【EURO BBAレポート ’’Decision Making””】
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EURO Basketball Academy monthly coaching – clinics in Japan
(GSL編集部 片岡秀一)
『頭の良い悪いは関係無い!状況判断力は訓練によって伸ばすことが出来る。そして、その為には、成功体験も、失敗体験も、とにかく選手に経験させることが大切だ!!!』
年内最後となるEuro Basketball AcademyのテーマはDecision Making(「状況判断)。冒頭、講師であるトーステン・ロイブル氏からは「情況判断能力は、スキルと同様に、育てることが出来る」という大前提が語られて講義はスタートする。
ロイブル氏がDecision Makingの基礎と位置付けるのはコーディネーション能力だ。「基礎の基礎として、3つのコーディネーション能力を育てておくことが重要だ。Balance(バランス能力),Orientation(定位能力),Adaptability(連結能力)※末尾にメモあり。身体のバランスを保てない選手は、良い判断をする・しないの前段階での準備が必要である」と語る。実技指導の中では、ウォームアップも兼ね、上記3つに有効なコーディネーショントレーニングが数種類紹介された。
■”Leaning by Doing””プレーすることで学ぶ
また、Good Decision makingを育む中で重要なロイブル氏のメッセージは「プレイヤーの判断能力は、コーチからの指示、叱責で育つものではなく、成功体験、失敗体験の繰り返しの中で育まれるものである」という事。
“”Leaning by Doing”” というキーワードと共に語られたのは、何よりも、プレーをする中で学ぶ事の重要性だ。当たり前のようであるが、この日、最も強調されたメッセージの一つでもあるといえるだろう。
とはいえ、コーチがチームの課題解決を意図して練習カリキュラムに組み込んだドリルの中、選手がプレーをする中で間違った判断を犯した選手がいれば、コーチの目線としては、間違いを修正し、同時に、他の選手にも同様のミスをしないよう、時には強い口調や、どうしても説明が長くなってしまうもの。そこには、様々なスタイルや考え方があり、フィードバックのタイミングや手法の技能がコーチには求められると語る。
ロイブル氏の好むスタイルは、例えば、ドリルを終えた選手が元々の列に並ぼうと移動する際に、簡単なコミュニケーションを図る事。そこでは、「こういう判断も出来たよ」「ここにDEFが動いていたが、その時の仲間のポジションは見ていた?」と、個別に、具体的なフィードバックを与えることで、選手個々の発想に、コーチが求める視点を与え、次にドリルの順番が回ってきた際に意識してもらった上で、プレー中の判断をしてもらう事。
勿論、チームや個人の課題、チーム/選手の習得度に合わせたドリルの組み立てや、引き出しの多さがコーチに求められるのは言うまでもない。練習前のMTGで特定の選手のプレーを取り出し、チーム全体に対し、コーチが求める基準や、チームスタイルに合わせた正しい判断基準を明確にする時間を設けることもあるかも知れないが、とにかく、基本的な考えとしては、Leaning by Doing、成功体験、失敗体験、その両方を積み重ねることで状況判断の力が洗練されていくという考え方である。
また、この日、参加者一同の中でも特にインパクトの大きかった提案の一つは、選手同士に状況判断のフィードバックを促すようなドリルを設計する事であったようにも感じた。
具体的には、2つのチームに分かれて行う条件付きの2対1の中で、一つのグループが2対1の攻防を終えて列に戻る際に、選手同士のフィードバックの時間を、ここは半ば強引に、設ける事。
アウトナンバーが成功すれば、ハンドポイントでナイスパスを讃え、その後、「もう少し走り込むコースを変えてくれると、パスを出しやすかった」「ここでパスを出してくれたが、バウンドパスのほうが取りやすかった」「ランナーのキャッチボイスをフェイクに使って、自らがシュートを狙っても構わなかったよ」などと、選手同士で、状況判断についてのフィードバックを行う事だ。デモンストレーションの大宮北高校バスケ部員同士でも、先輩、後輩に関わらず、ペアになった選手同士でも積極的なフィードバックが行われていたのが印象的だった。
