「その人はその人らしく」。日本一を経験した名ポイントガード「中川直之」のバスケット観

nakagawa-first-ec

皆さんこんにちは。今日は私のバスケット観についてお伝えしたいと思います。

みんながそれぞれの強みを生かし、その人らしいスタイルで、チームに貢献する。

チームスポーツであるバスケットで私が理想とするカタチです。コート上の指揮官といわれるPGポジションの自分が考えてきたのは、各プレーヤーの「個性・特性」、「強み・得意」をきちんと把握し、それらをうまくつなぎ合わせ、長所を取り出せるよう、プレーヤー同士をコーディネートすることです。以下で詳しく説明したいと思います。

下の図はある二人のプレーヤーの関係性を表しています。

nakagawa-first-1

例えば、右の〇は身長が高く、ゴール下での得点力やリバウンド力などに長けている選手だとします。左の〇は身長が高くなく、シュート力もない。だけれど走力、クイックネスなら誰にも負けない選手を表しているとします。

2つの〇は中心点が交わることはありません。選手はそれぞれがユニークな存在であり、まったく同じリソース(能力・特性・バックボーン)を持ち合わせた選手は存在しないと考えるからです。この2つの〇の関係性で問題なのは、2つの〇が離れ離れになっていることです。それぞれが孤立した、いわゆる「点」の状態になっており、バラバラで協力しあえていない状態を示しています。

バスケットの現場でありがちなのが、例えば小さい〇で表現される選手が、大きい〇で表される選手よりも得点能力が低いだとか、サイズがないだとかで何かが欠けているように言われていたり、本人もそれで自信を失い、勇気を挫かれ、チームへの貢献感ややりがいを感じられなくなってバスケット自体が楽しめなくなってしまう、というケースです。

これは非常に残念なことです。私のバスケットの発想はこれとは異なります。コート上の指揮官、コーディネーターとしてまず第一に考えるのは、「2人は2人のままでいい」ということです。その人はその人らしく、でいいんです。この発想はPGとしてゲームメイクをするときだけでなく、バスケット指導やコーチングを行うときも同じように持ち続けています。

その人はその人らしく、でいいんです。この前提に立ち、次に考えることは「その選手の得意なこと、出来ることをどんどん伸ばしていこう!」ということです。下の図を見て下さい。

nakagawa-first-2

例えば左の身長は低いけれど、誰よりも走力、クイックネスがある選手が自分の強み、長所を伸ばすことにフォーカスし、バスケットに臨んだとします。走力、クイックネスがあれば、速攻の走りだしで相手のディフェンスラインを下げて味方をチャンスメークしたり、ハーフコートオフェンスで鋭いカッティングを入れてディフェンスを揺さぶったり。オフボールで出来ることもあれば、オンボールで出来ることも沢山あるはずです。

左の〇の選手がその人らしく出来ることに集中する。それと同時に右の〇の選手も持ち前のゴール下での得点力や高さを活かしたプレーを伸ばしていき、自分でスコアを取ることに加え、相手DFFをひきつけ味方を活かすプレーなど持てる強みをさらに高めることにフォーカスします。結果、両者の〇はどんどん大きく膨らんでいくことになります。するとどうでしょう?

nakagawa-first-3

最初離れ離れだった〇と〇の間に交わるゾーンが出てきました。私はこれを「共有ゾーン」と呼んでいます。それぞれの強みや長所を伸ばしていくことで「共有ゾーン」、すなわち協力しあえるエリアが拡がっていくんです。5人で行うバスケットというスポーツでは、当然このほかにもプレーヤーが存在します。例えば右と左の〇の選手に加えて、グッドスペーシングからのキャッチ&シュートが得意な選手を一人加えた場合、以下のようなプレーが演出できます。

右の〇の選手がゴール下で相手を押し込み引きつけ、そこに左の〇の選手がクイックでオフボールカッティングを入れ、DFFがインサイド側に意識が集まり収縮したところを外に散らして、オープンなスリーポイントを選択する! 誰も右の〇の選手にボールを運べとは言わないし、左の○の選手に点を取れとも言わないし、シューターの選手にドリブルをつけとも言いません。しかしチームとしてのグッド・プレーが成立するんです。これはバスケットボールがチームスポーツであるということを表した一例です。個人で争うスプリント競技などとは違い、各人が出来ることに集中することで相手を出し抜き、チームとしての高みを目指していける競技だということです。

これらを踏まえ、私がバスケットを行う上でいつも大切にしていることは

  • 常にチームで戦っているスタンスを持ち続けること
  • 仲間を認め、信頼すること

この2つです。チームで戦うためにはメンバーと円滑な連携を図る必要があります。

  • 声で伝える
  • アイコンタクトをとる
  • 身振り手振りで伝える
  • セットを共通言語に…etc

さまざまな方法で仲間と共通理解を作り、コートで理想をカタチづくっていきます。ベースにあるのは仲間を認め信頼する気持ち。経験からこれらが大切だと学びました。

以上、ここまで私の価値観を述べましたが、かくゆう、私、昔からこんな発想を持ちあわせてはいたわけではありませんでした。じつは過去に自分のバスケット観、パラダイムを変える苦い経験があって、この価値観に行きついたのです。

