「三日三晩でもずっとフィルムを見続ける事ができるところが自分の武器です」探究心溢れるガッツマン、SMU(サザンメソジスト大学)Mustangsスタッフ小川凌氏
近年、ゴンザカ大学の八村選手、ジョージ・ワシントン大学の渡邊雄太選手など日本人選手の活躍で、日本のバスケットボール関係者の中でも、NCAAは以前よりも身近な存在になったのではないか。
そんな中、GSL編集部ではACC(American Athletic Conference)所属、Southern Methodist University(サザンメソジスト大学。以下SMU)男子バスケットボール部で学生スタッフとして活動をしている日本人留学生が存在するという情報をキャッチ。
青年の名前は関西学院大学に在学中の小川凌さん(Twitterアカウント:@og8wa)。GSL編集部も交流のある磯野眞氏(Christ the King高校ACを経て、今季よりSt.John’s大学女子バスケットボールチームのビデオマネージャー就任した)の紹介もあり、小川さんにSMU Mustangs(愛称)での活動状況などを伺った。
以下、Wikipedediaから大まかな情報を記載する。SMU Mustangsは100年近い歴史を持つチームで、NCAAトーナメントのファイナル4に進出1回、2015年に約20年振りのNCAAトーナメント出場を果たし、通算では12回ほどの出場実績を誇る。また、これまで23人ものNBAドラフト指名選手を輩出している。
ここでは詳しくは触れないが、20年振りのNCAAトーナメント出場には、NBAでのコーチ経験も豊富なラリー・ブラウンHCの就任も大きく影響しているという。同氏が辞任後も、ラリー・ブラウン氏のHC時代にACを務めたTim Jankovich(ティム・ジャンコビッチ)氏がHCに昇格。同氏を中心に精力的に活動し、2017年にもNCAAトーナメントへの出場を果たした。今年で4シーズン目を迎える渡邊雄太選手も、いまだNCAAトーナメント出場果たせていない。同トーナメントに出場する事が彼の悲願でもある事は他インタビュー記事などで推察できる。それだけ、到達する事が難しく、価値がある事なのだ。Tim Jankovich氏となってからも着実なチーム運営が継続された事を意味すると言っても過言ではないだろう。
小川凌さんは、1997年生まれの青年コーチ。詳しくは文中にあるが、探求心と独創性、そして、大きな夢を持つ青年の真っすぐなエネルギーは非常にパワフルだ。GSL編集部が追いかけ続けている”Enthusiasm(激しく燃えるような熱い情熱!)”も感じてもらえるはずだ。ビデオコーディネーターとしてNCAA Div1バスケットボールの最前線で奮闘する青年コーチの、これまでの軌跡、現在の活動、そして今後の構想について伺った。
目次
- 渡米前はチームに入れるかどうか全く分からなかったが、チーム関係者に自作ビデオを送付。練習見学のチャンスを掴み取った
- 「なかなかやるやんけ、〇〇時から練習あるからおいでや」(本人による超意訳)
- 中学2年生から高校卒業まで毎日、1日1~2試合を観戦。同時に戦術系のサイトを見て、バスケットボールに関する知識と同時に英語力も向上していった
- 2008年北京五輪アメリカvs中国。アジア人選手がNBAのスーパースターとやりあっている姿がとにかく衝撃でした
- チームとしてのフィルムセッションはチーム練習前と、試合前日の練習後に行われます
- 練習時間外にコーチ陣がどれだけ自分たちのこと、相手のことを分析できるかが重要
- 自分の長所は、一日中でも三日三晩でもずっとフィルムを見続ける事ができるところ
渡米前はチームに入れるかどうか全く分からなかったが、チーム関係者に自作ビデオを送付。練習見学のチャンスを掴み取った
−−現在、小川さんは、SMU Mustangsの中で、ビデオ分析の役割を得ていると伺いました。コーチングスタッフ全体では、何人ぐらいの規模になるのでしょうか?
