【Basketball Lab連動企画】『思考と行動に制限を加える「空気」を排し、創造性を育む』アルバルク東京U15 塩野竜太HCのアプローチ

2019年秋頃に『Basketball Lab 日本のバスケットボールの未来。』というムック本が販売された。同書籍には、GSL編集長の片岡秀一(株式会社アップセット)も編集等(取材協力、取材、記事制作)で関わった。今回、上記書籍の中より、出版社、登壇者等の許可の上で、いくつかの記事をGSLに掲載したいと思う。

 

 

 

 

 

 

本稿では、片岡が取材と執筆を担当したアルバルク東京U15 の取り組みを掲載する。

1、アルバルク東京U15のアプローチ 塩野竜太氏へのインタビュー

 

アイデアを膨らませ、 存分に発揮できる空間を選手と共に構築。 実戦を通じた「学びのサイクル」を最大化し、 「自立したアスリート」の育成へ

U15世代の選手を指導する上で、重視している点はなにか? アルバルク東京U15のヘッドコーチを務める塩野竜太に、その指導方針を聞いた。
text _ 片岡秀一 photo _ 谷内仁美

アルバルク東京U15 ヘッドコーチ
塩野竜太

 

 

 

アルバルク東京U15のヘッドコーチ(HC)を務める塩野竜太は、男女各トップリーグでさまざまな経験を持つ。3球団でビデオコーディネーター、アシスタントコーチを務め、2017年度、アルバルク東京U15チームの発足時にヘッドコーチに就任。チームコンセプトを構築する段階から関与し数々の話し合いを重ね、現在に至る。
チームの活動方針には「教えたことより学んだことを重視する」「選手とコーチは横の関係である」とある。「パス」というフィルターを通しても、その活動方針は色濃く反映されていた。指導哲学や信念に基づいて考え出された活動方針は、トップカテゴリーで過ごした日々の経験と密接な関係にあった。コーチングスタッフとして全身全霊で取り組み、自分の役割を果たし、チームの勝利のために取り組んできた日々の考察が現在の活動に生かされている。

上質なパスとはなにか?

「『スコアする』という目的の達成のために有効なパス。その瞬間の最も大きな『ディフェンスのズレ』を突くプレーかどうか。複数ある選択肢の中から、最も効果の大きな選択をして、レシーバーが次のプレーをしやすい状態でボールをキャッチすること」
塩野に上質なパスについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「パスはふたりいなければ成立しない。キャッチがうまいチームはパスがうまいチームである」と受け手の重要性にも言及する。
実際、毎回の練習では、悪いパスをキャッチするドリルにも取り組んでいる。2人一組で向かい合い、パスコース、バウンドする位置、回転などの要素を変えながらキャッチをさせる。コーディネーション能力の向上も意図したドリルである。
とはいっても、具体的なメニューでの「上質なパス」へのアプローチはここまでである。同チームの練習では、トレーナーの指導によるトレーニングを45分近くおこなっているが、それ以降の練習ではゲーム形式がほとんどだ。ショットクロック12秒、1分30秒で、時間が許す限り、何度も何度もおこなわれる。

「ゲームにおける経験や学びの価値を非常に大切にしています。例えば、パス練習として、指定されたスペーシングや合わせの動き、パスの種別を指定してドリルを進める方針は、我々は採用していません。一定の効果があることは認めていますが、ゲームのなかで選手が体験する状況と分解練習を比較すると、選手が受け取る刺激は大きく異なると分析しているからです。ゲーム環境のなかでひとつでも多く経験してもらうことを最も重要視しています」

巧みにプログラムされた練習ドリルには、効率性の意味でメリットがある。一定の状況下で選手に課題を提供する。選手は課題解決を通じて、バスケットボールで必要なスキルを習得できるように設計されている。新しい発想や刺激を選手に与える要素もある。また、コーチが求めるチーム戦術に必要なスキルや、特定の状況下での判断を事前に練習することができる。

しかし、U15世代の選手と向き合う塩野が焦点を当てているのは、より根源的な部分に対する学びや刺激である。主体的にバスケットボールと向き合うことが若い世代には必要不可欠であると考えている。コーチが与える課題をクリアしていくだけでは不十分であり、自ら問いを立て、自分なりの解決策を考案し、それを実戦のなかで試していくプロセスを積むことをなによりも重視している。そのためには場数を多く積むことが必要で、ゲーム形式の練習を最大限に組み込んでいる理由である。また、チャレンジを奨励できる環境づくりにも精力的に取り組んでいる。

