「DFのツールを持つ事は重要だ。しかし、勝利へのコンセプトは安易に変えるべきではない」Euro Basketball Academy coaching clinic(2018年6月)レポート
※Euro Basketball Academy coaching clinicの最新情報はHPに掲載中!
今回は、「Defense variations」をテーマに、2018年6月に開催されたEuro Basketball Academy coaching clinicより記事内で表現できる項目のみをレポート。
トーステン・ロイブル氏は冒頭に「自チームDFの基本システムを大切にしてほしい」・「勝利へのコンセプトを安易に変えてはならない」という考え方を強調。その上で、相手チームに合わせた対応策の考え方の枠組みを示した。そのメッセージが印象的であった事が、今回のレポート製作の意図である。
本稿筆者は自チームの失点に対し、罵詈雑言を選手に浴びせて奮起を狙う手法や、威圧的な態度だけで若い選手に接するコーチが嫌いである。今回の記事が、事前の準備、的確な分析や、選手へのアドバイスで問題解決を図り、自チームの潜在的な力を最大限に発揮したいと考えているコーチや、本当は怒鳴りたくないのだけど、目の前の問題を前にして怒鳴ってしまう事に頭を悩ませているコーチの参考やヒントになれば幸いである。
今回のクリニック内容の主題を下記のように読み取った。まずは、チームの理念や哲学を考え抜き決定する。それを意思決定する際のの基準にする。その上で、固有の問題に対し、一定の原理原則や考え方の枠組みを持つ。それを用いて解決を試みる。Defense variationsというテーマの奥に、非常に深いコーチング哲学の存在を感じた。
また、多くのコーチが頭を悩ませているであろう「チームの規律」・「スポーツをする上で必要な、ある種の厳しさ」を構築する為のアイデアとしても参考になる部分があるのではないかと感じた。少なくとも、一方的に罵詈雑言を浴びせる手法や、威圧的な言動が規律や厳しさをチームにもたらす唯一の方法とは思わない。「規律」や「必要な厳しさ」を日々の活動から滋養されていくナチュナルなカルチャーとしてを構築していく為のヒントになる部分があれば嬉しい限り。
今回も非常に長い記事になってしまった事、及び、細かなドリルなどはWEB記事の都合で割愛しています。その部分はご了承ください。
ディフェンスバリエーションについて
ーゲーム中のアジャスト
(ディフェンスにおけるトラブルへの解決法)
ー勢いを掴み、ゲームの主導権を握ろう!!
目次
1、オープニング、重要なメッセージ
「Defense variations」という今回のテーマはコーチングフィロソフシーにも関係する部分。様々なコーチから学んだこと、自分の経験も含まれている。それをお伝えしていきたいと思う。
Trust your basic team defence「自チームDFの基本システムを大切にしてほしい」
基本となるシステムを大切にすることが重要。自分たちのDFシステムに自信を持って取り組んでほしい。問題が起こり、パニックになってしまって、ゲームの序盤からDFシステムを大きく変更したとする。そういう事は出来ればしてほしくないと思っている。
DFシステムの大幅な変更は「我々のDFは上手くいっていない」という影のメッセージを選手に伝える事にもなる。それは、選手にも戸惑いを生む。まず、これが私からのメッセージです。そうならないように準備をする事が重要です。
Never change a winning concept「勝利へのコンセプトを安易に変えてはならない」
皆様のチームには、勝利に向けて練り上げたコンセプト、勝利への道筋があるはずです。それを簡単には変えて欲しくありませんし、簡単に変えるべきでもないと思います。勿論、問題に対してアジャストするような事は良い事です。それについては後述します。例えば、目の前の試合がスムーズに進んでいかなかったとする。コーチとしても快適な気持ちではない。それでもやはり、考え抜いて導き出した自分たちのチームの勝利へのコンセプトを安易に変えるべきではありません。「自チームの基本システムを大切にしてほしい」と関連する考え方です。
では、どのようにゲーム中の問題と向き合えばよいのか。続いて、私の考える具体的な指針を紹介していきます。
2、具体的な考え方