チームの構成はヘッドコーチ、アシスタントコーチ、フィジカルコーチ、トレーナーなど様々な役職の人がおり、全部で13人います。皆それぞれが専門分野のエキスパートで、役割分担が細かいので、選手だけでなくスタッフ陣も最大限の力を発揮できるような環境です。
アシスタントコーチの中には、セルビア出身でネマニャ・ビエリツァ(現ミネソタティンバーウルブズ)の指導経験があり、ヨーロッパのバスケットボールを知り尽くしている人や、UNCのロイ・ウィリアムズの元で学生スタッフをやっていた人、エルフレッド・ペイトン(現オーランドマジック)の指導経験がある人などがいて、素晴らしいコーチばかりです。
−−その中で、小川さんの具体的な役割は?
9人いる学生スタッフの中で、特にビデオ分析に関する仕事をしています。スポーツコードというソフトを使って試合の映像を細かく編集、分析したり、アシスタントコーチと選手の個人フィルムセッションに出席しています。
学生スタッフの中には、スポーツビジネスやマネジメントを専攻している人や、スキルコーチを目指している人もいるので、それぞれが自分から役割を見つけて働いています。全員に一律に与えられる仕事はチーム練習、試合中のビデオ撮影、コーディング、またリバウンド、床拭き、洗濯などの雑用が含まれます。
※追記。各学生スタッフの活動背景や専攻についても伺った。テキサスレジェンズ(マーベリックス傘下のGリーグチーム)でのインターン経験もあり、スポーツマネジメントを専攻しながらNBAのスカウトを目指している人物、 コーチングを専攻し、毎夏には子供向けバスケキャンプを開催してプロのスキルコーチを目指す者、 ビジネスとスポーツマネジメントを専攻し、エイブリーブラッドリーのマーケティングチームの一員として活動しながら、エージェントを目指している人などが在籍。小川氏自身はビジネスを専攻しながらビデオ分析を担当している。
−−関西学院大学からの交換留学生プログラムでSMUへ渡ったようですが、SMUを選んだ理由、そして、バスケ部へはどのような経緯で活動に加われるようになったのでしょうか?
日本の大学に進学したのですが、バスケットボールチームの実際の現場で学びたいと考えました。1年の交換留学で行くことができる学校の中には、ディビジョン1の学校が3校(SMU、フロリダ州立大、ジョージア)があり、SMUを選びました。渡航前はチームに入れるかどうか全く分かりませんでしたが、16-17シーズンのSMUの試合を何度も見て、ハーフコートオフェンスのセットプレー10個をまとめた動画を作り(YouTubeのHalf Court Hoopsの動画の構成を参考にした)、渡航後にSMUの日本人教授からスポーツマネジメントの教授に連絡を取ってもらいました。そこからチーム関係者に僕が作ったビデオを送ってもらったのがきっかけです。
−−Halfcourthoopsの動画は私も好きです。各オフェンスの基本的なエントリー別に分類し、実際のゲームで使ったオプションを肉付けしていくような動画の構成でしょうか?
はい。おっしゃる通り、エントリー(ホーンズ等)からその後の動きによってプレーを分けていきました。チームに入ってから答え合わせをしてみたんですが、実際はもっと細かく分類されていました。
「なかなかやるやんけ、〇〇時から練習あるからおいでや」(本人による超意訳)
−−動画を送った際のコーチングスタッフ側の感想、反応、フィードバックはどうでしたか?
超意訳ですが「なかなかやるやんけ、明日○時から練習あるからおいでや」と言われました。練習に行くと、他のコーチ達も「あのビデオの日本人か」という感じで、SMUで使っているビデオ編集ソフトのことなどを丁寧に教えてくれました。ビデオに関する直接的な感想、反応、フィードバックは「なかなかやるやんけ」だけですが、あれのおかげでチームに入れたと言っても過言ではないと思います。
−−『絶対ブレない軸の作り方』の書籍やビズリーチなどで知られる南壮一郎さんは、 Put your foot in the doorという言葉で、道なき道を突き進む極意を語っていました。まさに、小川さんのアプローチも非常に面白いですね。さて、ここまで伺うと、映像編集の手法であったり、関西学院大学バスケット部で学生コーチなどで活躍をされているバックボーンがあるのではないかと思うのですが、これまでのバスケットボールとの関りは??
