TTC 2017 supported by UPSET、即興チームに共通理解を植え付けた佐野智郎氏のアプローチ<2>
前回記事での記載の通り、Tamagawa Training Camp supported by UPSETはオフシーズンのプロ選手に良質な競技環境の提供を通じ、バスケット界へ貢献する事を目指す取り組みである。本年は、PHYSIOFLEX presents Tamagawa Training Camp 2018 supported by UPSET として6/23(土)、24(日)に実施予定である。
専門性の高いトレーナー、コーチ陣の指導セッション以外にも、両日の午後には玉川大学男子バスケットボール部とのスクリメージが企画されている事が特徴。前回の記事では、参加プロ選手の総括を担当した佐野智郎氏(東京海上日動BIGBLUE AC)が選手同士の共通理解用のツールとして用意したオフェンスシステムから、HORNSからドリブルを起点としてプレーの狙いや意図を紹介した。
本稿では、パスやオフボールスクリーンを中心にチャンスを狙うプレー、そして、相手チームの対応への佐野コーチの「次の一手」を紹介する事を試みたい。急造チームながらも、僅かな時間で共通理解を植え付け、また、コーチ側で段階的な変化を加える事と、プロ選手同士がアドリブを加える事で非常に多彩なオフェンスが実現した。
末尾には、急造チームを総括する際に、佐野氏が心掛けた事や狙いなどのコメントを紹介する。
FLEXを活用する形式(パスを主体としたオフェンス)
メモ
- 前回の記事と同じ形でスタート。今回はパスでオフェンスをする。
- 反対サイドのウィングの選手へスクリーンをセットし、ボールサイドカット。そこに対してダウンスクリーンをセット
- ①が台形付近でボールをレシーブしてミドルシュート、またはハンドオフからの2on2へと移行
※勿論、スクリーンプレーの途中でインサイドDFとアウトサイドDFがスイッチがあった場合にはインサイドへパスを供給を狙う。
参考
HORNS FLEXで動画検索をすると、NBA、NCAA、欧州バスケ界の様々な動画クリップを確認できる。
非常にメジャーであり、分かりやすい形でスタートするオフェンスをベースとする事は、急造チームでプレーする選手にとっては非常にシンプルで分かりやすいと感じた。また、ドリブル、パスとスタートの方法に変化を加える事でゲームの展開にアクセントを加える事に成功したように思われる。伊良部勝志、師玉祐一、喜久山貴一選手ら、全体のバランスを見ながらプレーをする選手らの存在もあり、トラブルを抱える事なくスムーズなオフェンスが展開された。
中盤戦以降、オフェンスに変化を加える
TTCでは、10分単位でゲームを繰り返す形式でスクリメージは展開される。この日の対戦チームだった玉川大学男子バスケットボール部のBチームを率いる学生コーチも、直ぐに急造チームのオフェンスコンセプトや狙いを分析。インターバルの時間を活用し、対応を試みてきた。佐野コーチも、ゲームの経過に合わせて、別の選択肢を選手に提示。相手チームが対応してくることを見越し、シンプルながらも次の一手を用意していた。
具体的には、ドリブルからスタートするHORNSの中、ポップアウトをする選手へダウンスクリーンを指示。これは、学生チームが、ポップアウトへの意識を高め、トップでフリーになりにくい場面を想定しての指示だった。
※X4の選手がDiveをする5番の選手へのHelpへの意識を薄め、ポップアウトへのマークを強調する事で、当然、5へのアシストパスのチャンスは増えた。学生チームの目標としては、5への安易なパスを出させない、かつ、ポップアウトもフリーにしない事。コーナーへのスキップパスをケアしながらX2のヘルプ、またはX5とX1のスイッチなども織り交ぜ、絶妙な間合いやタイミングでディフェンスを改善してきた。本稿では、ペイントエリアでの攻防における詳しい説明は図解は割愛する。
HORNSからダウンスクリーン
メモ
- ドリブルからスタートするHORNSと同じ形でスタート。学生コーチが指揮をする玉川大学も、TTC急造チームの原理原則に対してアジャストをしてくる。
- 最初のPNRに対しては、ドリブルでの侵入と、Diveする選手へのパスを許さないように駆使。X4の選手は、安易にHelpをしてポップアウトの選手をフリーにしないように留意していた。
- その為、トップの選手が以前のようにフリーにはなりにくい状況となった。
- それに対し、3本目のゲーム頃より、ポップアウトをした選手がコーナーの選手へダウンスクリーンを指示。
- 2番の選手がトップの位置でフリーでボールをレシーブする状況を作り出すことに成功した。
参考
スペイン1部リーグのACBより。レアル・マドリード、ARG代表の正PGファクンド・カンパッソが19得点7アシストの活躍をした試合より。1:41秒からのプレー(映像協力:とうみん氏 @el_baloncesto )
類似。LIFT Pinとして紹介されているプレー。PnRを使った側がポップアウト。反対側がダウンスクリーンをセットしている。
まとめ
※東京海上BIG BLUEのACとして活躍する佐野智郎氏。B.LEAGUE FINAL 2018では、B.HOPE活動の一環として試合前に開催されたユニファイドスポーツBASKETBALL SPECIAL GAMEでもHCを務めた。バスケットへの愛は海よりも深く、それゆに関わる人からも人望も厚い。目黒区を拠点に積極的にクリニックなども開催している熱血漢だ。漢の中の漢である。
経験や技能に勝るプロチームで結成されたチームとは言え、お互いに面識もない選手も多い。また、スクリメージに合わせての練習時間もほぼ皆無。総括コーチとしてはゲームを迎える佐野コーチは、オフェンス、ディフェンス共に基本的なコンセプトを作戦版に記載し、意思統一を図る。選手一人一人に声を掛けながら、得意とするプレーやポジションをヒアリングし、チームの意識を擦り合わせていった。
また、本稿では触れなかったが、ディフェンスのコンセプトも具体的に提示。ポストディフェンス、ピック&ロールに対する守り方を整理した。
「ホーンのエントリーから、フレックスとダウンスクリーンフィニッシュを軸に考えてやりました。ただ、基本的には選手の自主性に任せたつもりです。選手たちの能力や理解度に合わせてと思いましたが、どちらかというとディフェンスの意思統一をメインに考えていました。一試合も負けたくなかったので笑。もっと意思統一ができたと反省しきりのものでしたいい経験になりました!」
また、TTC2017は特に若い選手が多かったことも、共通理解をある程度に明確にした事に影響しているという。
「自主性も勿論のこと、様々なトライアウトなどを受けることも想定すると、チームとしての要求をしっかり遂行する能力を試す場にする事も良いかなと思いました。TTCのテーマも、まさにそこにある気がします。また指揮する機会があれば、その部分をさらに強調していきたいですね。昨年は出来ませんでしたが、本当はダブルチームにいくディフェンスのローテなどもやりたかったです。さすがにその場でやるには厳しいと判断して、個々のディフェンス能力に任せましたが(笑)」
Tamagawa Training Camp supported by UPSETの運営事務局も兼務した筆者にとって、何よりも印象的だったのはプレーをする選手同士の笑顔やゲーム中の歓声である。急造チームとは言え、コンセプトを明確に打ち出す総括コーチのもと、選手同士で協力し合い、目標を達成していく様子は充実感に満ちていた。対戦をした玉川大学男子バスケットボール部の選手にとっても、プロチームの技能と経験、臨機応変さを体感したことで、スクリメージを通じた学びや発見の機会を増やすことに成功したように感じた。
この記事の著者
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1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。