Look for match up solution first
何か問題が発生した際には、マッチアップを変える事での対応を考えるように心掛けています。単純なようですが、ベースとなるDFシステムを安易に変更したくないという考えが根底にあります。DFシステムのような大きなことを変えるのではなく、マッチアップなどの小さな部分を変える。そうすると、コンセプトは変えないまま、もっと小さなことを変える事でゲームに変化を与える事が出来ます。
Don’t use defence plays your team hasn’t practice enough
対戦チームにドライブが強い選手、ポストプレーが強い選手、素晴らしいシューターがいたとします。失点が続き、対処すべき問題が起こります。タイムアウト中、激昂し、作戦版に特殊なDFシステムを書き、特殊なDFシステムへの変更の指示をされるかもしれない。一般的に、コーチの方は、色々なシステムを知っているものです。トライアングルツーや、ボックスワンなど、その他にも素晴らしい戦術を知っている為です。
でも、練習をしていないシステムに急に変更をしても、ほとんどの場合で上手くいかないと思っています。それで選手を怒鳴りつけても、選手が可哀想なだけです。必要であれば事前に練習の中で準備をしておくべきです。
コーチングのツールとして、様々なアジャスト方法を持つ事は良い。ポストディフェンス、ヘルプディフェンスのシステム、on ball screen、off ball screenなどは様々な対応策があります。でも、それが効力を発揮するのは実際の日頃の練習の中で事前に実施してこそ。ツールを持つ為には、事前に練習をする事が重要です。事前の練習をせず、システム全体をガラッと変えてしまう。それは、私の経験では、上手く事が運んだ経験がありません。
Find the problem cause first and then decide for a 1、indivisual adjustment 2、team adjustment
『問題の本質を見極める必要性がある』と思います。個人の問題なのか、チームの問題なのかを考えましょう。勿論、両方に問題がある事もあるでしょう。まずは個人のアジャストで変更できないかと考えるようにしています。理由は、冒頭の通り、ベーシックなDFシステムを安易に変えたくないからです。
①個人の領域におけるアジャストについて
①-1 DF能力でも選手を評価する。古田悟選手の存在感
例えば、対戦チームに素晴らしいスキルを持つ支配的な選手がいる。ゲームを支配され、失点も増える。そういう時は、問題の本質を考えましょう。繰り返しますが、シンプルなアジャストはマッチアップを変える事です。自チームの選手を見る際には、DFでのマッチアップの面で計算できる選手を見極めるようにしましょう。意欲や能力を見抜き、資質のある選手のDF能力を育てておくことが重要です。
関連事項として、一般的に、オフェンス能力で選手で評価するケースは多いです。DF能力を軸に選手を評価する事が少ないと思っています。トヨタ自動車(現在のアルバルク東京)でHCをしている時期、古田悟という選手がいました。正直、得点という部分では凄いスタッツを残す選手ではなかった。しかし、DFが本当に上手かった。インサイドの選手をストップする事について、指導してきた選手の中で最高の選手の1人です。
いつも30点以上得点する選手でも、古田選手がマークをすると10点台に抑えられる。ヘルプDFでも存在感があり、リバウンドも非常に強い。非常の献身的にプレーする選手で、味方の選手へのスクリーンプレーも上手い。そうすると、単純計算にはなりますが、ゲームにおける価値が20点以上ある。そうであれば、その選手はもっと評価されるべき。
上記は、あくまでも一例です。しかし、DFにおける能力をもっと評価されても良い。DFに対する価値を見出してほしい。資質を持った選手に役割を与えて欲しいと思います。
①-2 個人の領域で守り方を変える
もう一つは、個人のマッチアップの中で守り方を変えてあげる事。印象としては、日本では個人DFでのアジャストが少ない。例えば、優れたスラッシャー、シュートも上手い選手がいる。アウトサイドには目をつぶり。少しだけ距離を離してマッチアップをしてみよう。DFの優先順位を少しだけ変える事も一つの解決方法です。