関西学院中学部から関西学院高等部で中学・高校時代を過ごしました。バスケットボールをプレーしていたのは中学3年間だけ。あまり上手くなかったので、試合に出ている時間よりベンチにいる時間が長かったです。その中で試合を見ることがどんどん好きになっていきました。
中学2年生から高校卒業まで毎日、1日1~2試合を観戦。同時に戦術系のサイトを見て、バスケットボールに関する知識と同時に英語力も向上していった
−−高校時代からバスケットボール部でマネージャー兼学生コーチなどを経験されたのでしょうか?
高校時代は違うスポーツ(アルティメットフリスビー)をやっていましたが、NBAやFIBAの試合は大好きでずっと見ていました。また、YouTubeでBBALLBREAKDOWN等の戦術解説動画を見たり、Grantlandなどの記事を読むようになり、戦術面の駆け引きに注目するようになっていきました。気がつけば中学2年生から高校卒業まで、毎日1〜2試合+戦術系のサイトを見ていたため、バスケットボールに関する知識と同時に英語力もついていったと感じています。
この頃偶然見た2008年北京五輪アメリカvs中国の試合に圧倒され、正しくプレーすればアジアの国でもチームとしてNBAのスーパースター達と勝負できる、そして日本でこれをやりたいと強く感じました。(編集部注:試合を見たのは高校卒業の頃なので2015年)。
−−中学2年から高校3年生まで、単純に365日×2試合で計算をすると3650試合ものゲームを見たという事になります。それに加えて、各種の分析記事のアンテナを貼り、分析や整理、思考を繰り返されたわけですね。圧倒的な試合観戦量が、現在のベースになっていると感じました。日々、どのようなサイクルで試合観戦を続けていらっしゃいましたか?
中高と通学時間が長かったので、往復約2時間は電車で試合を見ていました。また、帰宅後も家にいる間は常に試合を流していました。きっちり集中して見ていたのは、電車と家を合わせて1日3〜4時間かと思います。
−−BBALLBREAKDOWNに関して、特に心に残った動画や記事は、どのようなモノがありますか? Grantlandは、ドッググ・リバースとオースティン・リバースの関係にフォーカスしたものや、スポーツサイエンスの記事など内容は多岐にわたります。こちらも、特に印象に残った記事があれば教えて頂きたいです。
僕自身がオクラホマシティ・サンダーファンということもあり、GrantlandのライターからOKCのビデオアナリストになった、Sebastian Pruitiさんの記事が特に印象に残っています。2012年のプレイオフ、スパーズとのシリーズで毎試合各チームがどのようなプレーをし、どのようなアジャストメントをしたかということが詳細に書かれた記事は、とても面白かったです。6試合あったので6つ記事がありますが、特に面白かった3つの記事は下記となります。
- How Did the Thunder Finally Stop the Spurs?
- If It’s Not Broke, Why Fix It? OKC’s New Approach on Offense
- Oklahoma City’s Winning Play
−−戦術面での駆け引きとは、マッチアップの調整、傾向を分析した上でのマークの方法の変化、PnRへの対応の変化、ペースのコントロールなど沢山あると思います。特に面白みを感じたのは、どのような部分ですか?
