トヨタバスケットボールアカデミー参加レポート 第2弾

toyota-basketball-academy2

関連ページ:トヨタバスケットボールアカデミー参加レポート 第1弾

2011年の取り組み

この年トヨタ自動車アルバルクは天皇杯とJBLプレイオフでの2冠を達成する。10人体制によるタイムシェア戦術。また、それが可能にする常にアグレッシブで攻撃的なディフェンス。例えば、JBLファイナルではアイシンの柏木選手に対して岡田選手と熊谷選手(現:三菱ダイヤモンドドルフィンズ名古屋)が執拗なディフェンスを繰り返し、絶対的な司令塔である柏木選手の体力をジワジワと奪っていった事も勝因の一つとなった。
※詳しい試合分析は月刊バスケット 2012年7月号にてプレイングタイムシェアによる戦術分析などが掲載されています。

オフェンスでは、外国籍選手や帰化選手の高さとパワーを生かしたローポスト を起点としたオフェンスではなく、いくつものセットプレイを駆使し、流れるようなフォーメーションからシュートへと持ち込んでいくバスケットは新鮮さがあった。

この年から移籍してきた竹内公輔選手を引き合いに出し、リーグの中では豊富な資金力を誇り(とされる)、サラリーキャップを目一杯使って日本代表クラスを揃えた事を優勝の一因とする意見も分かるが、スター選手が揃えば、それに伴って別の悩みが増える事も事実。7~8人で主たる選手を揃えるチームが多い中、10人体制を基本として、10~12人の選手に確固たる役割を与え、モチベーションを保ち、長いリーグを戦う事の難しさもある。

それを可能にし、この年、2冠を成し遂げたベックHCの戦術や選手起用、シーズンを 通じてのチームマネジメントには、きっと機知に富んだ数々のエピソードや哲学が存在していると思うが、その部分について直接に話を聞いたわけではないので想像力を働かせるか、別の機会の到来を待つしかない。
※残念ながら、小生はベックHCが講師を務めた第1回のアカデミーには出席できなかった!

では、その年、アシスタントコーチである伊藤拓摩氏は何を重視して取り組んだのか。 前回のレポートに続いて、当日の講義や資料を基に振り返ってみたい。

 

システムを使って自分を活かす

まず、この年のThemeは「システムを使って自分を活かす」という事。2010年では 日本人選手のファンダメンタルスキルの不足に着眼し、きめ細かなドリルを重ねる事で選手のスキルアップを図った。なぜ(Why)、そのテーマを設定したのか、その理由も明確だ。「strong>優勝する為にはコーチベックのシステムに対してもう一歩踏み込んだ深い理解が必要」だったからだ(伊藤ACの資料より引用)。

具体的には、Pick&Roll使用時に、どのようにオフェンスを組み立てるか。 ディフェンスの対応に対して、どのようなプロセスで、どのようなパスを選択するべきか、または、どのようなシチュエーションであればシュートを選択するべきかのケースバイケースでの細かなドリルが実施された。

また、トヨタ自動車アルバルクのプレイ中にも非常に多い「ハンドオフ(センターがガードプレイヤーに対して手渡しでボールを渡してからプレイをスタートする)」からの Pick&Rollの練習も徹底して実施したという (トヨタ自動車アルバルクの試合を良く見る選手であれば、PGである伊藤選手、正中選手、またはFの田中健選手らのPick&Rollからの鮮やかなワンハンドバウンドパスや、一瞬の隙を突くような見事なパスを見たことがあると思われる)。

また、トップからのドライブに対して、インサイド、またはウイングの選手は どのように反応をすべきかの練習。さらには、岡田選手やKJ松井選手を擁し、非常に得点力のあるシューターを揃えるトヨタに対して他チームが重点的に仕掛けてくるであろう「クローズアウト」に対して、その動きをどのように読むかについてのドリル(Reading the close out)も様々な状況設定をした上で実施。

ここで重要になるのが、何故、シーズン開始前の時期に、上記のような練習ドリルを重点的に行うのか。その理由(Why)である。前述してあるが、当日配布された講義資料、2011年の項目には、「システムを使って自分を活かす」 という練習テーマに対し、その理由として「優勝する為には」とチームにとっても達成すべき目標を明確に言語化した上で、続く言葉で「コーチベックのシステムに対 して、もう一歩踏み込んだ深い理解が必要」と書いてある、その通りである。

HCの戦術を遂行しているとゲームではどのようなシチュエーションが数多く出現し、選手は、その時に、どのような状況を把握し、どのようなプロセスで、どのように判断・決断をするべきなのか。伊藤ACの練習ドリルの根源には「選手に状況や環境を『与えて』、その中でゲームに近い形での状況判断を選手にしてもらう」 という考えがあるようだ。

Reading the close outのドリルにしても、45度でのシチュエーションだけではなく、45度から0度へパスが回った時のシチュエーション、トップからのカットインに対してキックアウトされた際のクローズアウトなど、様々な設定で練習メニューが行われていた。NBLの試合を見る機会があれば、トヨタの選手がボールマンへのギャップを埋めようとボールマンのディフェンスを試みようと駆け寄ってくるクローズアウトに対して、どのような判断をするのかを見てみるのも、味のある試合観戦術かも知れない。玄人が多いと言われるNBLファンにもお勧めの観戦術である!

 

指導は全て英語で行う

余談であるが、トヨタ自動車アルバルクの練習では、基本的にはベックHCも勿論、伊藤ACも英語で指示をするようだ。まず、ベックHCの説明に対して伊藤ACが補足説明などを選手にする場合、通訳を介してしまうと細かなニュアンスが伝わらなく、コーチ間のミスコミュニケーションが生じる事が一つ。また、試合中でコーチと選手がコミュニケーションを取れる限られた時間(ピリオド間、タイムアウト中)で、HCの意思や指示を理解するのは、通訳の日本語を介するのではなく、ダイレクトに英語でやり取りをした方が意思の疎通は図りやすいことが一つだ。

事実、2011年より移籍してきた竹内選手を始め、1年目、2年目と時間の経過と共に英語力が向上、アーリーエントリーした3選手についても、 英語の壁にもがきながらも、日に日に英語力は高まっているという。
※複雑な場合は通訳がサポートをしてコミュニケーションを図る。

戦うべきゲームから逆算し、細部にまで渡って散りばめられた工夫の数々。日々の積み重ねによりチームは、その歩みを進めていくが、 どこに、どのように進むのか。2011年、天皇杯とJBLで2冠を成し遂げた偉業の裏には、このようなACの取り組みもあった。

高校時より米国に留学し、早くしてコーチングへの道を歩んだ伊藤氏の経験が織りなすがゆえの、的確で効果的な練習ドリルを『知っている』という、その背景を読み、そもそも自分とは育ってきた環境が異なると嘆くコーチもいるかも知れないが、基本的には「練習ドリルはオリジナル」との事である。

HCの戦術を深く理解し、少なくとも、深く理解しようと頭を使い、現状とのギャップを見極める。何が足りなくて、何が必要で、どのような練習を積み上げる事で、選手はそれを習得できるのか。理路整然と並べられたケースバイケースの状況説明と、一つひとつの練習ドリルの中に、伊藤ACが丹念に積み上げてきた思索の一端を垣間見た。

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。