バスケットボールは算数か? バスケットボールにおけるKPIの考え方
「バスケットは算数じゃねぇ」
自分がバスケを始めるきっかけになったこの漫画を否定するつもりはありませんが、実際バスケットボールは数字と深く関係していますね。例えば森コーチなんかも、こんな記事を書いています。
前者はアップセットのための方程式、後者は期待値について書かれています。そして以前からトピックとしては頭にあったのですが、前回のボブ・ナイトの記事にあったこんな言葉をきっかけに、詳しく調べてみようと思い立ちました。
First stat I look at after the game – did we make more FT’s than our opponent shot? If so, we usually won.
試合後にまず注目するのは、自分たちは相手よりも多くのフリースローを打ったかどうかだ。もしそうなら、大抵は試合に勝っている。
私は過去に出版社で勤務していましたが、現在はwebマーケティングの仕事をしています。webマーケティングで頻出する言葉に、KPIとKGIというものがあります。前述した言葉が、まさにこの考え方を表していると感じます。もしかしたらこの考え方をスポーツにも適用できるかもしれない。そう思い立ち、今回はこのKPI・KGIと、バスケットボールの関係について調べてみました。
目次
KPI(Key Performance Indicators)とKGI(Key Goal Indicator)
まずKPIとKGIの考え方について説明しましょう。
「KGI」も「KPI」も、共に、企業目標を達成するための手段(となる行動)が遂行されているか?を定量的に測定する指標の1つです。「KGI」が、プロセスの目標(ゴール)として達成したか否かを定量的に表すのに対して、「KPI」は、プロセスの実施状況を計測するために、実行の度合い(パフォーマンス)を定量的に示すものになります。代表的な「KGI」として、「売上高」「利益率」「成約件数」などがあります。つまり、「KGI」達成に向かってプロセスが適切に実施されているかどうかを中間的に計測するのが、「KPI」だといえます。
「KPI」と「KGI」の違い?|イノベーションズアイ
このように、KGIはチームや個人としての最終目的。KPIはその目的までの中間指標、目標値と言えます。先のボブ・ナイトの言葉を逆説的に当てはめると、チームの「目的」は勝利であって、そのためには、相手よりフリースローを多く打つ、という「目標」を立てるものです(実際には具体的な数値であることが望ましいのですが、今回は考え方とするので、この限りではないとします)。
実際経験のあるコーチたちは、暗黙的にこうした考え方をしていると思います。自チームの強み・勝ちパターンを分析した上で、例えばターンオーバーをいくつに抑える、リバウンドをいくつとる、スリーポイントを何本打つ、それによって勝利に近づくというように。一方目的が勝利でない場合でも、この考え方は適用できるはずです。
あるいは、個人としての目標設定にも使えるかもしれません。リーグで得点王になる、40分走りきる、試合に10分出場するなど、個々によって目指すところは違うと思いますが、そのためにどんな練習が必要なのか、どこからのシュートを増やすべきか、またオープンならどれくらいの確率で決められるようにならなければならないのか、といった具合です。
例えば下記の記事では、サッカーにおけるKPIの考え方を説いています。
サッカーの場合、まず重要なKPIはゴール数だ。サッカーという、極めて得点の取りにくいスポーツにおいて、ゴールを入れられる能力を持った人間は高い収入を手にし、何度もテレビに映る。ゴールそのものでなくとも、その一段階前のステップとして、「シュートがゴールの枠を捉えた率」であったり、アシスト数、「アシストにはならなかったが、そこから生まれたシュートが枠を捉えた率」などもKPIとして有効だろう。
としつつも、
まだ野球ほど有効なKPIが発見されていないこともあって、やはりアナログ的な判断に頼らざるを得ないと考えている指揮官は多い。ただ、これは逆にチャンスでもあると言えそうだ。何らかの効果的なKPIを発見して、「数%」の差をつけられれば、それはトップレベルでは大きな差をもたらしうるからだ。
と有用とされる可能性を述べています。
しかしながら、まだまだ同じような文献には出会えておらず、活用状況は海外に頼るしかなさそうです。
スポーツにおけるKPIの活用状況
海外の事例を探してみました。実際にバスケットボールの世界でこの考え方が適用されているのか? されているとすればどのようにされているのか。まずは今回の主旨と同じように、解析をスポーツに例えて説明している記事がありました。
バスケットボールの成功における4つの要因
私は勉強不足で全然存じ上げなかったのですが、統計学に明るい「Basketball on Paper: Rules and Tools for Performance Analysis」の著者ディーン・オリバー氏によると、「バスケットボールの成功における4つの要因」として下記の4つを挙げています。
