【吉田修久氏インタビュー②】コアトレの基礎とトレーニングの実践

大変長らくお待たせしました。
本日は元サンアントニオ・スパーズのアスレチックパフォーマンスアシスタント、吉田修久氏のインタビュー第二弾をお届けします。前回は最近トレンドの「コアトレーニング」についての正しい理解や、トレーニングに対する正しい取り組みの基本をお伺いしました。今回はより深い理解と、それを実践する方法をご紹介します。

第一弾はこちら
【吉田修久氏インタビュー①】コアトレに対する誤解とトレーニングの本質

ーーそれではまず、「コア」を鍛えることは何故効果的なのか? コアの役割は一体何なのかをお聞かせください。

まずコアを鍛えるというのは、単にお腹を固めることではなく、どんなポジションでどんな呼吸をすればコア、特に腰椎が安定するかという考え方が基本にあります。しかし、以前言われてきたことと最近言われていることは少し異なり、大きな括りでコアという概念は変わってきています。今までは概念が先行していましたが、現在はどういうポジションや使い方をすれば効率的なのか、股関節や肩甲骨の動きに対して、どのようにコアのスタビリティ(安定性)が影響するのかという部分に広がってきています。基礎研究が発展して応用的な部分に理論づけできるくらいに近づいてきているということです。

この定義が漠然としている方も多いかと思いますが、いかにニュートラルスパイン(自然な背骨の状態)といわれる良い姿勢を動きの中で安定させ維持ができるかというのがポイントです。動きの中でコアが安定しないと、四肢の動きが正しく機能しません。パワーを出したり跳ぶときのエネルギーの流れというのは、コアの安定が生まれてから外の動きへと続きます。例えばジャンプは床を押してその反力をエネルギーに変えているので、まずパワー(力×スピード)が出せないといけません。そしてその反力を身体に効率的に使うことが必要です。アウトプットとインプットがきれいにできて、良いポジションで安定して全ての関節が効率よく動くことがベストです。赤ちゃんが寝返りをするのも、立ち上がるのも体幹が安定していないとできません。機能的に安定するべきところが安定することによってほかの関節なども動きができるというのが基本的な仕組みなので、足の筋力をどれだけ鍛えたとしてもそのエネルギーを上手く使えなければあまり効果的ではありません。

ーー日本の現場では「姿勢の悪さ」もよく指摘される部分かと思います。

姿勢が悪い人は多いですね。トップレベルになればもちろん姿勢が良い選手が比較的多いですが、逆に言うと姿勢が悪い選手はよほどのスキルや強みがないとトップレベルまではいけないということでもあります。姿勢が悪いということは結局は身体の機能(ファンクション)がおかしいわけで、悪い姿勢を直すということは正しい動きを作り出すことに繋がります。だから正しい動きができない理由を、まず見つけてあげないといけません。例えば動きが悪い理由がコアではなく別のところにあるのであれば、いくらコアトレーニングだけをやっても改善されないでしょう。しかし原因を一般の人が見分けるのは簡単ではありませんので、ある程度アウトソースして私たちのようなスペシャリストに見てもらうことは必要だと思います。そういう環境を整えることも選手を伸ばすことに繋がると思います。

     

ーーそれでは実際にトレーニングに取り組むとして、まずはどこから始めたらよいのでしょうか?

まずはどの年代も一緒で、動かしたい関節と動かしたくない関節があるので、まず動かしたい間接をきれいに動かせるようにします。前者は「股関節」「肩関節」「胸椎」「足首」。後者はコアの部分で「腰椎」また「頸椎」「膝」です。膝は曲げないという意味ではなくて、膝をメイン(主動的)に動かさないようにするということです。膝はどちらかというと安定させたい 。下半身は股関節と足首が動いて、膝は良いポジションをキープするイメージです。

ーー少し話は逸れますが、女子の場合にACL(前十字靭帯)の損傷が顕著だと言われていますが、動きという面に理由があるのでしょうか?

