選手の疑問に対してしっかりと準備をする。しっかりと説明できる準備。そう、準備ですね!!! 準備を大切な言葉にしたいですね。準備に命を賭けたいです。
今回の合宿の中でも、私たちが準備をしないと、選手は準備をしないというのはスタッフ間でも話をしました。常にスタッフが彼らの1歩前にいないと、物事が円滑に進まないのです。
仮に、私だったりスタッフの年齢が高ければ、一言指示を伝えただけで物事が進むケースがあります。でも、実際はそうではありません。なので、スタッフ陣が、何よりも準備をしなければならないと思っています。
この高い意識のまま仕事を継続することで、5年後、10年後に生かされると自分にも言い聞かせてやっているますし、周りと差をつけるという部分を、若いスタッフ同士だからこそ、意識しています。
−−「準備に命を賭ける」良い言葉ですね。ちなみに、今、指導の現場では、これまでのバスケットボールと、今後のバスケットボールが少し異なるんじゃないかという違和感を感じ始めていて、それを伝えてくれる人が増えてきているように感じます。保田コーチとして、大事にされていることは?
チームとしては、1年でB2からB1に上がることが意識していることです。他のチームも、誇りを持って取り組んでいる中で、良いプレーを見せることももちろんですが、人に見られているという意識を持って、高い意識で取り組んでいきたいです。
私が部活動でバスケットに励んでいる時期にbjリーグが始まり、大きな刺激を受けました。あの時の私のように、熊本ヴォルターズの試合を見て、あんなバスケをしてみたい、あのチームに入団したいと、熊本や、キャンプの縁を頂いた小豆島の子どもたちに思ってもらえるようなバスケットを目指していきたいです。
聞き手:渡部(小豆島ユナイテッド)、校正・編集:片岡(GSL特別研究員)
<参考>
バスケットボールを学ぶためにスペインへ! 保田コーチのスペインでの軌跡の特集記事
この記事の著者
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1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。