セルビア大使館インタビュー その1 〜見えてきたセルビアバスケの強さの秘密〜

アメリカ代表が圧倒的な強さで優勝を決めた、2014年バスケのワールドカップ。アメリカへの称賛の次に、私の興味はすでに準優勝チーム「セルビア」へと移っていました。セルビア共和国、通称セルビアは、バスケやサッカーファン(ピクシーことストイコビッチはユーゴ出身ですね)なら何となくその名を聞いたことがあるでしょうが、古くからのファンならば「ユーゴスラビア」という名の方がしっくりくると思います。

この辺りの歴史についてはまた各々参照してもらうとして、つまり元々バスケ強国だったとはいえ、ユーゴスラビアが解体した後も変わらずに世界のトップたり得ていることは、決して普通のことではないと思ったのです。詳しく調べると、何とセルビアの人口はわずか約900万人。これは神奈川県や大阪府の人口とほぼ同じだというのです。これは恐らく、尋常ならざる秘密があるに違いない。しかしセルビアのバスケの情報は、ネットで調べてもあまり多くない。気づけば、ほんのわずかな望みを託して、セルビア共和国の日本大使館にメールを入れていました。

ほとんど期待はしていませんでしたが、返事はすぐにきました。「もしお時間がありましたら、一度大使館にお越しいただき、スポーツ担当のものとミーティングはいかがでしょうか?」。まさに青天の霹靂。後日ラボのメンバー数人と、セルビアのバスケの大ファンというぎっち氏とともに、セルビア大使館を訪れました。以下でそのインタビューの模様をお伝えします。

やって来ましたセルビア大使館

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ゴールドスタンダード・ラボメンバー(以下GS):今日はよろしくお願いします。僕たちは、「ゴールドスタンダード・ラボ」という主にコーチング研究に特化したサイトを運営しています。

ネマニャ・グルビッチ氏(以下NG):こちらこそよろしくお願いします。偶然だけど、実は僕自身も小学校〜セミプロの9年間でバスケをしていたんですよ。

GS:どこでプレーしていたのですか?

NG:最初は首都のベオグラードでプレーしていましたが、その後チャチャクに引っ越してからは街のチーム(ボラッツ・チャチャク)の下部組織でプレーしていました。ボラッツ・チャチャクは「シュートが上手いチーム」として知られていました(ちなみにボラッツはセルビア語で「戦士たち」を意味するという)。その後ベオグラードの大学に通うことになって学業に専念することになったんです。日本に来てからもたまに友人たちとバスケをしていますよ。

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今回担当してくれたグルビッチ氏。見ての通り、とんでもなくイケメンだ

GS:今回のワールドカップで、セルビアは準優勝という好成績を収めましたね。

NG:セルビアでは誰もが、自分たちがバスケの強豪国であることを誇りに思っています。今回のワールドカップは若い選手たちが多かったから、好成績を収めたのはある意味で驚きでした。しかし自分たちが世界の中でも戦える強豪国だと分かっていたから、その意味では特に驚きではありませんでしたね。

GS:セルビアではなぜバスケが人気なのですか?

NG:過去の成功がどんどん次の世代に受け継がれているのが大きいと思います。前の世代に触発されているんです。ユーゴスラビア(ユーゴスラビア時代、オリンピックでは優勝1回に準優勝4回。世界選手権では優勝5回に準優勝3回に輝いている。古くはブラディ・ディバッツから、最近ではペジャ・ストヤコビッチといったNBAでも活躍した選手を多数輩出している)が強かったので、それに触発されて、街の色々な場所でバスケットボールができる環境が整っていきました。セルビアに行けば分かりますが、街の至るところにバスケゴールがありますし、いつでも使える状態になっていますよ。日本だとスポーツの施設を使うためにお金をかかることが多いと聞いていますが、セルビアだといつでもバスケができるんです。

実際の育成現場はどうなのだろうか?

GS:若い世代がバスケに触れる環境はどのようになっているのでしょうか?

NG:通常、みんな小学校からバスケを始めます。(他のスポーツと共に)バスケットボールのクラブがどの小学校にもあります。でもプレーできるのは学校だけではなくて、街のチームもあります。上手い選手はそっちに所属することが多いですね。スカウトされてそちらに移る子どももいれば、自分で志願してそちらに移ることもあります。

GS:一年中同じスポーツをするのですか? それともアメリカのようにシーズンごとに違うスポーツをやるのですか?

学校では(シーズン制ではなく)一年中同じスポーツをします。セルビアではひとつのスポーツだけをやるのが一般的です。種目を変えることはありますが、一度に複数をやることはありません。自分は学校のチームでバスケを始めて、チャチャクのチームに移りました。本当はさらに上のレベルでもプレーしたいと思っていましたが、自分は189cmしかなく、この身長でセルビアの上のレベルでプレーするにはPGかSGができないといけません。その場合でもかなりのスピードを要求されますし、上にいくのは厳しかったですね。

GS:セルビアの育成の中心はプロチームということですか?