「ゲーム中、選手の視野にはさまざまなパスコースが飛び込んでくるのではないかと思います。でも、パスミスをするとコーチに怒られると考えてしまって、安全なパスをする傾向にある。これは非常にもったいない。我々のチームでは、フィフティーフィフティーだとしても、パスを狙うように推奨しています。極端なことを言えば、パスが成功する確率が10%だとしても狙ってほしいです。その一瞬だからこそのひらめきを大切にしてほしい」

また、挑戦を奨励するだけではなく、選手に与える影響力にも配慮している。それは選手起用にも工夫されている。

「我々のチームでは、選手全員のプレータイムを平等に分けています。それは、入団前の段階で明確にしています。選手は試合に出場したいものです。コーチの評価をプレータイムの判断基準に加えてしまうと、思考に制限を与えてしまいます。最低限の保証があるなかで、チャレンジできる環境を重視しています。ゲーム形式の練習で感じたこと、試してみたいアイデアは膨大にあるはずです。それを最大限に発揮できる環境を用意することにコーチ陣は挑戦しています」

ちなみに、ゲーム中に発生したミスに対しても、ゲーム中、または事後で個別のフィードバックや指示はおこなわない。

「一定の効果はあると思うが、フォーマットとして効率が悪いのではないか。ひとりの選手に情報を伝えるために全体の練習を止めるのは顕著な例です。また、ゲーム中に考慮すべき情報や選択肢が、いわば何万通りもあるなかで、コートサイドから見ているだけのコーチの情報で解決できるのかどうか疑問に思うこともあります。我々は、結果がなによりのフィードバックになると考えています。つまり『「うまくいけば強化され、失敗すれば修正される』ということです」

もちろん映像などを活用し、有益な情報を選手に提供することは定期的におこなっている。

「発想を工夫する余地があるという前提で、映像を見せることはあります。そこに対して座標を打ってあげれば、選手が自分で分析し、トライする環境は存分に用意しているつもりです。決して、プレーの提案でも提唱でも、もちろん命令ではありません。横の関係ができあがっているかどうかを慎重に見極めながら情報提供をしています」

こうしたことの繰り返しの先にイメージしているのは、「一を聞いて十を理解できる選手」であり「バスケットに関する基本的な資質を持った選手」であるという。それには育成世代に培った考える習慣が重要であると捉えている。それらができれば、大人になった際に新しい戦術にも適応しやすい。

また、チームとしては「パス回路の疎通」を意識している。ゲームを通じ、チームメイトの動きや、パスの狙いどころを知り、実際に体験することで独自の回路が育まれていく。味方に対して自分の意思を伝える能力や、相手の意図を理解するコミュニケーション能力も重要だ。また、ケースによっては、お互いの考えのすれ違いが発生して不穏な空気が流れることもあるという。しかし「関心はもつが、必要以上に干渉はしない」と語る。
「大人は正解がわかっているので、すぐに変化することを求めてしまう。ただ、どうしても時間を必要とすることも多い。経験しないとわからないこともある。無頓着だと批判もされるかもしれないが、寛容なスタンスを重視しています」

バスケットボール選手としてのみならず、一般社会の中でも、相手の立場になって物事を考える能力は求められる。しかし、経験していない事柄を理解する事は難しい側面もある。自分の意図が理解されない、または、納得できない事を要求される苛立ちを経験し、自分なりに感情に向き合ってこそ、それぞれの立場を理解し、想像力が育まれていくようになる。「相手の立場になれ!」と叱責されるだけでは到達できない境地があることだろう。