- シュート:40%(eFG%)
- ターンオーバー:25%(TO Ratio)
- リバウンド:20%(OREB%)
- フリースロー:15%(FTA Rate)
これらの数字は試合の中での重要度の割合で、こちらの記事「Four Factors|basketball-reference.com」では、各項目の計算式まで詳細に載っています(詳しい解説は別の方に譲りたいと思います)。そして著者は、これが明らかであれば、コーチあるいはGMとしてなすべきことは明白だろうと述べています(著者の場合は「スカウト」と言っていますが、皆さんの場合は練習で補うということになるかもしれません)。
そしてどうやら、NBAのスタッツ機能でも、この「Four Factors」が見れるようなので、エクセルに落としこんで見てみました。まず次チームのFour Factorsから相手チームのFour Factorsを引いた差分で順位をつけてみました。赤字がカンファレンスファイナルまで行った4チームで、青字がカンファレンスセミファイナルまで進んだチームです(FTA Rateは元の数字に100をかけています)。確かに赤と青の方が比較的上位にいますが、大きな有意差が見られる訳ではありません。
チーム | eFG% | FTA Rate | TO Ratio | OREB% | Opp eFG% | Opp FTA Rate | Opp To Ratio | Opp OREB% | 自チーム計 | 相手チーム計 | 差分 |
Cleveland Cavaliers | 48.8 | 32.1 | 13.2 | 28.3 | 45.4 | 26.6 | 12.3 | 22.2 | 122.4 | 106.5 | 15.9 |
Washington Wizards | 49.7 | 28 | 14.8 | 26.8 | 47 | 23.2 | 13.5 | 22.8 | 119.3 | 106.5 | 12.8 |
Houston Rockets | 50.5 | 44 | 14.9 | 23.8 | 51.4 | 29.8 | 13.9 | 25.6 | 133.2 | 120.7 | 12.5 |
Chicago Bulls | 47.4 | 25.7 | 14.7 | 26.8 | 45.2 | 25.9 | 13.2 | 25.7 | 114.6 | 110 | 4.6 |
Golden State Warriors | 52.2 | 25.2 | 15.7 | 26.9 | 46.3 | 30.6 | 14.5 | 24.1 | 120 | 115.5 | 4.5 |
Brooklyn Nets | 48.6 | 25.1 | 14.8 | 21 | 50.5 | 20.7 | 13.6 | 22.2 | 109.5 | 107 | 2.5 |
Portland Trail Blazers | 45.5 | 25.8 | 12.2 | 22.2 | 46.5 | 29.9 | 8.7 | 21.9 | 105.7 | 107 | -1.3 |
San Antonio Spurs | 50.5 | 29.8 | 12.5 | 24.8 | 50.9 | 34.6 | 12.6 | 21.4 | 117.6 | 119.5 | -1.9 |
Memphis Grizzlies | 45.1 | 27 | 11.6 | 23.7 | 50.1 | 24.7 | 15.6 | 22.8 | 107.4 | 113.2 | -5.8 |
Los Angeles Clippers | 51.5 | 36.1 | 12.9 | 21.3 | 50.5 | 38.3 | 13.9 | 25 | 121.8 | 127.7 | -5.9 |
Atlanta Hawks | 48.4 | 22.7 | 13.1 | 21.6 | 48.6 | 26 | 14.4 | 25.3 | 105.8 | 114.3 | -8.5 |
New Orleans Pelicans | 49.1 | 26.4 | 13.9 | 24.9 | 51.6 | 30.3 | 12.6 | 30.9 | 114.3 | 125.4 | -11.1 |
Dallas Mavericks | 49.3 | 27.4 | 13.7 | 28.1 | 52 | 42.9 | 13.7 | 24.9 | 118.5 | 133.5 | -15 |
Boston Celtics | 45.3 | 30.8 | 13.9 | 22.2 | 49.8 | 39.4 | 13.2 | 28.1 | 112.2 | 130.5 | -18.3 |
Milwaukee Bucks | 41.9 | 23.6 | 13.4 | 23.9 | 50.4 | 27.5 | 17.5 | 26.5 | 102.8 | 121.9 | -19.1 |