NG:全てのプロクラブが育成組織を持っているわけではありませんが、いくつかのチームにはパイオニアチーム(10〜12才)、この間にもう一つ段階があって(編集部注:各チームごとに呼称などが異なるため、グルビッチ氏も定かではないとのこと)、ジュニアチーム(15〜17才)があります。ジュニアチームの中でもいい選手はトップチームでプレーしたりします。残念ながら実力を発揮できない選手は、その後小さなチームに移ったり、外国のチーム(ベルギーやスイスなど)に移籍します。セルビアは経済的にあまり豊かではないですし、外国の方が資金がありますからね。

GS:そうしたチームに所属するにはお金がかかるのですか? またロスターの制限などはあるのでしょうか? 日本では部活動の人数が多くて、応援だけで3年間が終わってしまう選手もいます。

NG:いいえ、全くかかりません。お金がかからないという点も、セルビアでスポーツが人気の理由の1つだと思います。自分にバスケの実力があったら、それを使ってのしあがっていくことができるんです。またセルビアには特に選手数の制限などはありません。何人でもチームに所属することができます。

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通訳およびテープ起こしを担当してくれた佐良土(左)。鋭い質問をなげかけた片岡(中)。そして恐らく日本一のセルビアバスケファン、ぎっち氏(右)

GS:年間を通したスケジュールはどのようになっていますか?

NG:9月の学校が始業しますので、まずそこからシーズンが始まります。リーグ戦は年間を通してあって、年1回のカップ戦(トーナメント)があります。最初は市内の学校が参加するトーナメントがあり、それを勝ち抜くと全国大会がある。6月には学校が終業して、夏にはサマーリーグがあります。

GS:グルビッチさん自身、これまでのプレー経験の中で何が一番印象に残っていますか?

NG:チームでプレーしたこと自体が一番印象に残っています。みんなで、ずっと一緒にプレーして、色々な都市に行きましたからね。今思い出しても本当に思い出ですね。

※当ラボでは、以前筑波大学男子バスケットボール部監督の吉田健司氏による、リトアニアの行く政治上のレポートを掲載しています。人口の多さなど非常に似ている部分のあるリトアニアの育成事情については、こちらを参照してください。

コーチングに秘密があるのだろうか?

GS:ではコーチのライセンスはどうなっていますか?

NG:コーチをするにはライセンスが必要で、そのためには様々な勉強が必要になります。海外から招聘したコーチなどのバスケキャンプに参加して、色々な勉強を積んでライセンスを取ります。ちなみに、ライセンスにランクみたいなものがあるわけではありません。基本的に、小学校とか若いチームのコーチから、段々と上のレベルに上がっていきます。中には外国に行ってコーチをして、経験を積んでセルビアに戻ってくるコーチもいます。最近は海外に行くコーチが多くなっていると思いますね。

GS:セルビア全体で育成に対する統一意識みたいなものはありますか?

NG:特にそういったものはないですね。コーチはそれぞれ自分流でやっていると思います。キャンプとか研修にいって色々と同じようなことを学ぶことはありますけどね。

GS:日本だと6・3・3という学校の体制があるので、進学して学校が変わるごとに、各レベルでやることが全然変わってしまうことがあります。セルビアの場合はどうですか?

NG:セルビアでもひとつのチームに所属するので、確かにチームに合わないみたいなことは起こります。しかし違うチームに移れるのは、ある程度上のチームにいってからですね。

GS:コーチはどうやって選手のモチベーションを高めていますか?

NG:セルビアではプレーヤーがたくさんいるし、チームの競争も激しいから、そもそもモチベーションが高くないとチームでは生き残れないんです。モチベーションがあるのが大前提。そういう事情があるから、コーチがわざわざ選手のモチベーションを高めようとする必要はないんです。個人的な経験としては、いい選手でもやる気がなかったら生き残れないですし、逆に頑張れば生き残れる道はあるということを見てきました。

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我々にとってとても有益な情報を惜しげも無く公開してくださった。暖かく迎えてくれたことに謝意を示したい

セルビアバスケの輪郭をようやく知ることができた気がする

インタビューは次回に続きますが、ここまででようやく、セルビアバスケの概要を知ることができたと思います。その中から見えてきたのは、ヨーロッパの国々で見られるクラブ主導の育成が行なわれているという点です。選手は、セルビアという国柄、ヨーロッパの強豪チームや、アメリカの大学、果てはNBAまで夢を見ることができます。コーチ(チーム)は、優秀な選手を育てることが、そのままチームの利益となります。

誤解を恐れずに言えば、グルビッチ氏自身は、セルビアのバスケを肌で体験してきましたが、協会の中の中まで精通しているわけではありません。もしかしたら協会主導でしっかりとした育成哲学のもと、しっかりとしたカリキュラムを組んでいるといった側面もあるかもしれません。シーズンの試合の組み方やカテゴリー分けなどは、実はそうした意図があるのかもしれません(今回のインタビューではそこまで伺うことはできませんでした)。

しかしそうした部分は、実はそれほど大きな理由ではなく、グルビッチ氏が実際に感じ体験してきたこと、つまり将来目指せる場所や、それを目指すべく自身を磨ける場所があること、これは間違いなくセルビアが強豪である真実の一端でしょう。奇しくもFIBAの勧告に対して揺れに揺れている日本バスケ界。日本の若い選手たちが、将来プロ選手を目指したいと思える土壌が今現在あるでしょうか? 色々なドリルを知ることも、スキルを教えることも大事です。しかしそれ以上に大事なこと、私たちがしなければならないことに、改めて気付かされた気がしますね。

さて次回でも、もう少しセルビアのバスケにまつわる話をまとめたいと思います。その中で、もう少し強さの秘密が見えてくるかもしれません。最後にセルビアのエースとして大活躍したテオドシッチのハイライトでお別れです。

この記事の著者

岩田 塁
岩田 塁バリュードライブ株式会社/インパクトM株式会社(ディレクター)
デジタル/コンテンツマーケティング支援のバリュードライブ株式会社/インパクトM株式会社ディレクター。企業様のデジタルマーケティング/コンテンツ戦略を支援させて頂いております。

元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他

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