*上記はあくまでも一例で、反対にアウトサイドシュートを優先的に守るケースもあります。また、15歳以上の競技環境の中でのトピックスとなります。マンツーマン推進におけるDFルールの議論とは別のトピックスとなります。ご了承ください。
・積み上げてきたコンセプトを安易に変えてはいけない。
大きなものを駆使して変更しようとしてしまうのは、積み上げてきたコンセプトを変える事である。コーチは様々な状況に対応し、決断する必要がある。しかし、安易に行ってはいけない。
②Team adjustment
それでも対応が出来ないケースがあれば、チームでのアジャストを考えましょう。男子U16~19のナショナルチームでは下記のような基本的なチームアジャストのツールを持っていました。これらのツールは、非常に単純で、シンプルなものです。
②-1 Ball screen defence ・Trap 、ICE 、Switch
*通常、上記チームではHedge(Ball manのDFはSnake(Over-Under))とDIVEをした選手へのHelp、Hedgeした選手とのローテーションをするシステムを採用している。その上で、特殊なケースで使用するツールとして上記の3項目が紹介された。また、末尾の質疑応答部分で記載するが、ロイブル氏はICEについて「好きではない、特殊なケースを除きほとんど用いない」と語る。しかし、相手チームが行ってくることはあるし、戦術的な知識として知っておくことの重要と語っていた。
②-2 ,Post Deffence Front、Trap(on Catch,On Dribble・・etc)
ポストのタイプに応じて戦術を使い分けている。一つは、ポストマンのフロントに立ってパスが入らないようにする事。その為の必要なファンダメンタルを選手へ指導をする。
もう一つは、ポストプレーに対してのTrap(ダブルチーム+残り3選手のポジションなどの連動)であり、相手選手の特性によりTrapのタイミングを変えている。例えば、1回でもドリブルをすると凄いパワーや、ターンで決めてしまう選手、または、ボールを持った瞬間に素晴らしいターンで高確率のシュートを決めてしまう選手にはキャッチと同時に(on Catch)でTrapを仕掛ける。ドリブルからの展開が好きな選手には、ドリブルと同時にTrapをする等のケースがある。
②-3、全体を大きく変えるケース
・Full court man defence Run and Jump
・Swictch to zone defence 3-2 match up zone ,1-2-2 half zone press
*詳しくは本記事では割愛。1-2-2 Half Zone Pressについては「3」で少しだけ言及。
1-2-2 half zone press
*U16-U19でもFT後などに使用された。2列目の位置がハーフラインの後ろに位置するのが特徴だ。ロイブル氏は”Don’t Steal the ball,Steal the time”「ボールを奪うのではなく、時間を奪え」と語る。あくまでもリズムチェンジのツールであり、相手を困惑させることを目的とすると語る。が、実際には、本システムに慣れが無い、及び、ボール運びでチームで共通認識がないチームと対戦する際にTOを誘発するケースも多かった。特に、U18 FIBAアジア選手権2016の予選リーグ、対イラン戦では、1-2-2で何度も相手のミスを誘いゲームの流れを引き寄せ、勝利を掴み取る要因の一つとなった。細かなシステムについては試合などを観戦して欲しい(FIBAのYoutubeアカウントに試合道が多数あり)
3、アルバート・シュバイツァー・トーナメントで世界の強豪国との対戦より。ドイツ、トルコに対するアジャスト事例の紹介
*アルバート・シュバイツァー・トーナメントとは、ドイツで開催されている歴史のある大会。欧州、南米、オーストラリアなどの世界各国からU-18世代が集まって試合を行う。実質的なU-18 ワールドカップというような表現で語るコーチやもいる。講習会では、アルバート・シュバイツァー・トーナメントでの映像を参照に、アジャストの事例が紹介された。ここでは、テキストと図により可能な範囲のみ紹介する。