戦術面の駆け引きは、PnR、ポストアップ、アイソレーションへの対応の変化、またディフェンスの対応を踏まえた上でオフェンスがどう対応するかというところが面白いと感じます。SMUに来てからは、オフボールスクリーンへの対処とゾーンディフェンスについても勉強しています。
2008年北京五輪アメリカvs中国。アジア人選手がNBAのスーパースターとやりあっている姿がとにかく衝撃でした
−−北京五輪のアメリカ代表は、GSLとしても「ゴールドスタンダード」にも掲載されている非常に印象的な五輪です。私も中国代表チームの奮闘には感心しましたが、具体的には、どの辺が印象に残りましたか? B2熊本でHCをされている保田コーチは、スペイン対ギリシャの試合で運命が変わった」とおっしゃっています。その後、スペインへと渡る要因の一つとなりました。
戦術どうこうではなく、アジア人選手がNBAのスーパースターとやりあっている姿がとにかく衝撃でした。今になって見返してみると、サイズを生かしてペイント内でシュートを打たせない、ローテーションディフェンスでオープンスリーを打たせない、全力でトランディションディフェンスに戻るといった基本的なことを、どんな相手に対しても忠実に実行できる力が素晴らしいと感じます。文字にすると簡単に見えますが、どんなタフショットでも決めるスーパースターが揃ったアメリカ代表に対して、毎ポゼッション地道にこれらを実行するのは、フィジカル、メンタル共に尋常ではないというレベルまで持っていかないと難しいと思います。
−−またSMU周辺での活動に戻ります。ゴンザカ大学の所属するWCCカンファレンス、ジョージ・ワシントン大学のA-10カンファレンスと各カンファレンス名も日本バスケの中で以前よりも馴染み深くなっているように思います。単純に地域だけで分類されているわけではなく、まだまだ、カンファレンスの概念には慣れない部分もありますが。AACは、どのようなカンファレンスですか?
AACはBig Eastから分裂、新設されたカンファレンスなので、伝統的なパワーカンファレンスではありませんが、UCONN、シンシナティ、SMUなどの上位校はNCAAトーナメントの常連で、パワーカンファレンスの学校に匹敵する実力があります。また今季から強豪ウィチタ州立大学がAACに加入したため、カンファレンスのレベルは一気に上がり、いくつかのスポーツ関連サイトではパワーカンファレンスと一緒に紹介されています。
−−76ersや、デトロイト・ピストンズで活躍をされたラリー・ブラウン氏もコーチをされている時期もあったようですね。
ラリー・ブラウンは1992-93シーズン以降NCAAトーナメント不出場だったSMUを、HC就任から3年でNCAAトーナメントに導き、SMUバスケットボールのプログラム全体の運命を変えました。辞任してからも彼のシステムをベースにしたプレースタイルは生き続けており、昨季もNCAAトーナメント進出を果たしました。
−−現在のHC、Tim Jankovich(@CoachJankSMU)さんの特徴や実績などを教えてください。
特徴はチームの監督として素晴らしい仕事をするだけでなく、SMUバスケットボールというプログラムの代表としても、精力的に働いていることです。学長と並んで一般の学生も含めた新入生の前でスピーチをしたり、このプログラムが継続的に成功するために常に努力しています。実績は、30年以上に及ぶコーチングキャリアで、カンザス大学のビル・セルフやSMUのラリー・ブラウンの下でACをやった経験があり、イリノイ州立大、ノーステキサス大でのHC経験もあります。
−−Tim氏のSNSを拝見すると、「Ask the Coach presented by Ozona Grill & Bar」として、HCとの懇親会のような催しがあるように見受けられます。毎週の月曜日、スポンサーとなるレストランにて、オールシーズンと書かれていますね。<画像>小川さんも参加された事はありますか? こうやって学生とバスケットボールチームの関係性の絆が深まっていくのは非常に感動しました。
このイベントはTim氏とチーム外部のコーチや熱心なファンの人たちとの交流イベントなので、SMUのスタッフや選手は参加しません。チーム内では、Tim氏の家でバーベキューやクリスマスパーティーなどをして、皆で交流を深めています。
−−SMU MustangsのOBで、NBA選手はいますか?
