「ミートでずらす」の再考:森高大氏寄稿

2012_01_24 RRHS - McNeil boys basketball - Henry Huey c_9605
今回のテーマはタイトルの通り、「ミートでずらす」を再考することです。

「ミートでずらして攻めなさい」

自分が選手だったころ、1on1の指導を受けるときにはどのカテゴリーでも耳にタコができるほど聞かされていました。

「ボールミートをする際に大きく移動し、それによってディフェンスとのずれを作る。キャッチした後はすぐさま鋭いクロスステップで抜きにかかる」

というのが、僕のいた地域では主流でした。しかしアメリカに出てきて非常に強く思うのが、ここアメリカではミートに力点が置かれることはほぼ皆無だということです。まして「ミートする際に大きく移動しなさい」という言葉は一度も聞いたことがありません。

そこで今回は、日本代表とチャイニーズタイペイ代表の試合を用いて、日本代表が実際の試合ではどのような1on1の仕掛け方をしているのかを調べました。調査に用いたのはこの試合です(中国語です)。

調査方法は、このゲームの日本チームのハーフコートにおけるアウトサイドからの1on1の仕掛け方を、以下のように分類してカウントします(ファストブレイクはカウントしていません。またチャイニーズタイペイは途中ゾーンをはさむものの、マンツーマン主体です)。

  • キャッチドライブ(ボールをキャッチしてすぐにドライブ)
  • フェースドライブ(デッドボールでディフェンスと向かい合った状態からドライブ)
  • ドリブルドライブ(ドリブルをついた状態からドライブ)
    ※この分類の仕方は1on1の専門家、岩井貞憲氏の考えに則っています

今回はそれに、

  • キャッチアンドショット(キャッチしてすぐにシュート)
  • フェースアンドショット(ディフェンスと対峙した状態からシュート)

を足しています。

さらにキャッチアンドドライブについては、

  • ほぼ止まった状態で(素早い動きなく)キャッチ
  • 素早くカット(Vカット、Lカットなど)してキャッチ
  • スクリーン(クロス、スタッガード、ハンドオフなど)を使った後にキャッチ

の3つに。

フェースドライブ、ドリブルドライブについては

  • 純粋な1on1
  • ボールスクリーンを用いたもの

の2つに分けています。

調査結果

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総1on1数は74回そのうちドライブを仕掛けたのは32回です。またこれは結果シュートに行かず、パスをさばいたものも含めています。あくまで「仕掛ける段階」を分析するためのデータです。

上の表の中で、ミートで「ずらして」攻めるのに該当するのは赤字にした、カット→キャッチ→ドライブです。一試合を通して、ミートで「ずらそう」としたのはわずかに1回でした。32回ドライブを仕掛けたうちの、わずか1回です。

キャッチしてすぐドライブすること自体は16回と少なくありません。じゃあどのようにして「ズレ」を作っているのかというと、「チームで」ずれを作っていると言えます。

  • 自分は止まって準備し、誰かがドライブして自分のマークマンをひきつけ、キャッチした時にはすでにずれている。
  • スクリーンを用いてずれを作った状態でキャッチし、そのズレを生かして攻める。

というこの2つが非常に多く見られました。

ここから導き出されるのは、トップカテゴリーになるとミートで「ズレ」を「作り出す」よりも、チームでズレを作り出し、それを逃さずドライブ、シュートに結びつけているということではないでしょうか。現にキャッチからシュートの所でも、止まった状態でもらってすぐシュート(23回)、スクリーンからキャッチしてすぐシュート(12回)するシーンは非常に多く見られました。

「止まった状態でシュート」はチームメイトがシューターのマークマンを引きつけ、そのズレを生かしてシュート。「スクリーンを使ってシュート」はスクリーンでズレを作りシュートしていると言い換えられます。ディフェンスのレベルが高くなるとミートだけでズレを作るのは難しく、チームでチャンスを作りだすことが増えると言えそうです。

もちろん鋭いミートからのドライブも有効な手段の1つです。しかし、「ミートでずらして攻めろ!」のみを強調すると起こりがちなのが、以下の2点ではないでしょうか?

  • ミートでずらすことに一生懸命になりすぎて、ほかにもっと確率が高いシュートが打てるような味方がいてもパスを出せない。
  • ドライブするスペースがないにも関わらずドライブを仕掛けてしまう。

こういった弊害を取り除くためにも、ミートして止まり、ディフェンスと対峙してコート状況を見ながらのドライブ方法、つまりフェースドライブの方法も、プレイヤーが練習し、習得しておくべきだと思います。パッシングバスケットを好む日本なら特に、パスも見ながら自分で仕掛けられることは重要になってくるでしょう。

ここで間違ってはいけないのは、「ミート」自体は非常に重要なキャッチにおける技術であり、また1on1における「オープンステップ、クロスステップの鋭さ」も絶対に欠かすことができない技術だということです。これらはバスケットを組み立てる上で欠かすことができないと思います。シェービングや各種ステップドリルを否定しているわけでは決してありません。特にオープンステップ、クロスステップの鋭さは、どの種類のドライブにも必要な技術です。

ただ今回の記事で主張したかったのは、

  • ディフェンスのレベルが高い状態で、ミートのみで「ズレを作る」シーンはほぼゲームで出現しない
  • キャッチからすぐ攻めるだけでなく、「ディフェンス」と向かい合った状態からの1on1や、ドリブルからの1on1も相当数出現する。

という2点です。

つまりコーチとしては1on1を指導するにあたって、「ミートでずらして攻めろ!」のみを強調するよりも、キャッチドライブ、フェースドライブ、ドリブルドライブのそれぞれにアプローチした方が、よりゲームに近い状態で選手を伸ばせるのではないか、と感じました。例えばミートからのキャッチドライブ、ジャブステップからのフェースドライブ、クロスオーバーからのドリブルドライブといった具合です。ミートからのドライブは「唯一絶対のもの」ではなく「数ある手段のうちの1つ」と捉えるべきなのかもしれません。

この話題については、コーチの皆様もこだわっていることが多い分いろいろと思うことがあるかと思います。「これはおかしいだろ」でも「こういう考えもある」でも構いませんので、ぜひコメントをお願い致します。

この記事の著者

森 高大
1989年生まれ、香川県出身。香東中学校-高松高校-東京大学-ウェストバージニア大学大学院アスレティックコーチング専攻。小学校からバスケを始め、大学3年次までプレイヤー4年次には学生コーチと主務を兼任しながら、株式会社Erutlucで小中学生の指導にあたる。現在はアメリカDivision I 所属のウェストバージニア大学大学院でコーチングを専攻しながら、男子バスケ部でマネージャーとして活動中。
コーチMのブログ http://ameblo.jp/tamorimorimori83/