New on Eurospects: "Preview: Albert Schweitzer Tournament" #AST2018 is unofficial U18 World Championship which will take place since 31.03 to 7.04 in Mannheim. Our Director of Scouting @hgyenitepe will be there to cover the event | Story:https://t.co/Iiaso8DmYB pic.twitter.com/yRDdbN3aA8
— Bronek Wawrzynczuk (@Eurospects) March 29, 2018
①「全てのポジションでミスマッチ」トルコ戦でのアジャスト
Genç Milliler, ev sahibi Almanya'ya kaybetti! | #AST2018 – https://t.co/umfRbSpjB0 pic.twitter.com/VW6lIyRBYG
— TrendBasket (@TrendBasket) April 3, 2018
・ゲーム開始からポストプレーにはTrapを用意。
トルコとの対戦では、非常にサイズとパワーの差があり、全てのポジションでミスマッチとなった。特にインサイドで顕著であった。その為、この時は、ゲームの開始からポストでボールをキャッチした瞬間にダブルチームを仕掛けた。
普通であれば、ウィングでのDenyを強調したり、ポストでフロントを取って、プレーさせないようにすることを考える。が、あまりにも身体の差が大きすぎた事が試合開始から変更をした理由。最初のプレーでトラップを仕掛けた事で相手の狙い所やプレーも変わってきた。
*この際の映像では、元々のマークマンはベースライン側を抑え、トップの選手がキャッチと同時にTrapへ行くケースが紹介された。X2はそのまま、X3がトップ方向のパスをケアするようにシフト。細かな内容はコートでのクリニックで紹介された。
・目先を変える為に1-2-2 half zone pressから3-2 match up zoneへ
また、前半を終え、少し目先を変えたかった。後半から1-2-2から3-2のチェンジングを多めに使った。結果、ターンオーバーをしてくれた。また、ハーフコートのプレーも多くしてくれた。これは我々にとっては成功だった。スカウティングよりトルコはファーストブレイクのチームだという情報があった。非常にパワフルで、トランジションディフェンスで不利となる事が懸念されていた。結果として、ファーストブレイクを少なくすることが出来た。これも一つのアジャストの事例だと言える。
*実際には、1-2-2はFTの後や、エンド・サイドスローで相手オフェンスがスタートする際に展開される。DFリバウンドを獲得された際には、ハーフコートのマンツーマンか、3-2のゾーンとなる。この部分の因果関係は不明で、当日、ロイブル氏からも詳細についての説明は無かった。紹介された映像では、チェンジングをした序盤でトルコは何回かボール運びでミスを連発。モヤモヤしたオフェンスが多くなっている場面が目立った。そうであれば、トルコのHCなり、PGが、トランジションでのボールプッシュを控え、ペースをコントロールした事が推察される。
②「優れたスラッシャーを擁するドイツ。通常のシステムではHelpが間に合わなかった」ドイツ戦へのアジャスト
https://twitter.com/YouFirstBasket/status/982676134017032192
・素晴らしいスラッシャーに対し、Helpの位置を変更。
この時のドイツはアルバート・シュバイツァー・トーナメントの優勝をした。素晴らしいスラッシャー、グッドシューターもいて、サイズもある。まさにタレント揃いのチームであった。彼らのトップからのドライブはインサイドのHelpでは間に合わなかった。その為、Helpの位置を少し変える事で対応を試みた。通常、ボールサイドはドライブに対してHelpに寄らず、Denyをさせる。しかし、この時は早めにHelpに出るようにした。
<通常のケース>
*このケースで、ウィングのDFをしているX3が安易にヘルプに寄らない事を基本システムとしている。理由は、簡単にコーナーでオープン3Pを打たれてしまうからである。X5のHelp、残りの選手のローテーションで対応をするのがベーシックなシステムとなっている。
<今回のケース>