OBはちょうど今年のドラフトでNBA入りを果たしたシェミオ・ジェレイ(BOS)、スターリング・ブラウン(MIL)がいます。2人ともSMUらしいタフなディフェンスとシュート力を兼ね備えた選手です。また引退した選手ではクイントン・ロス(LACほか)がいます。
チームとしてのフィルムセッションはチーム練習前と、試合前日の練習後に行われます
−−冒頭部分、フィルムセッション、フィルムワークという単語について。日本のバスケ界の中でも耳にする事が増えた単語です。勿論、映像を分析し、良い部分、悪い部分という事は想像できます。“ACと選手のフィルムワーク”は、どのようなフローで行われますか? アメリカの場合、コーチングスタッフ内で役割分担を明確にし、効率良く、かつ個人が力量を発揮できるように仕組みづくりをされているイメージがあります。
チームとしてのフィルムセッションはチーム練習前と、試合前日の練習後に行われます。チーム練習前のセッションでは、主に自チームの映像を見ながら、良いところと改善しなければいけない部分の両方について、HC中心に指導をしていきます。試合前日の練習後には、次の対戦相手がよくやるセットプレー、オンボール、オフボール、ゾーンディフェンス、注意しなければならない選手の映像を見ながら、HCとAC1人が各プレーに対してどのように守るか、各ディフェンスに対してどのように攻めるか、また特定の選手に対する守り方、攻め方を指導していきます。
もちろんスカウティングは全員で行いますが、特に各ACに対戦相手が割り振られており、3日に1試合程度というスケジュールで進むシーズンの中でも、効果的にスカウティングができるようになっています。映像クリップについては、練習と試合全てのポゼッションをコーディング、分析していますが、全部の映像を流すのは時間的に無理があるので、大事な部分だけをACが抜き出して用意しています。チームセッションは日常的に出ているわけではありませんが、何度か出席させてもらいました。
−−個人のフィルムセッションでは?
個人のフィルムセッションは、オフの日や練習前に各選手が時間を見つけてACと1対1で行います。チームのセッションとは違い、基本的には練習、試合問わず、その選手がコートに出ていたポゼッション全ての映像を見ながら、アドバイスと並行して「この時なぜこのプレーを選択したのか」などACが選手に多くの質問をします。
もちろん選手からコーチに質問をすることもあり、全てのポゼッションについて納得がいくまで話し合っていきます。例えば、セットプレーに関して「カットのタイミングを1テンポ遅らせてほしい」「もう1歩ウイング側に寄っておいてほしい」など非常に細かいところまで話をします。また、映像はデータベースとして保管されているので、言葉だけで伝えるのではなく、他の選手やOBの映像を手本として見せながら、分かりやすく効果的な指導が行われています。
練習時間外にコーチ陣がどれだけ自分たちのこと、相手のことを分析できるかが重要
−−また、NCAAの場合、ストレングスやコンディショニングを担当するスタッフ陣の充実も良く耳にします。日本版NCAAという構想が誕生し、大学スポーツの興行・集客について論じられる段階を経て、現在は学業の問題や、「スポーツセーフティー」の重視されている機運を感じます。あくまでも、ご自身の経験されている範囲という前提の中で、その部分について教えてください?
トレーナーの仕事については僕自身あまり知識がなく、HC、ACですらトレーナー、フィジカルコーチの仕事の領域に入っていくことはないので、詳しいところについては分かりません。見ていて分かることは、トレーナーはSMUの専属で、練習、試合、オフの日問わず常に練習施設にいるため、いつ怪我が起こってもすぐに対処できる環境が整っています。また、練習、試合の前後には選手全員にテーピングやTeatmentと呼ばれる行為(おそらく疲労回復や怪我の防止に関わるもの)を施しています。
印象深いのは、トレーナーがドクターストップをかければ、コーチ陣はいかなる理由があっても選手を練習、試合でプレーさせることはできませんし、リハビリ中の選手がどの程度の強度の練習まで参加してよいかということも、トレーナーが全権限を持っていることです。選手の出場制限について、コーチ陣がトレーナーに対し「何とかならないのか」などと言うことは絶対にありませんし、役割分担と信頼関係が素晴らしいと思います。
−−それ以外で、NCAAの現場で感じる事、アメリカのバスケットボールチームのチーム運営などについて、日本の人へ知らせたい事はありますか?