上記のように、この日は、冒頭に力説されたコーディネーション能力を上達させるドリルを導入俊、判断を伴う1対1、2対2を中心に紹介。詳しいドリルの内容は紙面では難しい為に割愛するが、クローズアウト(HELPポジションにいる人間がボールマンにマークするDEF)での判断、ドライブに対するDEFの反応から判断するスペーシング、ピックアンドロールを使用した後の判断など、実践的な内容も織り込まれた。
筆者が面白いと感じたのは、これまで、Euro Basketball Academyの中でも繰り返し語られてきたバスケットボールの基礎理論との一貫性である。
Decision makingがテーマなのであるから、それに沿った内容が紹介される。だが、ドリルがドリルとしてブツ切りにならず、状況判断能力を織り交ぜながら、これまでEURO Basketball Academy Clinicの中で語られてきた基礎的な理論と非常に関連が深い。参加者のコーチは、『見た事、聞いたことのあるドリルで、基礎的な考え方・理論を同じとし、一貫性を感じながら』、毎回のテーマに即した形でアレンジされたドリルが紹介されていく様子には舌を巻かざるをえなかった。
■頭の中をアイデアで満たす
また、個人的には、Resourcefulnessという言葉と共に語られたJohn Wooden氏の言葉「プレイヤーの頭の中を、常に意図、狙い、アイデアや、発見、予測で満たすようにすることが想像力を育む」が印象に残った。日本の選手はリスクを取って思い切った決断を出来る選手が少ない。そもそも、頭の中にアイデアも少ないし、コーチからの叱責の恐怖感、プレーに対する恐れで頭が一杯になってしまっているケースも多い、とのこと。
選手をResourcefulnessにする為の取り組みの一つは、前述のとおり、ドリルの工夫、コーチのフィードバックの工夫、選手同士のフィードバックを促すことでの、ここの状況判断力の向上である。
まだまだ、このレポートでは、当日のクリニックの様子の半分も伝えられないが、時間的、距離的な都合で参加できなかった方へ参考になれば幸いであると考え、僭越ながら、特定のトピックスに絞ってレポートを書いてみた次第。
この日、三重県から参加された三重県立稲生高等学校バスケ部顧問の宮原 利享さんは「テーマが状況判断であったため、一瞬でビビッと来て、参加しようと思った」と直感で産kを決意。仕事に支障が出ないように、スケジュール調整が出来たことも幸いし、高速バスで駆け付けた。
「判断力は勉強ができる頭の賢さとは関係がなく、練習することで、力をつけることができる。同時に複数の動きを行う練習は、周りの動きを確認しなければいけないので、自然と確認する力が身につく」事が発見であると語り、クリニックから約3週間となる現在、「少しずつですが、DFの状況を見ながら、攻めるようになってきました。具体的には、味方へパスを出すとき、DFの手の位置を見ながらパスを出したり、インサイドでDFの位置によってターンする方向を変えたりしてます。」と成果を感じているという。
また、TOKYO BLITZ ACADEMYという名前にて、練馬区を中心に、ジュニア世代の選手に対して、(専門的な指導のできる顧問を持たない部活動に所属する選手や、バスケ部の無い選手の受け皿と、さらに競技力の向上を目指す選手の鍛錬の場の2軸で)、バスケットボールのアカデミー活動の展開を構想するTOKYO BLITZのHC鈴木田(C級ライセンス保持)は「フィードバックはドリルをストップさせるのではなく、ドリルの順番待ちの際に簡単なコミュニケーションをとれば説明時間の短縮に繋がり、コーチに言われたからその通りに実行するのではなく自らヒントを頼りに成功を生み出す事に繋がる」事を発見事項として語る。
「ドリルをストップする事なく練習量を確保しながらも、ドリルの順番待ちの時間を活用してのアドバイスや簡単なコミュニケーションで成功体験を得るプレイヤーが増えたまた、その成功体験をヒントに他のプレイヤー達も良い判断が増えた」と、現在の練習での成果を感じているという。
次回開催日は1/24(火)19:15~@大宮北高校。現時点でテーマは未定であるが、確定次第に発表する予定。
<メモ>
・定位能力とは、
決められた場所や動いている味方・相手・ボールなどと関連付けながら動きの変化を調節する能力
・変換能力とは、
急に状況が変わり違う動きをしなければならなくなったとき、条件にあった動作のすばやい切り替えを可能とする能力
(などと定義されるケースが多い模様)。