*X5のHelpでは、どうしても間に合わないぐらいにドライブインのスキル、フィニッシュの判断が優れていた。その為、捕まえを早くする事を優先する為、X3が早めにHelpに出る事で修正をした。キックアウトのコーナー3Pのリスクは大きくなることは了承済みである。映像では、Helpに対して慌てて、コーナーへのキックアウトに対し、手を伸ばして反応をし、スティールするケースが紹介された。スティールしたのは出来過ぎだとして、勝負のポイントをシフトしたという事だろう。
4、オンコートでのクリニック前に。再び、重要なメッセージの再強調「もっともベーシックなDFシステムの向上に最も時間を割く。それが全ての基本になります。」
*その後、オンコートでのクリニックへ。冒頭に記載の通り、具体的なドリルなどは本稿では扱わない。各種ツールを構築する為のドリルの前に、『Trust your basic team defence/ベーシックなDFを信じる』を再度強調するメッセージの後、各種のドリル、DFの考え方が紹介された。
Torsten Loibl likes @JAPANBASKETBALL's chances at the 2016 #FIBAU18Asia: https://t.co/N4vL9DQ5h9 pic.twitter.com/01QYZExTs9
— FIBA (@FIBA) April 9, 2016
・もっともベーシックなDFシステムの向上に最も時間を割く。それが全ての基本になります。
繰り返しになりますが、ベーシックなDFシステムを信じる事が大切です。その為には、ベーシックなDFシステムの向上に最も時間を割く。それが全ての基本になります。我々のチームであれば、下記のようなキーワードがあります。
・On ball DFのファンダメンタルの徹底。ドライブに対するHelpの練習、凄く早いタイミングでのHelpの練習。クローズウトのファンダメンタルの徹底。
・ファーストパスのパッシングレーンに入りDenyする事
・そこのバックドアのリスクには反対サイドの選手が対応する事
・on ball ScreenのDFルールとして、Show/Hedgeを基本としている。
・DIVEには、反対サイドの選手がHelpの練習をする。その後、ローテーションをする。
・どうしても、on ball screenからのSkip passに対してはクローズアウトの距離が長くなってしまうが、そこは了承の上でチームのシステムを遂行する。
・PostのDFでは、Trapがあり。その際に周りの選手が埋めるべきスペースに決まりや優先順位がある。
・これらは、基本的な内容ですが、簡単に聞こえるかもしれないが、バスケットIQを必要とするプレーでもある。
・日本の選手はDFの理解度が高い。「ウチの選手は馬鹿なので・・」というのは間違え。
良いニュースをお伝えしたい。ドイツと比べても、日本選手のマンツーマンDFの理解度や遂行度は非常に高い。同じシステムをドイツの選手を対象に構築しようと思えば、もっと時間を要する。同じドリルをやったとしても理解力が日本の選手は高い。
それは、日本が経済的にも大国であり、社会が進化していて、教育がしっかりしているからでしょう。日本人の選手は非常に賢い。冗談かもしれないが、アホだとか、バカだとか、選手の事を悪く言う事も聞いたことがある。そんなことはない。これは誇りをもって下さい。自信を持っていい。
・相手に知られていても構わない。ベーシックなシステムも基準を高める
繰り返すが「自分たちの最もベーシックなDFシステムの構築」この完成度を高める事を重視します。相手に知られているとしても、構いません。ベーシックDFシステムの基準を高める事に時間を割きます。
マイケルジョーダンは「みんなが僕の得意技を知っている。僕の癖も知っている、それで良いんだ。構わない。それでも、誰も私の事を止められないから」と言っています。
相手にベーシックなDFシステムを知られていても構わない。高いレベルでしっかり遂行すると、相手によく効くことは多い。必要以上にアジャストに目を向けず、自分たちのクオリティを高める事が重要です。繰り返しになりますが、それを強調したい。
BASICなDFシステムが崩され、マッチアップの変更で対応できない。その時はチームアジャストを用いる。
ただ、こちらの選手の調子が悪い、相手に調子が良い選手がいる。得点を決められてしまうケースが続く。マッチアップでのソリューションを考えたが、対応しきれない。頑張って構築してきたベーシックなDFシステムを攻略されてしまっているわけなので、その時は、チームアジャストを考える。