限られた練習時間の中で、全てにおいて細かいところまでとことんやる、というところがとても優れています。これを実現するためには、練習時間外にコーチ陣がどれだけ自分たちのこと、相手のことを分析できるかが重要です。ディビジョン1のチームでは、徹底的なビデオ分析にかなりのお金(PC、ソフトなどの設備投資)と時間、また人員を注いでいます。
日本の人にはこういったビデオ分析の重要性を伝えたいと考えています。最初はビデオカメラとパソコンさえあれば始められるので、この記事を読んで少しでもビデオ分析をする人、チームが増えてくれれば嬉しいです。戦術どうこうということだけでなく、練習効率が上がるので、ビデオ分析がメジャーになれば日本のバスケ全体のレベルアップにつながると考えています。
※GSLでは小川さんのご協力を頂き「ビデオを使ったスカウティングの方法」などについても、ご本人の経験を踏まえた具体的な内容などの記事化も調整中。
自分の長所は、一日中でも三日三晩でもずっとフィルムを見続ける事ができるところ
−−留学期間中は、中学・高校時代とバスケットボールの知識や観戦量を愚直に増やしたように、SMUでの活動に全力投球をされるのだろうな、という部分が想像できます。少し先の未来については、どのような構想をお持ちですか? 中学、高校時代から、徹底してバスケットボールの試合観戦を続けていたように。とにかく探求心の強さ、分析力、問題発見能力が高いような印象に残りました。どのような部分をご自身の長所や武器だと認識されており、それを、どのように使っていきたいですか??
最終的な目標は日本代表チームの一員として、世界の上位国に勝つことです。そのためにはBリーグ、国内外問わず全力で働いていきたいと考えています。現在は中国語を勉強中で、大学卒業後20代の内には中国へ行き、アジア人選手がどうやってハイレベルな欧米、ヨーロッパのチームと戦っているのか学びたいと考えています。アメリカやヨーロッパへ勉強しに行くコーチはたくさんいますが、中国へ行くコーチはなかなかいないと思うので、ぜひ自分がその役割を担いたいと思っています。
自分の長所は平たく言うと、一日中でも三日三晩でもずっとフィルムを見続ける事ができるところです。これは片岡さんがおっしゃったように探究心、分析力、また集中力というところに繋がってくると思います。ビデオ分析のやり方について、編集ソフトの使い方から、どこをどう見ればよいのか、どのようにそれを選手たちに伝えるかということをSMUで学びました。もちろんこれらは簡単なことではありませんが、一番難しいのは高い集中力を維持し、一切の見落としなしでひたすら作業をし続けるということです。
SMUのアシスタントコーチ達は、TimHCのビデオ編集の作業に対する集中力は尋常ではなく、彼なら1年中フィルムを見続けられるだろう、と皆口を揃えて言います。メディアはTim氏について、カリスマやマッド・サイエンティストと評していますが、決して生まれながらの天才という訳ではありません。何十年と地道にフィルムルームで努力し続け、全てのプレーに対して完璧な答えを持っているために、選手やアシスタントコーチから絶大な信頼を置かれているのだと感じます。少し脱線してしまいましたが、自分も地道な努力を続け、知識量や分析力をベースに、選手、他のコーチ、ファンから厚い信頼を置かれるようなコーチになりたいと考えています。
この記事の著者
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1982年生まれ。埼玉県草加市出身。株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、EURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。 J SPORTSでB.LEAGUE記事も連載中。
宮城クラブ(埼玉県クラブ連盟所属)ではチーム運営と共に競技に励んでいたが、2016年夏頃に引退。HCに就任。これまで、埼玉県国体予選優勝、関東選抜クラブ選手権準優勝、関東クラブ選手権出場、BONESCUP優勝などの戦績があるが、全国クラブ選手権での優勝を目標に、奮闘中。