【吉田修久氏インタビュー①】コアトレに対する誤解とトレーニングの本質

【吉田修久氏インタビュー①】コアトレに対する誤解とトレーニングの本質

今回はひょんなことからご紹介いただいたすごい方、元サンアントニオ・スパーズでストレングス&コンディショニング(以下S&C)コーチとして活躍した吉田修久(よしだのぶひさ)氏のインタビューをお送りします。

高校時代に身体のトレーニングと出会い真剣に取り組み、自身が初めて手がけた書籍が『バスケ筋』(梅原淳著、スタジオタッククリエイティブ、2009)ということもあり、身体のトレーニングに関してとても興味を持っている私ですが、最近常に思っているのは、例えば「コアトレ」のように、トレンドのように扱われて言葉だけがひとり歩きしてしまっているのではないかということです。何か問題があれば「コアを鍛えればいい」「コアトレをしたからバランスが良くなった」と、まるで誰にとっても万能な魔法の薬のように崇められていることに違和感を覚えていました。そんな折に吉田氏をご紹介していただくことになり、過去の様々な記事を拝見しました(下記リンクは吉田氏の経歴やトレーニングに対する考え方を知ることができますので、是非一度目を通してください)。

この中で特に目を引いたのが『ファンクショナルムーブメント』という言葉です。「コア」という言葉が流行り言葉のように使われる中、「ファンクショナル(機能的)トレーニング」がその誤解を解く1つの鍵ではないかと私は感じていました(それでもファンクショナルもトレンドのように扱われていなくもない)。そしてもう1つが『アスレチックパフォーマンス』と言う言葉です。全てのトレーニングはパフォーマンスに帰結しなければなりません。目的を見誤ることが「トレンド」の怖さの1つだということも感じていました。こうした経緯があり、是非このことを吉田さんにしっかり聞いてみたい。そしてトレーニングに関する基本的かつ本質的な部分をしっかり理解し、伝えることの役割を果たしたいと考え、本インタビューへと繋がったわけです。第一弾は、コアトレを始めとした様々なトレーニングに対する基本的な考え方を理解するための概要についてお伺いしました。

まず日本における『コアトレ』の使われ方、つまりトレンドとして扱われているような部分に非常に違和感を覚えています。例えば「バランスが悪い=コアトレ=長友選手がやっているようなスタビリティのトレーニング」で終わってしまうようなことがあるように思えます。

そもそもコアというのは概念であって、具体的にどこをさしているといった明確な定義は私の知る限りなされてないと思います。正しく行えばコアトレ自体が悪いわけでも間違っているわけでもないと思います。しかしコアトレにしてもその他のトレーニングにしても、それ「だけ」やるというのは効率的ではありません。

またそうしたものを見よう見まねでやるのと(身体の機能や)エクササイズを正しく理解した上でやるのは大きく違いますので、専門家が正しい方向で指導していくことが必要だと思っています。さらに重要なポイントが、コアを鍛えて上手く使えることによるメリットを生み出すことです。あくまでもそれを使って何ができるのかということが大切なので、ただ単純にコアトレだけを何となくやるというのはあまり効率的ではありません。

あくまでもパフォーマンスのための一要素。手段や方法論ではありますが、目的ではないということでしょうか?

パフォーマンスというのはパズルのようなもので、コアトレにしろ様々なトレーニングはあくまで1つひとつのピースみたいなものです。パフォーマンスのためには本当に色々な要素があって、その1つがコアの安定だったりするのです。それができるようになればコアの安定+股関節の使い方とか、コアの安定+肩関節の使い方とか、+αを積み重ねて最終的にピースが全部埋まるような感じですね。

例えば所謂スタビリティトレーニング以外にも、スクワットのようにコアを上手く使えるようになるアプローチがありますし、効率がよい場合もあるのではないですか?

例えば重い重量でスクワットをすると、バランスを保ったり、筋力を発揮する為にコアは「安定せざるを得ない」のです。そうすることでコアの使い方を覚えて強化できる人もいれば、そもそもスクワットが正しくできない人もいます。そのような人に重いウェイトを持たせることはリスクもありますし、効率を考えればリスクが少ない方法でコアの使い方を覚えさせて、その後にスクワットなどに取り組むという方法も考えられます。

先程も言いましたが、方法論の問題でスクワットだけとかコアだけやっていればいいということはありません。様々なトレーニングの中で、サプリメント的にコアのトレーニングをするのはいい方法だと思います。

現場の方たちが身体のトレーニングに取り組む際に注意すべきことや、適切に行なうための方法はありますか?

もちろん正しい取り組み方を知っている専門家が現場にいるのがベストです。そうした方がアドバイスできる環境を整えるか、自分で求めていくかということが1つです。もう1つは、コアならコアだけに終始しないということです。コアをトレーニングしながら動きをトレーニングするなど、そこから次のステップにもしっかりと取り組むことです。

つまりトレーニングをパフォーマンスに繋げるということです。しかしパフォーマンスというのは、ボールを持ってドリブルしたりディフェンスしたりといった複雑な動きです。だからまずボールを持たない状態で正しい身体の動きを作ることが重要になってきます。動きをきちんとすることや、筋力とかパワーといった部分だけに集中できるシンプルな動き(動作)でトレーニングを行ないます。

例えば腕立て伏せやブリッジなどのように寝た状態で行なうトレーニングを、立った状態でも同じ使い方ができなければ効果的ではないですよね。立った状態で上手くできないのならパフォーマンスにはうまく繋がりません。シンプルなコアのエクササイズでも、そこから動きを作るという流れを作ってあげると、パフォーマンスに直結しやすくなると思います。

現在吉田さんが実施されているセミナーでは、どういったことを学べるのでしょうか?

トレーニング指導者やスポーツコーチ、それはバスケに限らずですね。少し専門的ではありますが、まず身体の根本的な機能(ファンクション)を説明し、それを元にトレーニングに対する考え方を紹介します。講座はAとBとがあり、Aは根本的な概念の紹介と、そこからそれを用いて身体の機能のチェックや基本的な動きづくりを実践します。BはAでの知識を元にアスレチックパフォーマンスに繋げるためのトレーニングを紹介する予定です。

少し短いですが第一弾はここで終了です。基本的な考え方についても、ここでは書ききれない部分もあります。是非皆様ご自身で見て、聞いて、理解につなげていただければと思います。上記のセミナーは講座Aが明日の4/27(日)。講座Bが5/11(日)を予定しています。詳細やお申し込みは下記リンクを参照ください。それでは第二弾以降もお楽しみに!

吉田修久(Nobuhisa Yoshida)

山口県出身。
・資格・学位:MS(科学修士)/NSCA-CSCS(全米ストレングス&コンディショニング協会認定 ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト)/ NSCA-CES (全米ストレングス&コンディショニング協会認定コレクティブエクササイズスペシャリスト)
・主な経歴 :株式会社 INSPIRE ATHLETICS 代表取締役。元NBAサンアントニオスパーズ アスレティックパフォーマンスアシスタント。フロリダ大学大学院ヒューマンパフォーマンス修士。オハイオ州立トレド大学運動科学部運動生理学専攻
・選手経歴 :山口県立岩国高等学校 1997年ウインターカップ出場。さいたまブロンコス(当時JBL2、2002.08 – 2004.03)
INSPIRE ATHLETICS オフィシャルHP

この記事の著者

岩田 塁GSL編集長
元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他