一気にガラリと変更をするのではなく、事前に準備をしたツールの中から、1つか2つのツールを使う事を考える。事前に準備をしておく。それをしっかりと遂行する。そうすれば、流れを引き寄せる事が出来る(*turning the momentumとも表現)。我々のチームでも、とても良いツールになっています。
「40分間、ツールに頼る事は出来ない。忘れてはいけない」
しかし、ツールは、あくまでもツールです。40分間続けると負けてしまう。そこは忘れないでほしい。ツールには、練習の中で必要以上に多くの時間は用いません。あくまでも知っていて、出来る、という段階に持ち込むことが重要。
例えば、トップからペネトレイトを許す場面で失点に繋がるケースが多いです。非常に守りにくいものです。多くの場合、Ball screenを経由してトップからドライブをされます。
ここでは、一例としてBall screenの対応を考えてみます。日本代表のシステムも、とてもシンプルなものです。
KISS(Keep it Simple,STUPID!)
男子のアンダー代表チームでは、PNRの守り方は、主に3つを用います。これがコーチクリニックであれば、10個以上の守り方を提示する事も良いでしょう。ですが、そのすべてを選手が理解し、遂行できるでしょうか?KISS(Keep it Simple,STUPID 馬鹿でも分かるように、シンプルに!)という考え方を非常に重視しています。
*以降、Hedge&Snake(Over and Under)+反対サイドのHelpのティーチングポイントや、ダブルチーム(ロイブル氏はFIREと表現)などを実施。U19ワールドカップでのカナダ戦やイタリア戦での守り方を事例として各ドリルと共に紹介。本稿では割愛。
Post Deffence:Front,Trap
*強烈なポストプレイヤーに対する対応策が紹介された。Frontの際には、身体の当て方、手の使い方、ポジションの取り方など。Trapの際には、ヘルプサイドの動き、カッティングに対する対応策も提示された。本稿では割愛。
Team adjustment
・Full court man defence Run and Jump
*ジョン・パトリック氏が牽引するMHP Riesen Ludwigsburg氏などの事例を紹介しつつ、RUN and JumpのDFシステムについて紹介された。本稿では割愛。
・Swictch to zone defence 3-2 matcy up zone ,1-2-2 half zone press
*1-2-2と3-2ゾーンについて説明された。本稿では割愛。
5、質疑応答(ICEなど)
*他の参加者からの質問が無いことを確認し、事務局の私より質問をした。内容は「どのようなケースの際にICEを使用するのか?」である。クリニックでは、on ball screenへの対応策の一つとしてICEが紹介されていたが、過去U16-U19男子代表チームの試合を観戦する中で、ICEを用いた事が無く、疑問に思った為だ。以下、コーチング哲学とも関連する部分もあると思った為、記載をする。
ICEについて「個人的は、あまり好きな戦術ではない。それはコーチとしての哲学の領域」
Q1、ICEを紹介されていたが、これまでの国際大会で、ロイブルさん自身が使用してい
るのを見た事がない。どういう時に使用するか?」
A、
・回答としては、あまり用いる事は少ない。スタイルとして、あまり好きではないという部分もある。なるべく使いたくない戦術でもある。特に、ビッグマンが下がって、ルーズにDFをする。アウトサイドの選手がドリブルからのプルアップシュートを外すことを待つような守り方はスタイルとしては好きではない。インターナショナルのレベルでは、簡単に崩されてしまうケースが多い。勿論、ICEのメリットも知っている。様々なオプションや、3人目以降の連動性を絡める方法がある事を知っている。しかし、あまり自分としては採用しない戦術である。コーチとして、自分自身の哲学を持つ事が重要。ただし、戦術として知っておくことは大切だ。
