「ここから。 日本のスポーツコーチングを Next Stageへ 」一般社団法人スポーツコーチングJapan代表理事 中竹竜二氏の取り組み

GSL内に公開をしたレポート記事『「勝つこと」と「良い人間になる」の両立(ダブル・ゴール・コーチング)を目指す 、Positive Coaching Alliance(PCA)の哲学』は非常に多くの反響を得た。同ワークショップから約1年、当時の主催団体、サポート役などの関係各位は、コーチの学びの場を創出、スポーツコーチングの質向上を通じ、競技現場を進化させ、スポーツを通じて有意義な人生経験を積む人々を増やし、社会をさらに活性化させるべく邁進中だ。

◇「日本全体のマネジメントの質的向上をスポーツ界のコーチングから牽引することでスポーツ指導者の追求する「勝ち」の力を「価値」にも展開する」

「日本全体のマネジメントの質的向上をスポーツ界のコーチングから牽引することでスポーツ指導者の追求する「勝ち」の力を「価値」にも展開する」と、スポーツの価値を高める事も視野に入れ、2018年3月3日には富士通株式会社 本社事務所 24Fにて、「ここから。 日本のスポーツコーチングを Next Stageへ 。スポーツコーチングの今を知り、明日につなげるカンファレンス」として大規模なカンファレンスを企画している。

https://www.sports-coaching.jp/

運営団体は一般社団法人スポーツコーチングJapan。代表理事は、早稲田大学ラグビー部監督として2度の大学選手権優勝の経験を持ち、現在、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務める中竹竜二氏だ。

本稿の筆者も、昨年のPositive Coaching Allianceワークショップの際、中竹氏の話を伺う機会に恵まれた。清宮克幸氏というカリスマ指導者の後任として、コーチ経験がない中で早稲田大学ラグビー部の監督に就任。ご自身の特性を冷静に分析した上で、フォロワーシップという考えを通じて選手の自主性を重んじる指導スタイルを採択。混乱、苦闘、それに対する鋭い分析、経験談からは多岐に渡り、示唆に富んだ内容であった。数多くの著書や、他媒体でも当時の活取り組みに対しての特集記事も数多く存在する。

◇より多くのコーチ同士が、オープンで、有意義な対話ができるコーチのための学びの場を作っていく

他には、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターとしての活動の一端にも触れる機会を得た。近年、指導者の役割というのは多様化し、その責任も増大する中で、指導者に求められる知識、スキル、経験等は大きな広がりを見せ、深みも求められている。日本ラグビーフットボール協会(JRFU)の一貫指導では、ラグビーを通じて「社会に自立貢献できる人材を輩出する」ことを基本理念として掲げ、より多くのコーチ同士が、オープンで、有意義な対話ができるコーチのための学びの場を作っていく事に取り組まれている。

トップコーチの領域で言うと、2027年ワールドカップの際に、御自身が作ったコーチ育成システムで切磋琢磨した人が代表監督になり、同大会で大きな躍進を遂げる事を大きな目標とされているようだ。その為にも、世界中から優秀なコーチが日本に集まる2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京五輪でも、コーチ育成の為の機会を最大化すべく、様々な構想や、取り組みが存在するという。2019年、2020年に向けてのプロジェクトや展望の話を聞く機会は多いが、その先を見据えた壮大なプランにも非常に感銘を受けた。

バスケット界の中では競技環境、登録システム、コーチライセンス制度、長期的な選手育成の観点を持った上での練習カリキュラムの見直しなど、新しい制度設計や着々と進んでいる。その中で、現在は、既存の大会形式と新しい競技形式や文化が混在する時代だ。長期的な選手育成の観点を持つ事がライセンス講習では伝えられるが、目の前の試合の勝利を求める選手や父兄との関係性の構築に頭を悩ませている指導現場の方も多いのではないか。

偶然にも、筆者が受講した某都道府県の指導者講習会では、『「勝利至上」に対する誤解』として中竹氏のコラムも紹介された。

<「勝利至上主義」に対する誤解>

「勝利至上主義は悪である」という主張も多いが、スポーツは勝敗を抜きにして成り立たないもの。試合をする以上は勝利を目指して戦うべきで、それをしないのは最もアンフェアであると私は考えています。力を出し尽くして勝利をしたあとに「別に、こっちは勝利を目指していなかったから」と言われたらどう感じるでしょうかと。

スポーツの本質は勝利至上であり、お互いが勝利を目指して真摯にプレーするからこそ、スポーツの価値が生まれる。ただし「その試合だけ勝てばいい」というのは間違った考えです。

逆に、「勝敗は気にせず、精一杯チャレンジしてこい!」と声をかけるケースもありますが、この言葉の本当の狙いは、「勝敗よりも目の前のプレーで全力を出す事に集中したほうが、結果的に勝つ可能性が高まる」という点にあります。言葉では勝敗は関係ないと言いながら、スポーツの本質からは外れていません。

問題となるのは、ジュニア期の勝利至上主義です。

特に、発展途上にあるジュニア期には、その段階に相応しい指導の仕方があり、その選手の中長期的な成長を第一に考え、指導する事が何よりも大切です。選手育成という観点では、目の前の試合に勝つだけのテクニックを教えるのは最も避けるべきです。

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バスケット界で15歳以下の公式戦でゾーンディフェンスの戦術が禁止となったのも、中長期的な視野に立った取り組みの1つ。様々なトライ&エラーを繰り返しながらも、現在も改革の最中である。また近い将来、トーナメント性を中心とした競技形式から脱却し、リーグ戦の文化を導入しようという動きが着実に進んでいる。負けたら終わりのトーナメント制の一発勝負と、試合数が確保されたリーグ戦の競技形式では、ジュニア世代を取り巻く文化にも変化があるかもしれない。