Toronto Raptors | 45.9 | 24.1 | 11.9 | 19 | 54.7 | 34.8 | 14.8 | 27 | 100.9 | 131.3 | -30.4 |
次にそれぞれの項目の差分に対して、Four Factorsの重要度の割合をかけてみました。するとなんとなく意味ありげな順位になりましたね。ホークスの順位が低いのはカンファレンスファイナルでの4タテが痛かったのでしょう。Four Factorsはあながち間違っていないようです。
チーム | 試合数 | 勝 | 敗 | 勝率 | eFG%差分×0.4 | FTA Rate差分×0.15 | TO Ratio差分×0.25 | OREB%差分×0.2 | 差分計 |
Cleveland Cavaliers | 16 | 13 | 3 | 0.813 | 1.36 | 0.825 | 0.225 | 1.22 | 3.63 |
Washington Wizards | 10 | 6 | 4 | 0.6 | 1.08 | 0.72 | 0.325 | 0.8 | 2.925 |
Golden State Warriors | 17 | 13 | 4 | 0.765 | 2.36 | -0.81 | 0.3 | 0.56 | 2.41 |
Houston Rockets | 17 | 9 | 8 | 0.529 | -0.36 | 2.13 | 0.25 | -0.36 | 1.66 |
Chicago Bulls | 12 | 6 | 6 | 0.5 | 0.88 | -0.03 | 0.375 | 0.22 | 1.445 |
Brooklyn Nets | 6 | 2 | 4 | 0.333 | -0.76 | 0.66 | 0.3 | -0.24 | -0.04 |
Portland Trail Blazers | 5 | 1 | 4 | 0.2 | -0.4 | -0.615 | 0.875 | 0.06 | -0.08 |
San Antonio Spurs | 7 | 3 | 4 | 0.429 | -0.16 | -0.72 | -0.025 | 0.68 | -0.225 |
Los Angeles Clippers | 14 | 7 | 7 | 0.5 | 0.4 | -0.33 | -0.25 | -0.74 | -0.92 |
Atlanta Hawks | 16 | 8 | 8 | 0.5 | -0.08 | -0.495 | -0.325 | -0.74 | -1.64 |
New Orleans Pelicans | 4 | 0 | 4 | 0 | -1 | -0.585 | 0.325 | -1.2 | -2.46 |
Memphis Grizzlies | 11 | 6 | 5 | 0.545 | -2 | 0.345 | -1 | 0.18 | -2.475 |
Dallas Mavericks | 5 | 1 | 4 | 0.2 | -1.08 | -2.325 | 0 | 0.64 | -2.765 |
Boston Celtics | 4 | 0 | 4 | 0 | -1.8 | -1.29 | 0.175 | -1.18 | -4.095 |
Milwaukee Bucks | 6 | 2 | 4 | 0.333 | -3.4 | -0.585 | -1.025 | -0.52 | -5.53 |
Toronto Raptors | 4 | 0 | 4 | 0 | -3.52 | -1.605 | -0.725 | -1.6 | -7.45 |
スカウティングにおけるKPIの活用
最後に紹介するのは、選手のスカウティングでのKPIの活用です。下記サイトでは実際のシートと共に、シートの使い方を解説しています。
記事によれば、各ポジションごとに「ハードスキル」と「ソフトスキル」を設定し、選手の評価に用いているとのことです。ハードスキルはドリルやパーセンテージによって表すことができ、ソフトスキルは定量化することが難しいものの、NBAで成功するために重要なものであると述べています。そしてハードスキルがポジションごとに固有であるのに対し、ソフトスキルは全て一様です。これらは1〜10の数字で表し、特に黄色く塗られている部分はNBAで通用するか否かに直結するものだと述べています。
これからのコーチはもっと数字と付き合っていかなければならない
今回はまずKPIについての考え方をバスケットボールの試合や練習、チームや個人の目標達成に用いることができないかという提言と、いくつかの事例を示しました。ファンにとっては楽しいかもしいことも、コーチにとっては受難かもしれません。今後スポーツアナリティクスの技術が進歩するにつれ、コーチはこれまで以上にスタッツに敏感にならざるを得なくなる可能性があるからです。もちろん数字「だけ」ではありませんが、数字と向き合うこともコーチの仕事の一つになるかもしれないのです。(あー、もっとスポーツの解析に明るい人に話を聞きたいなー←伏線)
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