・例えば、選手選考の段階でHCとして関与できないケースで、自チームに運動量が少ないビッグマンがいる。相手チームのセンターはポップアウトからの3Pやドライブが苦手。相手のボールハンドラーが、右側にしかドリブルを出来ない(*)。左手でドリブルをするとミスをしてくれる。そういう特殊なケースの際には勿論ICEを採用する事はある。
*ミドルラインに攻めようとする際に、右手側でドリブルを突くサイドの場合。
ICEについて、Željko Obradović氏のエピソード。
*ICEに対する返答の続き。
A、
欧州でのコーチ向けのカンファレンスで、とても面白いエピソードがあります。それを紹介したいと思います。Željko Obradovićさんという、欧州のバスケット界で非常に著名で、数々のタイトルを勝ち取ったコーチがいます。現在は、Fenerbahçe というEuroleagueの強豪チームで指導をしています。on ball screenに関する彼のクリニックでICEについて質問をしたコーチがいた。それに対して「なんだ、ICEとは?私は、そんなDFは知らない!」と一蹴した。勿論、ジョークではあるが、それぐらいに彼は、コーチとしてのDF哲学として、ICEを採用したくないという考えを持っています。
※近年、Željko Obradović氏の指揮するFenerbahçeでは、on ball screenに対し、非常に激しいShow Hardの徹底+HELPの連動か、Switchで対応。前者の際は、残り3選手の連動性と、ボールマンへの圧力により、容易にスキップパスでボールを遠くに飛ばせない。後者の際には、インサイドの選手もアウトサイドの選手を守れる脚力があり、アウトサイドの選手もインサイドを守れるスキルが徹底的に訓練されている印象を受ける。
27 years on the bench, Željko Obradović is King of the continent #BeyondTheBench pic.twitter.com/993OqMTSkk
— EuroLeague (@EuroLeague) 2019年2月18日
<参考>
*ŽeljkoObradović氏がDF哲学を語っている資料(公開:2011年頃)には、下記のように「基本的にアグレッシブなDFにしか興味がない」という一説も書かれている。その哲学は2019年現在も貫かれている。上記のICEに関する言及は、あくまでも「相手のミスを待つだけの、消極的で、ある種、怠惰とも言える使い方でのICE」という意味合いである事を改めて強調しておきたい。わざわざ記載をしたのは、各コーチにバスケットボール哲学や信念、考えがある事を感じた為。自チーム、相手チームの特性と共に、それらもDF戦術の決定の際にも影響している採用をしている。ロイブル氏も「個人的には、あまり好きではない」という表現に留めていた。
AGGRESIVENESS
The First idea that we want to make clear to our player,is that we are interested only in aggressive defence,across all positions and in all situations. 中略 The general concep is always be intense in our defense/ Zeljko Obradovic
İlk Yarı Sonucu | @cskabasket Fenerbahçe Beko 36-35. #NeverEnough pic.twitter.com/HnV83QKaJt
— Fenerbahçe Beko (@FBBasketbol) 2019年3月21日
*それ以外には、STEP UP SCREENのケースや、Flat Showなど、ICEをされた際の崩し方など、様々なケースについて参加者から質問があり、それらについて説明された。本稿では割愛。
6、クロージング
・情熱のあるコーチの方に応える事が出来れば嬉しい。日本のバスケットボールをさらに良くしていく為に、共に頑張っていきましょう!
今回のクリニックでは、三重県、福井県、静岡県からも参加者が来ていただいていると聞いた。そのような情熱のあるコーチの方の期待に応じる事が出来ていれば、とても嬉しく思います。皆さんのコーチとしての活動、バスケットボールのビジネスのお役に立たれば嬉しいです。共に日本のバスケットボールをさらに良くしていく為に頑張っていきましょう!