上記のように、変化の時代の中で、多様な価値観が混在する中では、コーチは、確固たる指導哲学を持ち、それを選手、保護者へと明確に伝えていくことが必要になると同時に、時代の変化にも適応する柔軟性も求められる。その為には、他競技、ジャンルで成果を上げている有識者の専門的な見解を聞くこと、科学的な根拠に基づいた知識を知る事、コーチ同士で意見交換、議論の場所があれば、進化の速度は加速する。

SCJ Conference 2018では、株式会社プロノバ代表取締役社長の岡島 悦子氏​、花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長の高濱 正伸氏、アスリートセンタードコーチングに取り組み、日本体育大学体育学部体育学科教授の伊藤 雅充氏も登壇。「現在のスポーツコーチングの潮流に触れる」・「自らのコーチングの進化を体感する」・「幅広いネットワークが形成できる
」を特徴とした取り組みを意識されているという。

下記、一般社団法人スポーツコーチングJapan代表理事を務める中竹竜二氏の、「SCJ Conference 2018」への想いや、将来の展望について語ったインタビューを紹介する。

 

『ラグビーではコーチが学ぶ環境が整備されているものの、スポーツ全体を見渡してみると、指導者の学ぶ意欲があるにも関わらずそうした場所がまだない。』一般社団法人スポーツコーチングJapan代表理事、中竹竜二氏インタビュー

 

—— 一般社団法人スポーツコーチングJapan設立の経緯を教えていただけますか?

いま私はラグビー協会でコーチングディレクターという役職でコーチのコーチをしています。当然スポーツでは、選手がプレーをしパフォーマンスを上げ試合によって勝敗が決まります。ただ、選手を教えるコーチがどれだけ学びを得て成長をするかが、実はスポーツにとっては大きな要素だと思っています。

ところが、指導者が教えることではなく、自分が学ぶことに関しては本当に環境が少ないということ。加えて、指導者のノウハウがあまり世の中に出ていないので、おそらく多くのコーチは学びに飢えてるのではないかと常に感じていました。

僕自身が指導者として始めた早稲田大学のラグビー部の監督は、ほとんど指導経験がないまま就任しました。そのため、どうしたら自分の指導力が伸びるかということに関しての情報、機会がなく苦しんだ経験がありました。当時、そういった学びや仲間、リソースといったものが分かりやすく手に入れられれば、僕自身もそのときの指導力を高められたのではないかと思っています。

そういった意味を込めて、いま日本ラグビー協会ではコーチングディレクターをやっています。ラグビーではそうしたコーチが学ぶ環境が整備されているものの、スポーツ全体を見渡してみると、指導者の学ぶ意欲があるにも関わらずそうした場所がまだない。同時に学ぶ意欲すらない、まだ気づいていない人もいることを考えたときに、 2019年のワールドカップや2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、日本にとって指導者が学ぶ場を作ることが本当に大事であると考え設立に至りました。

—— スポーツコーチングJapanのロゴにはどんな意味が込められているのでしょうか?

ロゴは陸上のトラックフィールドをモチーフにしたものです。 単なる一方通行で教えるコーチではなくコーチも学ぶ。しかもコーチは選手からも学ぶ。常にサイクル、循環しているようなイメージを持って角ばったものではなく、円形にしたロゴにしました。

◇パラスポーツと一緒にやっていくことを是非取り入れたいと思っています。

——「スポーツコーチングJapan」と名前に「Japan」がありますが、今後他の国との交流を考えてつけたのでしょうか?

広がりという意味で、具体的に3つのことを考えています。

まず、側近で考えていきたいのはパラスポーツの指導者です。スポーツというと健常者やレジャースポーツがメインになっているけれども。おそらく共通部分はたくさんあるものの、コンディション作りだったり怪我や障害に対するケアは大きく異なると思ってて。そういったパラスポーツと一緒にやっていくことを是非取り入れたいと思っています。

2つ目は世代ですね。どうしてもユースやエリートが取り上げられる事が多い。ただ、そうではなく本当のグラスルーツのところ。例えばスポーツ始めるきっかけのところだったり、エリートやユースがリタイヤした人たちのスポーツの場。もう一つが、例えば個人がマラソンやエクササイズをやったり自分自身でどう体を見つめ、仲間同士で教えあい高め合うところのエッセンスまで巻き込めたらなと思っています。

3つ目の広がりとしては世界。今回、スポーツコーチングJapanとつけましたが、このJapanを軸に世界と繋がり、後にはこのJapanがなくなって「スポーツコーチング」という領域で活動できたらなと思っています。実際、スポーツをやるときに、アジアとの連携がすごく大事になってきます。まずはアジアの中でのスポーツの位置づけ、価値の向上に向けても寄与したいと思っています。

※写真提供:一般社団法人スポーツコーチングJapan

<プロフィール>
中竹竜二
日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター
株式会社TEAMBOX 代表取締役
早稲田大学ラグビー蹴球部主将を経験し、レスター大学大学院社会学部修了。三菱総研でのコンサルタント経験を経て、2006年に早大ラグビー蹴球部監督に就任し、同部を2度の大学選手権制覇へ導く。2010年より日本ラグビー協会コーチングディレクター、2012年よりU20日本代表ヘッドコーチを務める。2014年、株式会社TEAMBOXを創業し、スポーツマネジメントのエッセンスをビジネス界に紹介した。2016年春には、ラグビー日本代表ヘッドコーチ代行として率いる。
近年ビジネス界で話題となっている概念「フォロワーシップ」の提唱者の一人で、主な著書には『リーダーシップからフォロワーシップへ』『挫折と挑戦』などがある。

この記事の著者

片岡 秀一
片岡 秀一ゴールドスタンダード・ラボ特別編集員
1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。

宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。