これは様々な理由があると考えられています。膝の安定感がなかったり骨格の問題、正しいタイミングで正しい筋肉を動かせない状態、といったことが複合して起こりえます。基本的にはACL受傷の8割はノーコンタクト、つまり誰かと接触するのではなく、1人でひねってしまったり着地した際に、膝へ負担がかかって怪我をするのです。つまり基本的には身体の機能=ファンクションに問題があると言えます。男女比で言えば海外も同じ割合という印象です。

そして膝を怪我するということは問題は膝にあるのではなく、ほかの部位に問題があって膝に負担がかかっているのだと僕は考えています。局所的に膝周りの筋肉を鍛えるというのも一つのアプローチや考え方で分からなくもないですが、だからといって動き自体が変わっていなければ再発するリスクは大きいと思います。それを筋肉が補助的に支えるというのは理解できますね。

具体的な例で言うと、スクワットや着地の時点で、膝が内側へ入る動き「Knee Valgus」は股関節や足首の機能不全で起こり、これは直しておかないと、 ACLへの受傷リスクは非常に高くなります。

  

ーー動く動かないを理解する。それが導入の部分に必要だと理解できました。その次のアプローチはどのようなものでしょうか?

まずそれがパフォーマンスを上げるピースですね。その次にはしっかりとしたプログラムで、しっかりとトレーニングをすることだけです。ハードワークです。年代によりますが、ウェイトトレーニングなどトレーニング全般が含まれます。パフォーマンスが出ない理由が筋力やパワーにあるのならば、そうしたトレーニングをするべきです。筋力があってパワーはあるけどパフォーマンスが出ない選手は、動きのトレーニングに集中した方が効率的ですね。基本はしっかりとした正しいトレーニングです。

またウェイトトレーニングは正しい知識のあるしっかりとしたトレーニングコーチがいれば、小学校高学年からでもリスクがあるものではないと言われています。コーチにそうした年齢の子たちの関節に対する負担や正しいエクササイズの動きやその目的(及ぼす効果やリスク)などの知識があって、コントロールができればという条件つきであれば、若くてトレーニングしてはいけないということはありません。しかしその子に対して負荷が高過ぎるとか動きが悪い関節に負荷をかけすぎるエクササイズをさせすぎると、関節にストレスがかかって骨端軟骨などがダメージを受けて成長が止まるという考え方もできると思います。そうしたリスクがあるため、素人がやらせるのは難しいでしょう。正しい腕立て伏せが1回もできない子にトレーニングだからと無理矢理10回やらせるというのはナンセンスですよね。僕の場合は「動き」を教えることを若いうちにした方が良いと考えています。それができていれば、後から負荷を上げていくほどほかの子との差が大きくなります。正しい動きが出来ないと、正しく負荷も上げることは出来ません。若い内は動きづくりの中で強化しつつ、それができた時点で負荷を上げていくアプローチの方が理に叶っていると思います。



第二弾は以上となります。最後の話は、以前森さんが挙げたトピック『体の賢さ(フィジカルリテラシー)の重要性』とも共通する部分がありましたね。次回(最終回)は、日米の身体についての違いについてまとめたいと思います。

吉田修久(Nobuhisa Yoshida)
山口県出身。
・資格・学位:MS(科学修士)/NSCA-CSCS(全米ストレングス&コンディショニング協会認定 ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト)/ NSCA-CES (全米ストレングス&コンディショニング協会認定コレクティブエクササイズスペシャリスト)
・主な経歴 :株式会社 INSPIRE ATHLETICS 代表取締役。元NBAサンアントニオスパーズ アスレティックパフォーマンスアシスタント。フロリダ大学大学院ヒューマンパフォーマンス修士。オハイオ州立トレド大学運動科学部運動生理学専攻
・選手経歴 :山口県立岩国高等学校 1997年ウインターカップ出場。さいたまブロンコス(当時JBL2、2002.08 – 2004.03)

この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他