Torsten Loibl, Basketballtrainer aus #Chemnitz, leistet in #Japan Pionierarbeit. Während der gerade laufenden U20-EM reisen seine Schützlinge ausnahmsweise zu ihm. https://t.co/RAIt8MWGgF pic.twitter.com/jVuwflzWW6
— Freie Presse (@freie_presse) 2018年7月20日
*日本バスケット界の最前線で活躍されるコーチの方が欧州へ行かれた際の一コマ。ドイツメディアにも特集されていた。
7、参考(過去のアジャスト一例)
#Basketball: Der frühere Niners-Coach Torsten Loibl aus #Chemnitz soll die Frauen- und Männer- Nationalmannschaft Japans bei Olympia 2020 in Tokio zu Medaillen- gewinnen führen – in einer Disziplin, die auch für ihn Neuland ist. https://t.co/KIGWAvz1Xo pic.twitter.com/YOltKNeBXL
— Freie Presse (@freie_presse) September 22, 2018
*本稿筆者は、近年のU16-U19代表チームの試合をほぼすべて観戦している。各試合におけるDFにおけるアジャストの項目と共に記載。FIBAのyoutubeアカウントでフルゲームを観戦する事が出来る。
<参考1 U16~U19男子代表チームの過去のアジャスト例など>
・2017 U19ワールドカップでのマリ戦→PostへのTRAP
・2017 U19ワールドカップの韓国戦→屈強な韓国インサイド選手のアタックに対し、マッチアップの変化。オールラウンドな活躍で同チームのキーマンの1人でもあった増田啓介選手を下げ、フィジカルの強さと高さのあるシェーファー
・2017 U19ワールドカップでのイタリア戦→”Trust your basic team defence”を強く感じた試合。イタリアのPG選手が非常に上手く、on ball screenからの日本チームのローテーションを熟知。見事なスキップパスでボールを回されるケースも多かった。しかし、安易に何かを変更するのではなく、自分達のシステムの中での守る事を貫いた。*細かなアジャスト部分は再度、試合を見て勉強中。
・2017 U19ワールドカップ カナダ戦→同大会での優勝チーム。RJ Barrettを擁し、広いスペーシングからのon ball screenを中心に構成。PnRへの守り方の工夫をした。
・2016 U18 FIBAアジア予選 イラン戦(予選ラウンド)→1-2-2から3-2ゾーンへ変更。相手のミスを誘い、一気に攻め立てた。また、伊藤領選手らのon ball DFが素晴らしく、屈強な中東の選手のドライブを守り切った。同Jordan戦も同様。
・2018 U16インド戦→長身選手が揃うインドに対し、試合序盤からポストへはTRAP。抜群の連動性でミスを誘った。
・2018 U16ヨルダン戦→ドライブへの意欲が非常に高いヨルダンに対し、on ball DFの基準や、チームDFの遂行力が光った。
参考2 アルバートシュバイツァートーナメントについて
「このマンハイムでのアルバートシュバイツァートーナメントは、若い世代の多くのプレイヤーにとって、彼らが成功していく過程において、とても重要な段階の大会であるといえます。私にとっては、1996年大会のドイツチームでの試合であったといえます。私は、この体育館で行われる大会の雰囲気にとてもいい思い出があります」
*参考『ヨーロッパの地で、学び、成長し続けた選手たち:ドイツアルバートシュバイツァートーナメント観戦レポート』
8、御礼
今季のレポート製作では、三重県立稲生高等学校バスケ部顧問の宮原利享さん、神奈川県小田原市などで様々なカテゴリーを指導されてる橋本開さんに資料共有などで協力いただきました。ありがとうございました。お二人の情熱と友情?に感謝します。
この記事の著者
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1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。