私の発想を変えるに至った出来事

一つは『国体』という県対抗の大会で、自分のチームメイトと対戦したときのことです。私はその試合、普段一緒に練習しているチームメイトから完全に守り切られてしまいました。自分主導の1on1で効果的なオフェンスを仕掛けられないどころか、躍起になった分、逆に労力を使わされ、カウンター気味の速攻から次々と失点し、その試合は大差で敗れることとなりました。

試合後、疲労感は相当なのに、それにまったく見合わない惨敗にかなり悔しくショックを受けました。何がいちばん悔しかったかと言えば、その試合で私にマッチアップした選手は、普段1on1をするときは10回攻めて10回メイクできるぐらい自分に分がある選手だったことです。その選手はその日他のチームメイトと協力して私を守ってきました。私がボールを持つ度に味方に知らせ、シュートを打たせないよう密着し、ディレクションも徹底し、チームで連携し私を守ってきました。

「自分が起点になれば楽に攻められる」

試合前に高をくくっていた私でしたが、それが浅はかだったと思い知らされることとなりました。この出来事から

個は連携した組織にはかなわない

これを強く思うようになりました。

勝てなかった時代

自己中ガード

これを地で行っていた20代中頃。チームとしても全く結果が出ない時期がありました。

「おれにシュートを全部打たせろ、悔しかったら練習して下さい」

こんな稚拙なメールをチームに一斉メールしてしまうぐらい、恥ずかしながら、未熟で余裕のない時期がありました。そんなメールに象徴されるようにチームは見事にバラバラ。面白いぐらい勝てないときがありました。いつも競っていた相手に40点差で負ける、なんてこともありました。

「何かを変える必要がある」。このとき悩みに悩み抜いたあげく行きついた結論が、テクニカル論というよりは「仲間を信頼する」という、精神面で自分を変化させていくことでした。それまでの自分本位なプレースタイルを改め、仲間を信頼しなければ出来ないような、パスリリースをたくさん行うようにしました。

自分が出来るシュートがあっても同じことが出来る仲間にシェアするようにしました。チーム全体のリズムやテンポを考え派手なプレーをなくし、なるべくシンプルなプレーに自分をシフトチェンジしていきました。オープンマン・セオリーに則り、味方が空いていたらシンプルにパス。これがいちばん強いと改めて実感するようになりました。

練習や試合の場で連携の部分で不具合が起こったり、もっとこうしたらいい等が見つかったら、都度コミュニケーションをとってその場で解消していきました。現場で起こった問題をスルーせず、より良くやるためにはどうするべきか、ほかにやり方はなかったか?何がどう良かったのか、まずかったのか、こうした思考を自分のなかでいつも働かせ、その都度ゲームメイクを改良していきました。コート上のメンバーが変わればプレーのリードも微妙に変えました。選手の強みはそれぞれ違うからです。

試合で結果を出したい

この想いから、より良くやるための仮説を立て現場で検証を行い、細かいレベルでのプレー、ゲームメイクのブラッシュアップを行っていきました。自分の変化を見たある人から「ガードっぽくなってきたね」。こう言われるようようになりました。その辺りから少しずつ結果が変わってくるようになりました。自分の得点や走ることにかけるエネルギーは少なくなったのに、チームはどんどん安定して勝てるようになったのです。何より一緒にプレーする仲間がコートで躍動し始めるようになりました。個々の強みを互いが理解し、それを試合で意図的に取り出せるようになりました。弱みがあれば皆でカバーし、チーム一丸で戦う空気も生まれてきました。自分もパスやドリブルなど持てる強みをさらにコートで表現できるようになりました。

一時、頭打ちになっていたチームでしたが、再び目標としていた社会人日本一を達成することが出来ました。これら経験から学んだことは

  • 個よりも組織
  • 仲間を認め信頼する

個のスケールでバスケットを考えるのではなく、皆が協力しあえる体制、文化をつくり、チームとして最善のプレーをコートで考え、実践する。前提にあるのは仲間を認め、信頼する気持ち。皆で協力し考えてバスケットをすれば、「その人はその人らしく」でいいんです。こうした考え方でチームとしての最適化、ピークパフォーマンスが実現出来ると思っています。私は現役時代のこの経験をいま日本各地に行って伝える活動をしています。プレーヤー時代に培ったバスケットのスキルやテクニックだけでなく、引退後に学んだ世界水準のコーチングテクノロジーを基にしたチームビルディングの方法や目標達成に向けた考え方など、さまざまな視点からプレーヤー、コーチの方々に気づき・発見を与える活動を行っています。

微力ではありますが、自分の価値観を発信することで日本のバスケットに貢献していけたらと思っています。当サイトでも私の考え、技術情報などを発信していきたいと思っています。今後ともお世話になります。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

この記事の著者

中川 直之
中川 直之
1982年6月。山口県下関市にて双子の兄として生を授かる。小学校4年時より本格的にバスケットを開始。山口県立豊浦高校〜専修大学〜九州電力。大学では学生の主要4大タイトルを制覇。社会人では社会人主要3大タイトルを制覇。2014年2月プレーヤーを引退後、現在考えるバスケットの会会長として、全国のさまざまなカテゴリーの選手およびコーチに「考えるバスケット」を広める活動を行っている。また、引退後にはオリンピック金メダリストを輩出したメンタルサポートスクール「チームフロー」のコーチングカリキュラムを終了し、プロアスリートメンタルコーチとしても活動を開始。

いいね!で最新記事も
チェックできる!