選手にチャレンジを促す

このような方針は、トップカテゴリーのチームでの活動を通じて、塩野が経験し、考察し、問いかけ続けてきた考えが礎となっている。それをベースに、コーチ同士で入念な話し合いを重ね、基本的な方針は変えないまま、現在進行形で刷新されている。
構築段階では、海外での事例やビジネスの世界にも目を向けて視座を高くし、視野を広げ、視点を増やす努力をしてきた。例えば、カナダのバスケットボール協会が発行している『長期的な選手育成方針(Long Term Athlete Development model)』の資料も参照し、スペインへの視察などにも出向いている。スペインでは、育成型クラブとして定評のある「Baloncesto TORRELODONES」を訪問。
育成ディレクターから「成長のためには、目先の勝利よりも優先すべき経験がある。例えば、14歳で200センチがいても、ゴール下のシュートだけで行動を制限しない。仮にターンオーバーが20回発生しようとも、ドライブからのシュートなど、今、経験すべきプレーを優先させている」という話を聞き、これまで考えていたことが確信に変わった。
また、「選手のチャレンジを奨励できる文化」という方針は、ビジネスの世界でも言及される「心理的安全性」を参考にしている。それらが重なり合い、チームの理念に対して再構成し、独自性を帯びながら現在の形へとつながっている。
海外の事例では、スペインでおこなわれているU14世代のゲームを観戦した際に大きな手応えを得られた。スペインの育成世代では、15歳以下でのゲームではピック&ロールを用いない。それは選手が個の力でクリエイトをする能力の構築を重視しているためだ。
また、選手の積極的なチャレンジを奨励する雰囲気がコート内外に満ちている。実際に、非常に素晴らしいドライブインや、ユーロステップ、ステップバックの3ポイントシュートと同時に、ミスも非常に多い。それでも、コーチが選手の行動を制限することはないし、選手同士の関係性で委縮するような雰囲気も見受けられない。
「U13世代のときに試合を見たことのある選手たちが、U14になったゲームを観戦したことがあります。U13世代のときにトライし、結果としてミスになっていたことの多くができるように変化していました。ミスもしますが、1年前と比べてより高い次元でのミスになっています。1年間での成長度に驚くとともに、現在の活動に自信が持てました」
また、育成世代で代表的な大会であるMinicopaの優勝チームレアル・マドリットの試合を見た際に、アルバルク東京U15の選手との相関性を感じた。
「あくまでも映像で見ただけなので一概には言えませんが、レアルのゲームを観戦し、我々のチームの選手とプレーの発想が非常に似ていると感じました」
実際、最近では、選手の発想力や狙い目が進化し、コーチ陣の把握や理解が追いつかなくなってきているケースも増えてきているという。

コートに響く選手たちの掛け声

 

取材日の練習では、トレーニング、パスキャッチの練習ドリル後にゲーム形式の練習がおこなわれた。ゲーム前、塩野はルールブックのイラストをプロジェクターを通じて映し出す。ディフェンスにおける正しい姿勢や、タイミングについて情報が提供されたあとに、U13、U14と各世代のチーム同士でのゲームへと移行した。ゲーム前には、各チーム用に用意されたホワイトボードを活用して選手同士で積極的な意見交換がありゲームに挑む。それは、試合中や、各試合のインターバル間でも同様だった。ゲームは、自由闊達な雰囲気のなかで、意欲的なプレーの応酬が続く。確かにミスも多いのだが、意図や狙いを持って取り組んだことが伝わってくる。コート上に大きく響くのはコーチの声ではなく、選手同士のコミュニケーションの声がほとんどだ。コーチ陣は目を凝らし、選手のプレーを注意深く観察している。撮影をしている映像とともに、入念なミーティングをするのだろう。最近は、選手のコミュニケーションが非常に自然になってきたことを塩野は喜びとともに語った。
「彼らはすごく自然にお互いに要求をするようになりました。例えば、家族に話かけるかのように言葉を発します」

思考と行動に制限を加える「空気」を排し、創造性を育む

現代社会は変化が激しく、従来の価値観や社会モデルでは対応しきれないケースが続き、変革のときを迎えている。その兆候を多くの人が感じているのではないか。バスケットボールやスポーツも例外ではない。
特に、日本は目に見えない「空気」が、様々な環境下で影響を与えやすい社会だ。それは、バスケットボールにおいても同様だ。規律を重んじるあまり、同圧同調を迫り、選手の思考や行動に制限を与えていたことが多かったのではないか。思考の制限の怖いところは、一定の規律を保つ事には効果を発揮する一方で、最終的には組織の中にいる人間が思考停止に陥ってしまうケースが非常に多いことだ。日本人選手は、海外のコーチからは、規律や一生懸命さを称賛される一方で、主体性や、創造性の欠如を指摘されることも多い。それも「空気」と無関係ではないのではないか。
アルバルク東京U15コーチ陣が創っている環境は、まさに、そのような「空気」を排除する取り組みであり、バスケットボールを考え、自分の考えをコート上で表現する空間であると感じた。「パス」を通じて垣間見えたのは、選手の主体性に溢れた、自由闊達な非常に奥深い世界であった。

profile
塩野竜太(しおの・りょうた)
1989年4月生まれ、大阪府出身。大阪体育大学卒。2012年から2017年シーズン終了まで、男女各トップカテゴリーでコーチングスタッフとして活躍。ビデオコーディネーター、アシスタントコーチまで幅広い領域に及ぶ。A東京時代にはオフェンシブコーディネーターも務めた。トップカテゴリーで培った経験は、現在のチームコンセプトに活かされている。

 

2、参考

塩野コーチは、エルトラックが実施されているジュニアバスケットボールサミットにも登壇された。アルバルク東京U15チームの取り組みに等についても下記ページで紹介されている。

https://www.basketballtutor.com/news/19702

 

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。